欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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六十九話:勝て、と俺は言う

 

 勝て、と俺は言う。

 

 

「お疲れー、二人共」

 

「凄かったです!」

 

 試合が終わり、少しくたびれた様子で戻ってきた神楽坂と桜咲を迎えたのがこの二人の言葉だった。

 短崎は座ったままで、ネギ少年は声を上げて迎える。

 

「負けちゃったけどねー」

 

 神楽坂が苦笑する。

 でも、その顔にあまり悔いは無さそうだった。

 あそこまで激闘を繰り広げたら悔いはないだろうな。

 

「でも、凄かったですよ! あ、もちろん刹那さんもですけど」

 

「いえ、本当に凄かったのは明日菜さんですよ。私も何度か危なかったですし」

 

「いや、それは……」

 

 神楽坂が少し目を伏せるが、桜咲はどこか楽しげにウインクして。

 

「明日菜さんが強いのは純粋に事実ですから。胸を張ってください」

 

「うん、ありがとう」

 

 二人の少女が和やかに談笑し、それを俺は座ったまま眺めていたけれど。

 不意に桜咲が振り向いた――俺の横に座る短崎に向かって。

 

「……先輩。頑張ってください」

 

 座高分を入れれば、あまり高さ的に差がない身長差。

 右手で掴み出した竹刀袋、そこから木刀を抜き払い。

 

「分かってる」

 

 短崎が微笑した。

 どこか緊迫感すら含んだ笑みを浮かべて、木刀の柄を握り締める短崎。

 その視線が横に走って。

 

「勝つよ、そうじゃないと意味がない」

 

「残念ですが、私も負けるつもりはありませんわ」

 

 短崎の視線が向かったのは、腰を上げた黒ずくめその1だった。

 二人の視線が激突した、そんな気がした。

 

「では、お先に」

 

 そう告げて、黒ずくめの女が先に舞台へと歩いていった。

 その後姿を見ながら、短崎は一本のペットボトルを取り出していた。

 【清水寺】とマジックペンで表面に書かれたペットボトルの蓋を捻って、ちゃぷちゃぷと先端から地面に落とした木刀へと注いだ。

 

「それは?」

 

 桜咲が首を傾げる。

 短崎は膝で挟んだそれに降り注ぐと、同じようにバックから取り出した布を取り出して、グルグルと木刀を先端から巻きつける。

 

「いや、僕にもよく分からないんだけど。ミサオさんからのプレゼントなんだよ」

 

 白い布でグルグルと巻きつけて、その上から再び水を掛けた。

 ぐっしょりと濡れたそれが木刀に張り付いて、その形を浮かび上がらせる。

 

「珠臣からの? ああ、なるほど」

 

 その行為にしばし目を細めていた桜咲が手を打った。

 何かを納得するように。

 

「? 何か知ってるの?」

 

 短崎の質問。

 

「いえ、そのペットボトルの中身が書かれた通りに清水寺の湧き水なら……」

 

 それに桜咲は静かに告げる。

 

「戦えるかもしれませんね。その"聖剣"なら」

 

『聖剣?』

 

 ミサオさんと同じことを告げた桜咲に、俺と短崎が首を傾げる。

 

「――京都における四神の加護です。東に鴨川の青龍、西に西国街道の白虎、南に巨椋池の朱雀、北に船岡山の玄武。それと同じく清水寺には賀茂川と同じ青龍の加護があるはずですから、その水で洗えばただの木刀でも一時的に聖剣になるはずです」

 

「へえー」

 

 なんていうかオカルトだわな。

 あまりよく分からんが頷いておく。

 ネギ少年も同じようにほえーとか言っているけど、お前もそっちサイドじゃなかったっけ?

