欠陥人生 拳と刃 作:箱庭廻
次回も出来るだけすぐに投下します
完全新作はしばらく new をつけてアップします
これが現実なんですか。
「はぁ、はぁ」
めまいがする。
立ち眩みがして、立っていられませんでした。
「夕映、大丈夫?!」
「だ、だいじょうぶです」
ハルナが手を貸してくれましたが、彼女の顔も心なしか青白かったです。
いえ、彼女だけではなくて舞台の観客たちもみんな気分が悪そうでした。
それも仕方ないと思います。
「や、やりすぎだろ」
「なぁ、あれ死んでないよな」
「虐めだろ、なんだあれ」
そう口々に言うのは今さっき迅速に担架で運ばれた人のことでした。
――短崎 翔先輩。
体がへし折られ、血反吐を吐いて、手まで踏み砕かれて。
そして刀を落としたまま地面に圧し潰された。
まるでゴミみたいな扱いに、対戦相手のクウネルさんを告げる朝倉さんは泣きそうだった。
上がるブーイングと悲鳴に、バツが悪そうにどこかに消えてしまったけれど。
「あれが現実ですか」
魔法が使えない人。
気が使えない人。
ネギ先生が、刹那さんが、古菲さんたちは当然のように戦っていた。
あの雨の日怪我をして、苦しそうだったのも覚えている。
だけど。
「……こんな凄惨な世界なんて知らなかったんです」
人が死んだ。
人が死んだけど蘇生した。
だからなんとかなるって思ってました。
人はそんな簡単に壊れないって、遠い世界の人たちで、誰も彼も凄いって。
なのに。
なんであんな風に人が壊れるのか。
なんであんな風に困った顔をして人を殴れるのだろう。
「夕映、大丈夫? 座って休んでなよ」
手すりに縋りつきながら血の気が引いている友人が、心配そうに背中をさすってくれます。
けど違うんです。
彼女は知らないから。
いや、知っても変われるのかわからない。
揺れる視界の先で、舞台の修復と清掃をする人達が見えました。
血も破壊も何もかも消し去って、あの人が足掻いた結果も何もかもなくなってしまう。
顔も名前も知っていた人が消されたようでした。
「 」
朝倉さんが何か必死にパフォーマンスをして喋っているのが見えます。
けど、その言葉が頭に入らない。
選手席に目を向けます。
そこにはあの日、雨の夜にいたネギ先生を除く人たちが険しい形相で座っていました。
のどかは言っていました。
朝倉さんは言っていました。
あの雨の日から、彼らを調べたって。
「この間の一件。私たちがろくに知らない男子たちについて、調べたんだけどさ」
エヴァンジェリンさんの【別荘】で朝倉さんは言いました。
「長渡 光世。短崎 翔。豪徳寺 薫。山下 慶一。中村 達也。大豪院 ポチ。この人たちだけど、結構有名な武道系の人たちだったよ」
「武道系って、古菲さんみたいなのです?」
うちのクラスメイトで武道四天王と呼んでいる四人を思い浮かべる。
「うん、といっても長渡先輩と短崎先輩を除くと悪目立ちするほうだけどね」
「悪目立ち、ですか?」
「そ。長短先輩以外は、全員部活やめてるからね。あ、正確には短崎先輩は部活に入ったばかりだけど」
「やめてる……?」
「うん、なんでもさ。強過ぎるからだって」
「強過ぎるから……」
「やめてる、ですか?」
のどかと私が首をかしげたのをみて、朝倉さんがメモをめくりながら読み上げます。
「そう。色々ちょっと違いがあるんだけどね、皆一時期武道系の部活に入ってたみたい。中部研所属だったのもいたみたいで、でも数年前に練習試合とか、大会試合で大怪我負わせちゃってやめちゃったった」
「大怪我って、暴力ですか?」
「うん。試合中の事故みたいなもんなんだけどね、骨が折れたとか、病院送りにしちゃったんだってさ」
ひぃ、とのどかが小さく声を上げました。
そんなひどいことをする人たちには、リーゼントの人を除いて見えなかったですが。
