欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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本日は本編と閑話です


六十五話:明日を掴みたいから

 

 明日を掴みたいから。

 

 

 

 

 頭の中にあったのは攻略法。

 如何にあれだけ硬い田中を叩き壊すか、それだけを考える。

 視界の中では中村が拳で田中を殴り倒しているが、それでも破壊出来ていない。

 全力で殴ればコンクリート壁を破壊できるような中村の一撃でだ。

 

「おぉおお、加勢するぞ!」

 

 大豪院が挑みかかり、田中に跳躍しての蹴りを側面から撃ち込んだ。

 打撃音。

 飛び出した矢のような速度での蹴りは田中の上半身を傾かせて、その脇腹が軽くめり込んだ――が。

 

「っ!?」

 

 大豪院がもう片方の足を振り上げて、田中の顔面を蹴り飛ばした。

 二段蹴り。

 だだんっとシューズの底が顔面を張り飛ばし、大豪院がその反発力で地面に降りる。

 

「硬いぞ!」

 

「んなのは、分かってる!!」

 

「どんな材質だ、こりゃあ!?」

 

 大豪院が舌打ちして、俺が怒鳴って、中村が叫んだ。

 周りを取り囲む残りの参加者もあれだけの一撃を受けて、全然ぴんぴんしている田中に眼を白黒させているのが分かる。

 その本人たる田中はほの暗い目の光を輝かせ、ぶしゅーと首の付け根から蒸気――放熱を行なっていた。

 

『田中の表面皮膚は工学部が新開発した高反発合成ゴムです。内部装甲はスペースシャトルの装甲に使われているものと同じ合金を使ってますよ~』

 

『だ、そうです! 凄いハイテクロボットですね!』

 

 工学部の少女らしき声と朝倉の声が解説に響いて、びきりと怒りが迸った。

 

「無駄にハイテクやりやがって! くそ、気合入れろ二人共!」

 

「ああ!」

 

「応よ!」

 

 気合を入れて、息を吸い込む。

 と、田中がぐるりとこちら側を振り向いた。

 もはやロボットであることを隠すつもりも無く、上半身だけ回転し、こちらに向いてくる。少し不気味だった。

 

『排除シマス』

 

 やれるものならやってみやがれ!

 そう決めて、今度こそ不意を打たれないと構えた時だった。

 

『LOCK ON』

 

 ――ガションッと両手が俺と大豪院に向けられたのは。

 

「あ?」

 

「まさか!」

 

 俺が首を傾げて、大豪院が声を上げる。

 刹那、嫌な予感がした。

 

『避けろぉ!!』

 

 異口同音に叫んで、左右に跳んだ。

 炸薬の轟音が轟いたのはそれとほぼ同時だった。

 倒れこむように跳んだ俺の立っていた場所を、ぶっとい金属の塊――田中の拳が突き抜けた。

 風を切るような音と共に、"腕が飛んだ"。

 ロケットパンチ、どこぞの鋼の城が使うロボットの代名詞が飛んでくるなんて誰が想像する?

 牽引ワイヤーをたなびかせて、打ち飛ばされた文字通りの鋼の鉄拳は破砕音を響かせて、ステージにめり込んでいた。

 

「や、やばすぎだろ!?」

 

 背筋から冷や汗が出る。

 いつかの茶々丸にやられたロケットパンチを思い出すが、それよりも大型の腕はどう見ても威力は上だ。

 大豪院も思わず腰が引けて、それを見ている。

 

『非命中。戦闘参加人数、対象スペックサーチ――"気"使用者二名の存在を感知、戦闘武装レベルヲ第二種マデ移行』

 

 キュイーンとワイヤーを巻き取るウインチが火花を散らして、外れた肘先の中へとワイヤーを収納しながら、田中がガパリと口を開いた。

 ゴボリとえづくように喉の奥から何かが跳び出す。

 口の中に収まるような丸い球体、カメラのような硝子状の部分が先端から出てきて、なんていうか眼球のようだった。

 しかし、俺はどこかでそれを見たことがある。具体的にいうと、漫画とかSFアニメと、SFもどき魔法少女アニメで。

 

「全員逃げろぉぉ!!!」

 

 叫んだ。叫びながら逃げた。

 俺は全速で、体を倒すように転がり跳ねて。

 

『パワーMAXデス』

 

 ――光が迸った。

 チュイーンッという大気が焦げる様な音と目も眩むような輝き。

 

