欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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二十三話:一分一秒を噛み締める

 

 

 

 

 一分一秒を噛み締める。

 

 

 

 

 

 大地を踏み締める。

 足首を廻し、膝を曲げて、繰り出した脚が風を切る感覚が肌に伝わる。

 全身が熱い、神経を集中させて、地面の重みと肉体動作の全てを意識していないと一瞬でぶっ飛ばされるからこそ意識し、それが故の情報量。

 

「らぁあああ!」

 

「っ!?」

 

 声が漏れる。

 繰り出した蹴りはガードに向けられた相手の二の腕に命中し、その手ごたえを感じ取る。

 相手が回る、旋回動作。

 寄り身と呼ばれる体捌、身体の片側だけを踏み込み接敵する技法。

 滑るように、流水のように身体を移動させる。

 少林寺拳法の運歩法、反転足。

 さらに鋭く踏み込む、軸足から蹴り足への移行――差込足。

 踊るように、舞踊でも踊り抜くような大陸武術の歩法はダンスのように激しく、鋭い。

 俺の側面へと回り込もうとする相手――それに俺は笑いながら軸足の爪先で地面を蹴り飛ばすと。

 

「舐めんなよ、大豪院!」

 

 身体を捻り、体重を斜め下に叩き落としながら、軸足を逆方向に跳ね上げる。

 縦の旋回、風車の如く回転、一度出した足を再び蹴りに変える、変則二連蹴り。

 勢いがない分は膝の硬さで補う。

 

「おっ!?」

 

 めり込んだ膝の一撃に、相手――大豪院 ポチは予測だにしない蹴撃にこちらへ打ち込もうとした掌底で膝を受け止める。

 肉が震える、骨が軋むような音。

 本来ならばそこで一瞬停滞する、けれど。

 

「どわっ!?」

 

 俺の体が吹き飛んでいた。

 体重全て掛けた膝蹴りだったというのに、相手の掌底を受け止めた膝ごと身体が吹き飛ぶ。

 ありえない威力。

 例えるならば急制動を掛けているトラックに激突したような感覚、止まりきらない衝撃に身体が弾き飛ばされる。

 痛みを感じるよりも衝撃、衝撃よりも軋みが走り、ゴロゴロと地面を転がるはめになる。

 

「がっ!」

 

 けれど、予測はしていた。

 俺は柔らかい土と草の香りに鼻腔を埋め尽くさせながらも、勢いに逆らわずに転がりまくり、大体衝撃を受け流したと判断したところで回転する勢いを利用して跳ね上がる。

 受身を取るように片方の手で地面を叩き、それを支えに起き上がる。

 全身草と土埃にまみれるが、気にする暇もない。

 

「いくぜ!」

 

 大豪院 ポチが目の前にまで迫っていたからだ。

 追撃の打撃、箭疾歩からの加速。

 その手の平は熊手と呼ばれる五指を半開きにした構え。内掌を使うつもりか。

 

「しゅっ!」

 

 手が閃く、薙ぎ払うように。肩から逆腰へと叩き潰すような掌底、俺は体捌でギリギリ避ける。

 だが恐ろしいほどに威圧感、振り抜かれる手の平が暴風のような圧迫感があった。

 ごうっと突風が起きるほど、まるでぶっとい金属パイプを振り抜いたような激しい感覚。

 だが、躱す。

 躱して見せたが――それはあくまでもフェイントだと承知していた。

 

「やべぇっ!」

 

 腕を振り抜いた大豪院の勢いは弱まっていない、踏み込んだ足に力が残っている。

 俺は後ろに跳ぶ、跳躍しながらも――爆発的に加速したその突撃にぶっ飛ぶんだ。

 アメフトのようなタックル、地面が削れるほどに強く踏み込み、中国武術特有の鍛えこんだ身体のバネを使った体当たりは下手な技よりも遥かに凶悪。

 どんっと内臓が悲鳴を上げる。

 直撃はギリギリ避けて、後ろに跳んでダメージは軽減したはずなのに、吐きそうになるほど胃が痛い。

 まるで大岩でも真正面から腹に直撃したような痛みだった。

 