「不良さんだった、の?」
「どうだろう。豪徳寺って人は結構有名なヤンキーっていうかツッパリってことで名前が知れててね、高畑先生にシメられるまでは敵なしだったとか」
「ふええ」
「なるほど、立派なリーゼントにはそういうわけがあったのですね」
納得しました。
「ですが意外ですね。確かあの長渡さんとは随分と仲良さそうでしたが」
「うん……あの雨の時も助けに来てくれた」
全員が怪我だらけなのにネギ先生と一緒に、助けに来てくれたのを覚えています。
短崎さんが死にかけて色々と印象が薄いですが、それでもかけつけてくれたのを忘れるほど恩知らずではありません。
そんな悪い方々にはとても見えませんでしたが……
「才能もちだな」
「え?」
エヴァンジェリンさんが寝そべり、本から目を逸らさないままにつまらなさそうに言いました。
「綾瀬夕映。お前は古菲をどう思っている」
「古菲さんを、ですか?」
「あれが人間だと思うか?」
「……なんですか。エヴァンジェリンさん、古菲さんを宇宙人だとでもいうのですか」
人間扱いしてないような言い回しに、ムカッときてそう言い返しましたが。
「クハッ、ハハハハ!!」
何故かエヴァンジェリンさんはお腹がよじれたように笑い出しました。
とても失礼です。
「な、なになにエヴァちゃん? なにがいいたいの??」
「クフ、ああすまんすまん。あんまりにもな返しでな、思わず笑ってしまった。素晴らしい返しだったぞ、綾瀬夕映」
「全然嬉しくないです」
まったくもって失礼です。
「話を戻そう。お前たちは当然のように受け入れているが、常識的に考えて古菲のような中学生の小娘があの身体能力を持ち合わせているわけがないだろう?」
「? 古菲さんは、カンフーの達人、だよね?」
「それがどうした」
「えっ」
のどかの確認するような言葉に、斬り捨てるような返事を被せられました。
「どうしたわけじゃありません。カンフー、すなわち中国武術を始めとして武術を納めていれば強くなるのは当然です。実際ネギ先生も凄い勢いで強くなっています」
「アホが」
「はぁ!?」
「空手、唐手、柔術、合気、ムエタイ、カラリパヤット、ボクシング、中国武術、拳法、システマ、相撲、まあ色々とあるが。この地上の中で誰一つとして、習得した程度で身体能力が倍加するわけでも、小学生で岩を叩きくような動きが出来るわけがない」
数割、あるいは複合的にそれと同程度の結果を出すことはが出来るのはあるがな。
と、本から目を逸らして何故か懐かしむようにエヴァンジェリンさんは言いました。
「それが成せるのは気や魔力、あるいはそれに類する人外の身体だ」
「気や魔力、桜咲さんやネギ先生の力ですね」
「そうだ。古菲もそれを体得している」
何をいまさら。
魔法の存在を知り、私やのどか、朝倉さんも理解しているもはや常識的なことだ。
武道四天王、長瀬さんや龍宮さんもそれなんだろう。
明日菜さんもネギ先生から魔力を流して貰えば、CG映画のような動きが出来ることを私たちは知っている。
「……麻帆良結界はどうにも知能退化させる影響でもあるのだろうな」
「なんかグサって酷いこと言われてる気がするんだけど、もしかしてバカレンジャー扱いされてる??」
「き、期末テストは突破しましたよ!!」
失敬な! 本当に失敬な!?
「学力以前に知恵を身につけろ。貴様らは、気や魔力を使える奴が、常人と同じ舞台に立てると思うのか?」
「は? え、うーん」
「それは……」
「出来るんじゃないですか? まあ勝てませんけど」
私と明日菜が短距離走をしたら、魔力関係なしで勝てませんが、されたら50メートル走るより一キロ先まで行かれてるでしょうし。
「それで殴り合ったら?」
「え?」
それで殴られたら?