「ぎゃあー!?」

 

「うぎゃー!!」

 

 悲鳴が上がる、見知らぬ声。

 僅かに目を向ければ、そこにはぶっ飛んだ他の参加者が床に倒れて、焦げていた。

 床は焦げ目がついて、空気の焼ける音がする。

 

「び、ビームだと!?」

 

 誰かが叫んだ単語、それが正解。

 ビーム、SFでいう粒子光線だ。

 レーザーだったら大気中でも不可視であり、光が見えるわけじゃない。

 とはいえ、ビームなんて未だに実現化したなんて聞いたことが無い。

 ていうか、どう考えても。

 

「何考えてんだ!? ビームって、どう考えても出せるもんじゃねえだろ!」

 

 叫んだ。

 幾ら何でもありえない。

 常識的に考えて、技術力がおかしすぎる。

 その間にもビームが放たれる、口から乱射し、次々と掠めるように誰かに着弾する。

 焦げ臭い香りがする。

 

『ロボですのでー』

 

「ああ、ロボだからなー」

 

「ロボだからしょうがない」

 

 外野からそんな声が聞こえて、俺は逃げ回りながら吼えた。

 

「馬鹿か手前等! それ以前に、ビームは飛び道具じゃねえか!!」

 

 ロケットパンチは千歩譲って許しても、ビームは銃火器なんてレベルじゃねえ。

 理論上ほぼ亜光速、理系じゃねえ俺にはそこまでスペックはわからねえが、超音速程度の銃弾よりも速いはず。

 射出タイミングと甘い狙いのおかげで、何とか逃げ回っているが、本格的に狙われれば躱せない。

 

「ていうか、ビームで撃たれて平気なのか!?」

 

 撃ち込まれて肉が蒸発する自分を想像した。

 SF通りだったら腕が吹っ飛ぶ程度で済むわけがない。

 

『残念ながら、そこまで出力は無いです。精々数日病院送り程度ですよ』

 

「残念ってなんだぁ!?」

 

 ぶっ殺す。

 誰だか知らんが、解説の女は殺す。後で絶対にだ。

 幸い、解説は正しいらしく、撃ち込まれた連中はドリフみたいに吹っ飛んで、アッチィ! とか叫んでいる程度である。

 リタイアにはなるだろうが、死にはしない。

 床を蹴り、飛び込み前転で転がりながら、何度目かの着弾音を聞いた。

 

「っ、調子に!」

 

 床を蹴る。

 転がるように叩き付けた両足を、無理やり斜め前に向けて、転がった。

 目を向ける、跳ね上がるように出来損ないのクラウチングポーズから駆け出した俺の前に田中の側面が見えた。

 

「乗るなよ!」

 

 叫ぶ、注意を引き付けるために。

 田中が旋回する、上半身が唸りを上げてこちらに向いた。

 既に輝きを始める口内の発振器、背筋が凍りつきそうになる。

 でも、それでも――"その後ろに見える友人に微笑んだ"。

 

『FIRE』

 

 田中の声と共に光が強まり――それを見る前に俺は倒れた。

 光が背中の上を駆け抜けたのを目の前に映る影と光量で感じながら、いつもの通りに両手で地面を突いて、足を撓めた。

 前転、宙返り。

 ステージを蹴る、両足を跳ね上げて、両手を支点にひっくり返る自分の体を意識する。

 弧を描くように――振り下ろす。

 両の踵落とし、一時期興味本位で習ったカポエラの動きだ。

 どっちかというとダブルチッキだから、テコンドーかもしれないが。

 衝撃と共にめり込んだ俺の踵、田中の頭部が仰け反るようにゆがむ。

 

『頭部損傷、脱衣ビーム発振器破損』

 

 発振機がめり込んだ踵によってひび割れていた。

 俺は体重を後ろに戻し、足を戻して、バック転。

 全身がひっくり返る感覚、一回転分だけ天地逆になる視界、それを見ながらすたんっと着地する。

 

「どうだ?」

 

 返事代わりに、田中の右手が振り上げられた。

 殴りかかるような軌道、だが俺は間合いが遠いのを目視で図っていて、横に転がった。

 爆音。

 ロケットパンチの発射だった。

 

「がっ!?」

 

