欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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八十九話:悔いなく戦い抜け

 

 悔いなく戦い抜け。

 

 

 

 

 

 医務室からなんとか足を引きずり、息を上げる身体を酷使して選手席に戻ろうとしたのだが。

 

『――両雄立ち並びました! これより始まる二回戦、第九試合! 両者はどのような戦いを見せてくれるのでしょうか!!』

 

 長い吹き抜けの廊下を歩いていると、響いてきたのは試合開始の放送。

 

「――っと、もう試合か」

 

「ここからだと戻るのに時間かかるアル」

 

 俺の全身全霊を込めたカウンターを叩き込んでやったはずなのに、何故かもう普通に歩いている古菲はともかく。

 満身創痍ってレベルじゃない俺だと少し選手席に戻るまで時間がかかるな。

 

「しゃあねえ、古菲。お前先に選手席戻ってろ、俺は観客席でのんびりみてるから」

 

 正直戻るまでの体力が微妙だ。

 試合始まってるのにのこのこと戻っても注目されるだけだろうしな。

 

「? 別にそれぐらいなら付き合うアルヨ」

 

 ああ、そうかい。

 まあ古菲がそれならいいんだが、さてどこでみるかね。

 と、そんなことを考えていた時だった。

 

「くーちゃん、こっちこっちー!」

 

 観客の立ち並ぶ吹き抜けの廊下、黒髪にメガネをかけた女生徒がぴょんぴょんと飛び跳ねながらこっちに手を振っていた。

 その周りにいる三名には見覚えがある。

 近衛木乃香と、綾瀬夕映に……顔だけは見覚えがある前髪の長い女生徒。

 ネギ少年の生徒たちか。

 

「一緒にこっちで見ようよー」

 

 騒がしく手招きしている女生徒の元へと向かうと、テコテコと小走りで近寄って古菲がメガネをかけた少女に話しかける。

 

「ハルナ、長渡も一緒でいいアルカ?」

 

「おk、おk! 全然問題なしだよー、ゆーなものどかも木乃香も問題ないっしょー?」

 

「大丈夫やで」

 

「問題ありませんね」

 

「……へいき、かも」

 

 一名引っかかる返答があったが、俯き気味なところを見て人見知りするタイプなのだろう。

 合流するまでの間に古菲の存在に気づいた奴とか、こちらを指差すような奴もいたが、大体の観客が試合に集中していて問題はない。

 割り込むようになんとか近衛たちと合流し、試合を見る。

 試合は豪徳寺たちの前解説が終わり、短崎と桜咲が互いの武器を構えたところだった。

 

『では、第二回戦。第九試合――』

 

 短崎は太刀、桜咲は糞長い刀を構える。

 鞘はお互い放り捨てて、足元に転がったところを蹴り飛ばして退けた。

 

「模造刀か?」

 

「でしょうね、この大会では刃の付いた刀剣は禁止されてます。あの刀には歯止めもしくは潰しが入ってるはずです」

 

 俺の呟きに、何故かふくれっ面で手に持ったペットボトル(大)のジュースをストローで啜りながら綾瀬が答えた。

 あんなの持ち込んでいたっけかな、短崎の奴?

 でも、それは幸いだ。さっきまで使っていた木刀は一回戦でほぼ限界。

 新しい武器なら――

 

『桜咲刹那選手 対 短崎翔選手!!』

 

「頑張れよ、短崎」

 

 

『Fight!!!』

 

 

 最後まで悔いなく戦えるだろうさ。

 

 

 

 

 

 初太刀は意外にも踏み込んだ桜咲からだった。

 膝を抜き、等速度運動で間合いを潰した短崎に対し、"彼女は舞った"。

 

「っ!?」

 

 ――翻転。

 

 右斜めから真っ直ぐに上へと構えた刀身、そこから桜咲がしたのは単純なことだった。

 加速、しかも縮地に近い"前のめりの翻転"だった。

 倒れこむような上半身の落下、それに加えて捻るように腰を回し、されど軸足だけは円を描くように滑り出す、ある意味ではアクロバティックな動き。

 手の動きではなく、腕の動きだけではなく、体勢と姿勢を変えることによる高速の振り下ろし軌道。

 それは旋転といってもいい捩れた螺旋動作。

 スカートを翻し、空気すらも孕んて捻り放つ疾風の斬打。

 

