魔法士ゆかり【未完】   作:湯ノ川

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Ⅱ.ⅷ 月

 ここはさとうの宿。その一室だ。ここにいるのは椅子に腰かけた私と、ささらさんと茜さんが床に正座していた。

 

「ねぇ?二人ともー?」

 

「は、はい!」

 

「な、なんでしょうか!」

 

「私の話を、聞いてくれますか?」

 

「も、もちろんです!」

 

「あ、当たり前です!」

 

 私の声を聞く度に、ビクッと肩を震わせていた。

 

「それならいいですけど」

 

「それにしても、一冒険者相手にギルドマスターともあろう者がこの有様かいな?」

 

 そう言って茜さんはケラケラと笑っていた。

 

「茜さんは、さっき話してくれたので終わりですか?」

 

「うん?そうやな。うちから話せるんはそれくらいやな」

 

「それなら茜さんが知っている範囲で、ささらさんの発言に嘘がないか教えてください」

 

「ん。了解や」

 

「それじゃあ、ささらさん」

 

「あ、あの・・・本当に言わなくちゃ──」

 

「はい?」

 

「い、いえ!なんでもないです!」

 

「それじゃあ、キチンと聞かせてくれますよね?」

 

「は、はい!全てお話します!」

 

 そうしてささらさんは話してくれた。その話は驚く事ばかりで正直、途中からはもうちんぷんかんぷんだった。

 

「え、えーっと?つまりささらさんはこの町の冒険者ギルドのギルドマスターで、"夜明け"の二つ名を貰っていて?更に国から調停者の座を貰っている、と?」

 

「は、はい・・・」

 

「おまけに雀蜂ん所の幹部の一人、蟷螂を瞬殺。間違いなくランクIII位の実力は持っとるな」

 

「うぅ・・・」

 

「ささらさん。そんなに強かったんですね」

 

「だから言いたくなかったんです・・・」

 

「それはどうしてです?」

 

「私は、強くなりたくてなった訳じゃありません・・・。たまたま才能があったと言うだけで持ち上げられて今の地位に居ますけど、本当はつづみちゃんみたいに普通の生活をしたかったんです。それに、嫌われると思ったから・・・・・・」

 

 そう言うささらさんの表情は、いつもの底抜けな明るいものでも、たまに見せる真面目なものでもなく、本当に年相応の女の子が見せる悲しそうなものだった。

 

「ゆかりさんは大切なお友達です。その友達が傷付くのは見たくなかった。それだけの事で私は、人を殺しました。それをゆかりさんが知った時、どう思うのか・・・すごく怖かったんです・・・・・・」

 

「ささらさん・・・」

 

「また、ひとりぼっちになっちゃうから・・・・・・」

 

 ささらさんといったお店でした話を、私は思い出した。

 

「馬鹿ですね。ささらさんは」

 

 そう言ってささらさんの頭を優しく撫でてあげる。

 

「ゆかりさん・・・?」

 

「言ったじゃないですか。私は、絶対に居なくなったりしない、って」

 

「ゆ、ゆかりさん・・・!」

 

「私達は友達です。だから、助けてくれた事に感謝はすれど、貴方を悪く思ったりはしませんよ」

 

「・・・はいっ」

 

 やっぱり、この子には笑顔が一番似合いますね・・・。

 

「美しき友情ってやつやな。でもゆかりさん。ホンマにええんか?手伝ってくれ言うたんはウチやけど、相手はあの雀蜂やで?」

 

「はい。勿論ですよ、ことねさん?」

 

「や、やめーやそれ。うちかて嘘ついて悪かったと思とるんやさかい」

 

 少しからかう様に言ってやると、面白いのが返って来るから、この人は嫌いになれないのだ。

 

「それでも、どうするんです?相手はこの町の裏の支配者です。それを相手取るとなると私達三人じゃ厳しいですよ?」

 

「三人?もしかして、ささらさんも手伝ってくれるんですか?」

 

「・・・はい。その人に少し不満はありますけど、大切な友達が手伝うって言ってるんです。なら、私も手伝うしかないじゃないですか」

 

「ありがとうな、二人とも。ウチらの目的は雀蜂の排除とかやない。うちのいもうと、琴葉葵の救出や。それさいできれば他はなんも望まへんよ」

 

「それが言うほど簡単な話じゃないことくらい、貴方が一番分かっているはずです」

 

「うっ・・・」

 

「そりゃあ、私とゆかりさん。あと貴方が居れば雀蜂一人を相手にするなら多分・・・十中八九勝てると思います。でも、それが出来ない相手だからこそ、何か策を練らないと」

 

「どうしてです?勝てる相手なら真っ直ぐ行ってぶっ飛ばせばいいんじゃないですか?」

 

 十中八九。つまり、十回戦えば八回は勝てるのだ。それなら変に悩まずとも直接叩いてやれば良いだけの話。

 

「いえ、相手は裏社会の支配者。取り巻きがいるんです」

 

「・・・・・・。そういう事ですか」

 

「更に私とゆかりさんは魔法職。茜さんも魔法を得意とするタイプです。取り巻きとの戦闘になれば雀蜂を倒す程の魔力が残らないんですよ」

 

「せやな。うちはまだ近接スキルがあるけど、お二人は魔法のみやもんな」

 

 うーん。この話はどうやら、そう簡単なものではないらしい。

 

 相手は裏社会の支配者・・・。取り巻きが多い・・・・・・あっ。

 

「それなら、こういうのはどうですか?」

 

 私の作戦を聞いた二人は、驚いた表情を見せるも、すぐに納得した顔を見せた。

 

「確かに、それなら取り巻きの方は特に気にせんでもええな?」

 

「でも、その作戦だと二日後には雀蜂との戦闘になるかもしれませね」

 

「その二日の間で、私と茜さんはトレーニングをしておきましょう」

 

「うーん。まぁ、せやな!出来ればうちだけの力で蜂を倒したいと思っとったし」

 

「それなら私はギルドで情報を集めておきますよ。相手に少しでも悟られればこちらの勝機はグッと下がりますし」

 

「はい。それでは二人とも。よろしくお願いします」

 

「それはうちのセリフや、二人ともよろしく頼むな」

 

「はい」

 

「まぁ、私はゆかりさんがやるからやるだけですけどね」

 

 

 相手は強大な力を持つ雀蜂・・・ですか。

 

 窓の外。雲の上から顔を覗かせる月を見た。

 

 作戦決行は二日後。失敗すれば命の保証は無い、か。

 

 月はいつもと変わらずに地を照らす。

 

 こうして、私達の。たった三人での戦いが、始まろうとしていた。




次回───激闘。
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