Ⅲ.ⅰ ともだち
ある日静かな森の中。
「そっち行ったで!」
「おーらい!」
私の放った魔力の銃弾を受け、コボルトの動きが一瞬止まる。その隙を見逃さず茜さんの振るった剣により、その犬頭は地に伏せた。
「ふぅ。まぁワンコ相手やとこんなもんか」
「だいぶ慣れて来ましたしね。それに──」
「お疲れ様です。二人とも、怪我とか・・・まぁ、ありませんよね」
「お、お疲れ様です・・・!」
あの戦いから一ヶ月。再び冒険者としての活動を再開した私は、茜さんと妹の葵さん。更にささらさんを加えての新しいパーティを形成していた。
「茜さん、使ってみた感触はどうですか?」
「うーん。せやなぁ。アリっちゃアリってとこか?」
茜さんが今使っているのはつづみさんの家の武器屋の試作品。普段はナイフとして扱い、魔力を込める事でショートソード、ごく一般的な片手剣サイズまで刀身が伸びるという魔法剣の一種だ。
「茜さんの魔力総量はあまり有りませんからね。今までは権能の補助で火の魔法をぶっ放してましたけど」
「あぁ。蛍の灯火は、もう消えたからな」
茜さんは、元々近接が得意なタイプだった。けれど蛍という責務から魔法剣士として中距離メインの戦い方が多かった。雀蜂に負け、蟷螂に負けた。自らの弱さを痛感させられた彼女は、その火を別の形へと変える事を決めた。蛍の名は消えても、その意思は消えること無く、燃え続ける。
彼女らしいな、と私は思った。
「葵ちゃんは?この一週間。大きな魔力の使用は控えて貰ってました。どうです?イメージ、掴めて来ました?」
「はい。私の中にある魔力の流れが、その性質がハッキリと理解出来てます!」
「流石ですねぇ。私だけでなく、ゆかりさんをも超える『
「はい師匠!」
この一ヶ月。葵さんはささらさんから魔法の手解きを受けていた。魔力の総量で言えばささらさんがずば抜けて高い。けれど魔力の繊細なコントロールは葵さんがずば抜けて秀でていた。例えば一つの魔法の発動に五の魔力が必要となる場合、大抵の人間は少し余分に魔力を使い、大体が八の魔力で出力するのだ。けれど葵さんにそれは無い。五の魔力が必要となれば五の魔力のみを使用する。威力を下げて速度を上げたり、逆に速度を落として威力を上げたり等、調整によってその性質を変化させられるのだ。
ささらさんが大量の魔力を用い最強の一手で押し潰す剛のスタイルだとすれば、葵さんは極限まで無駄を削り、手数で相手を圧倒する柔のスタイルと呼べるであろう。
「蛍の分割、及び継承も上手くいったみたいで良かったですね。茜さんの魔力耐性が上がっているのはいい事ですし、何より葵ちゃんの魔力操作と蛍の権能の組み合わせは強力ですから」
蛍の権能。対象者の火の魔力への耐性を上昇させ、火の魔力への適正を上げる。それは火の魔法の詠唱を省略破棄する事が出来るというものだ。この省略破棄というのは魔法の名を口にする必要すら無くす物で、術者がイメージを起こした時点で魔法のセットは完了し、出したい時に自在に発動させることが出来るらしい。とても強力な力だそうだ。
「あ、あの・・・ゆかりさん!」
「はい?葵さん、どうしました?」
「その・・・。出来れば私の事は"葵"と呼んで頂ければ・・・」
葵さんは、元の性格もあってなのだろうが、雀蜂から解放した私達の事を恩人の様なモノと考えているらしく、遠慮しがちな事が多かった。
その葵さんが自らその様に言うのであれば、拒否する理由など毛頭ない。
「分かりました。それでは今後は葵とお呼びしますね」
「・・・!は、はい!」
「あ、じゃあ私も"ささら"でお願いします」
「ささら・・・何だか慣れませんね」
「あはは、私も何だかムズムズしますねー」
「えー?じゃあうちも"茜さん"やのーて"茜"って呼んでーや」
「分かりました。では今後は"ことね"、と」
「まだ言うてるやん?!」
茜さん、いや。茜のツッコミに思わず笑いが溢れた。それに釣られてか、葵もささらも同じ様に笑い、最後には茜も笑っていた。
私達は笑う。これまでの過去を洗い流す様に。
私達は笑う。これからの平和を噛み締めるように。
私達は笑う。何事もない、平穏な暮らしを謳歌する為に。
こんな日々が、ずっと続いていく。そう、思っていた。
その日が、訪れるまでは・・・・・・。
特に書くことないね。また次回