自分のことをリアル八幡と思い込んでいるアラサーで一般人なおっさんが本物の比企谷八幡に憑依してみた 作:大島マミ
原作:やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
タグ:R-15 残酷な描写 アンチ・ヘイト 憑依 あなたが落としたのは普通の八幡てすか?金の八幡ですか?
こんなのは間違っている!!
間違っているに決まっている!!
ごく普通の八幡は八幡じゃないんだ!!
間違っている間違っている間違っているんだ!!
男はそろそろ三十路へと近付いていた。
俗に言うアラサーだった。
そんな男だが、未だ独身で彼女が出来た事すら一度もない。
仕事で出世コースにいるわけでもなく、仕事が特別出来て尊敬されている訳でもない。
有り体に言って、平均よりやや劣る平凡で地味で特に夢もない人生だった。
趣味のサブカルチャー以外に無気力な生き方をしていた。
そんな彼は自分の人生が現実で大きく改善されるという可能性はとっくに諦めていた。
顔が良い訳でもないし、プライベートを犠牲にしてでも仕事に打ち込んだり、リスクを承知で投資や起業にチャレンジする勇気もなかった。
だから、妄想の中で自分の代わりに活躍する架空のキャラクターに自己投影することで、非凡で特別な
ノーコストだがノーリターンな趣味だった。
そんなことをしても、結局現実の男は何も変わらなかったのだが、男は既に現実の自分が変わる可能性を諦めていた。
――――――――――――そんな男が、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公である比企谷八幡に憑依した。
比企谷八幡は男も大好きなライトノベルの主人公だった。
イケイケの主人公ではなく、引きこもり扱いされるボッチで卑屈な主人公で共感を感じていた。
男はよく、そんな比企谷八幡がイケイケの社交的なイケメン主人公扱いされる妄想をしていた。
勿論、その原型のない比企谷八幡は男のアバターだった。
普段妄想している比企谷八幡になり代われた事に男は歓喜した。
しかし、男が喜んだのは最初だけだった。
「何でだよ?
何で八幡が普通の人間なんだよ?
魔法も使えないし、剣技もマスターしてないし、モテモテでもないし、特殊な能力もない八幡なんて、比企谷八幡じゃないっ!!
あるべき比企谷八幡はこうじゃない。
俺は比企谷八幡なんだぞっ!!」
本来の比企谷八幡は、ごく普通の高校生である。
別段特別な能力や才能に恵まれてもいないし、頭や顔が良いわけでもない。
当然魔法や剣技で周りを唸らせるなんて事もしていない。
こく普通の高校生から、社会性と理系能力を大きく差し引いて、代わりに文系能力を高めただけの一般人である。
そもそも、頭の出来は八幡ではなく、乗り移った男に依存する。
滑り止めの高校でクラスでも下の方であった男。
しかも高校卒業からアラサーになるまで、大きなブランクがあった。
テストの成績は現役高校生よりも危うい。
元から比企谷八幡が東大を目指すようなエリートでは無かった事で目立つことがなかったのは幸いだったのだろう。
それでも親というのは息子の成績が悪くなったら口を出すものだ。
しかし、自分とそこまで歳が変わらないのと他人からお小言を言われたように感じてしまった男は「うるせえババア」と暴言を吐いてしまった。
挙げ句に妹の小町に対しても、血が繋がった実の妹というより、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』に登場する美少女としか認識できない男は、厭らしい視線を向けていたようで嫌われてしまった。
「チート能力無しで憑依とか憑依じゃない!!
こんなのは詐欺だ!!
こんなのは本物じゃない。
やはり俺が特別でないのはまちがっている」
男は家の中で大声でそう叫んだ。
結局、男はやはり俺の青春ラブコメはまちがっている。の世界で比企谷八幡に憑依しても幸せにはなれなかった。
本来の比企谷八幡の在り方に憧れて、それを追体験したいという心持ちであれば、最高の幸せを満喫できたに違いない。
しかし男がなりたかったのは、本物の比企谷八幡では無かった。
“原型が無くなるほどに改造された”比企谷八幡になりたかったのだ。
それこそが男にとっての“本物”だったのだ。
だから普通の比企谷八幡でしかない比企谷八幡になっても何も楽しくなかった。
男は、剣も魔法も周囲の人間が従順にチヤホヤしてくれるご都合主義も与えることなく、ごく普通の八幡に憑依させられたことを恨んだ。
剣と魔法を駆使して敵を倒して美少女ヒロインに惚れられる人生なら不満がなかったのにと恨んだ。
そして、恨む以外のことはしなかった…。
結局、比企谷八幡に憑依した男は、この世界でも平凡で無気力な生き方をしたまま、アラサーを迎えた。
特別な八幡はありません。
八幡は普通の高校生です。
ごく普通に高校生活から人生やり直せたというだけで満足出来ていれば幸せを感じられたかも知れませんね。