欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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六十話:想像もしなかった

 

 想像もしなかった。

 

 

 

 

 

 午後五時半。

 決められた場所に向かったのだけども。

 

「あれ?」

 

 あったのはただの張り紙。

 

 ――まほら武道会予選会会場変更のお知らせ。

 ――とき:午後六時

 ――ところ:龍宮神社所摂斎庭

 

 場所の変更?

 掲示板の上に張られた張り紙を見て、首を傾げるしかない。

 僕は疑念に感じながらも、靴を揺らして変更された場所に向かうことにした。

 近くの駅に向かい、麻帆良市内を走るローカル線に乗り込んで、ガッタンコットンと揺れながら、同じように様々な衣装を着ている仮装者たちを見かけた。

 こう古めかしい電車の中、色鮮やかな格好をした人たちを見ると、まるで幽霊列車のように思える。

 電車の外を見る。

 薄暗闇の空の下、冷めることを忘れたような光の洪水。初日の開始、始まりのお祭りとして景気良く騒ぎ始める麻帆良のテンションを表すような光景。

 少しだけ心奪われる。

 

『――自然公園東~』

 

「っ」

 

 着いたようだ。

 窓から目を引き剥がし、電車から降りる。

 人の流れに沿って歩き出し、改札を通り抜ける。

 龍宮神社には何度か足を運んだことがあるから迷いはしなかったが、明らかに同じ目的地らしき人をよく見かける。

 格闘技を着た人間、道着を着た人間、革ジャケットを羽織った人間、明らかに得物を入れているらしい袋を背負った人間。

 歩道を歩いている最中にも気配りを感じられる歩き方をしている人を見かけるし、何かを習っている人は一見すればすぐに分かる。

 

(おかしいな? あの大会、こんなに人が集まるものだったっけ?)

 

 高々賞金十万円。

 学生からすれば大金だが、ここまで集客を集めるようなものではなかったはずだ。

 だからこそ、勝負を付けやすいと思って桜咲と決めたのだが。

 ……辿り付いた先の人だかりに、思わず息を飲んだ。

 

「……なに、これ?」

 

 龍宮神社。

 麻帆良にある神社のうち、それなりに有名な神社であり、年始には初詣に来る人が絶えない程度の知名度と広い敷地を持っている。

 その境内に軽く数えて五十人強、下手すれば百人近い人間が神社前に集まっていた。

 場所を間違えたのかと思ったが、神社の脇にある『まほら武道会 予選会場』という立て看板がそれを否定する。

 どうなってんだ? と思ったが。

 

「あ、短崎先輩!」

 

「ん?」

 

 目を向ければ、そこに居たのは――桜咲と近衛さんと神楽坂さんだった。

 相変わらず桜咲と神楽坂さんは制服姿で、近衛さんはクリーム色のローブに可愛らしいトンガリ帽を被っている。

 

「ああ、三人とも。桜咲の付き添い、かな?」

 

「あ、はい。ちょっと二人には一緒に来てもらったんです」

 

 少しだけ嬉しそうに、桜咲がそう頷く。

 

「せっちゃんの頑張るところ見たかったしなー」

 

「まあ刹那さんなら大丈夫だと思うけど、ネギも出るしね」

 

 そして、二人の補足。

 うんうんと頷き、神楽坂さんは少し照れ隠しのように腕組みをして言うところが、いい友達だなと思う。

 友情は尊いから、そのありがたみが分かる。

 

「そういえば、ネギ先生大丈夫だった?」

 

「え?」

 

 あの後デート? は上手く行ったのだろうか。

 そう思って訊ねたのだが、上手く意味が伝わらなかったのか、神楽坂さんが首を傾げて。

 

「あ、はい。大丈夫だったみたいですよ!」

 

「そやそや! 上手くいったみたいで、のどかも楽しそうやったし」

 

「まあ、それならよかったよ」

 

 ただの確認のつもりだったのだが、何故慌ててるんだろう?

 不可思議に思いつつも、話題を変える。

 

「そういえば桜咲。なんでこうなってるのか、分かる?」

 

 右手を上げて、親指で人ごみを指すが。

 

「いえ、私も来たばかりですので」

 

 フルフルと申し訳なさそうに首を横に振る桜咲。

 じゃあ、どうしてだ? と思ったのだが。

 

「あ、あれ。あそこに人が集まってるわよ」

 

「本当やー」

 

 神楽坂さんの言葉に、僕らは一斉に目を向けた。

 神社の端の方に、普段は絵馬なりおみくじとかを結ぶだろう場所に掲示板が張られている。

 

「ちょっと見てみるか」

 

「あ、私も」

 

 何が書かれているの気になったので近寄ってみる。

 

「マジで? ウヒャー、豪勢だな」

 

「これだけ、あったら――」

 

「何もんだ? 主催者は」

 

 ガヤガヤと会話が聞こえる。

 桜咲と一緒に歩き出し、集まっている人ごみの後ろから背を伸ばして見上げてみると。

 

「えーと……エ? マジで?」

 

 目に飛び込んできた文字に、顎を落としそうになった。

 

「え? なんですか、先輩? 何見えました?」

 

 不幸にも背の高い男たちの後ろに立ってしまったのだろう。

 背伸びしつつ、頑張って合間から見ようとしている桜咲が僕の言葉に疑問を発し。

 

「えと、一千万円だって」

 

「いっせんまんえ……は?」

 

「優勝賞金……一千万円」

 

 信じられなかった。

 けど、見える看板はそう書いてある。

 

 ――優勝賞金を緊急UP! ¥10,000,000 麻帆良学園最強への挑戦!