 

「まあ京都術者の常識やな。昔千草姉ちゃんが追い詰めた鬼を鴨川に蹴り落として、焼け爛れながら這い出ようとするところを笑いながら蹴りいれてたで」

 

 小太郎が遠い目をしながら呟く。

 その時の光景を思い出したのか、目はちょっと虚ろだった。

 

「なんていうバイオレンス」

 

 俺は呆れてそういうしかなかった。

 鬼とかいるんだー、という疑問を抱く余裕も無かった。

 

「……昔から恐ろしかったのですね、あの女は」

 

 ブルリと桜咲が背を震わせると、ごほんと咳払いし。

 

「ただし気をつけてください。聖剣といっても濡れている間ぐらいしか効果は発揮出来ませんから」

 

「んー、まあ頑張るよ」

 

 そういって苦笑し、まだ残っているペットボトルをベンチにおいて短崎は苦笑し。

 

 

『では、続いて第二試合! 麻帆良剣道部所属、短崎翔選手 対 聖ウルスラ女子高等学校二年 高音・D・グッドマン選手! 舞台にどうぞ!』

 

 

「と、時間だ」

 

 既に舞台の前で待っていた黒ずくめその1こと、高音が舞台に上がる。

 そして、短崎も腰を上げて、濡れた布に巻きつけた木刀を右手に携える。

 

「――頑張れよ」

 

 その背中に、俺はそういうしかなかった。

 負けるな、という思いはある。

 だけど、それは誰もが一緒だ。

 負けたい奴なんてどこにもいない。

 だから。

 

「勝て」

 

 当たり前の言葉だけで十分だ。

 

「先輩、頑張ってください!」

 

「行けや、短崎の兄ちゃん!」

 

「が、頑張ってください!」

 

「頑張りなさいよ!」

 

「無理はしないほうがいいでござるが、健闘を祈らせてもらうでござる」

 

「カケル、頑張るアルヨー!」

 

 桜咲が、小太郎が、ネギ少年が、神楽坂が、長瀬が、古菲が。

 声援を掛けて、エヴァンジェリンはどこか楽しげに見ていて。

 短崎は数歩踏み出し、裾を揺らしながら。

 

「じゃ、行ってくるね」

 

 最後に一度だけ振り返る、薄く微笑んだ。

 

 

「勝つよ。戦わないといけないから」

 

 

 桜咲を真っ直ぐに見つめ、そう告げる短崎の目は真剣そのものだった。

 

 

 

 

 

 舞台に上がる。

 ゆらゆらと青染めの裾を揺らし、黒染めの羽織の袖を翻し、右手に布を巻きつけた木刀を携えた短崎の姿に、野次にも似た声が上がっていた。

 和服の袴姿。

 しかも使う得物が木刀だとしたら、それはもう漫画のような状態で、仮装としか言いようがないだろう。

 

「いい度胸ですわね」

 

「本番には強いタイプだから」

 

 黒ずくめの女が声を掛け、短崎が答える。

 司会の朝倉が二人を見つめ、視線で高音の格好を注視していた。

 

『高音選手? そのままでいいのでしょうか』

 

「いえ、脱ぎますわ」

 

 朝倉の言葉と共に、黒衣が剥がれた。

 

『オォオオオオオオオ!?』

 

 うるさいほどの声が、観客席から轟いた。

 頭に被っていた頭巾を外せば、そこから現れたのは美しい金髪。

 西洋人に特徴的な白い肌と、一瞬息を飲みそうなほどに整った顔が曝け出されて、喚声が騒がしいほどに上がる。

 胸の前から開いた黒衣をゆったりと左右に広げ、中に着ていた制服だろう黒の看護服にも似た格好を押し上げるのは女子高生でも珍しいほどの乳房だった。

 すらりと伸びた足の黒のストッキングといい、頭に被った赤十字のナースキャップっぽい帽子といい。

 綺麗だし、美人だと思うのだが、妖しいほどの色気がある。

 

『おっと、中から出たのは特上のブロンド美人だー! 一回戦の美少女メイド二人にも負けない美しさ! この大会は美しさのインフレが起こっているのでしょうか!?』

 

 最初の二人を仕込んだのはお前だろうが、朝倉。

 しかし、美人だとは共感する。

 なんていうか年齢詐欺の女子中学生三名ほど除けば、あそこまで大人っぽい色気持ったのは全然知り合いにないからなぁ。

 

