別ゲーの推しキャラを再現する為に器用度に極振りしたいと思います。 作:風邪引きピエロ
「うーん・・・どうしようかな~」
とある日、メイプルは一人広場の噴水の縁に座りながら悩んでいた。
悩みの理由は友人の理沙から聞いた大規模アップデートについてだ。
発売3ヶ月に合わせて行われるそれにより新たなスキルやアイテムが追加される他、新たなステージである第2層が追加される事となるのだが・・・
「うーん、第2層かぁ。もっとスキルを集めたら行きたいけどなぁ。今の大盾だと『悪食』で全部飲み込んじゃうからスキル取れないしなぁ」
等となんともメイプルらしい理由で悩んでいるのだった。
他のプレイヤーからしたらある意味贅沢な悩みだが本人は至って真面目である。
そのまま、しばらくうんうんと唸っていたが何か閃いたらしく立ち上る。
「そうだ!いっそのこと新しい装備一式作ってもらったら良いんだ!」
そうと決まれば話は早い。
メイプルは早速とある場所に向けて歩き出す。
目的地はとある店・・・先日クロムの紹介で知り合った生産職プレイヤーの1人である『イズ』の元である。
そうしてメイプルが極振り故のゆっくり移動をする事5分程。落ち着いた色合いの趣のある店舗の外装が見えてきた。
メイプルはワクワクとした感じで良く磨かれたドアノブに手をかけ、ゆっくり開く。
来訪を告げるドアベルがカランカランと小気味良い音を奏で、メイプルもそれに負けじと爽やか笑顔で挨拶をする。
「こんにちはー!」
「・・・・うん、良く聞こえなかったからもう一度言ってみて・・・?」
「いやあのちょっとテンション上がって広場で引き鳴らしたら運営に呼び出し食らいまして装備一式没収されちゃいましてああ!?やめて!?ハンマーを振り上げないで!おかしいな顔は笑顔なのにめっちゃ怖い!?」
ドアを開けると背後に般若を背負った笑顔のイズとその目の前で床に正座させられているノブナの姿があった。
爽やか笑顔のまま、ピタリと止まるメイプル。
そのまましばし考えた後
「・・・・お邪魔しましたー」
何も見なかったことにしてドアをそっと閉じたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「へぇ~、ノブナさんの装備一式全部イズさんが作ってたんですか!」
「ええ、一応ね。お店を開いた当初からのお得意様ではあるのだけど、特殊な注文も多いから大変なのよね」
「は、毎度毎度お世話になっております」
それから少し後の店内。二人が談笑するなかノブナは相変わらず床に正座の状態だ。
メイプルの登場で少しばかり機嫌の直ったイズを刺激しないよういつものぐだぐだノリは封印しつつ神妙にするノブナであった。
「それで?今日はなんの御用かしら?」
「はい、無理ならいいんですけど・・・」
そう前置きしてからメイプルが話し出す。
内容としては純白の見た目にこだわった装備一式が欲しいので、それを揃えるのには一体幾らくらいかかるのかを知りたいということらしい。
イズはしばらく考えた後、答える。
「うーん、前にも言ったけど一式で100万Gってところかしら。素材によって性能は変わるけど」
「性能よりも見た目を優先したいんです!オシャレに見えるようになりたいんです!」
「あら、女の子ね~」
基本的に性能が重視されることの方が多いゲーム内では珍しいメイプルの年頃の女の子的な発想を微笑ましそうに聞くイズ。
「白い装備ね。だったら素材としてはこんなところかしら」
「わぁ!色々あるんですね」
「オススメとしてはこの水晶とか良いと思うんだけど」
「あ、でも【DEX】必要だから私には取れないや・・・」
しょんぼりと項垂れるメイプル。
そんな彼女を見ながらどうしたものかと考えていたイズ。ふと、その視線が正座のし過ぎで継続ダメージとか入らないかなどと考えソワソワしているノブナに止まった。
「あら、ちょうどいいところに【DEX】極振りプレイヤーが。メイプルちゃん、彼女に手伝ってもらうとか良いんじゃない?」
「え!ノブナさん手伝ってくれるんですか!?」
「んあ?え、儂採掘系スキルなんて持っとらんのじゃが・・・」
「いいじゃない。あなた、これからほとんどの装備私に預けてメンテナンスするんだから冒険とか出来ないし暇でしょ?ほら、可愛い後輩を助けると思って!」
