欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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六十二話:仲良く騒がしくやろう

 

 

 

 仲良く騒がしくやろう。

 

 

 予選会のルールは単純明快だった。

 A~Hまでのグループ二十名に分かれて、それぞれ二名になるまで戦うバトルロワイヤル。

 生き残った十六名が本戦に進出だということらしい。

 長渡はAグループ。

 ネギ先生がBで、桜咲と神楽坂さんがCグループ。

 小太郎君と長瀬さんはEで、高畑先生とエヴァンジェリンがFのようだ。

 そして、僕居るのは第六試合に決められたGグループ……見事にばらけてる。

 せめて長渡と一緒なら協力して、他の参加者を叩くことも出来たのだけど。

 

「うわー」

 

 軽くため息。

 周りを見渡せば、誰も彼もがやる気満々だった。

 見覚えのある格闘系道着の人もいるし、刃物と飛び道具が禁止なだけで武器を持っている人もちらほらいる。

 そういう僕も右手に竹刀を携えていた。

 背負っていた竹刀袋は持っていない。

 闘技場に上がる前に、近衛さんに竹刀だけ抜いて預かってもらった。

 鉄心入りの木刀を預けるのは気が引けたけど、他に預けるのに丁度いい人がいなかったからだ。

 最初は木刀を使おうと思っていたのだが、この数と乱戦だと手加減が効かない、木刀だと重傷を負わせる危険性がある。

 木刀での一撃は簡単に骨を叩き折るし、頭を打てば大怪我に繋がる。

 だから、竹刀にした。

 ――手加減するほど余裕もないから。

 

「すぅー」

 

 息を吸い込む。

 次々と試合のアナウンスが聞こえてくるが、構っている暇は無い。

 終われば全て分かる。だから、ただ右手だけしか動かない圧倒的に惰弱な僕が他人に構っている暇は無い。

 アドレナリンを流し込め。

 興奮し、気合を入れろ。

 

『さて、続いては第六試合です!』

 

 声がした。

 呼吸を整え、目を見開く。

 視界中の参加者たちが身構えた――何名かこちらに視線が飛ぶ。武器を持っている僕を警戒している、当たり前。逃げるのは無理だ。

 だから。

 

 

『第六試合、開始ィ!』

 

 

 始まりのアナウンスと同時に混戦。

 狂ったような罵倒、怒声、咆哮。

 何もかも混じり狂い出す狂乱の宴だった。

 その中で僕は竹刀を手に持ち、相手を探す――までもなかった。

 

「武器持ちを潰せぇえええ!」

 

「うらぁあああ!!」

 

 分かりやすい怒声を上げて飛び込んでくる空手着の男、中武研の学生らしきが同時に襲いかかってくる。

 距離は五メートル、左右から互いに踏み出せば接敵する距離。

 だけど、僕は息を止めて。

 

「――潰すっ」

 

 ここで手間取るわけにはいかない。

 構える必要すらもなく、僕は右足を前に突き出して――"後ろに跳ねた"。

 

「っ!?」

 

 相手の拳が空を切る。

 それを見ながら僕は旋転し、薙ぎ払うように顎を剣先で打ち払う。

 後ろ足で着地すると同時に捻り上げた円軌道での打撃、手ごたえあり。

 

「らっ!」

 

 涎を吐き散らして仰け反る空手着の男を無視して、中武研の学生が跳ねた。

 旋回、右回し蹴り。

 僕はそれを――後ろに倒れて避ける。

 

「しゅっ!」

 

 ごろんと転がり、さらに流れるように打ち下ろしてくる蹴り足を横に回って避けて、続けざまに出される脚払いに右肘を立てて大きく跳ね上がった。

 回避、回避、回避。

 流れるような蹴打と拳打。

 僕はそれを竹刀の刀身で受け止めて、体捌きで避ける、逃げる。

 逃げ回りながら――腰を落とした。

 刀身を右後ろの背に隠したままで。

 

「てぇい!」

 

 捻り切るように放った剣撃に、相手の頬を打つ。

 炸裂音と共に顔面を殴打されて、怯んだ!

