しかもまたタイトル詐欺じゃないかという塩梅。
一話目からだいぶ時間をかけたのに迷走に迷走を重ねてなんだかよくわからなくなっています。
読みづらいところが多いと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
相変わらずの日々が続いている。少なくとも表面上は。
平日、僕は平日と休日の境目がないので美月さんの平日のことだが、とにかく平日中は僕が自分の分だけ朝ご飯を作り、洗濯をし、美月さんが帰ってくるまでに風呂を済ませ、自分は使わない湯船にお湯を張り、晩御飯を作る。
夕方になると美月さんが帰ってきて晩御飯を一緒に食べる。居間でテレビを見たりしているうちに風呂を済ませた美月さんに挨拶をして互いに寝室に向かう。
そういう日々が続いている。
平日は良い、あまり美月さんに手間をかけさせることがない。
ただ休日も相変わらずだ。
朝起こしてもらい、それから夜寝かせてもらうまでひたすらお世話をされる。そりゃもちろんありがたいけど、申し訳ない気持ちはどんどん募っていく。
最近はただゆっくり過ごしていると何かとお世話をされてしまうため、なるべく仕事をするようにしている。美月さんも気を遣って仕事中の僕にはあまり関わってこない。
なんだかより一層真っ当な夫婦らしさを失っている気がするが、美月さんにお世話をさせすぎてしまうよりましだ。再三言うが申し訳ないったらありゃしない。
確かにお世話と金銭的援助の交換条件で結婚したようなものだから美月さんがお世話してくれるのもわかるけど、もはや美月さんは一人でも金銭的に困ることなさそうだし、一方的に僕がお世話してもらうだけになっているような状況だ。
だから本当はここらで一度関係を見直さなくちゃいけないんだとは思う。わかってはいる。けど、言いだすことはまだできていない。
なんせ僕はもうベタ惚れだし、関係を見直そうと言い出してもし離婚にでもなったら立ち直れない。
そう思ってうじうじしているから、相変わらずの日々が続いている。
でも内心じゃ申し訳なさはどんどん加速して、そんで好きになればなるほど美月さんの本当の幸せを考えることは増えていく。だから、そのうち、そのうちきっと話を切り出せるだろうとは思う。
まだ、今じゃないけど、だけど近いうちには必ず、そう思う。日々の中、少しづつは考えを変えられるようになってきている。
「いってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
今日もまた美月さんを見送る。
相変わらず朝は早めで、美月さんは毎日大変そうだ。多少は疲労の色も見える。
だけど美月さんはちっとも愚痴なんか言わない。たまに仕事の話を聞いてみても、この仕事に就く機会をくれたことに本当に感謝しています、と楽しそうにそう言ってくれる。
そこから普段なら僕も朝ご飯を食べて、家事と仕事をする。
そう、普段ならそうするんだけど、なんとなく今日はしてみたいことがあった。
美月さんの働いているところが見てみたくなったのだ。
特に理由があったわけじゃない。ただ働いている美月さんを見てみたいだけだった。いや嘘だ、少しは他に考えていることがあった。
もし本当に、美月さんが楽しく働けているのなら、それを見て決心できるかもしれないと少し思っていた。
美月さんが僕に気を遣って楽しく仕事しているふりをしているかもしれない。その場合ならいつ仕事を辞めたくなってもいいように今の関係性でいた方がいい。
本当に楽しくやっているならば、この先僕の援助はもう必要ないってわかる。それがわかれば改めて関係性を見直す決心が、つくかもしれない。
だけどやっぱり関係性を見直すのが怖いから、その考えには自分でもあんまり気が付かないようにしていた。
だから実際ただ美月さんの働いているところが見てみたいってのが動機のほとんどだ。それはホント。
勿論美月さんの職場は知っている。すぐさま駆けつけるってのは僕には少し難しいけど、一応何かあった時のために職場を教えてもらった。
家から四駅ほど離れたところにある小さめのビルがそれだ。
確か近くに喫茶店があるから、ついでにそこで朝ご飯も済ませてしまうことにした。
美月さんは毎日電車で通勤している。
僕も車椅子で行こうと思えば行けなくはない。最近の公共交通機関はバリアフリーとか進んでるし、本当良い世の中になってきたものだ。
だけどまあ手間なのは間違いないし、朝は電車も混んでいるのでタクシーを使うことにした。
普通のタクシーじゃなくて、最近主流になってきた大きめの車椅子が積めるタクシー。これもまた便利だ。
