「どうした?もう終わりか?あんだけ大口叩いといてその程度かいな」
ゆかりさんを奪還する為に町に注意を払いつつ、逃げる蟷螂を追っている間に気付かないうちに街道へと繋がる門の前にまで来てしまっていたようだ。
蟷螂。蜂の奴に名前貰っとる割には大したことの無い相手やな?
「あ、貴方が何をしようが組織には勝てません・・・知っているでしょう?あの人の恐ろしさを・・・!」
「あぁ、確かに蜂の奴は強いな。でも───」
男の魔法により、宙へと浮かぶ彼女に目を遣った。
良かった。怪我とかはしとらんな・・・。
「ゆかりさんはもっと強い」
「こんな小娘に何を期待しているのかは知りませんが、一つ忠告しておきましょうかね・・・」
「なんや?命乞いか?別に命まで取ったり───」
「そこが甘いんですよ」
疲労し、横たわっていたはずの男の身体が突如としてその姿を闇へと消した。
「消えた?!」
「蟷螂という虫の事、あまりご存知ないようですね?」
その声は、闇夜に紛れて移動し続けているのか位置を特定するまでには至らない。
「なるほど・・・ステルスか?」
「そして・・・この町の事も、ね」
男は、既に町の外へと出て、街道の真ん中に立っていた。
「どういう意味や、それ」
「今に分かりますよ・・・」
なんやコイツ。えらい気色悪いな・・・ゆかりさんは?
慌てて確認するをするが先程と同じように、風の魔力によって横たわらされた彼女は穏やかな寝息を立てていた。
良かった。・・・・・・これで巻き込む心配もなくなったな。
「で?隠れるんはもう止めたんか?それなら全力で行かせてもらうで!」
「はい、どうぞ?」
「炎の───」
「
男の言葉により、圧縮し隠されていた風の刃はその本来の威力を持って炸裂する。
「設置型か!」
慌てて飛び退くも、すぐ側で解き放たれた風の魔力の持つ性質によって身体は刃の塊へと吸い込まれていく。
「チッ・・・発火!」
生み出した炎を自らの身体にぶつける事で、その衝撃を利用してなんとか風の射程距離からの脱出に成功した。
それは、偶然にも門を越えて町の外へと出ることになったのだが・・・。
「やっと、出てくれましたか」
「・・・ッ!」
転がった先。そのすぐ横にはもう男が、蟷螂の鎌を持って既にそこに居た。
大丈夫。さっきと同じように・・・え?
その鎌は、容易くうちの身体を袈裟斬りにした。
「・・・・・・は?」
「我々組織の人間は、町の中での大規模な戦闘を禁じられていましてね?ようやく貴方が町の外へと出てくれたので、助かりました」
「さ、さっきまでのは・・・手を・・・・・・?」
「これが英雄とまで呼ばれた者の継承者ですか。火垂の名が貴方で途絶えるのは残念で仕方ありませんね」
「ッ!」
火垂。それは悪を焼く者。そして善を照らす者。灯者とも言われた人は、この世にはもう居ない。灯者は代々その灯りを継いでいく。時に友人に。時に家族に。その光は絶やされることの無い物。
うちがそれを受け継いだのは二年ほど前の事やった。ある日の事や。仕事に出たはずのおかんが傷だらけになって帰って来た。そん時に初めておかんが灯者やっていうことを知った。そしておかんはうちにその力を託して死んでしまった。それからうちは故郷を離れることにした。灯者としての義務を果たすためや。冒険者でも何でもない葵も、うちについてきてくれた。正直、葵がおらんかったら今までで何回も死んどったと思う。
火垂の力もちょっとは使える様になってきた時やった。うちは、あの蜂と出会ってもうたんや。蜂との戦いに負けたうちに、皮肉にも蛍なんて名前を付けてうちに首輪を掛けた。葵が蜂に捕らえられたのが原因やった。でも、うちは葵のお姉ちゃんや。葵の為にならなんだってする。その覚悟でここまで来て、ようやく希望に出逢えたんや。
「例え・・・ウチがここで死ぬことになってもな・・・」
「はい?」
「この灯りだけは消せはせぇへん!うちは火垂や。その意味を、いずれ分かることになるからな・・・」
「私、そういうの嫌いなんですよ。実力も無いのに、名前だけで勝負しようとする人が、一番嫌いです」
あぁ、ゴメンな。葵・・・。ゆかりさんも、ゴメンな・・・・・・。
「それでは、サヨウナラ」
振り下ろされる鎌と、風が唸る音がする。
そうして・・・うちは、最後の時を待ち、ゆっくりと目を閉じて───。
「ホント、冒険者になって数日で誘拐されるなんて、規格外が過ぎますよー」
その聞きなれぬ声にハッと目を開き、倒れたままにそちらに目をやる。
甘栗色の髪をなびかせて、一人の少女が町の門の前に立つ。
「あぁ、もう日が暮れてきちゃいましたね。ゆかりさん、貴方の好きな月が見えますよ」
彼女が触れたその瞬間に、ゆかりさんを捕らえていた風の魔力が霧散し、彼女はゆっくりとゆかりさんを地に降ろすとこちらを見た。
「絶対に居なくならないって、約束してくれましたもんね?・・・・・・・・・だから───」
底抜けに明るい雰囲気から一転。凍り付くような、冷たい空気を纏って彼女は一歩、また一歩と歩みを進めた。
「誰ですか・・・貴方・・・」
「それはこちらの台詞です。良くもまぁ───」
少しづつ、空気が凍てついていく。彼女の周りの地面は既に凍り付き、パキパキと音を立てていた。
「この町で・・・よりにもよって、私の友達に手を出しましたね・・・」
な、なんやこの子・・・ゆかりさんとは違うタイプやけど、なんというか・・・ゆかりさんには静かな怖さを感じる時がある。けどこの子は違う。この場からすぐにでも離れたくなる様な・・・身体の芯から強ばっていく感覚がある・・・!
