欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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昨日はうっかり更新予約忘れてました 申し訳ない
本日は三本投下です

タイトル入れ忘れてました 失礼


閑話:こうも憧がれて/こうも焦がれて

こうも憧がれて/こうも焦がれて

 

 

 

 

 

 

「――貴方たち、私を戦場医かなにかと勘違いしてない?」

 

 私が担架で運ばれてきた医務室、そこで待っていた保険医の先生は私たちを見ると同時にそう発言した。

 何故?

 と、私が首を傾げると――先生は不機嫌そうに細めの瞳の端を吊り上げて。

 

「大体おかしいでしょ。なんでさっきまで見舞いに来ていたような貴方が担架で運ばれるわ、その見舞われていたのが重症で運ばれては、また出て行って、さらに怪我してるわ!」

 

 バンバンと不機嫌そうに机を叩く保険医の先生。

 

「これって本当にただの学園行事よね!? おかしいわよ! 去年まではこんなに最低が打撲、それ以外は殆ど重傷者がばたばた運ばれてくるなんてなかったわよ!?」

 

「……あ~、やっぱり?」

 

「……確かに重傷者が多い、ですね」

 

 お嬢様の言葉に、私は同意して頷いた。

 確かにこの大会では重傷者が多い。

 一番軽いのはドロップキックからのリングアウトで敗北した佐倉さんや固め技で敗北した山下さんだが、他は頭部損傷から全身打撲の小太郎さんに、全身強打のネギ先生、内臓を痛め付けられた長瀬さん、多分あちこちの骨にヒビが入ってそうな短崎さんに、同じぐらい重傷だと思われる長渡さん、さっき診断したら肋骨が数本折れていたらしい古菲さん……

 精神的なダメージが大きいのはグッドマンさんだが、纏っていた魔法のおかげで殆ど無傷だからこれは除外しておく。

 しかし――

 

「……今更考えると、本当に戦場みたいやなぁ」

 

 私がカウントしたほかの皆さんの状態に、お嬢様が額に汗を滲ませて頷いた。

 確かに、普通ならばありえないというか……なんでこんなに怪我人が多く出てるんでしょうか?

 

「一応言っておくけど、私は医者として今上がった全員には即座に入院をお勧めするわよ?」

 

 そう保険医の先生が告げると、不機嫌そうに頭を掻いて「っていうか、この中で一番重傷なはずの一般人二人が応急処置だけで動けているのかしらね? 痛み止め、強いの打ち過ぎたかしら?」とため息を吐き出していた。

 

「で、桜咲さんだっけ? 貴方、この先出場予定はある?」

 

「あ、いえ……私は負けましたから」

 

「ん、そう。なら上着を脱いで――そこの付き添いさんも手伝って上げてくれる? 治療するから」

 

 そう告げると保険医の先生は引き出しから見覚えのある文字で描かれた札を取り出す。

 一般的に良く使われる治療符だ、対象患部の組織を活性化させ、治癒と回復期間を短縮させる治療道具。

 

「あ」

 

 それを見て、私はふと罪悪感を感じた。

 今ここで傷を治療するのは卑怯ではないのかと考える。

 ただの治療道具で、現代医学で痛み止めをしているだけの短崎先輩たちに申し訳ないような気がした。

 しかし。

 

「――試合は終わったんでしょう? なら、この後は楽しい学園祭なんだから怪我なんて野暮よ。ほら、脱いで脱いで」

 

 まるで私の内心を読み取ったように保険医の人は言うと、私の襟元に手をかけた――って。

 

「いや、あの! 自分で脱げますから――つぅ!」

 

 制止しようとして声を上げた瞬間、痛みが思わず口をついた。

 

「ほら、せっちゃん。無理したらあかんで~?」

 

 え、あの、お嬢様? なんで貴方までこちらに手を――

 

「ほら、脱ぎ脱ぎしような~」

 

「あらいいわねぇ、やっぱり若い子の肌って白いしピチピチして――」

 

 え、あの、あわ。

 

「や、やめてくださ――!!!」

 

 

 

 

 ――全部脱がされました。

 

 

 

 

 

「……シクシク」

 

 何故か分かりませんが、何故か汚された気がした。

 

「よし、処置完了。後は無理な運動をしないでおくことね、じゃないと骨が変にくっついちゃうから、しっかり見張ってないと駄目よ?」

 