「てめ、え、サイボーグ、かっ!? どんだけ馬力あるんだよ!」

 

 ゲホゲホと後ろに数歩跳んで、腹を押さえながら俺が叫ぶと。

 

「いやいや、改造なんてしてねえから」

 

 大豪院はブンブンと横に手を振った。

 その表情は苦笑、とりあえず五体満足な俺を見てどこか嬉しそうだった。

 まあそうだろうな。

 久しぶりの手合わせだ、性能こそ化け物じみているが技とかはそれなりに上達している程度で癖はそのままだ。

 無理やり吐き出された酸素を口から取り込み直すと、ゆっくりと足裏の踏み位置を変えて。

 

「よし、とりあえずお前ら全員性能おかしいから俺ホンキダスヨ」

 

 嘘である。

 最初から本気だが、もっと本気を出そう。

 身体は痛いぐらいに温まっているし、緊張感と痛みでアドレナリンが脳に回っているという自覚もあった。

 大豪院の動きは化け物じみた速度だが、なんとか兆しぐらいは見える。

 

「どう見ても片言で嘘じゃないか? まあいいや、いくぞ!」

 

 大豪院が腕を突き出し、腕刀を作り出す。

 見え見えの構え、手技での攻防を望んでいる……と見せかけてそれがフェイントじゃないという保証はどこにもない。

 俺は警戒しながら腕を上げて構える――瞬間、大豪院の奴が目の前から消えた。

 否、横に跳んだ。地面が蹴り飛ばされて、草が巻き上げられる。

 俺の視界から大豪院が掻き消えていた。

 

「っ!?」

 

 方角を察知、右を見る。

 流れるような移動方法、頭の高さも変わらずに唐突に移動していた。

 

「しゅ――」

 

 縮地法か。と、見当がつく。

 滑り足と呼ばれる技法で、箭疾歩とも違う歩法術。

 とはいえ、別に魔法でもなんでもない。俺でも使える技だ。

 膝から力を抜き、その倒れこみを利用して身体を運ぶ、重心から地面までの移動力を利用したもの。

 起こりが読み難い厄介な移動。

 しかも移動範囲が半端じゃない、最低二メートルぐらいは行ける。

 その秘密は二歩一撃と呼ばれるぐらいに縮地の移動は二つの足を"ほぼ同時に使っている"ことだ。

 滑り出した足が踏み込む寸前に、もう片方の足も踏み出す、だからほぼ二歩で歩いているのと同じ距離を稼げる。突きなどを入れればさらに距離も伸びる。

 そして、縮地法の凄いところはそれらを全て"一瞬"で行なう。

 口で言うのは易しいが、タイミングや修練も感覚で覚えるしかない人体動作の凄さを見せ付ける技巧の一つ。

 そして、それを使ったということは。

 

「く――!」

 

 来るか!

 そう叫ぶ暇も無く、大豪院は足を踏み出し、俺の目の前に飛び込み、首を断つかのような勢いで腕刀を放っていた。

 頭を下げて、まるで袈裟上がりに斬撃を放つような姿。

 縮地から箭疾歩への連係動作、どれぐらい練習したのか見当も付かないほどに滑らかな速さ。

 二秒も経たずに距離がゼロになっていた。

 だが。

 

「うぉうっ!」

 

 俺も何もやらずに過ごして来たわけじゃない。

 大豪院が腕刀を繰り出すよりも早く、膝の力を抜いて、俺は後ろに倒れこんでいた。

 

「っ!?」

 

 重力落下の速度よりも速く、大豪院の腕が俺の頭にぶち当てるのはさすがに無理だった。

 摩擦熱すらも出そうな腕が俺の頭上を貫くのを把握する前に、既に動き出していた俺の腕が地面を叩いて、同時に繰り出していた足の踵が大豪院の顎を蹴り抜く。

 サッカーで言うところのオーバーヘッドキックにも似た蹴り。

 人型の冷蔵庫でも蹴ったような硬い感覚、付随して骨と肉を打ち抜く重い感触があり、ほぼカウンターのように決まった威力に大豪院が仰け反る。

 

「がっ……」

 

