欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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九十一話:届くのが当然だ

 

 届くのが当然だ

 

 

 

 

 

 幾度も倒れた。

 全身はずたずたで、口からは血泡を吐き出して、その姿はどこまでも無様だった。

 その片腕は動かなくて、その動きは相手と比べれば鈍くて、見るもの全てが劣っていて。

 でも、それでもあいつは笑ってみせて――

 

 

 

 そして、勝利を勝ち取った。

 

 

 

 

『しょ、勝利!! 短崎選手の勝ちです!!!』

 

 朝倉のアナウンスと同時に声援が爆発した。

 

『わぁああああああああああああ!!!』

 

「うおー! いい勝負だったぞぉ!」

 

「キャータンザキサーン」

 

 無数の声。観客席から声、声、声、怒号にも似た声が飛び交う。

 

「……」

 

 湧き上がる声援とは反対に俺は黙っていた。

 とはいっても嬉しくないわけじゃない。

 言葉を発して、手を叩いたり、喜んだりするのは何故か失礼なような気がしたからだ。

 

「せ、せっちゃん! ウチ、いくわぁ!」

 

 そんな俺の横で慌てて飛び出す少女が一人――近衛。

 親友の負傷に居ても立ってもいられなくなったのだろう、観客席から慌てて飛び出す。

 どこかのんびりした雰囲気とは裏腹に、凄い速度で観客の人ごみを抜けると、もはや手馴れた動きになってきた担架係に運ばれていく桜咲の傍に駆け寄っていた。

 遠目にしか見えないが、担架で運ばれる桜咲の顔には微笑が浮かんでいて、大丈夫そうだな。

 

「しかし」

 

 ん?

 

「驚きましたね……まさか勝てるとは思いませんでした」

 

 デコが目立つ少女――綾瀬がどこか驚きを残した表情でそう呟いた。

 

「確かに、な。普通は勝てるとは思わんだろうさ」

 

 あれだけぼろぼろの状態から戦い始めたんだし。

 と俺が言うと、綾瀬は軽く首を横に振って。

 

「いえ、それもありますが……"あの桜咲さんに"勝てるとは思わなかったのです」

 

「? ああ、そういうことか」

 

 含みを含んだ言葉に、俺は頷いた。

 そういえばこのデコ娘も、あの時に居た一人だったか。

 横のどこか興味津々に舞台を見ながら「ぐふふ、いいネタ発見じゃな~い。とりあえず後で問い詰めてっと♪」と手元の手帳にペンを走らせている早乙女は、知ってるかどうか不明だが。

 

「まあ普通なら、いや……知ってるなら勝てるとは思わないだろうな」

 

 あの試合、後半からの動きは段違いだった。

 あえて言うなら古菲に近い、けれどそれ以上の理不尽。

 傍から見ている俺から見ても有り得ないと思う速度、反則染みた頑強さ、舞台を破砕する破壊力。

 常識なんて馬鹿らしくなるような光景。

 第一試合の神楽坂と桜咲の試合から見ても思っていたが、よく知っている奴との戦いではそれがより鮮明に感じた。

 一度は短崎の斬撃を素手で防ぎ切り、目にも止まらない速度で奴を切り伏せた桜咲。

 例え短崎の代わりに、俺がやったとしても勝てる気がしない、そんな異常。

 それが目の前に広げられて、勝算を考えられるわけがない。

 

「だけどな」

 

 そう、それが当たり前だとしても――

 

「それと同時に俺はあいつの強さを知ってる」

 

「?」

 

 あの馬鹿げた速度がなんだ、あの頑強さがなんだ、あの異常な強さがなんだ。

 そんなので諦めるのが、俺の親友をやってるわけがない。

 あいつがあの程度で這い蹲ったままなら、俺だって古菲に勝てるわけがない。

 

「あいつは――強いんだ」

 