……明日菜にもしも叩かれたことを想像する。
「……………………………………お空の星になりますね」
間違いなく簡単に吹き飛ばされます。
ゴルフボールみたいに。
「それで?」
「え」
「それでどうなる?」
「どうなるって、それは……怪我しますよ」
「そうだ。
意味深に言われて考えて、ようやく気付く。
(あのパワーで人を殴ったら、岩をも壊せるから、それはつまるところ………………大怪我する)
考えて、我ながら遅すぎるほどに理解が追い付いた。
手加減もしないであれをしたらどうなるのか。
見渡せばのどかも、朝倉さんも顔が青ざめていた。
「もしかしてさ、例の四人が大怪我とかさせたのって、それ?」
「それで人叩いちゃったの?」
「まさか! 手加減ぐらいするでしょう、普通に考えて!」
「普通じゃないだろう」
エヴァンジェリンさんの言葉に、何故か背筋に氷を当てられたような冷たさを感じました。
「裏ならぬ表の人間が目覚める、素養あるものの覚醒の多くは悲劇だ。神話の英雄、剛力の持ち主たちは逸話から始まり、偉業を成すが、そうでないものは怪物として葬られる」
パタンと本を閉じて、彼女は憐れんだ目で私たちを見ました。
「魔法と神秘の世界に触れたからといって過去の伝説の全てが怪物だと思ったか? 記されたもの以上に闇に葬られ、そして闇に葬れなかったものが歴史と伝説に記されるのだ」
可哀そうに。
大人が子供を見るような目で。
「何も知らないまま、友と過ごし、同じように振舞って結果が変わる。同じ食事をして、同じ背丈で、交わした握手一つで手を握り潰し、悲劇を生み出したことなどありふれた異常性の発露だ。似たような件例は幾つもあり、それらをもって裏の人間が才能あるものを救うという名目でスカウトするのさ」
――お前たちのように知って踏み込んだものばかりではない。
そう囁くように付け加えたエヴァンジェリンさんはふっと唇を緩めました。
「だが運がいいな、あいつらは」
運がいいともう一度言って。
「あれらは人間だ。お前らのような能天気共とセットなカンフー娘はもはや幸運を通り越して同情するしかないが」
「え」
「まって。私たちとセットで同情されるの?」
「まってください。そこに異議を申させてもらいます! 異議あり!」
「ええいうるさい! アホ共、お前らは少しは客観性というものをもってからいえ!」
「アホですか!?」
そのあとぎゃーぎゃーと口喧嘩になったんですよね。
でも覚えていることが一つありました。
あの時のエヴァンジェリンさんは何故か。
――羨ましそうだったんですよね。
焦がれるような、そんな瞳だったのを覚えています。
普段から大体すました顔で、あるいはサディスティックな悪い顔をしていることばっかりだったので、印象に残っていました。
「あ、夕映! 次の試合が始まるよ!!」
ハルナの声に思考から気を取り直すと、既に会場の修理と清掃は終わっていました。
もう血の跡はどこにもなくて、少しだけ息が楽になる。
『それでは準決勝第二試合! ネギ・スプリングフィールド選手 対 エヴァンジェリン A・K・マグダウェル選手の試合を始めます! 両選手、舞台に上がってください!』
朝倉さんの声と共にネギ先生とエヴァンジェリンさんが舞台に上がった。
ついに準決勝の最後の試合。
これに勝った方が決勝に、そしてあのクウネルという人と戦います。
(大丈夫でしょうか)
まだいけるとは決まってもいないのに、ネギ先生があのクウネルという人と戦うことを考えてしまいます。
ネギ先生は魔法使いだから大丈夫だと思う。実際高畑先生にも勝ちました。
だけど、また同じような目にあわされたら?
――担架で運ばれた短崎先輩のことが目に浮かび、体が震える。
死んでもおかしくない怪我。
雨の日に、目を見開いて、ぴくりともしなかった死体同然だった姿。
何度も何度も血反吐を吐いて、勝ちあがって結局負けた短崎先輩と、長渡先輩。
馬鹿だと思う。
やめればよかったのだと、後から思う。
でも口に出す勇気が無くて、私は胸が苦しくて、胸元を握りしめて、少しでも抑えようと深呼吸をして。
『Fig――えっ』
「ぶふぅ!!」
噴き出した。
ネギ先生が、真っすぐ跳んだエヴァンジェリンさんに蹴り飛ばされたので。
エヴァ「ほあちゃー!!!」
数百年間鍛え上げたカラテが、負の遺産を背負いまくったショタを襲う!