Ⅱ.ⅰ インティウム
この世界に来てから初めての夜が訪れた。小さな窓から暗闇の上、光り輝く月が雲の隙間からその姿をのぞかせた。
「月、ですか・・・」
あの後、ささらさんと少し話をし、幾つかクエストを見させてもらったが、あまり良い依頼が見つからなかった。
結局、時間が遅くなって日が暮れてきちゃいましたからね・・・。きちんとした活動はまた明日から、ですか。
冒険者になった私には、ギルドからの支援として、ユキナ銅貨二十枚が支給されている。
ささらさんに教えて貰ったこのお宿、良い所ですね。雰囲気も良い感じですし。ご飯は・・・まぁ普通ですけど。ベッドも悪くありません。それに何より三日で銅貨一枚、というのが大きいですかね。
だからと言ってこのままのんびり、という訳にも行かないのが世の常。まずは明日。依頼を達成して、経験値を稼ぐ。そして報酬も貰う。
ひとまず、今日はもうそろそろ寝ましょうかね。
明日は依頼を受けて冒険者として活動するんだ。少しでも、体を休めておかなくてはならない。
今日は色々な事がありました。色々なことを知りました。そのせいか・・・なんだか・・・もう・・・・・・。
そうして私は、眠りに着いた。漆黒の闇を月が切り裂き、淡く世界を照らす頃。私は、不思議な夢を見た。
その人は誰だったのだろう?誰かと話す夢。その人も、私も、笑って居て。でも、その人が誰だったのか。どうしても思い出せなくて。そんなもどかしいような、愛おしい夢。
「んっ・・・・・・朝、ですか」
この世界にも、時間という概念を知る為に時計という道具が存在した。時計の針は、Ⅵの字を少し過ぎた所を指していた。
六時半頃ですか・・・そろそろ起きますかね。
ベッドを降り、グッっと身体を大きく伸ばした。ポキと身体から軽快な音が鳴ったのを感じた。
「さて、ギルドは確か八時から開くんでしたっけ」
昨日別れる際、ささらさんがそんなことを言っていた。
「どうしましょうか。魔区まで行くのも面倒臭いですし・・・とりあえずは朝食、ですか?」
魔区、というのは魔力を含んだ呪いや恨み。それらが形を成した物、魔物が現れるエリアの事だ。
「うん。決めました、朝食にしましょう。この時間でも食べられるんですかね」
二階建てになっているこの宿の一階部分は食事処の様な形になっている。私は、階段をギシギシと踏みしめて下へと降りた。
まぁ、この二階の宿泊施設の利用者、私だけらしいんですけどね。
「あ、おはようございます」
「おはようございます。朝、早いんですね?もっとゆっくりしてるイメージでしたよ」
食事処のカウンター。そこに座るのは甘栗色の紙をした少女だった。
「・・・・・・なんで貴方がここに居るんですか。"ささらさん"」
「なんで、って。ここ、
「だからオススメですなんて熱く言ってた訳ですか」
「あははは。でも、良いお宿でしょう?」
「・・・それはそうですね。ありがとうございました」
「ここ、食事以外はそこそこって少し前までは繁盛してたんですよー?まぁ、今となっては大通りの大きなお宿にお客さん取られっぱなしですけどね」
「大通り、ですか」
「あ。ゆかりさん。まだこの町の中、全然見てまわれてないんでしたっけ?」
「はい。まだ来たばかりですからね」
「良れけばこの後。色々見て回ります?時間が早いんでお店とかは空いてないかもですけど」
「そうですね・・・」
まだ時間も早い。朝食をここで取り、少し町を回るのも良いだろう。
「それでは、お願いしてもいいですか?」
「はい!私も宿の人間の端くれ。案内ならお任せ下さい!」
こうして、ささらさんと共に町中を見て回ることになった。
朝食を終え、時刻は七時を過ぎた頃。まだ時間には余裕がある。
「さて、まずはどこに行きましょうかねー?どこか見たい所とか、あります?」
「うーん。そうですね・・・一応冒険に役立つ物を売ってる所とかは押さえておきたいですね」
「なるほどー。それじゃあ商業地区の方とか見に行って見ますか?商業地区ならこの時間なら準備の為に開けてると思いますよー!」
「それでは、そこでお願いします」
「かしこまりましたー!」
私とマキさんが町に入ったのは町の東門だったらしく、大通りと呼ばれる道は、ちょうどその東門から入った所だったらしい。
どおりで、門からギルドまでが直ぐに着く筈ですね。
「この大通りは町のほぼ真ん中を走っていて、そこから大きく四つに地区が分かれていくんですけどね。まずは特定のホームを持たない冒険者達の宿が多い宿泊地区。ゆかりさんがご利用頂いている我が家もそこですね。そして今から向かう商業地区。ここはアイテムとか砥石とかそういうのを売ってますね。専門的な武器をお求めなら商業地区ではなく工業地区がオススメです!生産地区にも幾つかありますけど、生産地区は魔物の皮や爪とかを扱ってる事が多いと思います」