「っ!?」

 

 短崎が滑るように横に逃れ、同時に一瞬目を見開き――さらに距離を離した。

 遅れて響き渡るのは斬音。

 ピタリと"静止した長大な白刃"、桜咲が繰り出した刃が前へ伸び、地面から平行に止まっている。

 

「……刹那さんすげー腕力だねぇ」

 

 横に佇む黒髪眼鏡の女――準年齢詐欺臭い、ハルナと言われていた女子中学生の呟き。

 その言葉に俺は思わず。

 

「いや、あれはあまり腕力関係ないな」

 

『へ?』

 

 呟いた言葉に、周りの面子の視線が集まる。

 どういうこと? とばかりに?が目に浮かんでいた。

 

(あれ? この空気、もしかして解説しないと駄目な流れ?)

 

 また解説役ですかー!

 

「剣はあまり私も分からないアル。長渡よろしく頼むアル」

 

 俺もそこまでわからねえよ。

 精々出来るのは体の動かし方と、その原理ぐらいだが……

 まあ説明しないとさっぱり分からないだろうしなぁ。

 

「……俺も全部分かるってわけじゃないから、それは念頭において置けよ」

 

 コクリと頷く面々。

 俺は舞台に目を向けたまま、自分の推測を話し出した。

 

「とりあえずさっきの一撃だが、実際のところ桜咲は"手の力を使ってない"。殆ど全身の可動作と大太刀の重量で繰り出してる」

 

「へ? どういうこと?」

 

 近衛の質問に、俺は右手を上げ、親指と人差し指と中指を立てて見せる。

 

「まず刃を振り下ろすのに使ったのが最初の前のめりに倒れこむ動き」

 

 中指を曲げる。

 これで刀身を前に押し出す。

 

「さらに速度を速めたのはあの腰を捻った動き」

 

 人差し指を曲げる。

 この動きで押し出した刀身を加速させ、さらに落下する弧の動きを付属させる。

 

「そして、軸足を外に滑らせることによって自分の姿勢を限りなく低くし、その高度差を持って大太刀の重量落下を生み出したってところだな」

 

 親指を曲げて、ゆっくりと右手を振り下ろす。

 あの時の桜咲の動きを再現するように、手首を捻り、"円弧を描いた"。

 

「あの両手は殆ど機動の補正と、ぶれないためのものとしての補助だな。あれだけの大きさの武器、力を入れなくても遠心力や自重で十二分に破壊力は出る」

 

 この原理を使えば踏み出さずにして、常時の剣速にも匹敵する振り下ろしが可能だろう。

 振り下ろした後の重みなどは本来の蹴り足――実質上の軸足である後ろ足の曲げた膝で殺し、出来る限り切り替えしなどにも余裕を持たせている。

 柄の握りなども片方はコテの原理で柄尻を支えて、振り易いようにしているのだろう。

 常識的に考えれば酔狂にしか見えない一メートル半以上の糞長い武器だが、どう見ても桜咲はあの長さを使い慣れてる。

 まだ成長途中である女子中学生の肉体で、負担なく斬打を繰り出したのがその証明だ。

 と、結構分かりやすいように噛み砕いて説明したのだが。

 

「ふーん……よく分かんないや」

 

 返ってきたのは不理解の意志だった。

 

「分からないのかよ!?」

 

「ごめん、ウチもちょっと分からなかったわぁ」

 

「わ、私もいまいち……すいません」

 

「わ、私は何とか理解したアルヨ?」

 

 お前まで分かってなかったら俺は泣くわ。

 

「まあなんとなく程度でいいよ、もう」

 

 と、そんなことを喋っているうちに舞台の上の二者が動いた。

 正確に言えば数秒前から動いていたのだが、それはただの構えだけだったからだ。

 桜咲が刀を担ぐ、櫂を担ぐような姿勢と共に折り畳んでいた後ろの膝を軽く伸ばし、横に流していた前足をさらに蠱惑的にしっかりと地に着け直す。

 短崎もよくやる足並び、それに応じて短崎が再び中腰の構えを取るが。

 