「長渡、今なんでこっちを見たアルカ?」

 

 うるせえ、気にするな。

 

「しかし……短崎先輩、全然飲まれていませんね」

 

 桜咲が少しだけ目を細め、そう呟く。

 確かに、痛いほどの声援や声が響いて、試合会場には無数の視線が叩き付けられているのだろうが。

 短崎は不動の体勢で、布包みの木刀を垂らしたままだった。

 

「集中力は高い奴だからな。多分、大丈夫なんだろう」

 

『さて、お互いほぼ無名の選手で、トトカルチョの人気も低い二人でしたが。如何なる戦いを見せるのでしょうか!?』

 

『いえ、期待してもいいでしょう』

 

 ん?

 この声は。

 朝倉の声と一緒に、聞き覚えのある声が一つあった。

 

『どういうことでしょうか? 解説の豪徳寺さん』

 

 さらに聞き覚えのある声が一つ。

 

「て、ちょっとまて」

 

 バッと解説席に、目を向ける。

 そこには――遠いが、はっきりと特徴のあるリーゼントが見えた。

 どうみても豪徳寺薫です。

 何故か茶々丸と一緒に解説席に座ってる!?

 

「おいおい、なんで豪徳寺いるんだ?」

 

「豪徳寺、なんか見かけねえなーと思ったらあんなところに。知識だけはあるし、解説者に呼ばれたんじゃ?」

 

 大豪院と山下も知らなかったらしい。

 と、その間にも解説が続く。

 

『グッドマン選手のスタイルは残念ながら、私は知りませんが。実は短崎選手は知己でもあるのです』

 

『というと?』

 

『彼は実戦剣術――【タイ捨流】の剣術使いです』

 

 その言葉に、観客が騒ぎ出した。

 タイ捨流ってなんだ? ニ天一流とかと違うのか? いやいや、柳生十兵衛が使ってた奴だよ。それは新陰流じゃねえか。

 などなど、推測と間違った知識や、知ったかぶりの言葉などが耳に届いてくる。

 

『タイ捨流とはかの新陰流を創始した剣聖上泉伊勢守秀綱の弟子、丸目蔵人佐(まるめくらんどのさ)が新陰流に独自の工夫を凝らして編み出したと言われる剣術です。

 名前はカタカナのタイに、それを捨てると書いてタイ捨流といい。

 その名前の意味はからだの<体>とすれば体を捨てるにとどまり、待ち受けるの<待>とすれば待つを捨てるにとどまり、太いの<太>とすれば自性に至るということにとどまり、対決の「対」とすれば対峙を捨てるにとどまる。それらの四つを捨て去り、自由自在の構えを旨とするものです』

 

 すらすらと豪徳寺が説明する。

 薀蓄は凄いな。

 

『それでは、実際強いのでしょうか?』

 

 茶々丸が相槌を打つように、訊ねる。

 上手い訊ね方だ。実際観客の殆どが知りたがっているだろう。

 

『強いでしょうね。タイ捨流の基礎は有名な柳生十兵衛も使っていた新陰流です。その流儀は自分も生かし、相手も生かす「活殺剣法」だとか』

 

 そう告げて、豪徳寺は深く頷くと。

 

『私見ですが、短崎選手はかなりの使い手です』

 

『なるほど、分かりました』

 

 茶々丸の頷きと共に会場が騒がしくなった。

 いいアピールになったようで、会場のテンションが上がる。

 短崎が体を背けて、右手を後ろに隠す構え。

 高音は両手をゆったりと広げて、リラックスした背筋を伸ばした構えだった。

 

『では、皆様の期待も高まってきたところで! 第二試合、ファイト!!』

 

 朝倉の声が鳴り響く。

 短崎が間合いを計りながら、腰をさらに低く落とすと。

 

「では、早めにいかせて頂きますわ」

 

 黒衣を揺らめかせた高音が手元から伸ばした細長い棒――杖のようなものを向けた。

 その尖端を短崎に向けて。

 