「つまり簡易的な武器が欲しいなら商業地区。オーダーメイドが欲しいなら工業地区。って事ですか」
「まぁ、そんな感じですね!ほとんどの冒険者は商業地区で買っちゃうので工業地区の職人方はだいたい商業地区からの依頼でカンカン作業してますけどね」
そうこうしている間に、私達は目的の場所。商業地区へと足を踏み入れていた。
「さぁて!何を見ます?やっぱり魔法士のゆかりさんならポーションとかですか?」
ポーション。魔力を回復する事が出来るアイテム。少し値が張る。
「うーん。本当はそういうのも欲しいのですけどね。今はまだお金も有りませんしやめておきます。それよりささらさん。武器って何処に売ってます?」
「・・・ゆかりさん。魔法士なのに武器持つんですか?」
「え、持たないんですか?」
「えー。持ちませんよ。一番後衛で戦う魔法士が持つのなんて回復系のアイテムとかですよー。まぁたまに杖系のロッドとか持ってる人は居ますけど」
あくまでもアレは魔力の安定をさせる為の物だ、とささらさんは付け足した。
うーん。そんなものなんですかね。私の想像ではもう少し武器とかも使うイメージだったんですけど・・・。
「まぁ、ナイフくらいは持っておこうかな、と」
「んー。まぁそれくらいならかさばりはしないと思いますけど、じゃあ剣士スキルとかも取るんですか?」
「いえ。スキルは特に取る予定は無いですね」
「スキルも持たずに武器を持つんですか。いや、まぁそういう人もたまに居ますけどぉ」
「まぁ、いいじゃないですか」
「そうですね。ナイフでしたらオススメは・・・お?ちょうど開いてますよ!」
そう言ってささらさんが指を指したのは、小さなお店だった。
「あそこ、私の知り合いの店なんですけどね?お父さんが工業区で鍛冶師をやってまして、その商品をこの店で扱ってるんですよー」
「へぇ。ささらさんのお友達ですか?」
「はい!そうですね」
「それなら、見て見ましょうか」
「はーい!」
店の前に掲げられた看板には『
「おーい、つづみちゃん!」
ささらさんが店に入るなりそう呼びかけると、店の奥から青い髪のショートカットの女の子が出迎えてくれた。
「いらっしゃい。珍しいね?佐藤がウチに来るなんて」
「佐藤?」
「あぁ、私の家名ですよ。さとうささらって言うんです。それよりつづみちゃん!こちらは冒険者のゆかりさん!で、オススメのナイフとかを探してるんだけど」
「相変わらず
「あぁ、これは御丁寧にどうも。私はゆかりです、冒険者になったばかりなんですけど」
「それでナイフを選ぶなんて、もしかして弓士の方ですか?」
「いえ。魔法士なんですけどね」
「ね?面白い人でしょ?」
「さとうが連れてくるのも、分かる気がする」
「でしょー!」
この二人、とても仲が良いみたいですね。仲の良い・・・友達・・・・・・。
「痛っ」
突然襲いかかる頭痛に、思わず声を上げてしまった。
「ど、どうしました?」
「あ、なんでもないんです。ちょっと頭痛が・・・。それより、ナイフなんですけど」
「あぁ。そうでしたね。どうぞ。ナイフはこちらに幾つかありますので」
そう言うとつづみさんは奥の方へと戻って行った。
「あっちにあるんで、見に行きましょっか」
「そうですね」
なんだろう。さっき何かを思い出せそうだったのだけれど・・・。まぁ、今は気にしなくてもいいですかね。
先に奥へと入った二人を追って、私も店の奥へと歩を進めた。
「ささらと!」
「つづみの」
「異世界講座~」
「こんにちは、すずきつづみです」
「こんにちは!さとうささらです!」
「今日はゆかりさんの変わりに後書きコーナーを努めさせていただきます」
「つづみちゃん!今日は何のお話だっけ?」
「今日はゆかりさんも居ないから、私達の家の話だってさ」
「なるほど!まずは私からかな?私の家は、お母さんがさとうの宿って名前のお宿をやってます!昔は繁盛してたんですけど、今はたまに来る人とか近所の人が下で食事をするくらいですね。一応お宿としてはあんまりですけど、飲み場としてはそこそこ流行ってるんですよね」
「次は私。金物刃物の店、鼓屋の店主をやってます。父が作った商品を何とか捌いて生計を立ててます」
「鼓屋さんの武器、凄いの多いんだけどなぁ」
「お父さんが頑固者だから、あんまり売れてないんですよね。オーダーメイド品とかもすぐに断っちゃうから」
「私もたまにお店手伝ったりしてるけど、やっぱり大きい所にお客さん取られちゃって大変だよね」
「うん。もう少しなんとかしたいんだけどね」
「っと、今日はこの辺かな?」
「そうだね。皆さん。また次回お会いしましょう」
「ばいばい!」