(出した足は虚か、一度避けてからその隙を突く気だな)

 

 軽く踏み出している右足はどこか軽く、後ろに置いたままの左足に体重の比率を割り当てているのが想像出来た。

 重量のある武器を使う相手には当然の対処である。

 一度避ければあの大太刀は対処が遅れる、そうすれば右手だけの短崎にも勝機はある。

 

「……刹那は何を出すアルカ」

 

 古菲の声のそれは問いではなく、自問の響きを含んでいる。

 

「軽く考えて二通りあるが、どれも見切られれば終わるな」

 

 振り下ろすか、振り回すか。

 どちらか、それとも予測を超えるか――その瞬間、桜咲が動いた。

 旋転、捻りを含んだ動作――前に進みながらの横回り、薙ぎ払いだ。

 深く足を踏み込む、突き刺すような動作――大振り。

 

「だけど、あの程度じゃ」

 

 短崎が反応する。

 上下の高さは変わらずとも、その振り回すスカートの裾や割烹着から距離感を把握したのか、僅かに身体を後ろに倒し――

 

 "不自然に眉を歪めて、斜め後ろへと飛び退った"。

 

「ん?」

 

 繰り出される斬撃。

 それは虚空を裂いて、長大な白刃が煌きと共に一閃し――短崎の位置には届かない。

 "最初に居た短崎の位置にも僅かに届かない距離だった。"

 

(なんだ? 短崎の奴、無意味な避け方をした)

 

 間合いを無駄に開く。

 それは逆に自分を追い詰める。

 長大な圏域を誇る大太刀の使い手相手にそれがわからないあいつじゃない。

 槍使いを相手に後ろに逃げるようなものだ。

 勇気を振り絞り、前進するこそが唯一の対処。ただ後ろに下がれば速度に乗った刺突の刃に討たれるだけ。

 だというのに、"相手の振るった延長線から逃れるように飛び退った"。

 

「ふむ?」

 

 古菲が首を傾げる、何か気づいたような声。

 

「なんだ? くー――!?」

 

 尋ねようとした瞬間、俺は思わずそれを中断した。

 見ている視界の中で桜咲が動いた、それも予測外の動きを。

 

『"廻った!?"』

 

 桜咲が動く。

 髪を振り乱し、その手を伸ばし、長大な大太刀を閃かせたままに、"廻る"。

 舞踏でも踊るかのように踏み出し、振り抜いたはずの刃を止めないままに旋回する動きに切り替えた。

 遠心力を自分の推進力に変えて、"前へと躍り出る"。

 それは短崎が引き下がる速度よりも早く間合いを潰し、床から跳ね上がるように繰り出された蹴りがあいつの胸を蹴り飛ばした。

 

「短崎!」

 

 ぶっ飛ぶ短崎。

 けれども、数歩たたらを踏むように引き下がって、なんとか短崎は体勢を整えた。

 しかし、そこに襲い掛かるのはさらに廻る桜咲。

 円舞というべきか、身体に引き寄せ、さらに短く加速する野太刀の一撃が弧を描いて飛び込んでいた。

 轟音。

 背筋が震えるような斬撃と共に、"誰も居ない地面を砕く"。

 

「っ、ぶねえ!!」

 

 舞台が砕け散る、粉塵が噴き出す。

 短崎は間一髪横に転がり、逃げ延び――肩膝を着いたまま横薙ぎに刃が奔る。

 ――金属音。

 瞬時に構えを直し、その斬撃を立てるように構えた大太刀の峰が防いだ。

 

「っぉ!!」

 

「ぬぅ!!」

 

 そこから――滑る。

 峰へと激突した刃、そこから這うように短崎が刃を跳ね上げて――鍔ごと手を砕こうとする。

 それに桜咲が手を離す、不発する斬撃。

 桜咲の足が閃く、地面へと刺さるような大太刀が蹴り飛ばされて、縦に回転。

 威勢よく廻る風車を受け止めるように柄を掴んだ桜咲に、短崎が飛び退るように逃げた。

 

