「俺はロールプレイで救世主をやってるものだ」   作:nanashi

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第三話 反撃

 

「なるほど大体わかった。こちらは情報が全くない状態でこの国に着いたものだから助かったよ。だが、獣人に攻め込まれているとはな……どの世界でも争いは絶えないという訳か」

 

 

 

 緋色はその後、竜王国騎士団員と村のご厚意で無事だった建物に招かれる。そこでこの世界にまつわる情報について教えてもらっていた。周辺の地理や、簡単な国の情勢、基礎的な知識など、聞けるものは全て聞いた。

 

 そんな緋色に対して騎士団員は嫌な顔一つせずに全てを教えてくれた。命の恩人だというのも理由の一つである。しかしそれとは別に緋色がこのまま竜王国にとどまり、獣人との戦争に参戦して欲しいという思いがあるからだ。

 

 それほどまでにこの竜王国という国は獣人により危機的状況に陥っているのである。そこに偶然迷い込んだ緋色と言う切り札をどうしても手放したくなかった。

 

「緋色殿には今回の救援、感謝してもしたりません。不躾であることは重々承知しております。ただ……どうしても聞き入れてもらいたい頼みがあります」

 

「改まってどうした?遠慮はいらないハッキリと言ってくれ」

 

「どうか獣人との戦争にあなたの力をお借りしたいのです!隣国であるスレイン法国の力を借りてはいるものの獣人たちの圧倒的な数と力の前に追い込まれているのが現状です。日に日に自国の村や町が落とされております」

 

「……なるほど」

 

「今この国には強き者が必要なのです!さきほど見た獣人を一撃で数匹屠るあの力、そして癒しの力を持った鳥を使役する魔法の技術、更には重傷者を一瞬で治癒する回復魔法、その全てが我々に必要な能力なのです!お願いします!我が竜王国に力をお貸しください!」

 

 

 緋色は少しばかり考える素振りをする。

 

 

 緋色自身これからどう行動するべきか悩んでいるところであった。基本的には元の世界への帰還を望んではいる。あそこには残してきた者や物がまだ沢山あるからだ。だとすれば取るべき行動は帰還方法を捜索をするのがセオリーと言える。

 

 だが、ここでこの国の惨状を無視することは出来なかった。

 

 この村で死んでいった者たちを見てきた。家族を失い失意にくれた者もいた。そんな光景を見ていると無性に心が痛くなるのを感じるのだ。助けたい、何とかしてあげたい、そんな思いが沸々と湧いて出て来る。

 

 

 

「誰かが困っていたら、助けるのは当たり前……か……」

 

 自分の為すべきことを今一度心に刻む。

 

「分かった。この戦争に一枚かませてもらう。その代わりと言っては何だが俺にも欲しいものがある」

 

「……それは一体?」

 

 

 

「知識だ」

 

 

 

 

 

 

――竜王国に存在するとある町

 

 

 

 雲がほとんどない快晴な空に対して、その町では血なまぐさい戦争が行われていた。町を陥落させようと攻めているのは獣人の大群。それに相対するは竜王国が防衛のために派遣した騎士団たちであった。

 

 陣やバリケードを作成利用しての戦闘で何とか獣人の進軍を抑えている騎士団であった。だが、それも獣人の剛力と俊敏性、そして何よりその数による人海戦術に

対してジリジリと押し込まれていっている。

 

 そもそも獣人と人間では生まれ持った身体能力の差が大きかった。鋭い爪に固くとがった牙、屈強な肉体にスタミナ、生まれつき高い脚力など生粋の戦士としての種族なのである。そしてその能力を一番生かした戦い方が突撃による一点突破であった。

 

 敵陣営に突撃を掛け、混乱に乗じて内部からその身体能力で搔き乱す。単純であるが最も厄介な戦法を獣人たちは得意としていた。また、獣人は人間を恐れることなど基本的にない。人間は所詮は自分達の餌であると決めつけているからだ。そこに更に生来の獰猛さが加わることでまさしく狂戦士の如き戦い方をする。

 

 

 

 そんな相手に竜王国の人間は何人も殺されて来た。

 

 

 

 それでも人間は自らの生存圏を守るために必死に抗う。

 

 現在戦争が行われているこの町の中で、獣人相手に必死の戦いを繰り広げている若い新兵がいた。

 

 彼は今日初めて戦場に降り立った新兵であった。この町で生まれこの町で育ち、そしてこの町を守るために騎士団の一員となったばかりの若い男である。そんな彼は故郷を獣人の手から防ぐために戦いに参加したのである。

 

 そんな彼は複数の騎士たちと連携を取りながら獣人と戦闘を繰り広げていた。

 

「グォォオオオオ!」

 

「クソ!いい加減に死にやがれ!」

 

「俺が盾で中央から引き付ける。お前達は左右から挟み撃ちにしろ」

 

「了解」「分かった」

 

 

 獣人との戦闘において一対一のタイマンは基本的に実力のある者しかしてはならない。一対一で戦った場合は圧倒的に獣人の方が有利だからだ。そのため戦闘の際にはこうして味方と連携を組んでの討伐が必要であった。

 

 一人が敵を引き付けてる間に、新兵ともう一人の兵士が左右から脇を切り裂く。獣人の固い毛皮と筋肉を引き裂き致命傷を与えることで何とか一匹討伐することに成功する。

 