「ラジャーやで! せっちゃんのお世話はウチにお任せやー」

 

「い、いえ、別に一人でも大丈夫ですから」

 

 誇らしげに胸を叩いてみせるお嬢様。

 しかし、気持ちは嬉しいけれど、別にそこまでしなくても大丈夫だ。

 

「えー……」

 

 だから、そんな切なそうな顔をしないでくださいお嬢様。

 お願いですから。

 

「せっちゃん……ウチのこと、嫌い?」

 

 ぐっ、その台詞は反則でしょう。

 

「い、いえ、決してそんなことは!」

 

「だったら、世話してもええやろ?」

 

「……もう反論しても無駄でしょうね」

 

 はぁっと私は諦めのため息を吐き出した。

 ゆるゆると息を吐き出す、そうしないと心が重たくて、耐え切れない。

 同時につい先ほどまでズキズキと呼吸をする度に激しく痛んでいた胸――砕かれた肋骨からじんわりとした痛みが伝わってくる。

 治療を受けた分、ずっと痛みが楽だ。

 少なくとも呼吸どころか揺れるだけでも突き刺すような痛みの走っていた時よりは遥かにマシ。

 けれど、どこかその痛みよりも――心が重たかった。

 罪悪感というか、後ろめたい気持ちというべきか。

 明らかな重傷だった長瀬さんはともかく、他の皆さんがまだ裏の技術による治療を受けていないというのに自分だけ治療を受けている。

 それに対する後ろめたさがある。

 独りだけ背負っていた積荷を降ろしてしまったような気分。

 

(やはり、最低でも大会が終わるまで治療を止めるべきだったか?)

 

 冷静に考えれば、試合が終了した以上、手っ取り早い治療を受けるのには何の問題もない。

 むしろ無駄に傷を背負い続け、治療を遅らせることは"あの女"の存在がある以上、愚行に近い。

 だけど、それでもどこか……心が納得出来ないのは、あの人の影響だろうか。

 

 

(――短崎、先輩)

 

 

 彼の在り方がどこか心に引っかかっている。

 弱くて、脆弱で、私の罪の証で、己の弱さで傷つけてしまったただの人間。

 何の関係も無いただの一般人。

 同じ部活に所属しているだけの年上の人。

 だけど、それでも私には彼が"眩しく思える"。

 

(弱い人、だけど強い人だ)

 

 弱いのは間違いない。スペックを考えれば、裏と表の力量を考えれば彼は弱い。

 はっきりと断言すれば、私の方が遥かに強い。その膂力も、速度も、頑強性も、何もかも。

 けれど、それでも私は……彼に負けた。

 それがさっきの試合の結果、今更のようにこみ上げてくる敗北の実感。

 

(何故負けたのだろうか)

 

 私は思わず反問した。

 最初は手を抜いた――いや、本気ではあったけれど全力ではなかった。神鳴流を習う上で覚える、気を伴わない時点での野太刀の振るい方。

 気で膂力を跳ね上げたとしても肉体構造上の欠陥が、あるいは脆弱さが人間にはある。

 それを補うための武術としての動き、剣術としての肉体駆動技術。

 それを用いて戦って、だけどそれでは彼が納得出来なくて。

 

 

 ――私は全力で、彼を斬り伏せた。

 

 

 手を抜かず、殺すことだけは最低限避けて、それでも全力で斬った。

 そうすれば彼が諦めてくれると信じて。

 或いはもう傷つけることが終わりだと信じて。

 自分たちと彼の世界の距離はどこまでも隔絶していると教えるように叩きつけて。

 

(なのに)

 

 彼は立ち上がった。

 血反吐を吐いて、動かない腕を盾にして、血まみれで泣きそうな目をしながらも。

 笑ったのだ。

 嗤ったのだ。

 口元を吊り上げて、笑みを、笑顔を、安堵と吐き気を混ぜ込んだような笑った顔を浮かべてみせたのだ。

 強い人だった。

 肉体が崩れ落ちそうでも、心だけは折れないと叫ぶような笑みだった。

 それが羨ましいと思ってしまった。

 それが眩しいと思った。

 私は笑顔が苦手だ、正直自覚もしている。

 なのに、痩せ我慢でも、虚勢でも、それでも笑ってみせられるその強さが感じ取れる。

 技が強くとも、肉が強くとも、剣が強くとも、それだけは真似が出来そうにない。

 だから、正直に言おう。

 

