魔法士ゆかり【未完】   作:湯ノ川

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Ⅱ.ⅴ 衝突

「おはようございます」

 

「あぁ、おはよーさん」

 

 約束通り、東の門の傍に彼女は立っていた。

 

 結局、昨日はささらさんに付き合って遅くまで飲んでいたせいであまり話が出来なかった。

 

 この人については一度保留にしておきましょうかね。ひとまずのところ、明確な敵ではなさそうですし。

 

「それで?ええ依頼はあった?」

 

「はい。今日は東の森の奥地でコボルトの討伐に行きたいと思うんですけど」

 

「あぁ、わん子か。確かにええ相手かも知れやんな」

 

 ことねさんが言う、わん子とはコボルトの事でコボルトはゴブリンと似たような性質を持つ種だが、ゴブリンは好んで人を殺す事は無い。一方、コボルトは犬のような頭部をしていてよく集団で狩りを行う種族だ。ゴブリンが採取の為に人を傷つけるのに対し、コボルトは人を殺して肉を喰らうと、言う点が一番の違いだろう。

 

「えぇ。私達も二人での活動になりましたし、相手にするにはちょうど良いかと」

 

「せやな。コボルト程度ならゆかりさんなら特に問題なく相手に出来るやろしな」

 

「私、貴方に名前言ってましたっけ?」

 

「あぁ、ウチな。あんたの事はこの町に来た時から目に付けとったんよ。それで気配遮断使ってこっそり受付さんとの話を聞いとったんや」

 

「・・・そうですか。まぁそれは良いですけど、次からは止めてくださいね」

 

「勿論や。もうこうして面と向かって話しとる訳やしな」

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

「せや、はよ行こ!」

 

 この人、悪い人って感じはしないんですけどね・・・。でも、何だか少し嫌な予感みたいなのがする時があって・・・・・・。

 

 東の森は、私たちが暮らす町インティウムから街道を通り半時間で着く森だ。始めて目が覚めた場所であり、始めて戦った場所でもある。

 

 マキさん、わざわざ魔物の少ない道を進んでくれてたんですね。

 

 昨日もそうだが、彼女の気使いがこうして自身の判断で道を行くとよく分かる。

 

「なぁ、ゆかりさんは冒険者になったばっかりなんやろ?」

 

「えぇ。そうですよ」

 

「って事は初期職って訳やん?どれにしたん?」

 

「あぁ、私は魔法士にしました」

 

「お。また珍しいやん」

 

「ことねさんは何の職に着いてるんですか?」

 

「うち?うちは今、シーフをやっとるんよ」

 

 やはりシーフですか。

 

 シーフとは、所謂盗賊と呼ばれる職業だ。とはいえ冒険者としての盗賊と、犯罪者としての盗賊では全く意味が違う。だから区別を付ける為に冒険者としての盗賊はシーフと呼ばれている。シーフの特徴は高い気配遮断のスキルと盗みの確率が上がるというものだ。この"盗み"というのは魔物が所持しているアイテムや武器を相手に悟られずに奪い取る事が出来るスキルで、盗みのスキルを高く取って居る者は警戒した冒険者からですらいとも容易く盗みを成功させることが出来るらしい。

 

「な───」

 

 何故シーフを?そう聞こうと思った私は、直前で口を噤んだ。

 

 なんでしょう・・・この感覚・・・・・・。誰かが近くに居る・・・?

 

「──ッ!」

 

 何も無い街道の傍、何かの気配を感じそちらを見るも私の目には何も写らない。

 

「?どないしたんや?急に立ち止まって」

 

「い、いえ。なんでもありません」

 

 これは演技?ことねさんと協力関係にある者が居る?それとも、彼女は何も気づいていないのでしょうか・・・?

