二人の少女が互いに剣を構え相対する。
「・・・退く気は無いんですか」
「勿論」
私が投げ掛けた問に彼女はニヤリと大きく笑い短くそう答えた。
「こんな楽しい事──」
大剣を下段に構えたまま大きく踏み込み、その勢いで一気に距離を詰めてくる。
「止められないでしょ!」
そしてその突進の勢いを殺すこと無く、大剣を横に大きく振るう。
「この・・・ッ!わからず屋!」
バックステップを用いて再び距離を取っての回避を図るも、その突進力と大剣のリーチによって、その攻撃は私の腹部へと命中した。バックステップでの滞空時に攻撃を受けた事が幸いだった。大きく吹き飛ばされはしたものの、体力も少ない支払いで済んだ。
「なぁ。お前も楽しいだろ?」
「生憎。私は戦いに興味がある訳じゃないので」
「はッ!顔見りゃわかるよ。お前はこの状況を、少なくとも嫌がっては居ないさ」
確かに。心の奥、そこには強敵との戦いにワクワクする気持ちがある事は事実だ。けれどそれは今の状況、お世話になった友人との『真剣勝負』を楽しめるかと言われればそれも違う。
「・・・どちらかが死ぬかもしれません。それでも続けるんですか」
「大丈夫だよ。お前は死にはしないさ」
「手加減、してくれるんですか?」
「冗談。私は刃を向き合った相手に手を抜いたりしないよ」
では何故?そう私が問う前に答えは帰ってきた。
「私が全力でやっても、お前を殺し切れる確証が無いんだ。初めてだよ。戦う前から負けるかもって思うのはさ」
彼女は再びその大剣を眼前に構え、短く呟いた詠唱により、その刃を
「私を傷付けたくない。自分も傷付きたくない。それなら、本気で来いよ」
かつて一度だけ見たその能力。私を追い回す蜂を焼き焦がしたその一撃が、今は私に向けられている。
「・・・・・・ホンットに、わからず屋なんですから・・・」
ホルスターにしまい込んでいた"欠月"を右手に、形だけという事で持っていた市販品のナイフを左手に持ち替え、かつて私の仲間が使っていた構えを取る。
「魔法士って聞いてたんだけどな?」
「おや、知らないんです?今の魔法士は、ナイフ技能くらい持ってるものですよ」
私はナイフ系統のスキルなんて一つも持っていないが。
「お望み通り、全力です」
「あはは!良いねぇ!・・・・・・じゃ、行くぞ」
彼女の纏う空気が一変する。
覚悟しろ。"アレ"はもう、私の知っている彼女では無い。
先程受けた突進とは比べ物にならない速度で、雷鳴の如き突きが繰り出される。少し反応が遅れるも事前に練っていた魔力を用い、欠月に"牙"を纏わせて迎撃する。
後にこの戦いを観ていたものは語る。それは二人の少女の──否。
「ゆかりぃぃいい!!!」
「マキさんッッ!!!!」
それは、神鳴の爪と月光の牙。二つの獣の喰らい合いだった、と。