欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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六十七話:さあ始まるぞ、騒がしい戦いが

 

 

 さあ始まるぞ、騒がしい戦いが。

 

 

 

 まほら武道会本戦。

 選手の控え室に入った途端、ざわりと視線が向けられた。

 古菲、ネギ少年、小太郎、桜咲、神楽坂、山下に、大豪院。

 まあ知っている面子。

 その他に高畑先生とエヴァンジェリンが部屋の隅で話をしている。

 これもよし。

 なのだが――あの怪しげな格好をしている三名は何なんだろうか?

 如何にもなローブとフード姿の男っぽい奴はいるし、残った二名は不審者として通用しそうな黒ずくめで顔を隠している。

 通報されないか? と思うが、まあ仮装に当たるのか?

 

「怪しい格好だなぁ」

 

 同じ感想を抱いたのか、横で短崎が呆れたようにぼやく。

 視線を向けられているのに気付いたのか、そそくさと明後日の方向を向く黒ずくめ二人に、大して気にした様子も無くゆったりとしているローブの人物。

 と、そこに。

 

「遅いでー、長渡の兄ちゃん」

 

「普通じゃね? おはよう、小太郎」

 

 ぱたぱたと小太郎が歩み寄ってきたので、挨拶をした。

 この間くれてやった革の紺色ジャケットに、ぶあつめの黒いズボンを履いている。

 大体一緒にいるネギ少年と神楽坂は……高畑先生と話をしているか。

 

「おはようアル! 気持ちイイ朝ネ!」

 

「ういっす、今日はお手柔らかにな」

 

 と、そこに元気にパタパタと手を振る古菲が声を上げた。

 無視するわけにもいかないので、手を振り返す。

 ――今日やるんだよなぁ。

 勝てるのか?

 そう疑問を抱ければ、即答は無理だた。

 けれど……逃げるわけにもいかない。

 明るい笑顔を浮かべる古菲に、目を細めながらも息を吐き出して。

 

「おはようございます、先輩方」

 

「よっす」

 

「おはよう、桜咲」

 

 と、その後ろから桜咲が現れた。

 そして、その姿を一瞥する。

 短崎が友好的に挨拶をしているのを聞きながら、俺はふと思う。

 

「ところで桜咲、その格好で試合に出る気?」

 

 上は制服、下はひらひらとした指定制服のスカート。

 ――どう見ても制服姿だった。

 神楽坂と桜咲、そろって学生服とか大丈夫なのか?

 

「制服汚れるだろうし、ていうか、スカート見えるんだけど」

 

 激しく動いたらどう考えてもそうなるよなぁ。

 俺の疑問を代弁するように短崎が呆れた目と口調で告げたのだが。

 

「あ、いえ、大丈夫です。ちゃんと着替えますから」

 

 桜咲は少しだけ顔を赤くして、頷いた。

 着替える?

 

「着替える?」

 

「ええ、明日菜さんと一緒に朝倉さんの方から衣装を指定されまして……試合までには着替えますから」

 

 どんな着替えなのかは聞いてないんですけどね。

 と、少し不安がるように呟く桜咲。

 深く知っているわけではないが、朝倉のあの性格だ。どんな仮装を用意しているのだろうか、不安だろう。

 

「せめて動きやすいといいね」

 

「普通の格好、は無理でしょうか?」

 

 片手を胸の前で立てた短崎に、桜咲が俯いて絶望の声を洩らした。

 まあ確かにおかしい格好のはいるからなー。何故かバーテンダー服の長瀬とか。

 後山下とか。

 

「うぉい! その目はなんだ!?」

 

「うるせえ。何だその格好、恥ずかしくないのか」

 

 似非ビジュアル系みたいな格好を決めた山下に、ジト目を向けたら反応した。

 上から下まで真っ黒なアンダースーツっぽいし、両二の腕にベルト着けてるし、無駄にイケメンだし。

 どこの格ゲーキャラだ。

 

「酷い! 折角の一張羅なのに!」

 

 よよよと嘘泣きする山下。

 頑張れ山下! と励ます大豪院。

 甘やかせるな、調子乗るぞそいつ。

 

「というか、そっちの横のも大概じゃないか?」

 

 だったが、ふと思いついたように告げた。

 視線は短崎に向かっている。

 

「……それもそうだな」

 

「え!? 僕!?」

 

 ガビーンとショックを受けている短崎。

 そういえばこいつも他人のこと言えないよな。

 袴姿だし、江戸時代とかの侍みたいだし。

 