「まぁ、そりゃそうなんじゃが儂にも予定というものが」
「・・・没収されたあの装備。あなたがどうしてもって言うから頑張って作ったんだけどなぁ。苦労はしたけどその分だけ思い入れもあるお気に入りだったんだけどなぁ」
「・・・私めはあなた様の犬で御座います」
わざとらしくハンカチで目元を拭う仕草をするイズにノブナが恭しく頭を垂れる。
彼女に選択の余地はない。
無いとは思うが万が一にもイズの機嫌を損ねて出禁にでもなったら堪らない。
それに比べればメイプルの素材集めの手伝いなど安いものだろう。
「それじゃ決定ね。素材集めに必要な道具があったら言って頂戴、すぐ用意するから。もちろん、お代はいただきますけどね」
「金はとるのか。意外とちゃっかりしとるの」
「そりゃあ、これでも商売人ですもの」
そう言ってイズはニッコリと笑った。
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そんなやり取りを経、暫くしてノブナとメイプルの二人は素材が集まるという洞窟にやって来ていた。
「採掘王に儂はなる!」
「じゃあ私は釣りの王様になります!」
どん!という感じのオノマトペが背後に描かれそうな声をあげながら腕を組んで気合い十分な二人が並ぶ。
ノブナは装備一式を預けた為、お馴染みのばすたぁTシャツ姿にヘルメット、手にはピッケルというなんちゃって土方スタイル。
その横のメイプルも手に釣竿を持ち、ノブナから渡された釣りバカTシャツを装備しての参戦である。
「では手筈通り、儂は洞窟内で採掘。メイプルは地底湖で釣りということで。解散!」
「ラジャー!」
勢い良く洞窟内に突撃する二人。
途中の分かれ道でメイプルと別れたノブナは、しばらく歩くと予定していた場所に到着した。
そこは洞窟内の床や壁、天井に至るまでところ狭しと水晶に覆われた空間だった。戦闘の不得意な生産職プレイヤーが訪れる事を配慮してか採取ポイントとして設定されているらしくモンスターの索敵範囲にも入っていない比較的穏やかな空間である。
とはいえ、敵が全く出ないという訳でもなく別の通路から入り込んできたりして戦闘となる場合もあるので過度の油断は禁物だ。
ノブナもインベントリ内にある幾つかの【タネガシマ】をいつでも取り出せるように準備だけはしながら作業に移る。
「ほい!ほい!ほい!」
カンカンカンとピッケルを振るう度、硬質な音が洞窟内に響く。
スキルが無いため、水晶の表面を砕くだけでアイテムの取得にまでは至らない。
それでも作業の手を止めずにピッケルをふるい続けるとやがてピロリンという音声が響く。
『スキル【採掘 Ⅰ】を取得しました』
「お、ようやくか」
スキル取得を確認すると、ノブナは作業の手を止め使っていたピッケルをインベントリ内に仕舞いこんだ。
そうして部屋の真ん中に仁王立ちすると、ニヤニヤと笑いながら腕を組む。
「スキルを手に入れたならこっちのものよ。【マックスウェルの悪魔】!か~ら~の、【秘密兵器】!」
宣言と共にノブナを中心として無数の歪みが現れる。
そこから出現したのはいつもの火縄銃・・・ではなく無数のピッケルやスコップといった道具である。
「フフフ・・・【秘密兵器】にはこんな使い方もある。いちいちピッケル振るって採掘なんぞまだるっこしくてやっとれんわ。では行くぞ!これが魔王の【採掘】じゃあ!!」
ノブナが笑いながら手を振り下ろせば一斉に道具が振るわれる。
あちこちで採掘する音が響き、洞窟内はさながら工事現場のような喧騒に包まれた。採取ポイントからはゴロゴロと水晶その他の鉱石が採取され、床に散乱していく。
それを拾い上げながら次々にインベントリに突っ込んでいくノブナ。
1人で普通に採掘するよりも効率的なのは言うまでもなく、当然スキルレベルもガンガン上がる。
ピロリン『【採掘 Ⅱ】を取得しました』
ピロリン『【採掘 Ⅲ】を取得しました』
ピロリン『【採掘 Ⅳ】を取得しました』
「ウハハハ!ウッハウハじゃのう。最初は乗り気でもなかったがこうしてみると役得役得!メイプルが必要とする個数分よりも多く採って売りさばくか、ウハハハ!」