 思ったよりも正確な狙いに、肩を掠めた。

 がんっと激痛が肩に走って、きり揉むように地面に叩きつけられる。

 硝煙を上げて、右のロケットパンチを振り抜いた田中。

 それが左腕を構えようとして――"俺は勝利を確信した"。

 

『LOCK O――ERR?』

 

 ガクンッと田中が唐突に膝を崩した。

 

「な、なんだ!?」

 

「あ、あれは!」

 

 声を上げる他の生き残り。

 その理由が俺には見えていた。

 

「電源ケーブル、抜かせてもらったぞ」

 

 田中の腰から接続されていたケーブル、それが中村の手によって引き抜かれていた。

 パチパチと火花を散らす接続端子、それを誰にも当たらないように中村がステージの外に投げ捨てる。

 

『おっと! これは卑怯! なんと田中選手の生命線であるアンビリカルケーブルを引き抜いたぁああ!』

 

『ああ! その【T-ANK-α3】は、まだ内蔵バッテリーが不完全なのに!』

 

「うるせえ! ビームぶっ放すような相手にマトモに殴りあえるか! 頭脳プレーと言え!」

 

 朝倉と解説らしき少女に、俺は怒鳴り返した。

 その間にも田中の動きは弱くなっている。セーフモードにでも入ったのか、中村と大豪院のダブルキックでぶっ飛ばされて、たたらを踏んでいる。

 あの様子ならしばらく放置しておけば停止する、だろうが。

 

「――ぶっ壊す」

 

 流れる鼻血の不快感が、ズキズキと傷む肩が、怒りに薪をくべている。

 起き上がり、ゆるゆると息を吸い込みながら、未だに回収されていなかった田中の右腕パーツを踏みつけた。

 

『腕部パーツ、回収シマス』

 

 踏みつけたことで衝撃感知でもしたのか、ワイヤーを引き戻そうと右腕内部に見えるウインチが駆動する。

 ざりざりと踏みつけ押さえた右腕パーツが動き出す、が。

 

「ざけんなっ!」

 

 踵だけを一瞬上げて、引き抜かれる前に打ち落とした。

 震脚。

 右腕を踏み砕く、機械の部品が飛び出し、パーツがひび割れた。

 

『ライト腕部パーツ、破損シマシタ』

 

 そうダメージ報告をする田中の脚に、大豪院の蹴りがめり込んだ。

 後ろ側から、設計された関節部分に沿ってめり込む。

 凶悪な膝カックン。破壊すら躊躇わない一撃。

 中村が右手を振り抜く、発勁の動きに沿って――単鞭。

 田中の背中に手の甲がめり込み、田中の膝を落とすことによって衝撃から逃れることも出来ずに仰け反った。

 ばちんっと関節部分から火花が散る、内部パーツが壊れたのかもしれない。

 そして、俺が駆けた。

 踏みつけた右腕パーツを踏み台に、跳躍し、上半身を捻りながら旋転。

 

「くだ――!」

 

 田中の頭部を蹴り飛ばす。

 ばきんっと嫌な音と共に首が六十度に曲がって、俺は軸足から着地し、蹴り足を床に叩き落とす。

 体を捻る。

 四肢を螺旋に廻し、勁道を開き、捻りながら左腕を突き出した。

 

「けろぉ!」

 

 震脚からの衝撃、体重を乗せた螺旋の動きから繰り出す纏絲勁。

 三寸の距離からの胴体にめり込ませた短勁であり、その性質は侵徹力を与えた発勁。

 いわゆる浸透勁と認識されている一撃だった。

 柔らかなゴムと硬い装甲の感覚を理解しながらも、ただ一心にぶち抜くイメージを持ってめり込ませる。

 叩き付けた右足の靴底が破裂音にも似た震脚音を立てていて、ビリビリと足裏が痛かった。

 

『ガ』

 

 拳をめりこませたまま、田中が震える。

 壊れた声を上げて。

 

『ガガgGAGAギッギ、ダダダダメージほうコクヲ』

 

「寝てろ!」

 

「壊れとけ!」

 

 グルグルと首を廻し始めた瞬間、両サイドから蹴りがめり込んでいた。

 大豪院と中村の蹴り。

 三方向からの拳、蹴り、蹴りである。

 ボンッと口から煙を吹いて、目の光を失った田中がぐらりと揺れた。

 

「お?」

 

 慌てて離れると、糸の切れたマリオネットのように前のめりに倒れて、がしゃんと受身一つ取れないまま顔面からステージに倒れる。

 そして……もう動く気配は無い。

 