 

「んー?何かよぅわからんけど、何にもないんならええわ」

 

「・・・・・・そう、ですね」

 

 再び歩き出したことねさんを追うように、嫌な感じは消えないままだが私も森へと向かい歩き出した。

 

 

 

「ゆかりさん!そっち一匹行ったで!」

 

「・・・はい!」

 

 静かな森の中に、刃がぶつかる音が響き渡る。

 

 コボルトは狩りを行う為に上等な武器を持つことが多い種族だ。私たちが相手にするような下級のコボルトはゴブリンとなんら変わらない装備だが、上級、コボルトロードにもなるとその装備は冒険者が引き継いで使うことがあるほどの物だ。

 

「・・・バレット!」

 

 真名を伏せたままに、月の銃弾を向かってきたコボルトは向けて放ち、その銃弾を追うように欠月をその頭部に向けて叩き付ける。体勢を大きく崩したコボルトはことねさんの手によりしっかりとトドメを刺されていく。

 

「ふう。やっぱ強いなぁ、ゆかりさん。魔法士でナイフ持つ人なんぞ初めて見たわ」

 

「いえ。ことねさんの方はナイフを二本持つんですね」

 

「せやな。人によってはショートソードだったりするんやけどな。ウチはだいたいこのスタイルや」

 

「途中で組み付かれそうになってた時の動き、体術スキルか何かですか?」

 

「あぁ、あれな。あれは弓系に入っとる近接スキルや。体術スキルとはまぁ、似て非なるもんやな。弓系近接スキルは接近された際の脱出手段であり、遠距離から仕留めきれんかった時の保険用のモンや」

 

「へぇ、なかなか面白そうなスキルですね」

 

「お?ゆかりさん興味あるんか?まぁ確かに魔法系の近接は体術スキルくらいしか無いからなぁ。ゆかりさんの戦い方やと弓系近接とか覚えとくんもありやな」

 

 体術スキルと言うのは、あくまでも身体を効率よく動かす為のスキルだ。素早く後方に移動するスキルや、ギリギリの所で攻撃をいなすスキル等、補助的な役割が多い。

 

「さて、これでどれくらい倒しましたっけ?」

 

 戦利品を取得し、一度休憩を挟んだ所で進捗を確認しておく。

 

「ん。今で十匹って所やな。どうする?日も傾いてきとるけど」

 

「そうですね・・・。今日はそろそろ終わりにしましょうか」

 

「了解や」

 

 二人で周囲を警戒しつつ街道まで戻り、ゆっくりと町へと帰還した。

 

 

「・・・ゆかりさん。依頼の完了頼んでええかな?」

 

何処か遠くの方を見つめることねさんが静かな声でそう言った。

 

「構いませんけど。ことねさんは?」

 

「・・・ちょいと武器のメンテナンスに行こうかなて思っとるんよ」

 

「分かりました。分け前はどうします?」

 

「ま、また明日おうた時でええよ。ほな、明日も同じ時間に」

 

「はい。また明日」

 

 こうしてことねさんと別れた私は冒険者ギルドへと向かった。

 

「これお願いしますね」

 

「あ、はい。承りますね」

 

 ちなみに今日はささらさんは昨夜の飲み過ぎで二日酔いになった為、お休みしていた。

 

「お待たせしました。コボルトの討伐、お疲れ様です。依頼の報酬として銅貨が二十枚と、追加分の銅貨が二十枚になっています」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 ことねさんへの分け前として半分を差し引いて、私の持つお金は銅貨七十四枚となった。

 

 この調子で行けばつづみさんへの支払いも何とかなりそうですね。

 

 受け付けの人に礼を言い、私は冒険者ギルドを出た。そこで一人の男性に声を掛けられた。

 

「あの、少しお時間いいですか?」

 

「良いですけど、貴方は?」

 

「"眠れ。眠れ。その魂よ。暗き眠りへと墜ちて行け"」

 

「・・・・・・はい?」

 

「『怠惰なる眠り(ヒュプノス)』」

 

 これ・・・は・・・。睡眠・・・系の・・・まほ・・・・・・う・・・・・・?

