欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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四十七話:そろそろ前に進もうか

 

 

 そろそろ前に進もうか。

 

 

 練習、練習、稽古、稽古。

 部活をサボりながら、最近は自主トレーニングを続けている。

 今更ながらに自分の動きのガタガタさが目立っているような気がした。

 技の一つ一つは何度も組み手で使ってるから上手く決まることがあるけれど、肝心の体捌き、全般的な動きがちょっと悪くなっている気がした。

 なので朝早くから久しぶりに立禅をしたり、太極拳の二十四式をやり直したりなどして、身体の調子を取り戻す。

 短崎も朝早くから走りこみに行ったり、夜になると素振りをしているようだ。

 あの夜、己の力不足とかを痛感したけれど、いきなり練習量とかを増やして強くなんかなれないことは理解していた。

 どんなに足掻いても俺の強さなんかじゃあ、すぐにあの領域には届かない。

 だけど、それでも諦めたくないから。

 

「ふっ!」

 

 土曜の朝っぱらから公園で練習を続ける。

 全身から流れる汗は止まらず、スニーカーを履いた爪先までびちょびちょになっているのを感じる。

 けれど、それでも俺は肩を回す、足を動かし、周身円活――太極拳における弧を描く動作理念を持って、全身を駆動させる。

 ボールを胸の前に掴むように、体を捻り、定められた動作を順々にこなしていく。

 それらのスピードは全て同じように、平均的に割り振る。

 これらが出来なければ、勁道は通らない。

 無駄の無い、無理の無い動きで無ければ意味が無い。強張った筋肉では、上手く発勁が繰り出せない。

 ボタリボタリと汗を流しながら、俺は体を右に回し、その手の平を開く。

 左手も突き出し、水平に掲げながら右足の踵を内側に引き寄せ、息を止めながら重心を後ろに傾ける。

 傍目からは両手を外側に突き出し、体を傾けた奇妙な体勢。

 十字手と呼ばれる形の最初の構えを取りながら、ゆっくりと体を捻り、体に染み込んだ動作を描いていく。

 もはや思い出す必要も無く、自然と全てがこなせる。それだけ繰り返し、肉体に刻み込んだ技と技術。

 捲り上げた腕は筋骨隆々とは言わないがそれなりに鍛えているように見えるだろうし、全身の脂肪は長年に渡る修練で燃やし尽くしている。

 喉の渇きを覚えるぐらいに汗を吹き出し、俺は十字手から最後の収勢に切り替えて、太極拳の型を終えた。

 

「ふぅ~」

 

 瞼の上を流れる汗と熱を感じながら、ゆっくりと息を吐き出す。

 朝の五時半、朝焼けが眩しい時刻の涼しい風に少しだけ癒された。

 

「……体がちょっと重いな、筋肉が付いたか」

 

 上に羽織っていたジャージの上を脱ぎ、汗まみれの肌着だけで背筋を伸ばしながら自分の両腕を見た。

 一ヶ月ぐらい前よりも多少腕が太くなった気がする。

 小魚と牛乳を取ることも忘れてないから、もしかしたら少しぐらいは身長が伸びたのかもしれない。

 昨日の自分と今日の自分は違う。

 そんなことを思い出しながら、俺は誰も見ていないことを確認して、肌着を脱ぎ捨てるとビチャビチャのそれを絞ってみた。

 

「うわぁ~」

 

 絞ると、出る出る。汗が滴り流れる。零れた地面に小さな水溜りが出来るぐらいだった。

 発汗しすぎだった。

 雑巾のように搾り出し、肌着をはたきながら、これをまた着るべきか? と少しだけ悩んだ。

 

「……まあいいか」

 

 我慢しながらまた肌着を着る。

 汗まみれで気持ち悪いけれど、さっさと寮に戻ってシャワーでも浴びるから構わない。

 四肢の先まで火照り切り、熱と微かな軋みを感じながら公園から出ようと振り返ったときだった。

 

「お? 長渡のあんちゃんやないか」

 

 公園の入り口、そこに立っている見覚えのあるやつが一人居た。

 犬上 小太郎。

 ニット帽を被り、子供サイズのジーンズとジャケットを羽織って、肩に郵便配達屋のような大きなバッグを携えていた。

 

「お、小太郎か。どした、こんなところで」

 

