全体的なステータスはこの世界の平均に近いが、魔法士として致命的なINTは17と高い値を誇る。
この世界に来たばかりの18歳で、元の世界に関する記憶の大半を失ってしまっている。マキやささらの手を借りて今日も生きていく。
座右の銘は
「やるからには目標を。目指すからには天辺を」
「ただいま戻りました」
「あ、おかえりなさい!少し遅かったですね?」
東の森でのゴブリン退治を終え、変な予感を感じながら素早く冒険者ギルドへと帰還した私をささらさんが出迎えてくれた。
「はい。月の魔法を練習していたら少し遅くなっちゃいました。ゴブリンの爪、コレで足りますかね?」
「はい。確認しますね・・・爪が二十本、ですか。うーん。爪は承認率が少し下がっちゃうんですけど・・・ま、そこは上手い感じにやっておきますよ。でも私が居ない時とかは爪とかよりゴブリンの巾着や装飾品を持ってきてくれた方がいいかもですね」
「分かりました。次からはそうするようにしますね」
「まぁ本当は武具とかの方が良いんですけどね。冒険者のカバンにあまり空きは無いでしょうから、とりあえずは装飾品がベストだと思いますよ。収納魔法とか持ってる人は凄い数を一気に納品したりしますけど」
冒険者のカバン。冒険者として認められた者にギルドから贈られる物で、ある程度の"大きさ"や"重さ"を無視して収納することが出来る鞄で冒険者としてのランクが上がる事でその容量が増えて行く。冒険者の中でも、最底辺であるランクⅠの私の鞄の容量はとても小さい。欠月はホルスターに収納している為、容量を食うことは無いが耐久値の高くない私は攻撃を受けた際に体力を回復する為の薬草等を少し多めに持ち運んでいる。ゴブリンの爪程度の質量の物なら大量に持ち運ぶ事が出来るが、少し重い物となって来ると僅かな量しか持つ事が出来ないのだ。
収納魔法・・・なんとかして会得したいものですね。
「それはそれとして、はい。依頼の達成、おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「依頼の達成報酬として、銅貨が十五枚。討伐数による追加報酬として、爪が二十本分で銅貨二十枚。合わせて銅貨三十五枚となります!」
「銅貨三十五枚・・・」
一日を銅貨三枚で泊まれるささらさん家のお宿だと、これだけで二週間近くを過ごせるのだ。
と、当分は働かなくても良いのでは・・・?!
なんて駄目な気持ちが私の心に浮上するが、頭を振ってそれを振り払う。
駄目です駄目!一日でも早く稼いでつづみさんに欠月の料金をお払いしに行かなくてはなりません!
「どうかしました?」
「いえ。なんでもありません。もう良い時間ですし、今日はお宿に帰るとしますね」
「あ!じゃ、じゃあちょっとだけ待ってて貰えませんか?私ももうすぐ終わる時間なんで!」
冒険者のギルドは基本的に何時でも開いている。朝から働いてるささらさんは夕方の五時までとなっていて、そこからは夜のパートの人が引き継いでいくのだという。
「分かりました。それじゃあ色々と見て回ってますね」
「はい!」
さて、それでは少しぶらつきますかね。
ギルドの中を見渡すと、やはりパーティを組んで活動している冒険者が多数で、ソロでギルドに出入りしている人間は少なそうだった。
「パーティ、良いですね」
「お?なんや、お姉さんおひとり様かいな?」
「ん?」
口から自然と出た言葉に、素早く反応を入れて来たのは見たことの無い赤い髪をした少女だった。
「うちは"ことね"っちゅうもんや。お姉さん、見たところおひとり様みたいやな?明日から、良ければうちとパーティ組もうや」
「良いんですか?私、ランクⅠなんですけど・・・」
色々と聞きたいことはあった。それでも、今は目の前にぶら下げられた餌への欲に抗うことが出来なかった。
「なんやそうなんか?東の森でちょこっと見かけた時にはエラい派手に戦っとったから、てっきり同じランクⅡなんかと思っとったわ」
「あなただったんですね。森に居たのは」
「たはー!バレとったんか。うちの気配遮断はそこそこ通用するんやけどなぁ。ちょいと自信なくすわ」
「あ、その。すいません・・・」
「冗談や冗談!で?どうする?」
「ことねさんがよろしければ、是非お願いします!」
「お!決まりやな!依頼はそっちで選んどいてくれるか?うちは東の門の傍で待っとるさかいな」
「わ、分かりました!」
「ほな、また明日。ゆかりさん!」
「は、はい!」
それだけを言うとことねさんはふらりと人混みの中へと消えていった。
もうどこに行ったか分からなくなった。これが気配遮断・・・特別なスキルか何かでしょうか?