『おおっと、田中選手――撃沈、でしょうか?』

 

『ですねー。良いデータが取れましたが、まさか予選で落ちるとは思ってませんでしたー』

 

 朝倉と工学部の声が響き渡る。

 同時に喝采が上がった。

 少々汚いやり方だった気がするが……勝ったのは間違いない。

 

「よしっ!」

 

 だから、俺はガッツポーズを決めて。

 

「で、どうする?」

 

「あ?」

 

 大豪院と中村の声と視線に、思わず首を傾げた。

 そして、次の瞬間思い出す。

 

「そうだな、予選抜けれるのは"二人"だけだ」

 

 今いるのは三人。

 他の参加者を抜きにしても一人倒れないと、予選は勝ち抜けない。

 誰か一人がここで落ちる。

 それが現実。

 だから。

 

「――長渡、俺と勝負してくれ」

 

 中村の言葉に、俺は思わず眉間にしわを寄せた。

 大豪院も同じように不思議がって。

 

「どういうことだ?」

 

「俺は長渡とケリを付けたい、大豪院は他の参加者を倒してくれ。それで負けたら、勝った奴が進める」

 

「道理だが、俺の意見は無視か?」

 

 苦笑しながら言ってみる。

 が、他の参加者はビーム乱射で数を減らしているし、田中退治に参加してなかった辺りで大体計りは出来ている。

 大豪院なら一人でも他を倒せるだろう。

 そして、俺か中村か。

 どっちかが予選を通過する。

 

「悪い」

 

 中村がばつ悪そうに言う。

 勝手な提案だと思っているのだろう。

 

「いや、いい」

 

 けど、俺は笑う。

 腰を落とす、構える。

 それでいい。

 

「奇遇だが……俺も決着を付けたいと思ってた」

 

 手を広げる。

 並べるように、気息で呼吸を整える。

 

「……健闘を祈る」

 

 大豪院が手早く離れて、他の参加者に踊りかかっていった。

 けれど、関係ない。

 前を見る、構える中村に意識を集中する。

 

『おおっと! ここで田中選手を共に倒した両名が対峙しております! 友人対決のようです!』

 

 朝倉の声が聞こえる。

 騒がしい見物の声がして、夜の空に響きそうだった。

 俺は笑う。

 

「いいぜ、あの川原の続きをしよう。"あれを使ってこい"」

 

 中村が笑う。

 

「……いいのか? また倒しちまうぜ」

 

 お互いに笑う。

 拳を握り締めて。

 

「安心しろ、転がるのはお前だ」

 

「違うぜ、お前だ」

 

 ――互いに踏み込んだ。

 中村は体を捻りながら踏み出し、俺は縮地法。

 全速で距離を潰す、目の前に相手が飛び込んでくる。

 ――拳が離れた位置から閃いた。

 

「烈空掌!」

 

 足を踏み締め、ボーリングフォームのような軌道で中村が手を奔らせる。

 大地を蹴る、跳ね上がった。

 烈風が閃いて、跳んだ俺の足元を轟風となって掬った。

 

「きゃああああ!!」

 

 背後から女子の悲鳴が聞こえたような気がしたが、気にせずに体勢を立て直し、着地。

 片足だけでまた跳ねる、どこでもいいから跳んだ。

 

「弱、烈空掌!」

 

 先程よりも早く、連発するような軌道で、中村が手を振り抜く。

 風切り音が腹に向かい、肘を出して受ける――衝撃に声を洩らした。

 

「がぼっ!?」

 

 ガードした腕ごと腹にめり込んだ。

 ぶっ飛ぶ、後ろに吹っ飛んで、地面に落ちた。

 背中からぶつかる、滑る、手足が擦り剥けた気がして、熱い。

 喉から胃液が込み上げて、目の前がチカチカして、呼吸が出来ない。

 

「   !!」

 

 だけど、それでも。

 ――転がる。

 

「ちっ!?」

 

 中村の声、距離を詰めようとしていたのか。

 胃液を吐きながら、俺はすり傷だらけの腕を振って、横周りに跳ね上がる。

 左足の靴裏を床に叩き付けて、右手で床を突き、飛び出すように駆け出した。

 中村がこちらを向く、振り下ろすような軌道で――声が閃いた。

 

「遠慮はしねえぜ、裂空掌!」

 