 あいつと出会って一年以上。

 最初はぶつかって、喧嘩して、友達になって、一緒に喋って、飯喰って、戦って。

 その努力の全てを知っているわけでも、人生を共有しているわけでもないが。

 

「あいつの強さなら、その刻んだ人生が嘘じゃないなら」

 

 "あいつの努力と修練を俺は保証出来る"

 

「――勝利に届くのが当然だ」

 

 そう断言してみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい、友達ですね」

 

「ん? まあダチだからな」

 

 俺の言葉に、何故かデコ少女がくすくすと笑う。

 

「? そんなおかしいことを言ったか?」

 

「いえ、おかしくはないですよ。でも、男性同士の友情ってのはいいものですね」

 

「うむうむ、いいものアル。私も見習うアルネ」

 

 そういうとデコ娘はどこか眩しそうに目を細めて頷いて、その横で黙っていた古菲も何故かコクコクと頷く。

 

(? 見習うってほどのもんじゃないと思うけどなぁ)

 

 俺はどこか納得がいかない気持ちになりつつも、まあいいかと疑問を心の中に沈めようとして。

 

「――つまり、"×"ってのを付けると最高ってことね!」

 

「あ?」

 

 さっきまでペンを走らせていたはずの奴の発言が飛び込んできた。

 思わず目を向けると、そこには――なんかムハーッと興奮した馬鹿がいた。太陽の逆光の所為か、メガネが発光しているぐらいに。

 

「やはり時代はワイルド×美形なのよ! 熱く友情に結ばれた親友二人、だがしかし、彼らの前にはだかる幾つもの難関を越えるうちに何時しか友情は愛情に変わっていき、ついに二人は――」

 

「……なぁ、こいつどうなってるんだ?」

 

 ガリガリと興奮した勢いでなにやら手帳にスケッチを始めたパルと呼ばれた子の様子に、俺は綾瀬に尋ねるが。

 

「あぁー、スイッチの入ったパルですからしょうがないです」

 

 といって、諦め顔で首を横に振る綾瀬。

 その後ろで「やっぱり王道的に長渡×短崎? いえ、ここはあえてへたれ攻めということで短崎×長渡とかどうかな!」と何故か順番を変えて呟いている阿呆がいる。

 

「……とりあえず殴っていいか?」

 

「怪我を残さなければいいですよ」

 

 そうか。

 俺は出来るだけ妙に鮮明に書かれた見覚えのある野郎二人のスケッチが書かれた手帳から視線をそらしながら、ペンを走らせている早乙女の背後に回り。

 ゆっくりと手を振り上げて――

 

「ていっ!」

 

 チョップをその脳天に叩き込んだ。

 

「あべしっ!?」

 

 女あるまじき悲鳴を上げる早乙女が、うぅーといいながらうずくまって頭を押さえた。

 

「あいたー!! なにすんのさ!?」

 

「うるせえ。それはこっちの台詞だ、ボケ。詳しくは理解したくも無いが、そっちの路線はマジやめろ」

 

 いや、本当に。

 

「えー、ちょっとぐらいそっちの路線駄目?」

 

「ちょっとじゃねえよ!! ていうか、許容するわけねえだろ!?!」

 

「え~!」

 

 何故に驚く!?

 

「男の方が好きだから女に興味ないっていう話嘘だったの?」

 

「んなわけねえ!! 野郎よりも普通に出るとこ出てる女の方が好きに決まってるだろ!?」

 

 どっから聞いたデマだ、いやマジで。

 いつぞやの朝倉の時もそうだったが、その噂流している馬鹿は誰だ。マジで半殺し対象なんだけど。

 そう俺が返すと、何故か早乙女の目が細まる。

 ――嫌な予感。

 

「ほう? 今現在進行形で回りに美少女をはべらせておいて、女の方が大好きですと?」

 

「あ?」

 

「ってことは、もしかしたアタシたち結構ピンチ? きゃ~」

 

 何故かささっとわざとらしく距離を置く早乙女。

 