「俺は新聞配達のバイトの帰りやけど、兄ちゃんこそ半裸でなにしてるんや?」

 

「――半裸言うな、熱いから脱いだだけだわい」

 

 脇に抱えたジャージと肌着の上着を叩いて、顎を軽く上げながら「鍛錬してたんでな」と付け加えた。

 

「鍛錬って、やっぱ兄ちゃん使い手やったんか?」

 

「ただの学生武術家だけどな。そういやお前はなんか習ってるのか?」

 

 この間見た動きからすれば、喧嘩などには慣れている様子だった。

 しかし、なんかの武術を習っている様子は無かった気がする。

 

「あ、俺は我流やで?」

 

「全然習ってないのか? 他になんか練習相手とか」

 

「いなかったで。まあいても神鳴流剣士やったり、傭兵もどきとかしかおらんかったからなぁ」

 

 その割にはイイ動きしてたよな、と思う。

 あれだけの身体能力と、小太郎自身から軽く聞かされた裏の稼業とやらで経験は豊富なのだろう。

 とはいえ、少し惜しいなと思う。

 だから。

 

「小太郎。今少し暇か?」

 

「? 一応時間はあるで?」

 

「じゃあ、ちょっと組み手でもしてみねえか? ガチガチの雑魚武術家で悪いけどよ、ちょっと興味がある」

 

 そういって俺は上着を側にあったベンチの上において、軽く息を整えながら、ステップを踏んだ。

 右手を軽く差し出し、構える。

 掴み技防止用に、ある意味上着を脱いでいて都合がよかった。

 

「OKや! 俺も試してみたかったしな!」

 

 小太郎がバッグを同じベンチに投げ捨てると、上に被っていたニット帽を外して構える。

 四肢を突き出すように、低い姿勢。

 

「ウォーミングアップはいらないのか?」

 

「ここまで走ってきてたから、十分暖まっとるわ!」

 

 犬歯を剥き出しに笑う小太郎。

 俺は薄く息を吸い込み、腰の力を抜いておく。

 

「こいや」

 

「いくで!」

 

 俺の言葉に、小太郎が地面を蹴り飛ばした。

 ズシンッと響く強い踏み込み、砂が蹴散らされる、土が弾ける。

 恐ろしいまでの速度で真正面から飛び込んできて、俺はそれを捌くために体を開いて――ぎゅいっと捻られた"小太郎の腰"を視認した。

 眼前、一メートル手前で小太郎は進路を変えた。

 クロスステップ、突っ込むように踏み出した俺の動きを外すように小太郎は左側に飛び込み、こちらの側面を奪う。

 

「らぁっ!」

 

 旋転、回し蹴り。

 方向転換のための慣性を使って、小太郎が流れるように回し蹴りを放ってくる。

 だが、それは予測済み。

 腰を落とし、俺もまた同時に"旋回"する。

 軸足を折り畳みながら、蹴り足である右足を滑らせながら突き出し、腰を落としながらの回転。

 ――追いつく。

 

「あめえ!」

 

 振り下ろされた回し蹴り、それの軌道を確認しながらしゃがみ込むように躱す。

 空気が引き裂かれる蹴打、チリチリと削られる掠った頭部の感触。

 畳んだ足を跳ね上げる、連動して加速。

 カウンターでの掌打、腰を捻りながら小太郎の胸に目掛けて放つ打撃、槍のようなイメージ。

 だが、それを小太郎は受け止める。

 

「っ!?」

 

 胸に掌打がめり込みかけた瞬間、左右から畳まれた両腕で掴まれた。

 ギチリと骨が軋み、痛いほどのアームブロック。

 餓鬼とは思えない腕力に握力、掌底が静止する。

 だけれども、俺は腰を突き出し、地面を踏み込んで。

 

「なっ!?」

 

 ぬるりと"滑らせながら"、小太郎の胸部に掌打を叩き込んだ。

 どんっ、と重く響くような手ごたえと共に小太郎の体が吹き飛ぶ。

 が、ゴロゴロと回転しながら受身を取り、すぐに跳ね起きる小太郎。

 

「ぅつ、強引やな」

 

 そういって楽しげに笑う小太郎、両手を腹のシャツに押し付けて拭っている。

 手についた汗と汚れを拭っているのだ。

 そう、小太郎の掴みを外してみせた俺の腕の汗を。

 

