魔法士ゆかり【未完】   作:湯川ユノ

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これがホントの三章プロローグ


Ⅲ.ⅱ 宿敵(ライバル)

 二人の少女が互いに剣を構え相対する。

 

「・・・退く気は無いんですか」

 

「勿論」

 

 私が投げ掛けた問に彼女はニヤリと大きく笑い短くそう答えた。

 

「こんな楽しい事──」

 

 大剣を下段に構えたまま大きく踏み込み、その勢いで一気に距離を詰めてくる。

 

「止められないでしょ!」

 

 そしてその突進の勢いを殺すこと無く、大剣を横に大きく振るう。

 

「この・・・ッ!わからず屋!」

 

 バックステップを用いて再び距離を取っての回避を図るも、その突進力と大剣のリーチによって、その攻撃は私の腹部へと命中した。バックステップでの滞空時に攻撃を受けた事が幸いだった。大きく吹き飛ばされはしたものの、体力も少ない支払いで済んだ。

 

「なぁ。お前も楽しいだろ?」

 

「生憎。私は戦いに興味がある訳じゃないので」

 

「はッ!顔見りゃわかるよ。お前はこの状況を、少なくとも嫌がっては居ないさ」

 

 確かに。心の奥、そこには強敵との戦いにワクワクする気持ちがある事は事実だ。けれどそれは今の状況、お世話になった友人との『真剣勝負』を楽しめるかと言われればそれも違う。

 

「・・・どちらかが死ぬかもしれません。それでも続けるんですか」

 

「大丈夫だよ。お前は死にはしないさ」

 

「手加減、してくれるんですか?」

 

「冗談。私は刃を向き合った相手に手を抜いたりしないよ」

 

 では何故?そう私が問う前に答えは帰ってきた。

 

「私が全力でやっても、お前を殺し切れる確証が無いんだ。初めてだよ。戦う前から負けるかもって思うのはさ」

 

 彼女は再びその大剣を眼前に構え、短く呟いた詠唱により、その刃を(神鳴)が覆う。

 

「私を傷付けたくない。自分も傷付きたくない。それなら、本気で来いよ」

 

 かつて一度だけ見たその能力。私を追い回す蜂を焼き焦がしたその一撃が、今は私に向けられている。

 

「・・・・・・ホンットに、わからず屋なんですから・・・」

 

 ホルスターにしまい込んでいた"欠月"を右手に、形だけという事で持っていた市販品のナイフを左手に持ち替え、かつて私の仲間が使っていた構えを取る。

 

「魔法士って聞いてたんだけどな?」

 

「おや、知らないんです?今の魔法士は、ナイフ技能くらい持ってるものですよ」

 

 私はナイフ系統のスキルなんて一つも持っていないが。

 

「お望み通り、全力です」

 

「あはは!良いねぇ!・・・・・・じゃ、行くぞ」

 

 彼女の纏う空気が一変する。

 

 覚悟しろ。"アレ"はもう、私の知っている彼女では無い。

 

 先程受けた突進とは比べ物にならない速度で、雷鳴の如き突きが繰り出される。少し反応が遅れるも事前に練っていた魔力を用い、欠月に"牙"を纏わせて迎撃する。

 

 後にこの戦いを観ていたものは語る。それは二人の少女の──否。

 

「ゆかりぃぃいい!!!」

 

「マキさんッッ!!!!」

 

 それは、神鳴の爪と月光の牙。二つの獣の喰らい合いだった、と。

 


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