苦手な電話を何とかかけて、待つこと数分、家の前まで来たタクシーに乗り込んだ。
喫茶店の名前を告げて出発する。そして三十分もすれば喫茶店に着いていた。すごく楽ちんだ。
次から買い物に行くときも使おうか、なんて思う。まあ近くのスーパーまで五分もかからないから完全に無駄なんだけど。
喫茶店に入ると入り口からは見えない奥の方の席に案内された。
少し広めのスペースが取られていて車いすでも楽に利用できるようになっている。これまたありがたいことだ。
外食に不慣れなのもあって注文に中々手間取り、モーニングのセットが届いたのは入店してから三十分もたってからだった。
食べながらこの後どうするかを考える。とりあえず職場の近くまで来たのは良いけど、どうやって美月さんの働いているところを見ればいいだろうか。
夫ですって言えば職場に入れてもらえるかもしれないけど、普通わざわざ妻の働いているところを見に来る夫なんていないだろう。授業参観でもあるまい。美月さんに変な噂が立っても可哀そうだし。
そもそも美月さんが自然体で働いているところが見たいんだから、ばれちゃ意味がない。
さてどうしたものか、何かいい方法はないかとしばらくうなっていた。
そしたら、美月さんの横顔が見えた。離れたところにだけど。
いやもう本当に驚いた。
だって美月さんは今仕事中なはずで、多分まだ始業から一時間も経っていないのに休憩があるとは思えない。
だから僕には、美月さんが、しかも男性と二人で、この喫茶店に来る理由が皆目見当もつかなかった。
思わず僕は身を隠した。丁度こちらから美月さんの顔が見えるか見えないかくらいの位置の席に美月さんと男性は座った。
僕が座ってるのは角の席で、丁度目の前に柱がある。だから体を少し動かせば丁度美月さんから見え隠れする。
今僕がこうして隠れてのぞき見みたいにしてるのは、美月さんの自然体が見たいからってだけじゃないような気がした。
なんだか、見てはいけないものを見ているような、そんな気がしたんだ。お察しの通り、僕の頭には「浮気」って言葉がちらついていた。
さすがにどんな話をしているのかまでは聞き取れない。でも楽しげな雰囲気なのはわかった。分かってしまった。
はっきり表情が見えるわけじゃないけど、美月さんが笑ってるのは分かる。実際の生活がどうあれ三年も同じ家で過ごしたんだ。だからわかってしまう。
そして極めつけに、男性が美月さんの手を取るのが見えた。そりゃはっきり見えたわけじゃない。でも間違いなく二人は手をつないでいた。
思わず美月さんの顔を注視すると、今まで見たこともないような笑顔だった。就職が決まった時よりもうれしそうな、そんな雰囲気だった。
もうそうなると僕の頭の中は「浮気」って文字一色になっていて、指一本動かせないくらいになっていた。
それから気が付いたら僕は家に帰ってきていた。
正直どうやって帰ってきたのか定かじゃない。我にかえったら布団に寝転がっていた。つけっぱなしの腕時計が正午過ぎを指していた。
正直、正直ここまでショックを受けるとは思ってなかった。
そもそも今の関係を見直すかべき否かを見極めるために出かけたんだ。関係を見直すって結論が出ることだって勿論、いや、ちょっとくらいは考慮してた。
美月さんの幸せのためなら、割と何でも我慢できるって、ついさっきまではそう思ってた。そのくらいには好きだったから。
だけど、実際に目の当たりにするともう頭は真っ白で、どうするのが正解かなんてちっとも見えてこなかった。冷静に、素直に予定通り身を引く方針で進めるとか、全然思えない。
でも、例え本当に浮気されていても、恨みが湧いてくる気もしなかった。だって美月さんは幸せそうな顔をしていた。あれが美月さんの進むべき道に見えた。
冷静に別れが思いつくわけでもなく、だけどひどい未練とか、恨みつらみが頭をよぎるわけではなかった。ただただ頭が真っ白なまま、幸せそうな美月さんの顔だけが脳裏をよぎった。
多分、幸せを願う気持ちが大元にあるんだなってことだけは分かった。そのくらいには好きだから。それはもう、ベタ惚れだから、さ。
ご飯が喉を通る気がしなかったから、とりあえず洗濯物をすることにした。
考えがまとまらないから、とりあえず何かをしていないと気が済まない。
頭の中にぐるぐると回る離婚の文字を見ないように、ぐるぐると回る洗濯機の中を見つめた。
見る対象が乾燥機に代わっても相変わらず。
洗濯物を一枚一枚折りたたんでいるうちに、本当に少しづつだけど、落ち着いてきた。