 ガクリと白目を剥いて、大豪院は横に転げ落ちた。

 べちゃっとどこかギャグのような重い音を立てて、倒れる。

 俺も支えるのを止めて、倒れた。

 

「うひー、あーぶなかったぁ」

 

 俺が安堵の息を吐いた時だった。

 見物していた三人がわらわらと駆け寄ってきたのは。

 

「おわー! 大豪院、無事か!?」

 

「失神してるぞ、おいこら、長渡やりすぎ! 手加減しろよ!」

 

「死んでは……いないようだな」

 

 山下と中村と豪徳寺が慌てて大豪院の様子を見ている。

 どこかジーと山下と中村が俺のことを非難したような目で見るが。

 

「無茶言うな! 手加減出来る様な戦力差じゃねえだろ!」

 

「いや、でもなぁ」

 

「顎直撃だったし、おもっくそ脳震盪だな、これは」

 

 ペシペシと失神している大豪院の顔を突き出して、山下と中村が俺を責める目で見る。

 だけど、仕方なくね?

 

「まあそれを狙ったんだけどよ。お前らなんか無駄に頑丈だけど、さすがに脳までは頑強じゃねえだろうと思ってな」

 

 ぼんやりと推測が正しかったことを実感しながら、俺は呟く。

 

「これでも効かなかったら後は急所狙いしかねえぜ?」

 

 もう承知のこととはいえ、今ここにいる面子で俺を除けば全員阿呆のように腕力が高く、身体も硬い。

 身体能力だけが化け物というべきだろうか。

 車に撥ねられてもピンピンしてそうなこいつらを倒すには間接を極めるか、硬い地面に投げ落とすか、急所を叩くか、後は脳震盪狙いしか思いつかない。

 

「それはそうだけどよ……しかし、大豪院が負けるとは、マジで山ちゃんに勝ったんだな、長渡」

 

 中村がどこか噛み締めるように呟いた。

 それに山下はどこか楽しげに親指を立てると。

 

「さっきリベンジしたけどな!」

 

 ニヤリとガッツポーズしている山下がむかつく笑みを浮かべた。

 

「開始五秒で空を舞ったなぁ」

 

 十数分前の光景を思い出して、俺はため息混じりに呟いた。

 土曜の昼過ぎ。

 朝の組み手で山下に勝った俺はその勢いのままで、この川原で集合していた四人の修練に混ぜてもらっていた。

 先週のこともあって中村とは少しぎこちなかったが、朝の段階で俺が山下に勝ったことを話すと三人に驚愕され、山下も保障するとさらに驚いていた。

 まあ俺の実力があればざっとこんなもんよと、少し冗談交じりに告げたのだが、山下がそれで切れた。

 

「よし、さっそくリベンジしようか」

 

「ちょ、おま! 俺の貴重な一勝が?!」

 

「問答無用!!」

 

 と、速攻で腕を掴まれて、俺は空を舞った。

 ぽーんと、赤子が高い高いされるように投げ飛ばされた。真上に。

 人間、空を飛ばされたらどうにも出来ないことを思い知った。

 なんとか受身を取ったが、身体が痺れてどうにもならなくなった。そして「俺の勝ちだー!」 と、ゲラゲラと笑う山下に、どこか俺も開き直ってゲラゲラと笑ってやった。

 それでどこか壁が消えたんだと思う。

 そのまま俺は四人に混ぜてもらって、技を教えあったり、間違っているところを直したり、互いに攻防の修練をしていたのだが。

 

「よし、長渡! 久しぶりだから、手合わせしようぜ!」

 

「お? よし、かかってこい!」

 

 そうして俺と大豪院で組み手をした、というわけだ。

 何度も吹っ飛んだが、なんとか勝利をもぎ取り、俺は弾んだ心を少し抑え込みながら笑った。

 

「しかし、手がいてー。身体もいてー」

 

 笑いながらも俺は両手の痺れと軋むような痛みに少し息を漏らす。

 

「化剄しても吹っ飛ぶってなんだよ、おい。いまさらだけど、お前らの腕力どうなってんだ? まさか、改造手術でも受けたんじゃねえよな」

 