「おはようございます、皆さん!」

 

 その時だった。

 雑談をしていた俺たちの会話を中断するように、声が響く。

 室内に居る全員が目を向ける。

 

「ようこそお集まりくださいました!」

 

 其処には超を連れた朝倉が張り出されていた試合表の前に立ち、マイクを持って声を響かせている。

 昨日と同じく少し厚めの、どことなく大人っぽい化粧を施し、黒い身体のラインが浮き彫りになるようなワンピースを着ていた。

 後ろの超は昨日と同じく厚ぼったい中華服姿だが。

 

「三十分後より第一試合を開始したいと思います」

 

 時計の針を見れば既に七時半を示している。

 八時丁度からか。

 

「ですが、ここでルールを説明しておきましょう」

 

 よろしいでしょうか? と周りに確認を取るように朝倉が視線を巡らせて、俺たちは頷いた。

 同意が取れたと判断し、咳払いをすると朝倉が口を開けた。

 

「15メートル×15メートルの能舞台で行なわれる15分一本勝負! 【ダウン10秒】【リングアウト10秒】【気絶】【ギブアップ】で負けとなります。時間内に決着が付かなかった場合、観客からのメール投票に判断を委ねます」

 

 ポイント判決は観客任せってことか。

 リングアウト即敗北ってわけじゃないから助かるな。

 

「なお、武器等の反則は昨日と同様。魔法詠唱の禁止、飛び道具の禁止です。――ちなみにここでいう飛び道具は銃火器や、弓などの矢尻が付いた殺傷性が高いものであり、投縄や、投石、事前にチェックを受け、問題ないと確認された投擲武具などはOKです!」

 

 短崎の手裏剣も通ったしな。

 と、そこから多少の細かい説明があり、試合を見物するための選手席の位置や、負傷した場合の臨時救護室や、着替えなどに必要な臨時更衣室の場所を説明される。

 

「と、では他に質問はありませんでしょうか?」

 

 声は上がらない。

 質問は無かった。

 故に、朝倉がコクリと頷いて。

 

「では、皆さん。健闘をお祈りします! 第一試合の桜咲刹那選手と神楽坂選手両名は更衣室へ!」

 

 では、試合をお待ち下さい!

 そういって朝倉と特に出番の無かった超が去っていった。

 

「じゃ、行ってきますね」

 

「それじゃあねー」

 

 桜咲と神楽坂の二人が戸惑った顔で手を振り、更衣室へ向かう。

 その後姿を見ながら、俺は首を軽く回して。

 

「じゃ、選手席にでもいくか」

 

『おー!』

 

 ちびっ子二人と子供じみたうちの部長が手を上げるのを見ながら、苦笑した。

 さてさて、どうなるかね?

 

 

 

 

 

 選手席は試合会場に一番近いある意味特等席とも言える位置にあった。

 俺たちは簡素な横長ベンチに腰掛けて、試合を待っていた。

 といっても、大人しく座っているのは俺と短崎と後数名ぐらいで。

 高畑先生はエヴァンジェリンと離れた場所で話をしているし、ネギ少年一行は観客席で近衛や他の生徒だろう少女たちを話しをしている。

 怪しげなフードと黒ずくめ二名は座っていたり、立っていたりと安定していない。

 山下と大豪院は腹減ったといって、少し離れた席でジュースとエネルギーメイトを齧っているぐらいだ。

 

「しかし、どっちが勝つんだろうなぁ」

 

 神楽坂と桜咲。

 神楽坂の方は数ヶ月前に……微妙に思い出したくもないが、殴りあった仲だ。

 一応その身体能力は知っているが、武道は使ってなかった気がする。

 桜咲の方は結構出来るように見えたが、実力は分からない。

 

「どうだろうね、多分桜咲が勝つと思うけど」

 

 短崎は肩に背負っていた竹刀袋を横に掛け、手に持っていたバック――ミサオさんから貰ったものを足元に置いた。

 選手控え室に入る前に渡されたものだが、中身は――ただの"水の入ったペットボトル"とどこにも売っているような麻の白布だった。

 ついでに中には『扱い説明書』と書かれたメモ用紙があって、それを読んだ短崎曰く。

 

 ――木刀を軽くペットボトルの水で洗って、その後同じ水で濡らした布を巻きつけておけ、以上。だって。

 