スキルのレベルも上がり、更に効率良く採掘出来るようになったノブナが手当たり次第に道具を振るっていく。
と、その時。
「むお?」
突然ノブナの目の前に青いプレートが現れた。
それは見慣れたクエスト発生の合図である。
どうやら、採掘のレベルか何かがクエスト発生のキーになっていたらしい。
クエスト名は【強欲の対価】。
クエスト名が表示され終わった瞬間、グラグラと地震のような揺れがノブナを襲う。
「うおぉ!?」
やがて足下にぽっかりと穴が空き、ノブナの身体が暗闇に飲み込まれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なんじゃあ!?」
身体が落ちていく感覚だけが知覚出来る暗闇の中、ノブナの声が流れて消える。
落下のスピードはどんどん増し、風切り音だけが響く。
周りを見回しても、落下する先を見ても何も見えはしないが、このまま何もせずにいれば必然地面と正面衝突する羽目になることは想像に難くない。
「ぐ、【単独行動】!【秘密兵器】!」
身体が軽くなる感覚と共に空中でくるりと回転し体制を整えると、足下に出現させたピッケルに着地する。
「とと!・・・ふぅ、ものは試しとやってみたが上手くいったか。【秘密兵器】で出現させた物品はオブジェクト扱いになるんじゃな、初めて知ったわ。まぁ、おかげで足場が出来て助かったが」
空中で静止したピッケルの上で改めて周りを見回すが、やはり何も見えはしない。
ならばと、新たにピッケルをインベントリから取り出すと下に向かって放り投げる。
落下していくピッケル。
然程の時間もなくカランという音が下から聞こえてきた。
どうやら、地面まではそう離れてもいないらしい。
「飛び降りれんこともなさそうじゃが・・・下がどんな状況か見えんしここは慎重にいくかの。【秘密兵器】!」
今の足場から地面まで螺旋状にピッケルを出現させ、柄の部分を足場にゆっくりと降りていく。
いわば即席の螺旋階段だ。
両手を広げてバランスを取りながら降りていき、やがてたどり着いた地面に降り立つ。
地面はレンガか何かのようなものが敷き詰められているらしく、存外に硬くしっかりとした感触がした。
そうしてノブナが地面を踏みしめていると、ボボボという音とともにいくつも設置されていた燭台に次々と明かりが灯る。
突然の明かりに眩む視界。
落ちついた頃に目を開ければ、燭台に照らされ周りの様子が見えるようになっていた。
大きさはちょっとした体育館程だろうか。円形で周囲を壁に囲まれた様子は古代ローマのコロッセオを思わせる。
壁には幾つも並んだ燭台が配置され、揺らめく炎で辺りを照らしている。
そんな場所の中心には玉座のようなものがありそこには1つの人影があった。
・・・否、果たしてこれを人影と言って良いものか、
玉座に座っていたのは腐乱し、半ば白骨化した死体だ。その胸には槍が突き刺さり玉座に張り付けにしている。明らかな致命傷。
『・・・オ、オオオオ・・・』
にも関わらず、死体の口が動き声を発する。まるで冥府の底から響くような聞くものの心胆を震わせる禍々しい声で死体は喋る。
『・・・オオオオ・・・クチオシヤ・・・アナクチオシヤ・・・ウスギタナイトウクツシャドモ・・・ワガザイニフレルコトアタワズ』
「・・・あー、これは・・・」
それを見て何となく現状を悟り始めるノブナ。
インベントリ内から二挺だけある【タネガシマ】を引っ張り出した。
と、ぐりんと死体の首が動き、目玉の無い暗い眼窩が此方を見据える。
『・・・ソコナモノヨ・・・ナンジハワガザイヲエントホッスルトウクツシャナリヤ・・?』
「チガウチガウ。儂、悪いノブナじゃないよ」
現れたウィンドウの【No】の選択肢を表情の抜け落ちた顔で連打するノブナ。
死体はしばらく無言でいたが、やがてブルブルと身体を震わせ始める。
『オオオオ!!ニオウニオウゾ!ナンジカラワガザイノニオイガ!ウスギタナイトウクツシャメガ!ソノツミヲナンジガシヲモッテツグナウガヨイ!!』
「デスヨネー」
死体が憤怒の叫びを上げたのと同時、その頭上にHPを示すバーが表示された。
示されたモンスター名は【栄華にしがみつく者】。
ノブナはあきらめの表情を浮かべながら愛銃の銃口をその眉間に向けるのだった。