 

 そこで、私の意識は完全に途絶えてしまった。

 

 

 

 

 

「この程度の小娘を連れてくるのに、五日も要らないでしょうに・・・やはり、あの子が裏切る可能性があるというのは正しかったと言うことでしょうか」

 

 町行く人は誰もその男を止めようとはしない。

 

 インティウムの町の裏側、悪人達の宴は今宵も開かれる。

 

「さて、あとはこの月の娘を雀蜂様の元へ───」

 

「──おい」

 

 男の足下へと、小さな投擲用のナイフが突き刺さる。

 

 この町の暗黙の了解として、"身分を持つ盗賊"の行為に手を出してはならない、というものが存在する。手を出したものが次の標的にされてしまうからだ。だからこの町の人間達はそれを恐れ、狙われたもの達へと少しばかりの同情を送りつつ、自らが謳歌する幸せを噛み締めるのだ。ただ、少しばかりの例外も存在する。一つとして、その盗賊を殺害する事が出来たのなら、問題は無いのだ。一つたりとも情報を残さずにそいつを殺してしまえば、何の問題もない。もう一つとして、盗賊同士の潰し合い、というものがある。時に縄張りを。時に利益の為。盗賊達は潰し合い、殺し合う時がある。最近になってようやく裏社会を統治する者が現れ、それも減って行った。

 

「・・・・・・その子をどうするつもりや」

 

「どうする?決まっているでしょう。雀蜂様の元へとお届けするのです」

 

「・・・それはうちの獲物や。知ってるやろ?」

 

「ええ。知っていますが、何か?」

 

「・・・人の物を取るってことが、どういうことかも分かっとるわな?」

 

「もちろんです」

 

「そんなら───」

 

 少女の手を介し、二刀のナイフが宙を舞い、空を切る。

 

「アンタはうちの敵って事でええんやなぁ!」

 

「丁度いい。裏切りの可能性がある人間は処分しなければなりませんからねぇ!」

 

「ほう?うちに単独で勝てると?」

 

「ふん。たかが雀蜂様に少し気に入られた程度で何を言うのやら」

 

「あんたの名前(コード)、確か"蟷螂(カマキリ)"やったよな?」

 

 インティウムの裏社会にある盗賊団。彼らを纏めあげるのは雀蜂と呼ばれる男だ。そして雀蜂に列なる上位の者にはそれぞれ"蟲"の名を与えられる。蟷螂もその一人だ。

 

「えぇ。名無しの貴方より格上という事ですよ」

 

「・・・・・・あぁ、そっか。あんたは知らんねんな。うち、この名前嫌いやて使わんからな」

 

「はっ!なんの事かは知りませんが、この蟷螂の鎌から逃げられますかねぇッ!」

 

男が腕を大きく振るい、風の刃は地を抉り少女へと迫る。

 

「逃げる?うちが?そんな攻撃から?」

 

 

 

「────抜かせや」

 

 突如として立ち上がった炎の柱によって、蟷螂と名乗る男は自らの放った風と共に吹き飛ばされてしまった。

 

「グッ・・・・・・え、詠唱を破棄した・・・?」

 

「せや。炎に連なる魔法に対する詠唱を不要とするスキル。うちの権能や」

 

「炎・・・ま、まさか!き、貴様が"蛍"か?!」

 

 その炎は見るものを魅了する。その炎は、罪人を焼き正しき者を守る為に生まれた。

 

「あぁ。かつては人を護りし者。されど今はただの罪人や。せやけど、うちは足を洗いたい。・・・雀蜂のやつをぶん殴って葵を取り戻す!その為にはゆかりさんが必要なんや」

 

 名を蛍。かつて誰かの為にその刃を、その炎を振るいし者。その姿から付けられた名を火垂(ホタル)

 

「うちの名は蛍!いや、琴葉茜や!さぁ!その人、返してもらうで!!」

 

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