 らしい。

 聖剣と言っていたけれど、意味がよく分からない。

 短崎も多分分かってない。今までの経験から考えればまじないの類だとは思うが。

 

 ――まあ使えるものなら使うべきかな? 好意だし、贅沢言えるほど強くないから。

 

 と、短崎は苦笑していた。

 その短崎は今真剣な顔で無人の試合場を見ていた。

 

「んで、これが勝った方が勝ち抜いた場合のお前の対戦相手になるわけだ」

 

「そう、なるね」

 

 俺の言葉に、短崎が少しだけ視線を横にずらして答えた。

 緊張しているのか、少し口調が固い。

 それを解きほぐそうと思って、俺はさらに口を開きかけて――

 

「先を考えるのは早すぎますわ」

 

「え?」

 

 聞き覚えのない女の声が聞こえた。

 目を向ける、選手席に座っていたはずの黒ずくめの片方――それが短崎を見ていた。

 

「まずは戦うべき相手を考えるべきかと。まだ決まってもいない先を考えていたら足元を掬われますわよ?」

 

「だろうね。で、なんで参加しているのかよく分からないんだけど――グッドマンさん」

 

 知り合いか。

 短崎が落ち着いた口調で呟き、黒ずくめその1が不意に黒いローブの中で微笑んだようだった。

 グッドマンっていうと、高音・D・グッドマンだったか?

 短崎の対戦相手だったはずだが。

 

「……私の存在を察知していましたか」

 

 少し意外そうに眉を揺らした、ように思えたのだが。

 

「いや、名前堂々と書いてあったし」

 

「あ」

 

 短崎の当たり前の言葉に、あっという言葉を洩らす黒ずくめ。

 ――気付いてなかったのか、馬鹿じゃね?

 

「お、お姉様! だから、本名で登録するのはどうかと思ったんですよ!」

 

 その後ろから慌てた声を上げる少女らしき黒ずくめその2。

 いいぞ、もっと言ってやれ。

 

「ふふふ、ちょっとお間抜けさんでしたわね、私」

 

「桜咲も気付いていたけど」

 

「……まあ、いいですわ。別段後ろめたいことをやっているわけでもないですし」

 

 どう見ても負け惜しみです、本当にありがとうございました。

 そんなフレーズが脳内に流れたが、短崎は淡々と。

 

「で、なんで参加しているの? 賞金目当てなら分かるけど、下手しなくても怪我するよ」

 

 危ないからやめたほうがいい。

 そんな忠告というか、疑問を発するような短崎の口調だった。

 それに黒ずくめその1は、隠れた頬に手を当てて。

 

「少々、説教したい相手がいまして」

 

 そういってその視線が、選手席から離れた観客席で話をしているネギ少年たち一行を睨んだように思えた。

 

「説教?」

 

「?」

 

 が、彼女は肩を竦めると、左右に軽く首を振り。

 

「残念ながら別ブロックになりましたが、まあ優勝を狙う理由もありますから。それに」

 

 と、少しだけ口ごもり。

 

「――"気になる人物"もいますので」

 

 どこか冷めた口調で、黒ずくめその1が声を発した。

 その言葉内容に、俺はぴんと来た。

 

「なにやった? 短崎」

 

「え? 僕!?」

 

「ち、違います!!」

 

 短崎のことか? と思い、半分冗談で呟いたのだが。

 神速で否定が飛び出した。

 ブンブンと首を横に振る短崎と、大きな声を上げたからかゴホゴホとわざとらしい咳払いをする黒ずくめその1。

 

「それと三森から話は伺いました。どうやら事情関係者のようですので、私も手加減はしません」

 

 怪我をしないうちにギブアップをお勧めします。

 そう告げて、もう一人の黒ずくめを連れて離れた座席へと戻っていった。

 思わず俺と短崎が顔を向けあう。

 

「だとさ」

 

「うーん、どうしょうかなぁ」

 

 困った顔で短崎が頬を掻き、頭を悩ませる。

 まあ俺からは頑張れとしか言いようがないよなぁ。

 

「とりあえず、がんば――」

 

 

『皆様、お待たせしました~!』

 

 

 俺が励ましの言葉を伝えようとした時、会場中に響き渡る拡声器の声が響いた。

 ん? と思わず顔を上げた時、なにやら観客席の方から歓声が上がった。

 

『今大会の華! 桜咲選手に、神楽坂選手です!』

 