「汗まみれの手が役に立つこともある……汚いやり方で悪いな」

 

 両手を軽く振って、外気を肌で感じながら俺は息吹を発した。肺から酸素を搾り出すように息を吐き出す。

 掴まれた右腕がヒリヒリと痛む。見れば、軽く痣になってる。

 殴った感触から思ったことはただ一つ。やっぱり硬い。

 小太郎の体重自体は外見通りのようだが、筋力とかが明らかに普通と違う。山下たちと同じ。

 だけれども。

 

「よし、ちょっと殴り合ってみるか」

 

 俺はある種の確信を得て、微笑む。

 笑うことで体を弛緩させる、緊張を解く、ダラダラと流れる汗の感触を感じながらも、バクバクとうるさい心臓の音に耳を傾ける。

 アドレナリンが湧き出して、体が熱かった。

 

「怪我するで、長渡の兄ちゃん」

 

「いってろ」

 

 軽く小刻みに息を吸い込んで、俺は踏み出す。

 互いの制空圏、一足一刀ならぬ一足一打の距離を詰める。

 目を開いて、下半身の自由を利かせながらも俺は思い切って飛び込んだ。

 

「らぁっ!」

 

 距離を詰めた瞬間、迫ったのは小太郎の拳打。

 脇を締めた、キレのあるフック。

 しなるそれを弾く。受け止めずに側面から叩いて捌くが、とんでもなく重い。岩石のよう。

 避けることに意識を集中しながら、俺は次に迫る乱打とひたすら手足を叩き付け合う。

 

「おぉおおお!」

 

「らぁあああ!」

 

 小太郎の一撃一撃ごとに手が軋む、脚が痛む、骨が痛みを上げる。

 楼椿――技をぶつけ合って衝撃に耐える手足作り、それよりも馬鹿げた威力。一撃毎に鉄棒を叩きつけられているような感覚、腕が腫れ上がる。

 だけど、それでも動きを止めない。手足を回す、連綿不断と意識を保って。

 

「っ!」

 

 焦れてきた小太郎が手刀を作り、こちらの首筋を狙って放ってきた。

 弧を描く鋭い手刀、それに俺は右手を差し出し――手を沿わせる。

 伸びきったそれに、合わせて右足を差し出し、腰を捻り、憶えた動作のままに動いて――

 

「ほぇっ?」

 

 そして。

 次の瞬間、俺は小太郎の体を投げ飛ばしていた。

 外見的から見ればクルリと小太郎が自分から前転したかのような光景。

 

「なっ、なんや!?」

 

 背中から地面に叩きつけられて、目をパチクリさせている小太郎が驚いたような顔をしていた。

 

「回転投げって奴だ」

 

 ニヤリと頬を吊り上げて、笑ってみせる。

 足元に転がる小太郎、その腕を捻って掴んだままだからすこぶる悪役っぽいなとなんとなく思った。

 

「投げ? え、せやけど」

 

「合気道の技なんだが、まあ体験したことねえと訳が分からないよな」

 

 捻った状態で掴んでいた小太郎の腕を離し、俺は腫れ上がった手を振りながらため息を吐き出す。

 腕が滅茶苦茶痛ぇ。

 

「とりあえずこんなものにするか。これ以上やると俺の手がイカれる」

 

 後で氷とかで冷やさないといけねえな。

 嘆息を洩らしながらそう思う。

 

「そうやなー。しかし、長渡の兄ちゃん強いで。気使ってないやろ?」

 

 いてて、と言葉を洩らしながら小太郎が跳ね上がる。

 ぴょいんとキョンシーのような動きで起き上がると、パンパンと服についた砂埃などを払っていた。

 

「気が何だがしらねえけどよ、まあ使ってないわな」

 

「使えへんのか?」

 

「……どういう意味だ?」

 

 その言い回しだと使えるのが当たり前のような風に聞こえる。

 ベンチから拾ったニット帽を被りながら、小太郎はこちらを見上げて。

 

「長渡の兄ちゃんぐらい強かったら、普通は自然と気が使えるようになるもんやで? 俺見たとこ、山下の兄ちゃんや、他の三人も気使ってるようやけど……」

 