後から考えてみると、この時は落ち着いた気になっているだけで全然落ち着いていなかった。そもそもあの誠実さが塊になったみたいな美月さんに対して脳内が浮気一色な時点で冷静じゃない。そりゃどれだけ誠実な人でも浮気するかもしれないけど、他の可能性の方がよっぽど高いはずだ。少なくともそれが思いつかないくらいには混乱していたのだ。
とにかく、洗濯物をたたみ終わったくらいには考えがまとまりつつあった。全面的に受け入れる方針で。
すべてを受け入れるのは真実の愛じゃないだとか、手放せるなら好きじゃなかったんだとか、そういうことを言う人がいるかもしれない。
でも僕からすればそうじゃなかった。本当に好きな人には、本当に幸せになってほしいのだ。
本当の幸せを上げられない程度の愛だとかそういう話でもない。そりゃ僕が美月さんに与えられる幸せがあるってんならもう限界まで捧げるくらいの気持ちはある。
だけどそれよりもっと多くのものを与えられる人がいるような気がした。そういう気がしてしまったんだ。
この両足が、あまりにひどく重いものだから。
そう思うとすっと腑に落ちた感覚がした。
何をこんなに迷っていたんだろうかと、そう思いさえする。
だって目の前に美月さんがもっと幸せになる手段が落っこちてるのに、それを拾わない理由なんてないんだから。
そもそも浮気でさえないんじゃないか。僕らはお金とお世話を交換するだけの関係だ、たまたま僕が相手を死ぬほど好きになっちゃっただけで。
僕が美月さんをお金で縛っていただけだ。しかもその鎖はもう形だけで。美月さんは本当ならもうすっかり自由の身のはずなんだ。
関係を見直す、というか終わりにする時だと、そう思った。
頭の中もすっかり落ち着いたような感じで、ただその考えだけが残っていた。
逆にここ最近思い悩んでいたことが全部片付いて、気楽になったような気がした。
気も晴れたし、たまには手の込んだ料理でもしようかな。
そうだ、美月さんの更なる幸せを願うサプライズパーティをしよう。手の込んだ料理を作って、それで今後の関係の話をするんだ、それが良い。
冷蔵庫の中を見ると、そこそこの材料はあった。買い物に行くのも心配されるので、基本的には美月さんが休日に買いこんできてくれる。
でもちょっと物足りないから買い物に行くことにした。久々の買い物でちょっと楽しみでさえある。
車椅子でも五分とかからず来られる最寄りのスーパーで色々食材を探す。
美月さんは割と節約好きなので高いものは全く買わない。お陰でお金が有り余っているからたまには高級食材に手を出したっていいと思う。
まあスーパーにそんな高級食材と呼べるほどのものもないけどね。
普段見ないような食材を膝の上にたくさん抱えて、ゆっくり家に帰る。久々の買い物と散財するぞっていう決心のせいでやたらと買い込んでしまった。
美月さんに買いすぎって怒られるかもしれないけど、まあ数日に分ければ使い切れる程度の量だろう。
家に帰って時間を確認すると美月さんが帰ってくるまでそんなに時間がなかった。いやなくはないけど手の込んだ料理をしようとするとそれほど余裕はないくらい。
急いでレシピを検索しながら料理の準備をする。
わお、ローストビーフって炊飯器で作れるのか。便利だけどお米も炊きたいので却下です却下。とりあえずお米を炊くことから始めようかな。
夢中になって料理をしている間にどんどん時間は過ぎて、完成する少し前に玄関で鍵を刺す音がした。
急いで玄関に向かうと、ちょっと不満げな顔をした美月さんが立っていた。
「おかえりなさい美月さん」
「ただいまです、日向さん、鍵が開いてたんですが?」
あ、買い物から帰った時閉めるの忘れてた。でもちょっと奮発した料理はサプライズにしたいから誤魔化すことにする。
「ん、仕事に行き詰って外の空気を吸いたくなっちゃってね、そのあと閉めるの忘れてたみたい」
「そう、ですか、やっぱりお仕事大変なんですね」
美月さんの不満顔がさらに不満顔になる。心配させちゃったみたいで、罪悪感がある。
「いやぁ、美月さんの方がよっぽど大変だと思うけど、ところでご飯まだできてないから先にお風呂入っておいてくれる?」
「はい、わかりました、いつもありがとうございます」
そういって美月さんは自分の部屋へと向かった。
さて、料理の続きをしよう。
美月さんがお風呂から上がるころには、すっかり晩御飯が完成していた。美月さんのお風呂はちょっと長いので盛り付けまで凝る余裕があった。
やっぱりロングヘアーってお手入れが大変なんだろうな、これまで毎日綺麗な黒髪を拝んでいられたことに感謝感激雨あられだ。
「わっ、これどうしたんですか?」