 見える、風の揺らめき。

 不可思議にも風が中村の腕にまとわりついて、まるで投擲のように投げ放たれる。

 それに、俺は。

 "回りながら、捻り駆けた"。

 

「っ!?」

 

 ステージに踵だけをつけてのスピン。

 さらに手足を捻っての体捌きとバネ。

 両足を開いて滑らせながら、両腕を逆方向に捻って旋回する。

 裂空掌の軌道からずらしながら、"懐に回って迫る。"

 

「超えた、ぞ!」

 

 踵だけで体を跳ね上がらせて、息を吐き出しながら手を跳ね上げる。

 顎を打ち抜く、その角度。

 

「ちぃ!?」

 

 だが、掌底が受け止められる。

 響く打撃音。

 

「っ!」

 

 ギリギリと遮られた手の平、それが握り締められた瞬間、俺は後ろに仰け反りながら足を蹴り上げた。

 俺の爪先が中村の腹を蹴る、が。

 

「通じてない、よな!」

 

 腹筋の硬い感触とすぐさま放された手がその証明。

 吹っ飛ばされた後に、すぐさま足を床に叩きつけて、平然と立っている中村が不敵に微笑む。

 

「当たり前だろ!」

 

「なら、叩き続けるぞ!」

 

 宣言しながら床を蹴る。ステージを踏み締める。

 間合いは白兵、至近距離から仕留める。

 左のジャブを牽制で叩き込む、中村がスウェーで下がる。

 左の連撃、足で間合いを潰しながら拳を伸ばし、それを推手で捌かれた。手の甲が左手に打ち付けられ、巻き込まれる。

 甘い、引き寄せられながらも右のブロー。腰を回す、前足を落とし、つま先から踵まで連続的に叩きつけて、跳ね上げるような拳打――シャベルフック。

 打撃音。

 中村の左肘にガードされる、手が軋む。

 だが、ここから。

 蹴る、膝打ち。

 迎撃、膝蹴り。

 互いに膝をぶつけて、少し弾かれて、互いに腰を捻りながら手を突き出した。

 

「おぉお!」

 

「どらぁ!」

 

 脳裏に流れるイメージは竹筒から噴き出す水銀。

 打ち込まれる発勁、互いの胸を打つ。

 衝撃、違和感を覚えるよりも早く後ろに跳んだ。

 

「がっ!」

 

 激痛、内臓がひっくり返りそう。

 零れ出る胃液がすっぱい、だけど無理やり鼻から息を吸い込んで、胃液を飲みながら。

 飛び込む。

 中村も苦しいはず、眉間に皺を寄せながら歯を食い縛っている。

 

「まけっ、ねえ!」

 

 拳を繰り出す。

 痛みがズキズキする、殴るよりも早く顔面に痛みを感じた。

 視界が揺れる、どごんっという音が頬を歯から響いて、俺はよろめきながらも。

 ただ前を殴った。

 

「ぁあ!」

 

 右フックの打撃。

 手ごたえあり。

 

「ぐがっ!!」

 

 中村の声。

 攻めろ、左回転に体を回す。踏み込んで、ぼやけた影に向かって殴る、殴る、殴る。

 頬を殴って、攻め込みながら硬い腹筋を貫くようにブローして、よろめいた瞬間にさらに左フックを頬に叩き込む。

 中村の唾液が散る。床に零れて、空中に散った。

 脚がふらつく、酸素が持たない。

 心臓がバクバクして、肺が痛くて、口が不味くて。

 でもそれでも。

 

「おぉおおお!!」

 

 右足を跳ね上げる、蹴りを繰り出す。

 体を捻りながらのソバット、右足まで意識を通した渾身の一撃。

 

「!?」

 

 が、帰ってきたのは硬い感触と激痛。

 中村の肘、それが足の甲にめり込んでいた。

 

「ぅぅ~!!」

 

「なめ、んなあっ!」

 

 胸に――衝撃。

 掌底が叩き込まれて、体が浮いた。

 ぶっ飛んだ、と思った。

 胃液が零れ出る、すっぱいものが口の端から漏れ出て。

 

「  」

 

 だけど、それでも。

 何故か、俺は――立っていた。

 たたらを踏んで、後ろに数歩下がって、滑りながらも――立っていた。

 

「な、に!?」

 

「   」

 

