欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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閑話:誰か、小人さん呼んで来い

 

 

 誰か、小人さん呼んで来い。

 

 

 

 生徒会としての腕章を嵌めて、俺は学生服姿で歩いていた。

 

「今日も明日も~、終わらぬし~ご~と~」

 

 と、即興の歌を歌いながら。

 

「なんです、その歌?」

 

 後ろを歩く巫女服姿の後輩が尋ねてくるが。

 

「今の気分だ、ボケ」

 

 歌わないとやってられないほどに忙しい。

 現在時刻、午後一時五分前。

 麻帆良祭が始まり、それぞれの魔法生徒や関連生徒が慌しく働いている。

 あまりにも忙しくて、現実逃避がしたくなるほどにだ。

 一応ギリギリまで仕掛けた地脈改造と対呪詛祓いの霊具で影響力を封殺。

 密教系術者により弁才天の分霊でも呼んで来ようかと思ったが、それだと逆に縁別れするカップルも出る可能性もあるから対応策には限界がある。

 上の学園長からは必要な術者を連れてくるという話だったが、現状対策魔法生徒のグループリーダーの一人になっている俺の元にはまだちっとも情報は来ない。

 

「AチームからCチームの霊具の補給は出来ているか? あと、工学部の進行状況は?」

 

 補佐として動いている春日井に状況を確認する。

 

「あ、はい。工学部からは臨時で建造中の工事と水道管の点検ということで、魔力溜まりからのスポットからの追い払いには効果を上げているみたいです」

 

 ペラペラと書類を捲り、首を傾げて記憶を確認しながら、春日井がつらつらと報告する。

 その間にも人ごみの中をぶつからないでいるのが不思議なぐらいだ。

 普段はドジっ子なのだが、緊急時には頼れるから使える。

 

「あと霊具のほうですけど、予定よりも消耗が激しいみたいです。大体一回の告白ごとに、霊具がひび割れるとか」

 

「ちっ、馬鹿魔力が」

 

 その報告に罵る。

 常識的に考えて、告白を全て妨害するのは不可能だ。

 例えば、告白しそうな人間全てを寸前で殴り倒すなどの方法を使えば可能かもしれない。

 だが、それは緊急事態でもなければ避けるべきだ。

 普通に考えろ。

 お祭りに来て、いいムードで愛を語ろうとした瞬間、誰かに殴られたら?

 しかも、それが生徒の誰かだったら?

 ――学園に通り魔がいるということになる。

 例え学園結界の"認識阻害結界"があろうとも、そういった精神的に不快になる事態に対して記憶に残らないはずがないのだ。

 そんなのは流すわけにはいかない。

 やるとしたらばれないように。

 だけど、出来るだけやらないように対抗術式を組み込み、呪詛を祓う。

 それしかない。

 それしか他人を傷つけない方法がない。

 例え、俺たちから見て「危なかったですね、危うく貴方たちは精神的な洗脳を受けるところだったのですよ」と言ったところで納得が出来るわけがない。

 殴られたほうからみたら、大切な思い出が穢されたという事実しか残らない。しかも外傷を負ってだ。

 たまに勘違いする阿呆がいるが、俺たちの認識と、常人の認識は異なる

 俺たちは在る事を知っているが、彼らは在る事を知らない。

 俺たち(魔法使い)の常識で動くのは、魔法使い(俺たち)しか関わらない事態でしか許されない。

 影で気付かれないように動く。だからこそ、他人の気持ちを推し量り、その身になって考える。

 それが出来ねえ阿呆は善意をやる資格すらない。

 どこかの医者漫画で言っていたけれど、医者はあくまでも治ろうとする患者の手助けをするだけだ。治すのは患者自身。

 同じように魔法使いも助けて欲しい人の手助けや、どうにもならないことをなんとかするために動いても、善意を押し付けるような仕事はしてはらない。

 事情を説明して理解を得るわけにもいかないから、なおさらだ。

 

「とりあえずジャンジャン霊具の在庫を持ち出して、仕掛け直して来るんだ。夜になればまた収まる、その間にさらに対抗策が打てる」

 

 二十二年に起きる世界樹の縁結び。

 実際に起きるまでその術式や、傾向、呪詛の質などの情報は少なかったが、今日の発生である程度のデータは取れている。

 傾向が分かれば、もっと有効な対抗策は打てるのだ。

 

「はいです!」

 

 コクリと頷いて、春日井がむんっと腕を上げる。

 気合があるのは嬉しいが。

 

「とりあえず俺は世界樹広場の方の点検にいくから。春日井、お前は結界の方見てくるか? 地脈関係はお前の専門分野だろう」

 