「っ!?」

 

「演奏を始めましょう」

 

 瞬間、短崎が腰を落としながら、側面に跳ねた。

 ――同時に迸る閃光。

 

「なに!?」

 

 燐光を纏った光線っぽいものが迸り、短崎が今いた場所を貫いた。

 

「あ、あれは。魔法の射手!? しかも無詠唱で!」

 

「先輩!」

 

 ネギ少年と桜咲の声が発せられる間にも、短崎が躱す。

 

「なんとぉお!?」

 

 旋回するように床を蹴り、跳ね飛んだ。

 避ける、跳ねる。

 無様に大仰に避ける――必死の形相。

 

「ああ、お姉様。お手柔らかに!」

 

 ガクガクと黒頭巾を脱いだ、赤い髪のポニーテール少女がいつの間にか近くで立っていて、口を両手に当てていた。

 

『おおっと短崎選手! 高音選手による謎の光――ていうかビーム? の前に、回避するしか方法がない!』

 

『解説の豪徳寺さん、あれは?』

 

『発光性の指弾、じゃないですね。気弾にも思えますが、どこか風のようにも見えます』

 

 解説役の豪徳寺が困っている。

 魔法というわけにもいかないだろうしな。

 と、その間にも短崎が転がりながら避けて、7発目の光弾を躱した瞬間、前に向かって跳ねた。

 スポーツ系に入ってないとは思えない身体能力、右手の肘をぶつけての宙返り。

 すたんっと床を踏み締めて、前を向く。

 

「舐めるなっ!」

 

 吼える。

 それと同時に顔面に向かって、迸る閃光。

 それに短崎は――右手を跳ね上げた。

 

「あっ?」

 

 一瞬、誰もが息を飲んだ。

 右手の刀身が、迫る閃光と直撃したと思った瞬間――霞むように砕けた。

 バタバタと風が吹き荒れて、短崎の髪が、裾が、袖が、はためく。

 切り裂いた?

 

「斬れるものなのか?!」

 

「あ、いえ、普通に着弾するか、レジストしなければ魔法の射手は止められないはずです」

 

 ネギ少年に尋ねる。

 だが、彼も顔を左右に振って。

 

「いえ、レジストしました。あの霊水のお陰です」

 

「え?」

 

「一時凌ぎですが、あれは魔を祓います。害なる魔法――西洋魔法も例外ではありません」

 

 それほど効果はないでしょうが、捌くには十分かと。

 そう告げて、桜咲が前に向かって目を向け続ける。

 短崎が動いた。

 一撃、ニ撃と、縦に構えた木刀で光弾を散らして、距離を詰める。

 

『おお、おお! 短崎選手、果敢にも前に出ます!』

 

 朝倉の結構必死な声が響き渡る。

 短崎が矢を蹴散らす度に風が吹く、同時に衝撃が奔っているのだろう短崎の足元がぐらついていた。

 けれど、それでも、踏み踊るように矢を弾いて。

 

「ぉおおおおお!!」

 

 短崎が最後の一歩。

 瞬間的に、三発にも迫る風の矢を一発は跳んで躱し、二発目は体を捻り、三発目は木刀の剣尖を打ち込んで相殺。

 重たげな濡れた布包みの木刀が軋みながら、短崎が足を踏み出し、弾かれた勢いを利用して旋転。

 回し蹴りにも似た回転と共に横薙ぎに、木刀が高音の脇腹目掛けて迸り――

 

「っ! 不味いです!」

 

「え!?」

 

 桜咲が叫んだ。

 "丁度、短崎が高音の影を踏んだ瞬間に"。

 

「っぅ!」

 

 高音が声を洩らす。当たった?