 気にしているだろう内容だったが、冗談めかして大した内容じゃないように告げる。

 その言葉は先週までの俺には言えない言葉だった。

 その力にボロボロにされていた俺が言うのではなく、今はなんとか技を尽くして凌いでいる俺だからこそ尋ねられる質問だった。

 

「いや、秘密結社の怪人じゃねえんだから」

 

 山下が薄く微笑んで、俺の言葉を理解したかのように冗談めかして答える。

 中村もどこかぎこちなくだが、しっかりと答える。

 

「いや、俺にもわからねえな。別にドーピングとか、特別な修行とかした憶えないしなぁ。いつのまにかこうなってたんだ。山ちゃんも、大豪院もそうらしいし」

 

 自分にも分からないと首を横に振る。

 

「俺はずっと喧嘩をしている間に自然と強くなってたなぁ。いつの間にか悟りを開いたのかもしれん」

 

 と、リーゼントを雄雄しく突き上げながら豪徳寺が呟く。

 

「悟りが開くっておま、漫画じゃねえんだから」

 

「ならばチャクラに開眼したとでもいえばいいのか?」

 

「ねえよ。発勁だってれっきとした人体生理学とか物理学で説明できる人体動作の一つだぞ。仏陀じゃあるまいし」

 

 と、冗談の応酬のように告げるが、俺は心当たりがあった。

 あの夜の連中、単なる中学生の癖に馬鹿みたいに頑丈だった少女、あれもどこか今の山下たちに似ているような気がした。

 どう見ても現代科学力をぶっちぎってるロボットはともかく、あの……確かカグラザカ アスナとか言っていた少女も山下たちや古菲などの同類なのだろうか。

 原因が同じだとは限らないが、同じようにどこか常識を超越していたのは事実だった。

 とはいえ。

 

「……関係ねぇよな」

 

 ボソリと呟く。

 正直どうでもよかった。

 どんなに強かろうと、この拳が、この足が、学んだ武術が少なからず通用することは山下と大豪院で証明出来ていた。

 後は強くなるだけだ。俺が、この手で。ひたすらに。

 このどこまでも強くなっていってしまった友人達に並ぶために。

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「いや、なんでもねえよ」

 

 中村が首を捻る、それを見ながら俺はようやく痺れの取れた体を動かして立ち上がる。

 うらーと気合を入れて。

 

「よし、中村。一緒に練習しようぜ、とりあえず俺の寸勁の練習台として!」

 

「なんでだよ!? ていうか、俺サンドバック扱い!?」

 

「うるせえ! 先週の変な手品技のおかえしじゃ! 肝心の発勁の修練が怠っているお前へのお仕置きだー! 常に磨き続けている俺の発勁を喰らって、体感しろ!」

 

 と、俺は中村に襲いかかる。

 

「お断りだし!!」

 

 逃げる中村。

 追いかける俺。

 物凄い足の速さだった。あっという間においていかれそうになるが、甘い。

 しかし、逃げさん。というか、逃げられないぞ。

 

「ふははは! お前の足の速さは承知だが、逃げるようならこのバッグが物質(ものじち)になるぞ!!」

 

 川原に置いてある中村のバッグを手に取り、遠くまで逃げ出していた中村に声を上げる。

 

「おま!? ひ、卑怯だぞー!」

 

 と、リターンしてくるので。

 

「うるせえ! 頑丈な分、大して痛くねえだろ! というわけで、練習じゃー!」

 

「ぐ! 後で俺のにも付き合えよ!」

 

「安心しろ、纏絲勁まで教えてやらぁ!」

 

 笑いあいながら、俺と中村は練習を開始した。

 そして、他の二人も一緒に交えて訓練していたのだが……数時間後、放置されていた大豪院が泣きながら襲い掛かってきたのは蛇足である。

 

 

 

 

 

 

 

 夕方になり、俺たちは解散することになったのだが。

 何故か五人一組で麻帆良市内を歩き回っていた。

 

「いたた、いたたた、俺内臓とか痛いんだけど」

 

「勁は中身に来るからなぁ、もうちょっとちゃんと避けような。あと中村、自分の頑丈さに頼ってないか?」

 

「うーん、過信していたわけじゃないんだが。す、少しは手加減してくれよ」

 