「すいません!お待たせしました!」
考え事をしていると、ささらさんが駆け寄ってきた。
「もうそんな時間でしたか」
「はい!今日は商業地区の方へご飯を食べに行きましょう!私が奢りますよ?」
「いえ、流石に奢ってもらうのはちょっと・・・」
いや、手持ちの銅貨は依頼で貰った三十五枚と昨日ギルドから貰った二十枚から宿代一枚を引いた十九枚。計五十四枚となっている。
この分で足りる所だといいんですけど・・・。
「いやいや!ここは先輩である私が奢りますよ!」
・・・・・・んん?
「え?ささらさん。今いくつです?」
「私ですか?私は十六です」
「私は十八ですよ?!」
「えぇ?!てっきり十五歳くらいなのかと思ってました・・・」
え、この子まだ十六歳?え?この胸で?嘘でしょう?一体何を食べてるんですかこの人。
「十八歳なんですね・・・そのむ『その先を言うことの意味、分かりますよね?』あ、なんでもないです」
「それならいいです」
「ま、まぁ今日は私が奢りますよ!ギルドのお給料って、そこそこあるんです!」
「・・・まぁ、そこまで言うであればお願いします」
「はい!お酒の美味しいお店、知ってるんですよ!」
「ささらさん。十六でお酒なんて飲むんですか?」
「えー?まぁまぁ!お堅い事は言わずに!ささ!行きましょう!」
急かすささらさんに手を引かれ、私達は商業地区のささらセレクトの店へと向かった。
「ここですここ!良い果実酒が置いてあるんですよー!」
「それは楽しみです」
「さ、ゆかりさん!早く入りましょう!」
・・・あれ?・・・・・・ゆかりさん?
そういえばさっき。
『ほな、また明日。ゆかりさん!』
私はあの時。まだことねさんに名前を言ってない。
ささらさんと話をしている時、もう既に近くに居た?いや、近くには誰も居なかったはず・・・いや、彼女自身が言っていたでは無いか、"気配遮断"。
「あの、ささらさん」
「なんですかー?」
「気配遮断というスキルをご存知ですか」
「・・・なんだか大事な話みたいですね。とりあえずは中へ、個室を用意して貰いましょう」
真面目モードに切り替わるのは良いですけど、すごくこの店に行きたいって事だけは伝わって来ますね。
まぁ、他に安心出来る場所なんて私は知る由もない。ここはとりあえずこの店に入るとしよう。
「はい。入りましょう」
店の中に入った私達は、ささらさんの言った通りで個室へと案内された。
「それで・・・気配遮断、でしたっけ?」
「あ、はい。そうです。そういうスキルがあるんですか?」
「正確にはスキルではなくてジョブに付属するパッシブスキルですけどね。ゆかりさん、ステータスのウィンドウを開くと色々と情報が並ぶじゃないですか」
「はい。これですね」
「そしたらそこにジョブレベルって項目があると思うんですけど」
ウィンドウを開くといつも通り上の方に名前とランク、現在のジョブ、横の方にステータス、スキル、ジョブレベル、フレンド、メッセージと縦に並んでいた。ジョブレベルという項目をタップすると、ウィンドウの画面が切り替わり魔法士LvⅡと表示されていた。
「あぁ、これですね。私だと魔法士のレベルがⅡになってます」
「一日でLvⅡ・・・INTが高いと経験値の効率が高いんですかね。っと、そのジョブをタップしてみて下さい」
「はい。ん?あぁ、なるほど。これがパッシブスキルですか」
私のジョブは初期職である魔法士。その魔法士のパッシブスキルは"詠唱短縮Ⅰ"と書かれており、その能力を見ると本来魔法を扱う際に必要な詠唱を少し短縮する事が出来る、というものだった。