 結界術士でもある春日井が、俺と一緒に歩いているのは俺の知る知識よりも春日井の方が的確な判断をしてくれるからだ。

 三流魔法使いである俺では汎用性こそあるが、専門性に欠ける。

 それを見越しての一緒の行動。

 とはいえ、ある程度対策と傾向は打てている現在、急なトラブルでもなければ別々の行動の方が効率がいいかな、と考えたのだが。

 

「ええー!」

 

 なんだ、そのショックな顔は。

 

「ご飯食べましょうよー。朝からずっと働いてますしー」

 

 お腹に手を当てて、上目遣いに行ってくる春日井。

 

「ああ、そうだな……そういえば食ってなかったか?」

 

 徹夜明けのテンションで、空腹を感じていなかったが、そういえば何も喰ってない。

 精々エネルギーメイトゼリーぐらいだ。

 そこらへんの屋台で飯は食っているが。

 

「……分かった。食べるか」

 

「わーい」

 

「ただし、世界樹広場でな」

 

「え? なんでですー?」

 

「あそこが多分一番頻度が高い、点検ついでだ」

 

 春日井の疑問に、答える。

 直轄のうちの生徒共や、親交のある連中にはある程度の細かい指示・命令は出来るが、世界樹広場は他の奴らの担当だ。

 しかも、もっとも人気のあるスポットだから強引に閉鎖するわけにもいかない。

 一度は閉鎖しようという提案があったのだが、事情を知らない一般生徒多数から反対意見と正当な理由付けの提出を求められたのだ。

 当たり前だ、とも思う。

 昼飯には丁度いいし、誰もが世界樹を見上げようと立ち寄る場所を強引に閉鎖するわけもいかない。

 故に多くの魔法生徒と霊具を配置するようには提案と指示が出されているのだが、やはり不安がある。

 

「んー、ゆっくり出来なさそうですけど。ま、しょうがないですねぇ」

 

 はふぅっとため息を吐き出す春日井。

 やれやれと俺も嘆息して。

 

「頑張れ、飯ぐらいは奢ってやるから」

 

「おおー、ありがとうですぅ!」

 

「現金だな、お前」

 

 元気一杯とばかりにはしゃぐ後輩に、俺は苦笑しながら広場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 で。

 

「あ?」

 

「ほえ?」

 

 フランクフルトを片手に立ち寄った世界樹広場。

 そこでは、なんか見覚えのある人がいた。

 具体的には胸元曝け出して、視線を集めたまま扇子で扇いでいるビジネススーツ姿の眼鏡美人とか。

 それと話している見覚えのある年齢詐欺な褐色美人中学生とか。

 

「あ? 久しぶりやな、餓鬼んちょ」

 

 パチンッと扇子を閉じて、足を組んでいた女性がこちらを見た。

 

「おお、三森先輩か」

 

「龍宮に、天ヶ崎? 何故ここに? 特にそっち」

 

 ――天ヶ崎千草。

 ――龍宮真名。

 魔法生徒でも有名な銃使いの少女に、数ヶ月前に知り合ったばかりの女呪術師が広場の真ん中で話していたのだから気になるというものだ。

 しかも、確か天ヶ崎の方は京都にいるはずだと思ったのだが。

 

「ん? 千草は、三森先輩と知り合いなのか?」

 

「せ、先輩! どういうことですか!?」

 

 龍宮の疑問げな傾げに、何故か息の荒い春日井。

 

「何故に春日井は其処まで息を荒げる? まあ、ちょっとな。不始末で、知り合ったぐらいだ」

 

「そやなー。まあ京都では世話んなったわ、【百鬼夜行】潰しではな~」

 

 ニタリと嗤う天ヶ崎。

 相変わらず美人だが、底の知れない目つきだった。

 おそらく俺が顔を合わせて知っている術者の中では、五本の指に入るほどの呪術師。

 先の関西呪術協会と関東魔法協会の友好関係を示すための使者を送った時に、過激派の手先として振舞った女性だと聞いている。

 とはいえ、途中から和平派の近衛詠春に与して上手く立ち回り、鬼神リュウメンノスクナを"散らした"一因だとも聞いている。

 その事件の数日後、俺は事件の後付けと報告書を出すために京都に一度向かい、"鬼を静めた"。

 呪術協会の過激派の大粛清、それに反発した鬼還りの危機。

 全ては闇に葬ったが、あの時に暴れていた天ヶ崎の恐ろしさは記憶に生々しい。

 "鬼神壊し"の呪名の付くほどの使い手なのだから。

 

「ひゃ、百鬼夜行? って、まさか……」

 