 一匹討伐したところで新兵は片膝をつく。

 新兵は初めての戦場ということもあり、精神的にも肉体的にも疲労していた。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「大丈夫か?」

 

「はい……まだ戦えます……」

 

「無理はするなよ。今回の獣人どもの突撃を凌ぎきれば援軍が到着すると連絡が入っている。それまで何としてでもこの戦線を維持するんだ」

 

 

 援軍が来る。

 

 その言葉が新兵を元気づけてくれた。新兵にとって故郷のこの村は絶対に守りたい存在である。だから何としてもここで倒れるわけにはいかない。

 

 その後も高い連携を生かして襲い来る獣人を撃退していった。

 このペースでなら何とかなるかもしれない。そう言った希望が湧いて出て来る。

 

「これなら何とかなる……!」

 

 

 

 だがその希望は一匹の異常な獣人によって脆く崩れ去る。

 

 

 

「何だあいつ……」

 

 

 

 前方からゆっくりと余裕を見せながら一匹の他よりも一回り大きい獣人が攻めてくる。肥大化した筋肉、他の者よりも巨大な爪と牙、そして何よりその獣人が登場した瞬間に周りの空気が一変したのだ。

 

 その場にいた全員が唾を飲む。

 

 その場にいた全ての兵士たちが自分達では相手にならないと感じ取る。

 

 それほどまでにその獣人は異常であったのだ。

 

 

 

「ウォォォオオオ!!!」

 

 

 

 たった一回。その一回の雄叫びで兵士全ての戦意を削いで行く。新兵も体の震えが止まらず、その場から逃げ出してしまいたいという気持ちでいっぱいになっていた。威嚇と言うにはあまりにも攻撃的過ぎる雄叫びであった。

 

 

 獣人たちのなかにも個体差によって強いものや弱いものが存在する。魔法を使わず肉弾戦を主とする獣人は、特に身体能力の個体差と言うものが多きかった。

 

 今回新兵やその他の兵士の前に立ちはだかった巨躯の獣人は、生まれつきの戦士であった。戦闘センス、知能、身体能力、その全てが他の獣人たちを大幅に追い抜いていた。そして獣人たちを取りまとめる隊長のような役割を任せられている。

 

 その巨躯の獣人本体が来たということは本気でこの町を落としにかかってきたということであった。

 

 

 

 巨躯の獣人は全力の突進で防衛線を破壊しに来る。

 

「矢を放て!」

 

 弓兵部隊が矢を放つ。しかし、他の獣人よりも固くしなやかな毛皮と柔軟かつ硬質の筋肉の前では刺さるどころか弾かれてしまう。

 

 

「ガァア!!」

 

 

 そして防衛線の最前線にて盾を構えていた兵士を殴り飛ばす。その一撃で兵士は空高く舞い地面に激突すると同時に気を失う。

 

 そこからただひたすらに暴力の限りを尽くしていた。

 裂き、殴り、蹴り、己の全ての体を使って周りにいる全ての兵士を蹂躙していく。その姿はまさしく鬼神の如き暴力であった。

 

 

 新兵は目の前で行われている惨劇に足がすくんで動けなくなってしまう。

 そんな新兵に対して他の兵士が声を張り上げる。

 

 

「立て!そしてこの場から逃げるんだ!」

 

 

 その言葉でやっと足が動くようになる。

 

 

「お、俺も戦います!」

 

「いいから逃げろ!お前はまだ若い!逃げて何としてでも援軍と合流するんだ!」

 

 

 そして次の瞬間に逃げろと警告してくれた兵士の体が壁に叩きつけられる。

 

 巨躯の獣人は狙いを新兵にさだめると、より恐怖を与えるためにゆっくりと近づいてくる。もはやこれは一方的な虐殺へと変化していた

 

 新兵はもはや腰が砕けて逃げることすら出来なかった。

 

 

 

「嫌だ……死にたくない……」

 

「助けてお願いします!」

 

「誰か!誰でもいい!助けてくれ頼む!まだ死にたくないんだ!!」

 

 

 

 あきらめとも取れるその叫びは普通であれば誰にも届かない!

 この巨躯の獣人の前でいくら叫ぼうとも誰も助けてはくれない!

 

 

 

 『あの男』以外には!!

 

 

 

「遅くなってすまない」

 

 

 

 巨躯の獣人の一撃を片手で受け止めるのは、突如現れた緋色の鎧を纏った騎士であった。そしてそのまま獣人の拳を、卵でも握りつぶすかのように容易に砕く。

 

 

「グォゥウウウウ」

 

 

 そしてそのまま獣人目掛けて拳を振るう。

 

 

 ドンッ!

 

 

 肉体が肉塊に変わる

 

 晴天の空の下、そこだけには赤い雨が降っていた。

 

 

 緋色の騎士は新兵に語り掛ける

 

「よく頑張ったな……直に援軍が来る。そしたら今度はこちらから反撃だ」

 

 新兵は問う。

 

「あなたは一体?」

 

 

 

「俺の名は緋色、ロールプレイで救世主をやってるものだ」

 

「そして竜王国の味方でもある」

 

 

 反撃の狼煙は上がった!

 

 


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