「はい。ジョブの能力を使って敵を倒すとジョブの経験値が貰えます。その経験値を使って新たなパッシブスキルを覚えたり、パッシブスキルの強化が出来るって訳です。だから偶に冒険者としてはランクⅡだけれどジョブのレベルは凄く高いって人もいるみたいですよ?あ、すいませーん!注文お願いしてもいいですかー?」
余程空腹だったのか、合間を見つけてはお店の人に声をかけ注文をお願いしていた。私も少し空腹気味だったのでささらさんのオススメを適当に頼んでもらっておいた。
「それで、どうして急に気配遮断なんですか?」
「さっきギルドでパーティを組まないかって誘われまして、その人が気配遮断に自信があるみたいな事を言ってたんですよ」
「気配遮断は弓士の派生職に当たる"シーフ"が得意とする能力です。もちろん弓士の人や普通の剣士の人も取ったりしますけど」
「剣士派生でも気配遮断は取れるって事ですか?」
「気配遮断の能力は弓士の系統に一番適性があって、次いで剣士の系統なんですよ。魔法士は気配遮断なんて使わなくても似たような魔法があるのでそちらを習得する人が多いですかね。あ、すいません!おかわりお願いしますー!」
「・・・ささらさん。それ何杯目ですか?」
まだ店に到着してからほんの数十分足らずだと言うのに、既にコップを二回は空にしてお店の人を呼んでいた。
「私嬉しいんです!今まで、仲の良い人ってつづみちゃんくらいでしたから・・・。こんな仕事柄、あんまり歳の近い人とも交流が少ないんですよね。だからゆかりさんが来てくれた時、私は嬉しかったんです!」
「ささらさん・・・」
そう言って貰えるのは嬉しい事だった。この世界に来たばかりで右も左も分からない私を支えてくれたのはマキさんとささらさん、つづみさんだった。
「だからくれぐれも無理だけはしないで下さい!じゃないと私は、また一人になっちゃいます・・・」
寂しそうに、悲しそうに、そうボヤく彼女の手を取り私はこう告げた。
「大丈夫ですよ。私は、絶対に居なくなったりしません」
「・・・・・・はいっ!」
それから少し話をした。私はこの世界に関する記憶をほぼ持ち合わせていないこと。自らの事すらもまだ分からないこと。向こうの世界に関する事以外は全てを話した。私の支えになってくれるこの人へのせめてもの礼儀として。
そうして夜は更けていく。今宵は月がこの世を照らす事は無かった。厚い雲が空を多い、地に影を落として行く。
「後、四日か」
その派手な赤い髪を風に揺らし少女はそこに立つ。
「ゆかりさん、いうたっけ?ええ人そうやったな・・・」
強い風がその言葉を攫い少女の傍を吹き抜ける。
「うちにはうちの目的がある。その為に蜂なんぞに手を貸して来たんや・・・。でも、それももう終わりや」
「せやから・・・堪忍な?」
「どうも、結月ゆかりです。皆様、沢山のお気に入り登録ありがとうございます」
「これからも書主と一緒に頑張りたいと思います!さとうささらです!」
「始めて頂いたコメントも、とても励みになります!」
「最近になって突然、創作意欲が湧き始めちゃったみたいで、渋さんの方でも何作か始めるみたいですね」
「どうなるかは分かりませんが、良ければそちらの作品達も覗いてあげてください!"ここ"とは感じが違う作品らしいですよ!」
「何かしらの形でこの作品との関連も持たせたいってあの人は言ってましたね」
「そうなんですか?!それは私達も期待大ですね!」
「おっと、今回はこの辺りみたいですね」
「皆さん!また次回お会いしましょう!」
「せーのっ」
「「「ばいばい!」」」
「あれ?つづみちゃん」
「私だけ仲間はずれなのは嫌だなーって」
「すいません、つづみさん。次からは3人で言いましょう」
「・・・うん」