 

「らぁあ!」

 

 竹刀を振り回す。剣尖を下に落下させて、突き出していた膝を叩いた。

 痛みに呻く相手に詫びながら、僕は反転し――跳び上がるように回し蹴りをその横腹に打ち込んだ。

 

「ぐっ、が!」

 

 悪いね。

 体重の乗った蹴打、それにそのまま背中から石造りの床に激突してノックアウト。

 僕はたたらを踏みながら、竹刀を支えに着地し、次の相手を探そうと振り返った瞬間。

 

 ――跳躍を繰り返す人影を見た。

 

「っ!?」

 

 床を蹴る。

 空を廻る。

 跳躍、重力を振り切ったようなバック転から繰り出される両足。

 それを後ろに慌てて避ける。

 ずしりと足裏が着地したと思った瞬間、さらに廻って。

 

「フゥ、ハハハー!」

 

 まるで逆さカカシのように倒立した格好で、鮮やかな赤色のジャージを着た同い年ぐらいの男が笑った。

 

「お前、つえええなぁ! 剣道かい!?」

 

「変わった動きだね」

 

 周りの注目を集めるパフォーマンス。

 微動だにせずに倒立したまま、青年が笑って。

 

「まあ、なっ!」

 

 ――旋回。

 両足を広げて、両手を支えに回転し、長い足がまるで刃物のように襲い掛かってくる。

 前蹴り、回し蹴り、足払い、踵落とし。

 まるでダンスのように華麗な動き、止まることを知らない連続攻撃。

 跳ねる、廻る、跳躍、舞う、踊る、蹴る、穿つ、薙ぐ。

 連続する二段足払いを僕は跳躍し、さらに撃ち出される前足を竹刀を握った右肘で受け止める。

 が、吹き飛ばされた。

 

「っう!?」

 

 数歩後ろに下がって、床を滑る。地滑りのざざざ、という音が靴裏から聞こえる。手が痛い、振り過ぎた手首が痛む。

 だけど、相手は止まらない。ダイナミックに軽業を見せながら、足先で弧を描くように打ち込んでくる。

 

「調子に」

 

 立ち位置を踏み変える、体を捻りながら、回して。

 

「――乗るなぁ!」

 

 僕は回転し、相手も回転した。

 遠心力を掛けた横薙ぎの横手打ち、それを相手は足裏で受け止めた。

 炸裂音と打撃音。

 

(靴になんか仕込んでる!?)

 

 硬い感触に僕は眉を歪めて、一度弾かれた勢いを利用し、返す刃で下段を払う。

 

「ヒュホホホホッ!」

 

 されど、両手の力で相手が跳ぶ。

 空を切り、相手の足が弧を描いて――ボクの後頭部に衝撃が走った。

 

「がっ!?」

 

 打ち倒される。 床に体が叩き付けられて、硬い感触に一端意識が飛びかけて――咄嗟に横に転がった。

 ダンッと僕の頭があった場所を、蹴り使いの足裏が叩き付けられた。

 

「おしー、おしぃ」

 

 その間に僕は跳ね起きて、距離を取る。

 そして、ようやく掴めた正体を言う。

 

「カポエラ使い、か」

 

 これだけ蹴りオンリーで戦う武術を他に知らない。

 昔見た映画で同じような動きをしているのを見たことがある、だからこその断言だったけど。

 

「あったりー♪」

 

 クルリと跳ね上がり、ようやく頭が上に、足が下に、正常な佇まい。

 ステップを踏みながら、にやにやと笑う。

 

「動きが独特だからね」

 

「まあ、な。マイナーなんだけどよ」

 

 そう告げるカポエラ使いが笑って、パチンッと指を鳴らした瞬間。

 跳躍旋転。

 背後から迫っていた参加者の一人の胸板を蹴り抜いた。

 

「ぎゃふっ!?」

 

「後ろから来るな。男らしく前から正々堂々ときなっ!」

 

 ゲラゲラと後ろに顔を向けて笑っているが、今この瞬間打ち込んでも躱される気しかしない。

 背中から噴き出した汗の気持ち悪さと、眉間から滴り落ちる汗に僕は目を瞬きさせて。

 

「あら、私も混ぜてもらえますか?」

 

 不意に新しい声が聞こえた。

 

「ん?」

 

「っ!?」

 

 視線だけを向ける。

 そこには一人の女性が立っていた。

 年齢は大学生ぐらいだろうか、凛とした浴衣に胸当てを付けた格好、全体としては背筋の伸びた長身の美人と言える女性。

 そして、その手に持っているのは薙刀――とはいっても刀身は練習用の竹製。刃物というわけではない。

 だけど、その周りに転がっている哀れな犠牲者たちを見れば、かなりの使い手だということは分かる。

 

