「俺はロールプレイで救世主をやってるものだ」   作:nanashi

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第二話 救世主降臨

 

 

 

「俺の名前は【緋色】、ロールプレイで救世主をやってるものだ」

 

 

 

 赤き鎧に赤のマントたなびかせた全身鎧の戦士が女子に名乗る。

 

「……ヒーロー?」

 

「いや緋色だ。だが、まあ、好きに呼べばいい。それで今襲ってきた奴はお前達に何か恨みがあって襲って来たのか?」

 

 緋色は助けた女子に問う。

 

 緋色は目の前に殺されそうになった女子を助けることが正義だと思って助けた。ただその行為が正しいことである裏付けはない。だから何故『この村が襲われているのか』を知る必要があったのだ。

 

 

「……ううん、獣人たちは私達を食べるために殺すの」

 

「なるほど、食事のために人間を殺しているという訳か。まあ、自然の摂理だと断言すればそれまでだが……同族を食われて黙ってるほど俺も人間を捨ててない。安心しろ必ず助けてやる」

 

 

 突如現れて自分の窮地を救ってくれた謎の赤き鎧の男『緋色』。いくら命を助けてくれた相手であるからと言って見知らぬ冒険者相手には警戒をするのが普通である。

 

 だがこの男の言葉には不思議な力がある!

 男の優しさがこもっているのだ!

 

 さっきまで恐怖で錯乱した精神が安定していく。

 

 実際は緋色が所持するパッシブスキル【希望のオーラV】の効果による精神安定のお陰であった。

 

 女子は緋色に頭を下げて助けをこう。

 

 

「お願いします……この村を救って」

 

 

「当り前だ。だがまずはお前自身の安全だな【多重第6位階聖鳥召喚】」

 

 

 その瞬間に魔方陣が形成され白い鳥の聖獣が複数召喚される。緋色は基本的に近接戦闘職ではあるが一応、最低限の重要な魔法は取得している。この召喚魔法は索敵にも使えるために取得していたのであった。

 

 ユグドラシルに存在する聖獣系モンスター【聖鳥】。白い比較的大きな鳥であり、優れた機動力と癒しの魔法を使う。

 

「一匹はこの子について一緒に周りの人間たちを守れ。他の者は見つけて襲われている人間たちを助け、傷ついたものを癒せ。とにかく人命を第一に行動するんだ」

 

 指示を出すと聖鳥たちは合図とばかり一声鳴く。

 

「キィー」

 

「よし、行け」

 

 女子と聖鳥は共に駆けだして飛んで行く。それと同時に他の聖鳥達も飛び立つ。先程一撃で獣人を屠れたことからレベルは聖鳥よりも低いと判断した緋色。一人では間に合わない場合を考慮しての召喚である。

 

 

 

 緋色は再び飛行を発動すると空から村を見下ろす。現地点は村の端であることがわかった。そのため中央に移動して戦闘が激化している場所に参戦することを決める。村の中央に移動するとそこでは鎧を纏った戦士たちと獣人の大群が一進一退の攻防が繰り広げていた。いや、よく見れば圧倒的な獣人の数に人間側がドンドンと押されていっている。

 

 

「まずは戦況を覆すべきか」

 

 

 とりあえず獣人を撤退に追い込むことが必要だと考える。安全の確保が最優先だと決めると地面に向けて一直線に降りる

 

 

 そして高速で降下し、戦場のど真ん中に降り立つ。

 

 

 赤き鎧の戦士に周りの獣人も、そして獣人と戦っていたはずの人間たちも動きを一瞬止める。空気が変わったのがその場にいるすべての生物に分かってしまう。

 

 

 

「お前達獣人に言葉が通じるかは分からないが一応警告はする。退け」

 

 

 

 その言葉に獣人たちはやっと我に返る。そしてすぐに緋色目掛けて戸惑いもせずに突っ込んでいく。緋色の言葉は翻訳機能を通して獣人にも伝わっていた。だが獣人たちからしたら派手な鎧を着ただけの下等な人間種。負けるはずがないと決めつけ戦闘を再開させたのだ。

 

 

「いくぞ……!」

 

 

 束になって襲いかかる獣人に、戦況が逆転する一撃を放つ。

 

 

 ギュゥィン!……ドンッ!