「逃がしません!」

 

 ふわりと優雅にスカートを翻し、実質的には暴風のように桜咲が廻る。

 繰り出されたのは轟風。

 袈裟切りに弧を描き、遠心力の乗った剣先が弾むように後方宙返りした短崎の足場を掠めて、舞台の床板を破砕した。

 うぉんと獣が上げるような風切り音。

 その威力に誰もが息を呑んだ。

 

「ちぃ!」

 

 柄を返し、さらに滑らかな無駄のない動作と共に桜咲のステップが変わる。

 タンッと踵が舞台を踏みしめ、ダンスパートナーの如く追随する白刃が弧を描いて短崎を追撃する。

 躱す、大げさに間合いを広げて、さらには何故か身体を捻る。

 ――加速、加速、加速。

 ――振り下ろされる刃、――舞い躍る鉄刃、――襲い掛かる斬撃。

 避けて、避けて、避けて、弾くことも忘れて短崎が後ろに下がる。刃風に煽られて、顔を歪め、千切れる包帯が煽られて飛ぶ。

 

「なんつう剣撃」

 

 俺は言葉が出ない。

 あんな馬鹿でかい太刀を、ただの一度も止まらずに繰り出し続ける桜咲の剣術に息を呑む。

 まるで迫ってくる扇風機とでもいえばいいのだろうか。

 ただし刃は鉄製、巻き込まれれば裁断される、ぶち砕かれる凶器。

 

「うひー」

 

「まずいですね」

 

 ハルナと呼ばれていた少女と、綾瀬がぼやく。

 だが、俺は思う。

 

「……あいつがまだ餓鬼で助かったな」

 

「へ? どういう意味アルか?」

 

「言ってのとおりだ、桜咲がまだ子供で助かった……もう少し背が高くて、ムチムチの美人だったらもっと威力と速度が出てる」

 

『???』

 

 首を傾げる四人。

 ついでに何故か古菲が機嫌悪そうな顔をしていた、あと綾瀬も。

 

「なに? 刹那さんがムチムチダイナマイトボディだったら、どうなるのさ? お色気で足が止まるとか?」

 

「短崎は基本クール&むっつりだからな、その程度じゃ足とまらねえよ。多分全裸でもな」

 

 高音嬢の時がいい例である。

 と、それはさておいて。

 

「単純な話だ。桜咲の剣術、あれは……もう少し手足が長くて、体重がないと不完全だ」

 

 彼女の剣戟、そのカラクリが読めた。

 

「あの大太刀を振り回しているのは桜咲じゃねえ。"桜咲を大太刀が振り回してる"」

 

「? どういうことですか? もっと分かりやすくお願いします」

 

「――桜咲の身体自体がカウンターウェイトになってる、つうてことだよ」

 

 昔誰もが一度水の入ったバケツを振り回したことがあると思う。

 その時無理に自分の手でバケツを振り回すより、振り回したバケツの勢いに合わせて回転したほうがスムーズに回れた記憶がある。

 要はそれと同じだ。

 本来剣を、武器を振るう際に支点――すなわち軸になるのは使い手の手足だ。

 しかし、今回の場合支点は桜咲自身ではなく、大太刀と桜咲の間を流動的に切り替えている。

 振り回す速度と遠心力で高められた質量、それを持って推進力に変えて桜咲が旋回する。

 それに勢いや刃筋を変えるタイミングで桜咲が僅かに踏みとどまり、その勢いを殺さないように体を捻り、遠心力のままに刀身を叩き付ける。

 まさしく円舞の如くだ。

 理想的に考えれば何処までも威力の上がっていく恐るべき剣術だが。

 

「人間握力に限界がある以上、出せる速度と威力にも限界がある」

 

 それに何度か技と速度を緩め、タイミングをずらした剣閃で桜咲は短崎に斬りかかっている。

 あの質量と速度から短崎が桜咲の大太刀を受け止めることは出来ないが――

 