「美人の姉ちゃんか、悪いが怪我してもしらねえぜ?」

 

「いえいえ、普段は他流試合とか許されないので――少し楽しみですの」

 

 カポエラ使いに、ニコニコと笑顔で告げる女性。

 薙刀使い、長物の厄介さと凄みを感じる佇まいに僕はため息を吐き出したかった。

 嘆きたかった。

 

「予選からこんなのばっかりか」

 

「ひゃひゃひゃ! 大乱闘ってのも中々に楽しいだろうが、悦べよ!」

 

「同感ですわ」

 

 嘆く僕に、嗤う男女二人。

 

『おおっと、Gグループ! なにやら三者立ちすくみで、大乱闘の予感だー!』

 

 アナウンスの声が聞こえる。

 ああ、誰か助けてと思いながらも。

 

「しょうがない」

 

 腰を落とす。右手を強く強く意識して、竹刀を握る。

 斜めに剣尖を構えながら、前のめりに体を構えて。

 

「全員打ちのめすよ」

 

 まだ参加者はたくさん残ってる。

 目の前の二人を倒さなければ突破出来ないなら、やるしかない。

 

「それは」

 

「こっちの台詞ですわ♪」

 

 一斉に声が響く。

 カポエラ使いが足を撓めて跳び上がるよりも早く、僕は前に踏み出した。

 ――薙刀使いに向かって。

 縮地法、腰を落としたのはそのための伏線。

 前のめりに、間合いを潰す。

 

「あらっ、まっ!」

 

 踏み込んだ僕を見て、後ろに下がろうとした薙刀使いが頭を下げた。

 顔面を狙って飛来した容赦無しの後ろ回し蹴り、カポエラ使いのそれを避ける。

 体勢が硬直する、手に持った薙刀は構えられない、至近距離に持ち込んで。

 

「っ」

 

 後二歩、というところで。

 ――視界に一筋の斬影が見えた。

 

「ひどいですわっ」

 

 片手に掴んだ持ち手、避けるために頭を低くすると同時に、その尖端を床に叩き付けるように振るった。

 竹製のそれが床に音を立てて反発、躱し切ると同時に残った手を添える、弾むような先端軌道を修正。

 結果――斜め下から突き上げるような刺殺撃の襲来。

 体を捻る、喉笛を破かんとした刃に冷や汗を感じながら、僕は上半身を回していて。

 がごんっと側頭部に激痛が走った。

 

「あ?」

 

 殴り倒されたのにも似た衝撃、回していた上半身、頭の耳上辺りがひき潰されたような熱を感じながら床に転がり倒れた。

 油断した。

 薙刀は突くだけじゃなく、薙ぐことをメインにしている。

 刺突から横殴りの斬撃――切れないから打撃に切り替えた。練習用とはいえ、頭が痛んで、視界がぶれた。

 

「うひゃはっ!」

 

「っう!」

 

 カポエラ使いの掛け声と、薙刀使いの悲鳴。

 それを聞きながらステージの上を転がる、板性の床。

 左肩からぶつけて、動かない腕だと受身も取れないからそのまま転がる。

 誰かが倒れているのに激突して、「いてぇ!」と呻いている誰かに謝りつつ、僕は竹刀を掴んだまま右手で這い上がる。

 けれど。

 

「トドメじゃー!」

 

 顔を上げた瞬間、カポエラ使いの奴の声と共に右肩に蹴りがめり込んでいた。

 踵から引っ掛けられて、床に叩きつけられる。

 

「がっ!」

 

 姿勢が崩される、痛みに思わず呻いて。

 けど、まずいと頭のどこかで鳴り響いていた。

 

「これで」

 

 ――竹刀を離す。

 

「ねて、ぉう!?」

 

 右手を跳ね上げる。

 力の限り――踏みつけたままの誰かをぶっ飛ばすぐらいに。

 

「な、めんなぁ!」

 

 肩に乗りかかった靴底、それが痛むのを感じながら右肩を上げて、少しだけ空いた空間に無理やり前に出した右足を入れる。

 力を篭めた、膝をぶつける、でも、踏ん張る。

 

「ぅぉ!?」

 

 タックルでもするように起き上がり、カポエラ使いを仰向けにひっくり返した。

 同時に脚が外れる。右手が動く、竹刀を掴むよりも早く右腕を構えて――殴りかかる。

 

「これで!」

 

「しぶといんだよ!」

 

 仰向けに倒れた顔面を殴ろうとして、折り畳まれた青年の両足が胸にめり込んだ。

 