 気。

 何度か聞いた憶えのある単語だが、多分俺の知っている格闘用語における気とは違うのだろう。

 あの魔法じみた豪徳寺と中村の遠当て(?)や、山下たちのおかしな筋力と耐久力にも関係しているのだと想像出来る。

 

「普通ねぇ。じゃあ俺には才能がねえんだろうさ」

 

 やれやれとため息を吐き出しながら、俺は空を見上げた。

 

「……あ、なんか、すまんわ。悪いこといってしもたみたいや」

 

 シュンッと少しだけ顔を伏せて、小太郎が気まずそうな顔を浮かべる。

 それに俺は空を見上げたまま、軽く手を上げて。

 

「まあいいさ」

 

 グリグリと小太郎の頭を撫でた。

 

「今更気にしてねえよ。才能がないのなんて、自覚してる」

 

 正面から力比べをして、山下たちにも、古菲にも勝てない自分。

 それは嫌になるほど理解していた。

 

「それに、別に気を使わないと絶対に勝てないわけじゃねえだろ?」

 

 あの日の山下との戦いのように。

 あの日の悪魔と戦っていたエヴァンジェリンのように。

 あの時の短崎の見せた一撃のように。

 鍛えれば、頑張れば、勝てるのだ。戦えるのだから。

 何を気にする必要があるんだろうか。

 

「……そうやな、兄ちゃんならきっと勝てるわ」

 

 グリグリとニット帽を撫でられながらも、小太郎は頭を上げた。

 その目にどこか懐かしさを憶えた。

 ああ全く昔の自分を見ているようで、何故か懐かしい。

 だから。

 

「そうだ。小太郎、お前この後時間あるか?」

 

「ん? なんでや?」

 

 撫でられた手から離れて、バッグを肩に下げなおした小太郎が小首を傾げる。

 

「この後、飯食いに行くつもりなんだが一緒にいかねえか?」

 

「んー、それかまへんけど。どっかにいくんか?」

 

「今日は土日だからな。超包子が開いてるはずだ」

 

 ジャージの上着を小脇に抱えて歩き出す。

 公園を出るのに合わせて、小太郎が横に並走しながら眉をひそめた。

 

「超包子?」

 

 小太郎は首を傾げる。

 

「まだ行ったことなかったのか? まあ行けばわかるさ」

 

 そういって適当に雑談しながら、俺は寮への帰路を歩いた。

 

「さっとシャワー浴びたらさっさと向かうから、寮に寄ってけよ」

 

「ええんか?」

 

「別に気にすんな。お前ぐらいの年なら好きそうな漫画なり、本ぐらいなら貸してやれるしな」

 

 そういって小太郎を連れてテクテクと階段を上る。

 女を連れ込むわけでもないので気軽なもんだ。

 寮室の前に辿り付くと、ジャージから取り出した鍵を使って扉を開ける。

 玄関でスニーカーを脱ぎながら、「あ、そっちがリビングだからそこにある漫画とかは読んでていいぞ」 「わかったで」 風呂場に向かって、靴下やジャージの上着などを洗濯機に放り込む。

 バタバタと裸足で自室に戻り、着替えなどを取り出すと、俺はさっさと浴室に戻って着替えなどを置いた。

 浴室のドアを閉めて、脱いだものを洗濯機に突っ込み、粉洗剤を分量だけ放り込んで、スイッチを入れる。

 ガウンガウンと稼働し始める古い洗濯機の音を聞きながら、俺はシャワーをざっと浴びた。

 所詮男のシャワーである。頭をしっかり洗い、体もしっかり洗っても三十分も掛からない。

 軽く腫れ上がった両腕に熱湯が染みたが、歯を食い縛って我慢する。

 熱湯に火照った体で浴室から出て、タオルで体を拭きながら、着替える。

 着古したシャツに、トランクス。着慣れたジーンズに、上着に羽織るような薄手のジャケット。まあそれで十分。

 

「出たぞー」

 

 髪をタオルで拭きながら、リビングに戻った。

 

「お、兄ちゃんでたんか」

 

 そういって小太郎が顔をこちらに向けた。

 その際に手に持っていたのは某少年漫画で地上最強の父親に挑む息子を主人公にした格闘漫画だった。

 好きそうだな、と一人納得し、リビングに常備してある救急箱から取り出した湿布を両腕に貼り付けておく。

 