「そんなこといったら、俺なんて今日だけで何回空を舞ったんだよ。受身と化剄が今日一日だけで凄い勢いで経験値積んでるぞ」

 

 中村が少しお腹とか押さえて泣き声を言っているが、俺のほうが重傷だろう。

 用意しておいた湿布の数が足りなくて、全身が熱いぐらいだ。

 泥だらけだし、ジャージもしっかりと洗わないといけないと思うと少し気が重くなる。

 

「しかし、長渡、前に比べて化剄よくなってないか? 何回か俺殴ったけど、手ごたえが全然なかったんだぞ」

 

「そうそう。俺なんて掴まないと仕留められないし」

 

 そりゃあそうだ。

 手合わせ最中俺は攻撃に出るのも控えめにして、全力で化剄や受けに捌くことに集中している。

 そうじゃないと一発でノックダウンにされることは確実だし。

 

「……普段から、古菲を相手してるんだぜ。俺? そりゃあ上達もするわ」

 

『あ~』

 

 元中武研の二人が同意し、山下もその実力を知っているので頷いた。

 部活に出ている間毎日が命がけです。

 手加減はしてくれているのだろうが、それでもしっかりと防御をこなさないと散打にすらならない。

 だから、常に化剄の修練は重点的に積んでいる。

 

「……ぐ、漢魂さえ使えれば」

 

 などと、残念そうに言っているのは本日(俺を除いて)一番戦歴の悪かった豪徳寺 薫。

 一度俺と豪徳寺も手合わせしたのだが――なんていうか、中村と同類だったようで。

 気合を篭めたと思ったら、人間じゃ出せないようなものを撃ち込んできたのだこいつは。

 

「喧嘩殺法・未羅苦流 超必殺 漢魂!」

 

 とか、叫んで飛ばしてきた得体の知れない光弾を、嫌な予感がしていた俺は咄嗟に横に避けたのだが……命中した地面が抉れていた。

 死ぬかと思った。

 いや、マジで。漫画のような光景に俺は唖然としながらもビシッと指差して。

 

「お前、それは卑怯だろ!」

 

 と、突っ込んでやった。

 

「? いや、道具も何も使っていないが」

 

 いや、人力だからっていいわけじゃねえだろ。

 中村の裂空掌とやらも意味が分からんかったが、遠当てってのはどうかと思う。いや、そんなレベルじゃない気もする。発勁の遠当てとか、それとはまるで違うものだった。

 さすがに俺がまったく勝てないっていうか死にそうなので、封印してもらいました。

 世界びっくり人間コンテストにでも出るつもりか、中村と豪徳寺。

 

「まあ、なんだかんだで慣れてたから言わなかったけどよ、常人に放っていいもんじゃないよな。中村と薫のアレ」

 

 うんうんと、頷く山下。

 

「俺なんてあれでたまに足が止まって、そのまま袋叩きだしなぁ」

 

 同じように同意する大豪院。

 中村と豪徳寺がわっと目に手を当てた。

 

「ひどい! 折角編み出した必殺技なのに!」

 

「俺の魂が!」

 

『――飛び道具頼んな』

 

 三人一致で、二人の意見を一蹴した。

 そのまま豪徳寺と中村が道路の隅で泣き出したが、気にしない。

 

「まあ超常現象の領域に辿り付いたあの二人は放置しておいて、正直アレなんなんだ? まさか戦闘民族出身じゃねえよな」

 

「さあ? 俺らも一緒にわいわいやってたら、中村が手刀だけで風出せることに気付いてな。それから一生懸命筋トレしたら、ああなってたみたいだし」

 

「薫は俺らと会った時から使えてたぜ?」

 

「ふむ」

 

 人間の未知の力――っていうのは安直な結論だろう。

 飛び道具ってのはまあ投石術とか、そういうのもあるけれど、無手で出せるのはメリットだろう。

 常識的に考えるとありえないと思うが、別にトリックとかじゃないみたいだし……あの夜には変な光とか撃ち出しまくる餓鬼と吸血鬼がいたしなぁ。

 それと同種なのだろうか?