 朝倉の声と共に選手控え室の方から現れたのは――ひらひらのメイド服を着た神楽坂と桜咲だった。

 神楽坂の方は頭に可愛らしい帽子を被り、手には何故か大きめのハリセンを持っている。

 桜咲の方はメイド服というよりも女給服に近いデザインで、手にはデッキブラシ?を携え、その頭には――黒のネコ耳を付けていた。

 

「~~~~~!!!!!」

 

 短崎が転げまくって、爆笑している。

 すげえいい顔で爆笑していて、酸素が大丈夫か怪しい。

 俺もさすがに苦笑いしか出来ない。

 

「おお、これは、ひどい」

 

 コスプレ的な意味で。

 見れば、二人の登場に選手席へと戻ってきたネギ少年たちも二人の格好に口を開けていた。

 

「そ、そんなに笑わなくてもいいですよね!? 短崎先輩!」

 

「ていうか、朝倉ー! この格好はなんなのよー!」

 

 試合会場に差し掛かる橋の手前で、こちらに気付いた二人が声を上げる。

 怒っているような、泣きたいような、そんな顔だ。

 

「馬鹿じゃない!? 阿呆じゃない!! やばい、笑える! すげえ笑える!!」

 

 ツボに入ったらしく、短崎がゲタゲタ言いながらベンチを叩いていた。

 

「そ、そんなにおかしいですか!?」

 

 涙目で逆切れを起こしたようにニャーという感じで、桜咲が両手を上げて吼えるが。

 

「いや、おかしいだろ」

 

 だってネコ耳装備でモップだぜ?

 

「……私も同感」

 

「それが常時格好ならば全力で引くぐらいにはな!」

 

「あ、すいません。僕もフォローは無理です」

 

「頑張れ、姉ちゃん。な~む~」

 

「グッドラック!」

 

「以下」

 

「略アル!」

 

 俺、神楽坂、エヴァンジェリン、ネギ少年、小太郎、龍宮、長瀬、古菲によるフルボッコ劇場だった。

 

「僕はんー、ノーコメントで」

 

 いや、高畑先生。その答えは意味がねえ。ていうか、少し口元が笑ってるよ。

 山下と大豪院だけは無言で、サムズアップしていたが。

 ズズーンと両手を地面に着けて、うちしがれる桜咲の慰めにはなってない気がする。

 あと短崎笑い過ぎだろ。

 

「ウゥ、酷いです~」

 

 意気消沈とばかりに、ガクリとした桜咲だった。

 

「あらら。折角の綺麗どころだから用意した衣装だったんだけど、逆効果?」

 

 と、そこで司会の朝倉が少し困った顔で笑っていた。

 

「朝倉ー! なんなのよ、この服! しかも、これじゃあ下着とか動いたら丸見えじゃないのよ!」

 

「アハハ、ごめんごめん。でも、あんたたちアピールポイント少ないからね。超主催の指示だからねー」

 

 なんたる横暴。

 俺には祈るしか出来そうに無かった。ていうか、巻き込まれたくない。

 

 

「とはいえ、可愛らしいですよ。お二人共」

 

 

 ん?

 騒がしく言葉が交わされる中に、いつの間にか白いローブを被っていた人物が混ざっていた。

 そして。

 ワシャワシャとおもむろに伸ばした手が頭を撫でる――神楽坂の頭を。

 

「ふぇ!? な、何するんですか?!」

 

 突然の行為に真っ赤になりながら跳ぶように後ずさる神楽坂に、フードの男は落ち着いた佇まいで告げた。

 

「間近で見ても信じられませんね。あの頃とは別人のように明るく、快活に育ったようで。友人にも恵まれたようですし、ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグが貴方をタカミチ君に預けたのは正解だったようですね」

 

「は?」

 

「え、え?」

 

 さらさらとどこか芝居演劇にも似て、或いは無機質な声の響きに感情の色を乗せて、その人物は言葉を紡いだ。

 

「……何も考えず、心を無にして戦いなさい。そうすれば勝機が見えるでしょう」

 

「あんた、だ、誰?」

 

 謎掛けのような言葉を与えるフードの男に、神楽坂が首を捻った。

 どこか驚いたような顔で、或いは戸惑うような表情。

 知り合いってわけ、でもなさそうだが。

 

「それはナイショです」

 

 神楽坂の質問に、謎めいた態度の男は唇に指を当てて微笑んだ。

 

「ど、どういうことよ!? 意味の分からないことばかり――」

 

「あ、明日菜さん! 落ち着いて」

 