「悪いな、待たせて。そんじゃ行くか」

 

 靴下を履きながら、小太郎に告げる。

 すると、小太郎は頷きながらも。

 

「そういや短崎の兄ちゃんの姿は見えへんけど、寝てるんか?」

 

 室内を見渡しながら言った小太郎に、答えを返す。

 

「いや、あいつは朝から道場に行ってる」

 

「道場?」

 

「天然理心流つったかな? 剣術の道場に朝から向かったよ」

 

 なので、今日は夜まで一人身です。

 

「兄ちゃん大丈夫なんか? 確か左手……」

 

 動かないんやろ? そう続けようとした小太郎の言葉を遮って、言った。

 

「大丈夫だろう。あいつ自身が決めたことだからな」

 

 俺たちがどうこういう問題じゃない。

 そう思ってる。

 

「んじゃ、行くか。財布は持ってるよな?」

 

 ジーンズのポケットに財布と学生証を差込み、ジャケットに携帯電話を放り込んでおく。

 

「ちゃんとあるで」

 

「了解」

 

 玄関にて運動用のスニーカーとは違い、外出用のシューズを履く。

 嗚呼、帰ったらスニーカー洗って、日干しで干しとくかなどと考えながらも、玄関のドアを開けた。

 

「忘れ物ねえな?」

 

「このバッグだけやから平気やで」

 

「そうか」

 

 小太郎が出たのを確認して、鍵を閉める。

 

 そして、小太郎を連れて俺は気楽な気分で超包子に向かった。

 

 

 

 

「おー、こんな店があったんか。屋台なんて珍しいなぁ」

 

「安いし、結構美味いんだぜ?」

 

 早朝だけあって空いていると思ったのだが、朝練前の学生たちが朝食とばかりに群がっていた。

 並べられたテーブルに様々な学生服の学生たちが座ってるし、一部端には教師らしい姿もある。

 

「お、長渡。久しぶりネ」

 

 そして、屋台にて調理をしている超の姿も見れた。

 相変わらずのチャイナドレスもどきに、エプロンである。

 

「よぉ、幽霊部員」

 

「そっちも結構サボってるクセに失礼ネ。ん? そちらは見ない顔ネ」

 

 ジーと小太郎と俺の顔を見比べる超。

 

「兄弟ってわけじゃないみたいネ。私の名前は超鈴音、この超包子のオーナーヨ」

 

「犬上 小太郎や」

 

 戸惑った態度で自己紹介をする小太郎に、薄く微笑する超。

 

「とりあえず適当にお勧めの点心くれ。俺とコイツの分で」

 

 俺は軽く手を上げて、二本指を立てて告げる。

 

「はいはいネ。五月、モーニング点心セット二つ」

 

 ――分かりました。とばかりに、軽く微笑んで頷くふっくらとした外見の少女。

 四葉 五月。

 相変わらず落ち着いた佇まいで、外見に似合わない大人な態度だ。

 

「さて、座るか。小太郎、そこの水持ってきてくれ」

 

「了解や」

 

 適当に端で空いていたテーブル席に腰掛ける。

 セルフサービスの水を飲みながら、料理を待っていると。

 

「そういや、兄ちゃん。さっきの漫画なんやけど」

 

「なんだ?」

 

「あれの一巻から五巻までもってへんか? もしよかったらちょっと貸して欲しいわ」

 

「別にいいぜ。あ、それなら他の漫画も付けてやるよ」

 

 そういって俺たちは漫画の話題で盛り上がりながら、料理を待っていた。

 そして、漫画から先ほどの組み手の話に話題が移行しかけた時。

 

「モーニング点心セットはここアルカ?」

 

「あ、ここで――」

 

 掛けられた声に俺は反応し、顔を上げて。

 

『あ』

 

 そこにいる人物に思わず声を洩らした。

 

「ひ、久しぶりネ、長渡」

 

「よぉ」

 

 チャイナドレスもどきに、エプロン姿。

 脚に嵌めた移動用ローラーブレード。

 頭の両脇のお団子に、褐色の肌。

 

「今日も手伝いか、古菲」

 

 中武研部長、古菲がそこに立っていた。

 

 

 

 思わずため息を吐いたのは、気まずさからによるものに違いない。

 

 そう俺は思った。

 

 

 

 

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