 

 この学園だということを考えても、破格過ぎる値段だった。

 

「うそぉおおお!?」

 

 僕が一千万円と呟いた瞬間、後ろから声が上がった。

 

「って、神楽坂さん!?」

 

「い、いいいい、一千万円って!? そ、それだけあったら学費とか生活費とか全部払えちゃうわよ!?」

 

「アスナー、落ち着きー」

 

 あわわと慌てふためく神楽坂さんに、宥める近衛さん。

 まあ確かに一千万円とか聞いたら動揺する、ていうか僕も思わず手が震える金額。

 心臓がバクバクしてるけど。

 

「あ、でも多分一千万円手に入っても、丸々は貰えないよ」

 

 哀しいお知らせが一つある。

 

「え?」

 

「なんでや?」

 

「ゴルフとかの賞金みたいに多分税金掛かる。たしか、所得税だったかな? 確か一シーズン前千八百万円稼いでいるゴルファーが税率三十何%ぐらい引かれてたと思うし」

 

 ニュースとか、そこらへんの情報だったと思うけど。

 

「多分二百万ぐらいは減らされるんじゃないかな? 詳しくないからもっと掛かるかもしれないし、少ないかもしれないけど」

 

『……』

 

 あれ? テンション下がってる?

 神楽坂さんが頭を押さえて、ズーンと頭痛を堪えるように凹んでいた。

 ……まあ、でも。先に知っておいたほうがダメージは少ないと思うよ。優勝出来なければ意味ないし。

 

「え、あ、でも! 八百万! それでも八百万も手に入れば、薔薇色未来だわ!」

 

 しかし、すぐさま神楽坂さんは立ち直った。

 すこぶる前向きである。

 

「明日図書館島で【猿でも分かる納税方法】とか借りたほうがええかもな~」

 

「あ、私それ持ってます。あと法律系も揃えてますから、必要でしたら貸しましょうか?」

 

「え? なんでそんなの持ってるの?」

 

「銃砲刀剣類登録証の申請とか、しっかりやらないと捕まりますから。学生の内に勉強して置いたほうがいいですよ」

 

「日本は法治国家だしねー。自立するなら勉強したほうがいいよー」

 

 などと、神楽坂さんに優しく伝えたのだが。

 何故か怯えた目と怨むような目で、ぎっと睨んで来て。

 

「うわーん、このかー! 皆が私を馬鹿にするー」

 

「おー、よしよしや」

 

 近衛さんに泣きついた。

 いや、別に馬鹿にした気はなかったんだけど。

 勉強にトラウマでもあるんだろうか?

 

「……ああ、そういえば六千円以上掛けて登録したのにまた壊れたんだよなぁ」

 

 いまさらのように二本目の太刀のことを思い出す。

 今の世の中、武芸、武術の類をやるにも勉強が必要なのだ。あと金。

 

「あ、そ、そういえば……あの太刀なんですが」

 

「いいよ。もう過ぎたことだし」

 

 桜咲が済まなそうな顔をするが、ぶらぶらと横に手を振る。

 最後に僕の太刀にトドメを差したのが桜咲だということは既に本人の口から知っている。

 月詠との戦いで使われ、それで結果的に全員が助かるような結果になったのだ。

 そんな命の恩人に、弁償しろだとかはさすがに言わない。弁償しますから! と言ってくれたけど、その時は断った。

 夏休みと冬休みに、キツメの肉体労働でもすれば稼げるだろう金額だったし。

 さすがに今の片腕が使えない状況で、太刀があってもろくに使いこなせないのが事実だ。

 ――小太刀一本でなんとかするしかない。

 

「まあ優勝出来たら、四十本ぐらい買えるね。太刀なんて。背負ったら凄いことになりそうだ」

 

 八百万で、十万円単位の太刀だったら八十本買えるけど。

 そんなにあってもしょうがないけど、それぐらいの価値計算になる。

 

「そんなにあってどうするんですか?」

 

「え、あ。ごめん、多分僕も金額に動揺してると思う」

 

 誤魔化しのネタで、真面目に心配されてしまった。

 

「んー、それにしても八百万円……」

 

 欲しいなぁ、と神楽坂さんが腕を組んで呟く。

 

「アスナさんでしたら、結構いけるかもしれませんよ?」

 

「あれ? 神楽坂さん、なんかやってるの?」

 