 血気盛んに、眉を上げて神楽坂が男に掴みかかろうとして、桜咲に止められた。

 

「そうそう! あと、そろそろ舞台に移動してくれない? 時間も迫ってるし」

 

「あ、はい」

 

「……分かったわよ」

 

 腕時計をおもむろに見つめ、朝倉が二人に試合開始時間を伝えた。

 桜咲が頷き、神楽坂も不満そうにだが頷く。

 

「二人共頑張ってください!」

 

「まあ、出来るだけね」

 

「二人共気をつけてね。怪我しない程度に、ていうブラシでいいの?」

 

「大丈夫です、得物は選ばない主義ですから」

 

 思い思いの声援に答えて、二人の少女が試合舞台に佇む。

 誰もが目を向ける最中。

 

「で、どういうつもりだ? 小童。散々顔すら出さなかった奴がここに来るとは」

 

「……エヴァ、落ち着くんだ」

 

 そんな声を洩らすエヴァンジェリンの声が聞こえた。

 フードを被った男に対して、相変わらず黒基調のゴスロリな衣装を纏った金髪の少女が小童呼ばわりには違和感があったが。

 その迫力だけは些かもおかしくない。

 隣に立つ高畑先生の制止も聞かずに、凍りつくような冷たい顔を浮かべている。

 

「――相変わらず手厳しいですね、エヴァンジェリン。封じられた十五年の間に多少歪んだ性根は戻ったと期待していたのですが」

 

 やれやれと肩を竦めるフードの男。

 ネギ少年が不思議そうに二人を見ていたが。

 

「ほざけ。くたばってなかったらさっさと顔を見せるのが礼儀だろう、アルビ――」

 

「クウネル・サンダースですよ」

 

「言霊対策か? それともただのふざけか?」

 

「ケケケ、タダノ洒落ダト思ウゼ」

 

 さらりと出掛けた名前に、割り込むように訂正するフードの男――クウネル・サンダースと名乗る人物。

 それを座ったまま足を組み、横に立つ人形に風を仰がせていたエヴァンジェリンが告げた。

 

「まあいい。人の捜索努力を無駄にしたんだ、引き裂いても構わんよなぁ?」

 

 ニタリと笑って、本気の瞳でクウネルを睨み付けるエヴァンジェリン。

 

「おやおや、それは怖い」

 

 そう呟きながらも、クウネルの口元には微笑が浮かんでいる。

 

「二人共、落ち着いてくれ。ここで争うわけにはいかないだろう?」

 

「黙ってろ、タカミチ。親愛と悪意の見分けもつかず、敬意も持てない糞餓鬼に教育してやるだけだ」

 

 淡々とした口調で、美しい金髪の髪を揺らし、人形に持たせていた黒い鉄扇を受け取るエヴァンジェリン。

 ギスギスとした不穏な空気が漂っていた。

 俺と短崎は事情が分からないので口を挟めないのだが。

 

「……あの、マスター? 彼は一体?」

 

 ネギ少年が無謀にも近い勇気を持って訊ねた。

 勇気あるな! と思うが、少し涙目だからかなり無理をしているのだろうと思う。

 

「お前の父親の友人の一人だ。筋肉馬鹿と、むっつり眼鏡と、若作り爺もどきと、煙草眼鏡一号と、特大の阿呆で人格面的に救いようがなく呪文を覚える記憶力もなく契約を放置して女を拵えて子供まで孕ませるような赤毛野郎、ではない奴だ」

 

「あれ!? 最後父さんですよね!?」

 

「僕は二号かい?」

 

 なんていう酷い奴だ、と思う。

 説明だけ聞いていると救いようがないな、最後の奴は。

 

「実に正確ですね」

 

 クウネルが肯定する。

 

「ええー!?」

 

「兄貴ぃ、全部事実っぽいですぜ」

 

 ガビーンとショックを受けるネギ少年。

 どんな父親だよ、と思った。

 

「まあ、そこらへんの詳しいお話はまたあとで」

 

 パンッとクウネルが手を叩き、注目を引くと。

 手で、試合舞台を指し示した。

 

「始まりますよ」

 

 

 

『第一試合 神楽坂明日菜選手 対 桜咲刹那選手!!』

 

 

 朝倉の声が鳴り響く。

 二人の少女たちが対峙する。

 見目麗しい二人の少女たちの対決に、観客席から声が上がり、歓声が響き渡り。

 

 

『Fight!』

 

 

 試合が始まった。

 

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