「そこで倒れている人。動けます?動けないなら、じっとしておいて下さいね」
それだけを伝え、少女は静かに詠唱を開始した。ボソリと聞こえたその詠唱の断片から、おそらく氷の魔法だと見当がついた。
長い詠唱・・・氷系の・・・LvⅢかいな?!範囲魔法やないか!
「ちょっ、待っ・・・」
慌てて頭を抱えて蹲ることしか出来なかった。
「『
その時。世界が止まった───。
「──はっ?!」
「あ、目が覚めました?良かったですねー、貴方に火の適性があって!」
再び意識を取り戻した時には、既に先程の少女が傍らに立っていた。
「あ、アイツは?蟷螂は?」
「安心して下さい───」
少し先を指差す少女につられてそちらに視線を送る。そこには、完全に凍り付き身動きどころか、意識すらをも刈り取られた蟷螂が氷柱に閉ざされていた。
嘘やろ・・・あの蟷螂を一撃かいな・・・・・・?この子は一体何もんなんや・・・?
「それより、貴方に聞きたいことがあるんですけどー」
「な、なんや・・・?」
「ゆかりさんを"雀蜂"の所に連れて行こうとしてたの、貴方ですよね?ギルドから報告は上がってきてます。事と次第によっては・・・」
再び冷たい氷の様な雰囲気を纏う。
「う、うちは・・・・・・」
「あの───」
反射的に、その声がした方に視線をやった。それはその少女と同じ事だった。
「これは、どういう状況なんですかね?」
「ゆかりさん!」
月の魔力を宿した少女が、月明かりに薄らと照らされる。
「ささらさん?どうしたんですか、こんな所で・・・って寒っ。この世界の夜はこんなにも冷えるんですか」
「あ、その・・・ゆかりさん・・・・・・」
「あれ?ことねさん?──どうしたんですか?!血だらけじゃないですか!」
力の入らない脚を奮い立たせて立ち上がった姿を見て、ゆかりさんの顔は青白くなっていった。
「・・・・・・はぁ。細かい話は後にしましょう?ゆかりさん、彼女に肩を貸して上げてください。うちの宿に戻りましょう」
「あ、はい。大丈夫ですか?ことねさん」
「あ、あぁ・・・。うちは大丈夫や。ゆかりさんは?」
「私ですか?私は寝てただけですし・・・あれ?そういえば私を眠らせた人は何処にいるんでしょうか?」
「ゆかりさん。そんな悠長に話してる時間は無いですよー!」
「あ、そうでしたね。ごめんなさい。それじゃあ、行きましょうか」
「う、うん・・・・・・」
うちはちらりと街道の奥を見た。月が雲に覆われ闇が続く中、ただずんでいたはずの氷柱は粉々に砕かれ周囲に散らばっていた。
ささらさん、って言うてたっけ・・・。この子、ホンマに何もんなんや・・・?
逃げ出したい気持ちはあるが、傷もあり抗えそうにないので大人しく二人と共に宿へと向かう事になった。
後書きです。本当は蟷螂はもっと強い予定のキャラだったんですけどね・・・・・・?
諦めました☆
「本当に、貴方は駄目なマスターですよね」
ちょっと待ってゆかりさん。流石に僕も傷付くよ?
「あー、はいはい。それより、AHSのセールが──」
次回もまた見てね!ばいばい!
「あ!ちょっ!待ちなさい!」