 

 風を置き去りにした後に、何かが破裂する音が響き渡る。

 

 一発。

 

 たった一発の正拳突きは向かって来た獣人を全て払い除け文字通り穴を開けた。

 

 一匹は血反吐を吐きながら宙を舞い。

 

 一匹は拳圧で腹を抉られながら地面を転がり。

 

 一匹は顔がなくなった状態で後方遥か彼方に飛ばされる。

 

 襲って来た数匹の獣人全てが何かしらの致命傷を負い絶命していた。

 

 一波目で来なかった獣人たちが二波目を形成して襲い掛かる。あれだけの一撃を放った後でなら大なり小なり隙が生まれる。獣人たちは傲慢であるが馬鹿ではない。一波目で散った仲間のためにも即座に追撃をする程度には知恵があった

 

 それに対して緋色は冷静に拳を構える。獣人の隙が出来るという予想はこの男には当てはまらなかった。緋色が先程放った一撃はただのパンチ一発である。その程度であれば……いくらでも撃てる!

 

 

「せい!」

 

 

 ギュゥィン!……ドンッ!

 

 そして二発目の拳が放たれる。

 先程よりも多くの獣人が肉塊となって赤いを雨を地に降らせる。

 

 遠くからその光景を見ていた他の獣人はそのニ撃で悟る、否、悟らされる!

 勝てるはずがないと。挑んでは絶対にいけない敵が現れたと。

 見張り担当の獣人は雄叫びを上げる。

 

 

「ウォォォォオオオン!」

 

 

 その雄叫びが発せられると遠くにいる獣人たちは一斉に撤退を開始する。

 

 その光景を眺める緋色と、突然の援軍にいまだ状況が読み込めずにいる戦士たち。緋色の目的はあくまでこの町を守ることを第一としている。そのため余計な深追いはしないと最初に決めていた。

 

 またこの村自体小規模であるために攻め込んできた獣人の数も多いとは言えない。あっさりと撤退してくれたのには獣人自身が援軍を呼ぶのに時間がかかることも理由の一つであった。

 

 緋色は近くで腰を抜かしている戦士に腕を貸す。

 

 

「二発で撤退の判断をしたか……思っていたよりもあっさり帰ってくれて良かった。大丈夫か?治癒が必要なら手を貸すぞ」

 

「!?……あ、あんたは一体何者なんだ!?」

 

「俺の名は緋色、ロールプレイで救世主をやってるものだ」

 

「ロールプレイ……?」

 

「……まあ、通りすがりの正義の助っ人だ。偶然この村に辿り着いたら獣人が虐殺をしていたので見過ごせずに助けに入った。それで傷を負っている奴はいるのか?一応、ポーションや回復魔法なら持ち合わせているが」

 

「そ、それなら後方に怪我人を集めている場所がある!そこに行って重症者から先に治療してやってくれ!報酬なら後で国から払う!だから頼む!」

 

「分かった。すぐにでも案内してくれ」

 

 

 

 緋色は村の中央で戦っていた戦士たちのリーダーの後について行く。

 

 月明かりに照らされた村は血の匂いが立ち込めていた。道端で息絶えている死体を何体も見てきた。緋色はもっと自分が早く来ていれば助かる命もあったのではと考える。だが所詮はたらればの話。今は残ったものの命を救うことを第一に考えていた。

 

 また蘇生アイテムがない訳ではない。この世界で使えるかは分からないが持っていることには持っている。しかし無暗に使うつもりはなかった。死者を蘇らせることを他の者に知られれば争いが起きることは簡単に予測できるからだ。

 

 そんなことを考えながら歩いていると怪我人が集まっている場所につく。

 

「ここだ……どうかよろしく頼む……」

 

「任せてくれ。だが……思っていたよりも数が多いな。手早く済ませるぞ」

 

 治癒魔法をかけている者が既にいたが、低位の回復魔法では焼け石に水程度の効果しか得られていない。体の一部が欠損した者などもいる。血が流れ過ぎて死を待つだけの者もいる。

 

 

 だが負傷者の中で救えない命など一つもないことだけは確信できる。

 

 

 中位回復魔法を一人一人にかけてまわる。村人自体のレベルが低いおかげなのか、予想よりも簡単に回復していく。

 

 

「やはりユグドラシルと比べてもレベルに差があるのか……どうやらゲームの世界の延長線上とは思わない方が良いのかもな」

 

 

 この世界ではユグドラシルでは感じえなかった匂いや痛覚が存在する。そして生身の肉体にもしっかりと感覚がある。本来であればNPCとされる存在に声も意思もある。もはや、ゲームではないことくらい容易に理解できる。

 

「まあ、やることは変わらないか……」

 

 怪我人の治療が全て済むと同時に、飛ばしていた聖鳥たちと村人が集まっていた。最初に助けた女子もその中にいることを確認する。

 

 この場所まで案内してくれた戦士のリーダーが代表して緋色に言葉をかける。

 

 

 

「竜王国騎士団を代表してお礼を申し上げます!あなたがいなければこの村は潰れていた!必ずや報酬をお支払いすることを約束してみせます!」

 

「竜王国?」

 

 

 


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