 とはいえ、俺が言えることは一つ。

 

「まあ、あくまでも部外者っていうか、俺の意見なんだが……アレに頼ってたら技術も何も伸びないだろ」

 

 中村の勁道の開きが悪くなったのもそれが原因だろう。

 あんな組み手も何もない一芸だけやっていたら何も進歩しない。

 あの技だけはもしかしたら磨きが掛かるかもしれないが、肝心の武術は何も研鑽されない。

 戦術の一つとして組み込むならいいかもしれないが、一番大事なのは身体を動かし、相対するための体術だ。

 豪徳寺のはまあ喧嘩30段とか言っているが、我流の喧嘩殺法だ。

 地力で知識を得たり、他の三人から教えられたりとかしていて、純粋な我流だけじゃないだろうが、それでもおろそかにしていい理由にはならない。

 

「あの飛び道具みたいなのはほどほどにしておいて、基本はちゃんと修練させたほうがいいな」

 

 四人の間でのルールとか、スケジュールとか、修練の傾向とかはあるのだろうが、俺はあえて口を出させてもらった。

 本来なら顧問なり、先輩なりに指摘されるんだろうが、四人は今は部活に所属していないから誰も指摘するものがいない。

 ずっと放置しておいたら、きっとどこか歪みが出るような気がした。

 

「……そうだろうな」

 

「そだな。俺も同意見だ」

 

 山下と大豪院も同意してくれる。

 そして、俺は決めた。

 

「なぁ、二人共。これからもちょいちょい顔出させてもらってもいいか?」

 

「あ? 別にいいぜ」

 

「俺も問題はないが」

 

 二人の返答に、俺は頷いて、ゆっくりと呟いた。

 

「俺は正直お前らと比べたら弱いけどよ、武術の知識と技術だけはあるつもりだ」

 

 それは俺が唯一役に立てる要素だった。

 柔術も多少は心得がある、発勁も使える、中国武術も八卦掌を納めているし、器用貧乏だが俺は色んな武術を学んでいる。

 アドバイスや練習相手ぐらいにはなれる。

 

「だから、少しは力にならせてくれよ」

 

 そう告げたのは嘘一つなく俺の本音だった。

 弱い。

 付いていけない。

 比べるのも馬鹿らしい力の差。

 だけど、力にはなれる。

 

「……長渡」

 

「お前、それでいいのか?」

 

 二人がどこか迷うというか躊躇うような顔を浮かべる。

 踏み台にするようなものだと思っているのだろうか。

 ただの練習相手だとしてしまうのが嫌なのだろうか?

 違うな。気持ちは嬉しいが、それだけじゃない。

 それだけで俺は動くほど優しいわけじゃない。

 

「ただし、俺もたっぷりとお前ら相手に強くなるからな。精々また追い抜かれないように気をつけろよ」

 

 ニヤッと笑う。

 昔は一番強かったんだ、それならまたこいつらを追い抜けるだろう。

 強くなる、馬鹿げた力がなんだ。

 技で、鍛錬で、倒すことは出来るのだ。

 

 そして、そして――いつか辿り着ける強さに、師匠の領域に行くことは出来るのだろうか。

 

「はっ、上等」

 

 山下も笑う。

 大豪院も笑いながら、まだ泣いている二人を見て。

 

「おーい、二人共そろそろ立ち直れ。今日は祝いだぞ」

 

「は?」

 

「ん?」

 

「仲間が一人増えたぞ! 長渡 光世って奴がな!」

 

 ニヤリと笑いながら、大豪院は手を叩いて。

 

「よし、ラーメンでも食いにいこうぜ!」

 

「さんせーい!」

 

「あー俺も腹減ったし、いくか!」

 

「美味いラーメン屋どこだっけ? 山ちゃん、知ってる?」

 

「あー、確か近所に大食いメニューのあるラーメン屋があったような」

 

「よし、じゃあそこに行くか!」

 

 俺は笑いながら手を上げて、一目散に駆け出す。

 身体はまだ少し痛かった。

 息するのも少し辛いが、飯でも食えば治るだろう。

 

 ただ友人たちと一緒に時間を過ごせるのが楽しくて俺は一分一秒を噛み締めるような気持ちだった。

 

 

 

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