「……」

 

 なにいってるんだ、こいつは。という目を浮かべつつ、俺はため息を吐き出した。

 

「いや、別にその気はないし。ていうか、そういう意識するつもりもねえから」

 

 美少女なのは認めるけどな。

 

「へー、なんで?」

 

「なんでって?」

 

「今のお兄さんぐらいの年齢だったら、あたしたちぐらいの美少女には興味深々なのが普通じゃないの?」

 

 ニヤリと笑って、どこか分かっているような口ぶりと表情。

 ……最近の中学生のガキは進んでるなぁ。

 俺は再度ため息を吐き出すと、左右の二人を見て。

 

「――あいにく、まだ出るとこも出てない奴には興味ねえよ」

 

 ていうか、あまり年下趣味ではない。

 少なくとも中学生に手を出す気にはならねえし、最低でも同年代くらいか多少年上の方が好みだ。

 まあ気が合えばそんなに気にならない問題だけどな。

 とりあえず言い訳には丁度良い。

 そう思って言った発言だったが――

 

「……ほほーう?」

 

「……むぅ、難しいアルネ」

 

 何故か綾瀬が不機嫌そうに目を細めて、古菲の奴は何故か自分の胸を揉んでいた。

 何故にそうなる。

 いや、引っかかった理由は少なくとも片方は分かるが――

 

「当たり前だろ? まだ中学生なんだし……ガキだしなぁ」

 

 義務教育の間は子供というしかない。

 高校は出来るだけ入っておくものだが、別に入らなくてもいい。

 かなりの不利になるが、中学卒業と同時に働くことも出来るのだ。

 それに――中学では男女どちらにしてもまだ身体も出来上がらないしな。

 

「高校生の貴方に言われたくはない台詞です」

 

 納得のいかないように呟く綾瀬。

 

「中学生と高校生の間には深くて狭い境界線があんだよ」

 

 そういってポンとデコ娘の頭に手を乗せて、軽く撫でた。

 

「ま、そういうことだ」

 

「むー」

 

「まあしょうがないアルヨ、ユエ。私たちはまだ長渡から見れば子供アル」

 

 餓鬼扱いは嫌いなタイプなのか、憮然とした表情を浮かべる綾瀬。

 腕を組みながら何故か微妙な頷きをしている古菲。

 

「フッ、所詮お子様体型だものね。その分、このピチピチのハルナさんなら――」

 

「ただし早乙女、てめえは別だ」

 

「えええー?!」

 

 確かに出るとこ出てるし、以前あった那波さんほどじゃないが中学生には見えないスタイルだ。

 しかし、外見よりも中身が問題過ぎる。

 

「お前には絶対付き合う気にはならねえ」

 

「ひ、ひどくない?」

 

「――ハッ」

 

「は、鼻で笑われたぁ!?」

 

 意外とショックを受けている早乙女の奴から視線を外し、俺は軽く肩を竦めた。

 そして、舞台に改めて目を向けると丁度修復が終わったのか、朝倉の奴が出てきていた。

 

『皆様大変お待たせしました! 舞台の修理も完了したので、これより二回戦 第十試合を始め――ん?』

 

 マイクを握り、アナウンスを開始しようとした朝倉が不意にイヤホンに手を当てて首を傾げる。

 

「なんだ?」

 

「なにかあったアルカ?」

 

 俺と古菲が見ているうちに、朝倉がイヤホンに向かって何か言いながらその表情が険しくなっていく。

 そして、数分後。

 

『コホン、大変残念なお知らせがあります』

 

 ……残念なお知らせ?

 

 

『十試合目、龍宮真名選手対クウネル・サンダース選手との試合予定でしたが――龍宮選手の棄権により、クウネル選手の不戦勝となりました!』

 

 

「なっ」

 

 

 

 

『なにぃいいいいいいいいいいいい!!?』

 

 その発言に、会場の誰もが叫び声を上げた。

 

 

 

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