 声が出ない。

 痛みでガンガンする、内臓が裏返りそう、激痛で神経が焼ける。

 喉が吐瀉物で詰まってる、鼻にまで生臭い味がする。頬が痛い、足が痛い、肩が痛い。

 けれども。

 ――左手を垂らした。

 前へ進む。

 

「烈空」

 

 声がして、手を跳ね上げる中村がいて。

 それに対して、右に踏み込みながら、体を投げ出した。

 足を全開まで伸ばした、滑らせた、縮地法。

 振り下ろす中村の腕、その肘に手を当てる。掌底、打撃。

 

「しょ、お!?」

 

「  か」

 

 させるか、といったつもりだったけど、声が出ない。

 その間にも右手が叩き落される。

 押し返される、けれど、左手がある。

 回転、逆方向に体を捻りながら螺旋に軸足を廻し、腰を廻し、肩を廻し、左腕を廻し、左指を回していく。

 触れる――分勁。

 螺旋勁の一撃、中村の脇腹から打ち込んだ。

 

「っう!?」

 

 勁を流すために吹き飛ぶ、いい動き。

 それに俺はさらに回りながら、体を倒す。

 沈墜勁、体を落とす体重の勁。

 螺旋を巡らせ、勁を閉ざさず、連綿と描く。

 右の一手、周り、回り、廻り、踏み廻り、俺はフィギアスケート選手の気分になりながら追撃の右手を中村に向けた。

 続ける、最後の一撃。

 

「ぶっ飛べ」

 

 着地した中村、後ろにスウェー。

 それを追い詰めて、右手を捻りながら伸ばす、触れれば終わり。

 そう、これが。

 

「連環勁(れんかんけい)」

 

 だだんっという最後の震脚も。

 心地よく痺れる最後の纏絲勁の一撃も。

 

 

 ただ目の前の中村に全て捧げて――俺は勁を撃ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言おう。

 俺は勝った。

 ただし、中村をぶっ飛ばした後に、口元を押さえてプルプルしていたが。

 勝ち名乗りが上がっても、反応できずに口と胃を抑えて蹲っていた。

 少しでも気を緩めれば吐いていたと思う。

 

「だ、大丈夫? 長渡」

 

「ん、んんっ」

 

 同じように予選を無事に勝ち残った短崎が声をかけてきたのに、俺は頷いて返事をした。

 内臓が痛い、ひっくり返りそうだった。

 連環勁でぶっ飛ばした中村は同じようにお腹を押さえているが、他の三人と普通に喋っている。どれだけの耐久力だ。

 

「それにしても残念だったね、豪徳寺さん」

 

 そうなのだ。

 豪徳寺は予選を通過出来なかった。

 ネギ少年と同じグループで、頑張ったものの負けてしまったらしい。

 ……まあ本人が納得しているようだから、口を挟む気は無いが。

 ネギ少年も強くなっているようだ。

 

「しょう、ぶ、は、ときの……うんだからな」

 

 息を入れながら、言いたかったことを言う。

 くそ、腹が痛い。

 

 

『――皆様お疲れ様です! 本戦出場者十六名が決定しました!』

 

 

「ん?」

 

「おお?」

 

 拡声器の声に顔を上げれば、最初の開会式と同じ場所で立っている朝倉の姿があった。

 予選終了から三十分。

 トーナメントの組み合わせが決まったのだろうか。

 

『本戦は明朝8時より、龍宮神社特別会場にて!』

 

 声がした。

 周りを見れば、予選を勝ち抜いた者たちの顔がある。

 大体が顔見知りで、ため息が出そうだった。

 

『では、大会委員会の厳選なる抽選の結果決まったトーナメント表を発表しましょう!』

 

 さあ、誰が来る?

 どう、なる?

 

『こちらです!』

 

 そして、現れたのは。

 

 

 

 

 

   まほら武道会 トーナメント表

 

ネギ・スプリングフィールド        神楽坂明日菜

タカミチ・T・高畑             桜咲刹那

 

犬上 小太郎                短崎翔

長瀬 楓                  高音・D・グッドマン

 

エヴァンジェリン              大豪院ポチ

A・K・マグダウェル

山下慶一                  竜宮真名

 

長渡光世                  クウネル・サンダース

古菲                    佐倉愛衣

 

 

 

「あ?」

 

「あ、あれ?」

 

『うぇえええええええええ!?!?』

 

 

 悲鳴と困惑の組み合わせだった。

 

 

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