(私は彼に憧がれている)

 

 

 その決して折れない強さに、私は憧がれを抱いた。

 

「だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニタリ。

 

「―― ぁあ」

 

 ウチは笑う。

 ウチは嗤う。

 ウチは哂っていた。

 楽しくて、愉しくて、嬉しくて、堪らなくて。

 ――蕩けて、濡れてしまいそう。

 

「いい、ものどすなぁ」

 

 ウチは自然と湿ってきた唇に指を当てて、溢れ出る涎を抑える。

 くちゅくちゅと汗ばんだ自分の指を吸いながら、ウチは鼻から熱く焼けてきた息を吐き出す。

 観客席、そこから仕事前の暇潰しとして先輩と興味深い太刀使いのお兄さんの試合を見ていた。

 試合の内容は退屈。

 命を散らすこともなく、気を使い合う潰し合いでもなく、じゃれるような銀閃の噛みつき合い。

 前半の内容はつまらなくて、クルクルと手に持っていたお気に入りの日傘の傘を廻してた。

 せやけど、後半から面白くなった。

 気を使い、神鳴流としての本性を露にした先輩。

 そして、それに抗う太刀使い。

 それは嬲るような暴力の押収で、肉が潰されそうで、血が避けそうで、骨が割れそうで、魂すらも砕いてしまいそうな斬閃。

 内容はただの蹂躙、一方的な性能さによる圧倒。まさに蹂躙。

 蹂躙はウチの趣味ではない。

 一方的な虐殺は意味がない、つまらない、求めるのは咽返るような殺傷と斬殺経験。

 弱いもの苛めはしたい奴にさせればええ。

 ウチが欲しいのは強いもの虐め、その肉を喰らうこと、その経験を喰らうこと、それを積み上げること。

 けれど、せやけど、あれは――面白い。

 

「どこまで屈しないんやろうなぁ」

 

 強さはどうでもいい。正直弱い、一度は斬られたものの――性能としては最低の部類。

 同格としては見向きもしない、強敵としては計算しない、ただの始末する相手、いずれ斬る屍の一体。

 けれど。

 

「……刻んでみたいわぁ」

 

 目が開いていく。

 興奮する、強敵との出会いにも似て、殺し合いの刹那にも似て、欲情してしまう。

 発汗する、涎が零れる、瞳孔が開いていく、肺の中の空気が熱を帯びる、焼けた酸素が喉を通る、舌を炙る。

 無意識に唇の湿りに舌が出かけて――慌ててそれを指で押し留めた。

 

「ふ、ふふ、駄目やわぁ。舌なめずりなんて三流がすることやし」

 

 指を含みながら言葉を発する、息の振動が指に伝わる。

 ゆるゆるとその触感を楽しみながら、焦がれる。

 脳裏に閃く殺し合いの情景に酔いしれる、脳裏に蕩けるその血潮の全てを啜る殺劇の光景に体液が泡立つ。

 夏の光、空から燦燦と降り注ぐ陽光がうっとおしい。

 けれど、それが齎す熱だけはウチの身体を焼いて、日傘の向こうから押し付けてくる熱気に伸ばした手指を腹部に押し付けて、粘りつく患部を押し込んだ。

 まだ処女の身けれども、子を孕んだような熱狂と予兆。

 

「もうすぐですわぁ」

 

 焦がれる。

 ジリジリと、ジワジワと、ウチは焦がれていく。

 ジュクジュクと蕩けて、炙れた肉のように興奮して行く。

 熱が点る。

 それはずっと昔から燃え上がっていた火、消えることを知らない衝動。

 ぁあ。

 ぁあ。

 早く。

 

 

 全て殺/犯したい。

 

 

「そして」

 

 

 

 

 

 

 

 

    ――「強くなりたい/強くなりたい」――私は/ウチは――憧がれて/焦がれて――

 

 

 

 

 

                   ――ニコリと/ニタリと――笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 




今回の出番は皆大好きせっちゃんと某狂人です。
短崎にフラグ建っているように見えますが、どっちかというと自分本位なのが欠陥人生のヒロイン(?)仕様です。

あと気がついたらただの学園祭イベントなのに、重傷者クラスが八名もいますね。どうしてこうなったんだろうか?

本日はネギVS小太郎本番です。
そろそろ追いつきそうだ
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