「何度もやれば目が慣れる」

 

 このまま一方的な展開が続くわけがない。

 そう考えた瞬間だった。

 

 ――翻転、横薙ぎに大きく振りかぶった桜咲が出足を大きく踏み鳴らした。

 

 震脚にも似た轟音。

 みしりと舞台の床板が軋み、その肢体が霞む。

 一瞬歪んだとすら思える回転速度、それと同時に大きく短崎との間合いが――潰される。

 爆発的な踏み足。

 長大な一メートル半以上の圏域に、短崎の体が捉えられる。

 直撃すれば肉が消し飛ぶ、骨が砕け散る、鉄製の刃。

 

「っ         ぁ!」

 

 音にならない叫び声と共に桜咲が大太刀を振り抜いて――

 

 

「      」

 

 

 そして、短崎は――"上に太刀を放り投げた"

 

 

 

 

 

『なっ』

 

 "桜咲が吹き飛んだ"。

 後ろに、大きく、弾き飛ばされていた。

 

『――にぃ!?』

 

 誰もが声を上げた。

 吹き飛ばしたのは――もちろん短崎。

 動かない左腕と肩を前に押し出し、荒く息を吐いたあいつだった。

 がしゃんと落下するあいつの太刀、それを右手で拾い上げている。

 

「ぶふっ!」

 

 唾を吐き出し、咳き込む。

 

(無茶しやがって……)

 

 あの振り抜かれる一瞬のタイミング、後ろに下がれば絶対に避けられない瞬間に、あえて全力で短崎は踏み込んだ。

 最高に加速した横薙ぎの一閃。

 その一瞬、回転の中心軸は桜咲に移っていた。

 そして、凶器である野太刀、その切れ味を発揮する刃を止めるために自分の武器を放棄した。

 少しでも速く辿りつくためにあえて太刀を放棄し、左肩から飛び込んで――。

 

 "鉄山靠"を放った。

 

 踏み込んだ左足は震脚の衝撃でひび割れ、荒く呼吸する息は緊張からの開放のためだろうか。

 

「俺の鉄山靠……」

 

 昨夜手合わせした時よりも完成度の高い鉄山靠。

 俺ほど勁は練れてないだろうが、肉体駆動の術はあいつも心得ている。

 喰らった桜咲も胸を押さえて、咳き込んでいる。

 

「これは、いけるか?」

 

 あの鉄山靠はいいプレッシャーになったはずだ。

 これで桜咲は今までみたいな思い切った剣は振るえなくなるはず。

 

「いや、駄目や……」

 

「え?」

 

 近衛がふるふると首を横に振る。

 何故? と首を傾げると。

 

「せっちゃん、"全然遅いもん"。いつも明日菜と練習してる時はもっと速いんや」

 

「なに!?」

 

 近衛の言葉に、俺は耳を疑って。

 

 

 

「――桜咲ぃ!!」

 

 

 

 短崎の絶叫を聞いた。

 荒く、貪るように息を吸い込みながら、あいつが叫んだ。

 

「ふざけるなよ、本気で来い!!」

 

 太刀を構え、苛立った口調で声を荒げる。

 常にない怒りの態度。

 怒り狂っていた、納得がいかないと叫んでいた

 

「全力を出せ。お前はその程度じゃないだろう!」

 

 それは絶叫だった。

 短崎が全身全霊で構えながら、桜咲を見つめ、吼える。

 

 ――"この程度では手加減されているとでも言うように"

 

 そして。

 

「……分かりました」

 

 桜咲が構え直す。

 緩やかに、どこか悲痛に、そして強く野太刀を握り締めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――血飛沫と共に短崎が倒れた。

 

 

 左肩から溢れる血、舞台に広がる血潮。

 

『え?』

 

 瞬くように掻き消えて、爆音と共に短崎の背後に降り立った桜咲は太刀を振った。

 

「これが私の全速です」

 

 短崎の血糊の付いた大太刀を振るい、誰にも見えない斬撃を終えて。

 

 

「――これで終わりです」

 

 

 目を瞑り、あいつはそう宣言した。

 

 

 

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