「あ、はい。私もそれなりに教えてますし、とても筋がいいですから」

 

 僕の質問に、桜咲が教えてくれた。

 へえー、意外だな。

 いや、あの吸血鬼の時、一緒にネギ先生といたから意外というわけでもないか。

 

「でも、もう手遅れよね? 受付」

 

「あ、それなんだけど」

 

「大丈夫でっさ、姐さん!」

 

「ん?」

 

 どこかで聞いた憶えのある声と共に振り向く。

 そこには見覚えのある三人の男子と、二人の見慣れない女子がいた。

 

「あれ? 長渡」

 

「よぅ、お前も来てたか」

 

 浅葱色の革ジャケットを羽織った長渡がこちらに手を上げた。

 後ろに引き連れているのは小太郎君とネギ先生だったが、傍にいる女の子二人は知らない顔だった。

 片方は小柄な女の子、前髪を三つ編みにして垂らし、後ろの髪は腰まで届きそうなぐらいに伸ばしているオデコの広い子だ。

 もう片方は仮装しているのか、童話に出てくる妖精のような格好に、少し頬にそばかすがあるけど、いい子そうな顔つきの少女。

 しかし。

 

「ちびっ子だらけだけど、どうしたの?」

 

 ボソリと小声で訊ねる。

 

「阿呆。お前だって傍にいるのは全員年下じゃねえか、しかも女だし」

 

 それに小声で返答を返してくる長渡。

 

「まあ、たまたまここで会っただけだけど」

 

「そうか、俺もだ」

 

 どうやら条件は同じらしい。

 そう頷いて。

 

「へー、まだ大丈夫なの?」

 

「なんかテコ入れがあったらしくてな、ギリギリまで参加者募集をしているらしいぜ」

 

「よかったですね、アスナさん」

 

 という会話が聞こえた。

 ていうか、あのオコジョ。堂々と話してもいいのだろうか?

 小柄な長髪少女の頭の上に乗っているが、関係者なのだろうか?

 

「あ、短崎さん! あの時はありがとうございました」

 

 と、そこでネギ先生がこちらに気付いたらしく、嬉しそうな笑顔で話して掛けてきた。

 多分さっきの仲裁のことだろう。

 

「ああ、別に気にしないで。たまたま通りかかっただけだから」

 

 実は見ていました、とはいえないよね。

 その後、軽く上手く行ったのかどうか話しをしていると。

 

『準備が終わりました。見学者と参加希望者は入り口より、お入り下さい』

 

 アナウンスらしい拡声器の声と共に神社の扉が開かれた。

 中にぞろぞろと入り始める物々しい人たち。

 

「あ、行きましょうか。皆さん!」

 

「せやな。まずは説明聞かんと」

 

 少年二人が急かすような速さで向かい、僕たちは苦笑しながらその後を付いていった。

 

 

 

 

 

『ようこそ! 麻帆良生徒及び学生及び部外者の皆様!! 復活した「まほら武道会」へ!! 突然の告知に関わらずこれほどの人数が集まってくれたことを感謝します!』

 

 神社内に入って、見えたのは一人の少女による司会だった。

 紅い髪の毛を揺らした端正な顔立ちの美少女。

 自信満々に背筋を伸ばし、艶やかに化粧とレースクイーンにも似た衣装でマイクを持って声を上げている。

 

『優勝賞金一千万円! 伝統ある大会優勝の栄誉とこの賞金、見事その手に掴んでください!』

 

 発せられる言葉に、周りの参加者希望者が声を上げた。

 熱気が上がる、歓声が上がる。

 

「あれ? 朝倉じゃない? なんであんなところで司会を」

 

「確かに、朝倉だな」

 

 神楽坂さんと長渡がそんな声を洩らした。

 

「知り合い?」

 

「顔見知り程度だけどな。麻帆良報道部の奴だ、ちなみに3-Aだ」

 

 3-A。

 ということは、ネギ先生の生徒ってことだ。

 はあ、あれも中学生なのか。

 ……高校生ぐらいに見えるけどなー。どうなってんだろ?

 

『では、今大会の主催者より開会の挨拶を!』

 

 と、そんな疑問を抱いている間に司会の子が言葉を紡ぐ。

 朝倉という少女が位置を変えて、その後ろに手を伸ばす。

 影となっていた位置から歩み出てくるのは。

 

「ニーハオ」

 

 鮮やかな大陸風ドレスを纏った少女。

 

「え?」

 

 頭の左右に団子を結わえ、黒く濡れた編んだ髪を揺らす。

 とても見覚えのある顔だった。

 

『学園人気No1屋台超包子オーナー、超 鈴音!』

 

「ええ!?」

 

「超さん!?」

 

「なん、だと?!」

 

 誰もが声を上げる。

 僕らの周り、知り合いだらけの少女。

 

「超、オーナー?」

 

 僕のバイト先のオーナーである少女。

 

 そして。

 

 彼女が口元を歪め、盛大に発せられた言葉。

 

 

 それに僕たちは驚愕するしかなかった。

 

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