「なんでじゃあー!!!!」
鳥のさえずりが聞こえる穏やかな森の中。一人の声が木霊する。
落ち着け私。そう、どんな時でもクールで可愛いゆかりさんはこんな時こそ落ち着くのです・・・・・・ん?
「ゆかりさん・・・」
自然とそう考えていたのだが、ゆかりさんとは一体、
「うーん。それにここは、どこなんでしょう?」
気がついたら、知らない場所に居た。だが、それよりも重要な事がある。
「私は一体、誰なんでしょう?」
駄目だ。眠る前の事を全く思い出せない。
「気持ちのいいお昼だからって、こんな所で日光浴・・・なんて、ありませんよね」
何か大切な事を忘れてしまっているような、いや。全て忘れているんでしたね。私。
でも、さっき頭の中に浮かんだ名前・・・なんでしょうか?ゆかりさん・・・・・・それが私の名前?
「まぁ。便宜上、私はゆかりさんという事にしておきましょうか」
こうして私は、"ゆかり"になった。
うーん?それにしても自分の事も分からないのにどうしてどうでもいい事はすんなりと頭に浮かんでくるのでしょうか?
思い出すのは自分の名前や友人達との記憶。ではなく、やれ新作のゲームがどうだとか。熱いアニメの格闘シーンだとか。
「うん、さっぱりわけが分からない。げえむ?あにめ?はて・・・」
まぁ、そんな事は今は置いておきましょうかね。
どうやら私は、切り替えが早かったようだ。
「とりあえず近くに村とか無いんですかね」
気持ちのいい昼真っ只中。私は、村を探して歩き出すことにした。
したのだが・・・・・・。
「ちょっ!着いてこないでくださいよ!」
私は今、森の中を駆け抜けている。
「もう!なんなんですか!ちょっとハチミツ貰おうと思っただけじゃないですか!」
ハチミツ。それは覚えていた。蜂たちが集める甘い蜜の事だ。とても栄養価が高く、贈り物なんかにも使われるという。
どうしてこんなことばかり覚えているんでしょう・・・。
それは覚えていた。ただ、一つ記憶違いだったのが、その蜂と呼ばれる虫。その大きさだった。私の記憶では、掌に収まる程度の大きさの虫。刺されると痛い。その程度の認識だったのが・・・。
「なんで人の胴位の大きさなんです?!」
容易に近づいた私を、敵とみなしたのか。それとも餌とみなしたのか。真意は分からないが、とにかくその大きな蜂に追われて一目散に逃げるしかなかった。
「だ、誰か助けてー!!」
そう叫びながら、走り続ける事しか私に出来ることは無かった。
◇
静かな森。彼女はそこにいた。
「ふう、依頼にあったゴブリンはこれで倒せたかなっ、と」
しっかりとした鉄の鎧を身にまとい、身の丈程の大剣を軽々と担ぎ。その戦利品を取得していく。
「お?これは・・・」
ゴブリンは、光るものを集める習性がある種族だ。稀に、その金品を巾着に入れて持ち歩く個体も居る。
「銅貨四枚。うん。これは儲けだね」
モンスター。魔物と呼ばれる生物を討伐するクエストは、その生物を討った事を証明する戦利品をギルドに納品する事で収益を得ることが出来る。その分以外の物は、ギルドに売って換金するなり、素材を活かして武具を作るなりと、冒険者の自由にすることが出来るのだ。今回取得した銅貨も、後者である。
「さってと。そろそろ帰ろっかな」
彼女がその場を離れようとした時だった。少しずつ声が近づいて来ていた。
「・・・・・・・・・てー」
「うん?なんだろ」
「・・・・・・けーてー!」
次第に近づいてくる声はどうやら助けを求める物のようだった。
「うーん、無視も出来ないかな?」
彼女は、声のする方角を探る事にした。
さて、どこからかな?
「・・・すーけーてーー!!」
この方角・・・・・・後ろ?
彼女が振り返った時、そこには──。
「たーすーけーてーーー!!!」
「はい?」
大量の
「あ!そこの剣持ってる人!助けてくださいー!」
「マグナアピス?!しかも丸腰?!ちょっ!君!何してるのさ!」
「な、なにもしてないんですー!」
「はぁ?!ちょっ、こっち来んな!」
「ちょっ、無理です無理です!止まったら刺されちゃいます!」
「クソ!仕方ないッ!」
背負っていた大剣を飛翔する大群へと向けて構える。
「ちょ!何する気ですか?!」
「助けるんだよ!」
「そ、それで私ごとヤる気ですか?!」
「もう!いいから早くこっち来い!」
彼女の隣を、丸腰の女の子が駆け抜けて行き、その目の前には大量の蜂。
「纏え!雷鳴の子よ!」
彼女の声と共に、愛剣は怒槌を帯びて行く。
「さぁ、蜂さん!威力は控えめにしといてあげるから!」
大気がバチバチと音を立て、その剣は飛翔する蜂達へ向けて振りかざされた。
「はぇ?」
「静かにしててね!!」
その剣が描いた軌跡は、蜂の体を容易に切り裂き、近くを飛んでいた蜂達へと怒槌が襲い掛かる。
プスプスと焼ける音と、少し焦げた匂いが"私"の鼻についた。
電撃を免れた蜂達も踵を返し、元いた所へ戻って行った。
「た、助かったぁ・・・」
「助かったじゃないよ!何してるのさ!」
「な、なにもしてないって言ってるじゃないですか!」
「こんな魔区にそんな格好で!」
「ま、魔区なんて知りませんよ!なんなんですか!」
「む。魔区も知らない?君、もしかして密入国か何か?それともよっぽど人里ない所から来たとか?」
「ま、まぁ。そんな感じなのかもしれませんね・・・」
「・・・・・・はぁ」
「ちょ!なんですか!」
「着いてきて、近くの町まで案内するから」
「町?近くに町があるんですか?」
「うん。小さな町だけどね。君との縁はそこまでだから!」
「あ、ありがとうございます!えっと・・・」
「うん?あぁ、私?私はね・・・」
そう言いながら、鎧の人はそのフルヘルムを外してくれた。その中から出てきたのは、ゴツイ男の人なんかじゃなくて、綺麗な金色な髪を大きく纏め、すらっとした綺麗な目を持つ美人さんだった。
「私はマキ。弦巻マキ。アンタは?」
「私ですか?私は・・・ゆかり、ゆかりです。ありがとうございます。助けて頂いて」
「良いって、あんなの見過ごすと寝つきが悪くなるからさ。それじゃあ行こっか、ゆかりさん」
「は、はい!よろしくお願いします。マキさん」
こうして私は、美人で剣士なマキさんと共に町を目指すことになった。
皆さんこんにちは!結月ゆかりです!
いつも後書きの所って、書くことがないんで、今回からというか次回から結月ゆかりコーナーを開くことになりました!
頂いた質問等は、コメント欄と共にこちらでも答えさせて頂こうかと思っています。まぁ、質問やコメントが来ればの話なんですけど。うp主はこれまで、いくつもの駄文を作っては放棄してきましたが、今回は謎のやる気に満ち溢れているそうですので、どうかお付き合いしてやってくださいね。
あぁ、なんで私。こんな1人芝居してるんでしょうか・・・・・・。
す、すいません。まだ途中でしたね。えっと、次回は私が町に行ったお話になると思います。若干の説明回になるかもですね。それでは皆さん、機会があればまた次回お会いしましょう。