「ぶっ!?」

 

 甘い体勢、体重は乗せ切れなかった。

 だけど、唾を吐いて、数歩後ろに下がるのには充分過ぎる威力。

 

「い、てて、て」

 

 ゴロゴロと五メートルぐらい勢い良く横に転がってから、カポエラ使いが起き上がる。

 僕はそれを警戒しながら、落ちていた竹刀を掴んで、そのまま同じように距離を取った。

 見れば、カポエラ使いに蹴られたらしく左胸を擦っている薙刀使いの女性がいた。

 丁度三角を描くようにといえばいいだろうか。

 お互いに接近しすぎないように位置を取り、体勢を立て直す。

 他の参加者のことも考えて視線を飛ばし、警戒は緩めないが――今のところ向かってくる奴はいない。

 

「ち、片方は潰そうと思ったんだけどなぁ」

 

 背中を擦りながらそう毒づくカポエラ使い。

 

「それはこっちの台詞です。そして、貴方。顔と胸を狙うとはいい度胸ですね」

 

「ああ、勝負に遠慮は無用だろう?」

 

 ふぅとため息を吐いて、蹴りを入れた青年を睨んだ後、こちらにも目を向ける女性。

 

「ところで、そちらはまだやれますか?」

 

 気遣うようで、脱落してくれるなら嬉しいのだろう。

 当たり前だ、僕でもそうする。

 

「そうだね」

 

 僕はズキズキと痛む肩を無理やり大きく回しながら、荒々しくなった息を一端吐き出して……ゆっくりと吸い込む。

 息を整える。

 頭が痛い。後で冷やしておいたほうがいいかもしれない。

 肩が痛い。シップ必須だ。

 胸が痛い。おそらく鉄板か鉛入りのブーツで蹴られた。

 けれど、泣かない。涙が出るほどに痛いけれど。

 警戒を緩めないまま、目に入り込もうとする汗を作務衣の裾で拭い。

 

「まだ負けるつもりは無いよ」

 

 はっきりと言っておいた。

 構える、右手はまだ動くのだから。

 戦える、諦め理由は無い。

 

「ふむ」

 

「ふふふ、かっこいいですね」

 

 カポエラ使いと薙刀使いが笑う。

 戦意は和らがない。

 

「一発逆転狙いってか? まあいい、オレが全員蹴り倒すだけだしな」

 

「馬鹿ですね。不意打ちが成功したぐらいで、勝てるつもりですか? 私が勝ちます」

 

 誰もが勝利を願う。

 誰もが諦めない。

 それが戦う技術を好んだ人間のサガだろうか。

 僕らは構えて、じりじりと再びの接触を行なうとし。

 

 

「――ほいっとな」

 

 

 声がした。

 同時に何かが倒れる音が。

 

『ん?』

 

 目を向ける。

 ――もちろんお互い得物を、武器を向けたままで。

 そして、そこにあったのは。

 

「ほら、抜けれるなら抜けてくれ。無理ならギブアップしてくれ」

 

「ぎゃー!? いてててて、ギブギブ!」

 

「よし、これで、八人だな」

 

 一人の人物が大きな巨体の参加者を投げ飛ばし、流れるように関節を固めてギブアップさせている光景。

 その周りには同じように関節を決められたのか、それとも"床に叩き付けられた"のか、唸っている多種多様の参加者たちがいて。

 

「ん?」

 

 その人物がこっちに目を向けた。

 そして、僕は知っていた。その顔を。

 

「山下さん!」

 

「お? 短崎か、お前も参加してたのか」

 

 上着にたこ焼き美味しいよ! という書き込みがされたTシャツ。

 下には濃い緑色のズボンに、シルバーの意匠が施されたベルトを巻きつけて。

 頭には無地のバンダナを巻いた、ラフな格好で、彼――山下 慶一はのんびりとした態度で立っていた。

 

「山下? 去年のウルティマホラ四位の奴じゃねえか」

 

 カポエラ使いの男が笑う。

 

「あらあら、結構な美形ですね」

 

 ぽっと頬を染めながらも、戦意の変わらない薙刀使いの女性。

 山下さんは軽く首を傾げて、周りを見渡した後。

 

「俺と短崎が残ったら、予選突破か?」

 

 そう呟いて。

 

 

「じゃ、俺も加わらせてもらうから」

 

 

 それが新たな乱入者の開始合図だった。

 

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