 あわわわと春日井がその恐ろしさを神道系巫女として知っているのだろうが。

 べしっとデコピンを噛ました。

 

「あうっ! な、なにするんですか!」

 

「終わったことだ。気にするな。で、天ヶ崎……ここにいるってことは謹慎は解けたのか?」

 

「まあ、大体そんなところや。とはいえ、ウチに出来るのは呪符配ったり、アドバイスぐらいやけどなー」

 

 そもそもウチは下っ端やで、と肩を竦めて、左右に首を横に振る。

 その揺れで立派な乳房が上下に震えて、僅かに目を向けてしまうのは……まあしょがないよな。

 

「アドバイス、といっても私の仕事が殆どなくなったがな。まあ楽が出来るからいいが」

 

 龍宮が言葉を続ける。

 天ヶ崎がここに来て、幾つかの霊具を確認した後、呪を掛けてくれたのだと。

 おかげで告白生徒が出ても、やる仕事がなくなったと、嬉しいような寂しいような顔をして、背に背負ったバイオリンケースを叩いた。

 

「せっかく取り寄せた麻痺弾が無駄になったよ」

 

「撃つな、馬鹿」

 

 んなもん撃たれたら、麻帆良学園の問題になるわ。

 龍宮は傭兵として生きていたせいか、シンプルにかつ、契約以外のことに対してはフォローを考えずに動くケースが多い。

 常識的に考えて、撃たれた相手がその後どういう気持ちになるのか、まったく考えない。

 それがベストだという生き方をしていたのだろうが、ここは日本で、ここは平和な学園だ。

 思考内容を切り替えるぐらいの柔軟性を持ってくれと、ため息を吐いた。

 

「で、そういえば。天ヶ崎、具体的にどういう対策したんだ?」

 

 告白生徒が出ても、平気って。

 霊具で呪詛を受け流すか、対象を変えるぐらいしか俺たちは出来なかったのだが。

 

「ん? そうやな、結構単純やで」

 

 そういって天ヶ崎が見てみ、と指差した方角には――二人の男女。

 うちの高校の生徒と、聖ウルスラっぽい女子生徒。

 

「あ、あの英子先輩! お、俺!」

 

「ん、なに?」

 

 やべえ、どう見ても告白です。

 咄嗟に身構えようとして、天ヶ崎がふぅーと息を吐き出すのが横に見えた。

 

「ずっと前から先輩のコトが好きだったんです!」

 

「え? な、直哉君?」

 

 ああ、告白だねぇ。

 思わぬ発言に戸惑う女生徒と、男子。

 

「うわぁ」

 

「ピュ~♪」

 

 顔を赤らめる春日井と口笛を吹く龍宮。

 初心と下品の対照的な態度。本当に年齢が逆なんじゃないだろうか? と思うよ。

 春日井、お前龍宮より年上だろうが。高1だし。

 で、思わぬ告白に視線が集まり、顔を赤らめる男女が「え、あ、あの。いきなり言われても困るわ」「で、でも本気ですから――」 と、なんか会話して、思わず俯いている。

 どう見ても世界樹の縁結びに掛かった様子は無い。

 とはいえ、発光はしているが。

 

「で? どういうことなんだ?」

 

 これ以上はデバガメになると、春日井の頭に手を掛けて、方角を変えながら尋ねた。

 天ヶ崎は懐から取り出した煙草を咥えて、火を付けて。

 

「んー、簡単に言えば非効率化したってことやな」

 

「あ?」

 

「精神に働きかける縁結びやろ? その呪を弄って、心拍数や体温を上がりやすくしたって形にしたところやな。具体的には吊橋効果が起こりやすくなっとる」

 

 無理に対抗したら人が勝てるもんやないさかいと、ぼやくように天ヶ崎が呟いた。

 そのまますぅーと紫煙を吸い込んで、ゆっくりと味わうように吐き出しながら。

 

「結果、告白は成功しやすくなっとるけどなー。精神に掛ける働きを丸々肉体に当てとる分、ごっつ消費量が激しいし、強引にくっつけるほどの効果はあらへん。大体嫌いな奴やったら、上がる心拍数も大したことあらへんし、その程度で恋に落ちるわけがないわ」

 

 人の心はな、呪に掛かりやすいやねん。

 と、天ヶ崎は笑った。

 

「肉体を自由自在にするのは如何な呪でも難しい。例えば、足止めするなら心を弄る、感覚を少しばかり狂わせる程度でええ。庭から入ってきたこそ泥が、いつまで経っても家に辿り着かんと思ったら、庭の石の周りをグルグル回っとった。精々そんなもんや」