食卓を目にした美月さんはそう言った。驚いてもらえたなら何よりだ。
美月さんの今後の幸せを願ってのパーティなんだけど、美月さんは僕が今日美月さんを見たことを知らないだろうし、いきなりそれを言うと余計な驚きまで与えてしまう。
とりあえず今はご飯を楽しんでほしいので説明は先延ばしにすることにした。
「まあ、ちょっと奮発する日があっても良いかなって、駄目かな?」
「まあ日向さんがそうしたいなら良いんですけど」
とりあえず机の向かいに座って二人で食べ始める。美月さんが作った料理ほどじゃないけどちゃんと美味しくできていた。まあそれなりに高いもの使ってるしね。
美月さんも美味しいと言ってくれて僕的にはそれで十二分だった。いやまあ毎食おいしいですって言ってくれるんだけどさ。
食べ終わって食器を片付ける前に、美月さんは足元からこじゃれたワインとこれまたこじゃれたおつまみを取り出した。
いつの間にそんなものを用意していたのかさっぱり気が付かなかった。
「実は今日話したいことがあってこっそり用意したんですけど、急に晩御飯奮発するって、もしかして日向さん気付いてます?」
急に頭に冷水をぶちまけられたような気分になった。いや、美月さんは全然物騒なことを言ってないんだけど、話したいことに心当たりがあったからだ。
勿論僕も話したいことがある。この食後の時間に話そうかと思ってたんだけど、先手を取られた気分で焦ってしまう。
美月さんは僕が今日見てたことを知らないから、僕が今日話したいことがあるとは知らないはずだ。むしろ気付いてますかってこちらが聞きたい。
「いや、何のことやらだけど、でも僕も話したいことはあるよ」
とりあえずとぼけてみる。もしかしたら違う話かもしれないしね。まあ今後の僕らの話なんだとは思うけど。
まさか美月さんの方からも切り出してくるとは。三年間一緒に暮らしているうちに、ほんの少しくらいは似たもの夫婦になれたのかもしれないとか、ちょっと考えてしまう。
「そうなんですか、じゃあお互い話をする前にちょっと聞いてもいいですか?」
「ん?いいよ」
「今日、買い物行ったんですか?それともまた通販ですか?」
あ、そういえば買い物行ったことは内緒にしてたんだっけ。あれだけ豪華な料理を作ればそりゃ自分が買った以外のものがあることも分かるよね。
「ああ、うん、実は買い物行ってたんだ、美月さんを驚かせたくて内緒にしてたけど」
「そうですか、じゃあ息抜きっていうのは嘘だったんですか?」
「いやまあ、うん、そうなるかな」
そんなに気にすることでもないと思うんだけど、美月さんは少し怒ったようだった。
いやでも、これからの話をすれば上機嫌になってくれるはず。
「あ、じゃあ僕から話をしてもいいかな?」
「はい、どうぞ」
僕の頭の中には、朝見た幸せそうな美月さんの顔が浮かんでいた。
知らない男の人と手をつないでいた時の美月さんの顔が。
僕がここで関係を改めようって話をすれば、ほんのかけらだけでも、その顔を僕に見せてくれるんじゃないかなって。
そう思った。ちょっと期待さえしていた。
本当にそう思っていたんだ。
「多分美月さんも話すつもりだと思うんだけど」
「僕たち」
「別れよっか」
流石に実際口にするのはちょっと、嘘だ、かなり辛いものではあった。美月さんの顔を見ながらは言えなかった。ちょっと横を見ながらが精一杯だった。
だけど美月さんが喜んでくれるなら、美月さんの幸せのためならと思うと、笑いながら言えた。
僕が明るく提案すれば美月さんに気負わせることもないかなって。
部屋はしんとしていた。
少しの期待とともに美月さんの表情を見ようかとすると、美月さんが口を開いた。
「すみません、もう一度言ってもらえますか」
「え、あ、僕たち別れま」
二回目の提案を言い終わる前に、身を乗り出してきた美月さんの手で口元を抑えられた。
驚いて美月さんの方を向く。
美月さんの表情は、僕が期待とともに見ようとした美月さんの顔は。
無だった、整った顔だけにひどく迫力があった。
無表情で、目元を光らせた美月さんは本当に美しかった。
でも僕が見たかったのは、あの幸せそうな顔をした美月さんだったんだ。
ほんの少し、おすそ分け程度だけでいいから僕に見せてほしかった。
美月さんの荒い呼吸だけが、部屋に響いていた。
お読みいただきありがとうございます。
やはりタイトル詐欺では?
自分でも書いている間に訳が分からなくなってしまって、同じことを何度も書いているような気がします。読みづらくなっていたらすみません。
間違いなどあれば指摘してもらえると助かります。
もし感想があれば飛び上がって喜びます。