 

 だから、世界樹のあほんだらは楽をしようとしたんや。と、女呪術師は馬鹿にする。

 

「自分が平和に人を愛する方法を知らんから、他人にも間違った愛し方を押し付ける。神様と同じや、人なんつうのは予定してなかった馬鹿な木偶やっつうのに、一辺通りの対処方法で解決出来ると思うとる」

 

 紫煙を吐き出し、ゆらゆらと妖しげな雰囲気を漂わせながら彼女は詠う。

 とくとくと、言葉を吐き出し、呪を掛けていく。

 

「心は染め上げやすいねん。絵の具とカンバスや。強引に塗り潰せばどんな色にも染め上げられるねん、出来上がる絵のことを考えへんかったらな。だから、こいつは考えてへん。芸術性がない、絵心なし木君や」

 

 呪術師は心を操る。

 陰陽を司る陰陽師、治水を司る風水師、旧き言葉を操る真言使い。

 それとは違う、どこまでも人間を対象にした呪術師。

 侮れないと、考える。

 

「少なくとも初日の段階ならこれで防げるさかい。告白が成功する伝説やなくて、成功しやすいだけの木になっただけどなー」

 

 カラカラカラと笑って、天ヶ崎は立ち上がった。

 颯爽とした佇まい。

 艶やかな体のラインを、惜しげもなく、自然に震わせながら、吸い切った吸殻を取り出した携帯灰皿に仕舞い込む。

 その指先にまで丁寧にマニキュアが塗られて、どこまでも色付いていた。

 

「ま、今日から三日間世話になるわ。あの仙人頭に雇われたしなー、餓鬼共はそこそこ楽しみながら遊んでけや」

 

 そういって、天ヶ崎は用事は終わったとばかりに立ち去ろうとして。

 

「あ、そういえば。一つ訊ねてええか?」

 

「? なんだ」

 

 クルリと長い髪を揺らして、匂い立つような笑みと共に言葉が散った。

 

 

「ウチの、犬ジャリ。どこにおるかしらへん?」

 

 

 

 

 

 

 天ヶ崎千草は華麗に去った。

 

「……と、いうわけだな。だから、ここは大丈夫だ」

 

 そういって龍宮は暇を潰すようにベンチに座り、ポケットサイズの詩集を読み始めた。

 問題が起こらない以上、彼女がやる仕事はないのだろう。

 いい身分である。

 

「……なんか、色々納得がいかないが。まあいいか」

 

「いいんですかー?」

 

「この程度なら見逃せるだろう。しかし、ぬいぐるみとか何故に子供と戯れているんだろうなぁ?」

 

 視界の端に映るぬいぐるみが、女の子に花を上げている光景を見ながらぼやいた。

 

「さ、さぁ?」

 

「まあいいか。飯でも食べて、少し休憩するか」

 

 携帯を取り出し、問題が行なっていような順次ローテーションにしたがって休憩や食事を済ませるようにメールを作成する。

 

「それじゃ、私。屋台に行きましょうか?」

 

「じゃあ、ほれ。これで買ってこい」

 

 財布から取り出した二千円を春日井の手に握られせて、頭を撫でておいた。

 むっ、と子ども扱いに頬を膨らませたが、「い、行ってきますね!」と声を上げて、パタパタと走り出した。

 その後姿に手を振りながら、俺は適当に空いているベンチを探して。

 

 

「――青春だな」

 

 

「なにがだよ?」

 

 座っていた龍宮がぼそりと呟いた言葉に、俺は首を捻った。

 後輩パシリにしただけなんだが。

 一応、青春、だろうか?

 

「鈍い、な」

 

「まあまて、普通に考えてピーンと来たが、俺はあまり良い先輩じゃないぞ?」

 

 龍宮の言葉に、一瞬で想像されている思考をトレースしたが。

 訂正しておこう。

 俺はただの人使いの荒い男であると。

 

「好かれる要素が微妙すぎるぜ」

 

 パシリにしているし、容赦なく叱ってるし、書類整理は手伝わせているし。

 大体今回のも無駄な仕事を増やして、付き合わせているのだ。

 好感度は高くないと思うんだ。

 という、説明を軽くしたのだが、龍宮は本に目を落としたまま頷き。

 

「だが、それがいい」

 

「アイツが苛められるのが好きっていう性癖でもない限り、ねえと思うんだが……あとお前微妙に話が通じてないだろ」

 

 なんか変な単語しか発してねえし。

 はぁ、とため息を吐き出して。

 

 ――携帯が鳴った。

 

「ん?」

 

 

 

 着信相手は――珠臣節と表示されていた。

 

 

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