 いや、違う。

 構えられた杖がそれを受け止めていた。

 そして、短崎が止まった。

 

「な、に?!」

 

 ここからでも見えた。

 短崎の捻った足首が、"地面から飛び出た手に掴まれた"のを。

 そして、その杖を構えた高音が微笑んで。

 

「ごめんなさいね」

 

 短崎の腹部に手を当てて――衝撃音と共に短崎が吹っ飛んだ。

 短崎の背中に隠れて、見えない角度。

 けれど、その手が一瞬輝いたような気がした。

 

「短崎ぃ!」

 

 思わず叫ぶ。

 腰が上がって、立ち上がっていた。

 短崎が放物線を描きながらぶっ飛んで、ゴロゴロと床の上に転がった。

 うつ伏せに、動きを止める。

 

『た、短崎選手! ダウン!! 果敢にも攻め込んだ短崎選手でしたが、グッドマン選手の細腕の一撃で吹き飛びました! カウント入ります!』

 

 なんだ?

 何をやりやがった!?

 

「――至近距離からの魔法の射手です」

 

「あ?」

 

「風属性の魔法の矢ですから、感電はしてないと思いますが、衝撃はあったと思います」

 

「えげつないで。足首固定されて、衝撃の逃げ場もないまま叩き込んだわ」

 

 ネギ少年と小太郎の解説。

 となると、どう考えても短崎は無事に済んでいない。

 

「っ、くそ! 短崎!! 立て!! 立ち上がれ!」

 

 俺に出来るのは声を上げることしか出来ない。

 

「先輩! 立ってください!」

 

 桜咲が声を上げていた。

 真剣な眼差しで、唇を噛み締めて。

 他にも何名かの声が上がる。

 けれど、短崎はうつ伏せのまま動かずに。

 

『ファ、ファイブ! シックス! セブン!』

 

 嘘だろ!

 立て! 立てよ!

 そして――

 

 

「まだですわ」

 

 

『エイト――え?』

 

 カウントの間に、見下ろす高音が呟く。

 それに朝倉が目を向けて――瞬間、短崎の身体が横に転がった。

 転がりながら、木刀を放した右手を振り抜く――霞んだ手つき。

 響く、金属音。

 

『ナインって、エエ?』

 

 パラパラと高音の足元に転がる、細長い鉄の棒。

 短崎が起き上がっていた。

 唇から涎を垂らし、咳き込みながら。

 

「ち、しくじったね。なんでばれた?」

 

 目を見開ている。

 その目つきは鷹の様に鋭く、切ったらしい唇の端から血を滲ませながら、投げた棒手裏剣の不発を呟いた。

 

「手ごたえがなかったものですから。まさか、飛び道具まで持っているとは思いませんでしたけど……どうやって防ぎましたの?」

 

「さあてね。秘密だよ」

 

 そういって短崎が木刀を拾い上げる。僅かに布が解けたそれを口元に運び、歯で噛み締めながら、片手で巻き付け直す。

 手は震えて、足元はガクガクしたままで。

 

『試合続行! 短崎選手、ダウンから復帰です!』

 

 朝倉の声が響き。

 喚声が発せられる。

 頑張れ! という声と。

 すげえ! という声が。

 色々な声が色付いて見えるほどに騒がしい。

 

「よかった」

 

 桜咲がほぅーと息を洩らし、俺も胸を撫で下ろしていた。

 しかし。

 

「凄い必死だったね、刹那さん」

 

「え、ええ!? そ、そうですか?」

 

「確かにな。クックック、青臭いな」

 

 神楽坂とエヴァンジェリンの声に、真っ赤になる桜咲。

 あんな声を上げて、まあ恥ずかしいわな。

 俺はまあ開き直っているが。

 

 けれど、甘かったんだ。

 

 

「しょうがないですわね……司会の朝倉さんでしたっけ?」

 

 

 金髪を揺らした少女が髪を掻き揚げて、朝倉に尋ねる。

 

『なんでしょう?』

 

「手品の類は、別に反則ではないですわよね?」

 

『エ? ああ、そうですけど……というか、さっきまでのはCGとかそういうレベルじゃなかったし』

 

「では、イリュージョンを見せましょう」

 

 彼女が右手を上げる。

 杖を揺らし、ブーツの踵を鳴らし、その豊満な乳房を揺らしながら、胸を張った。

 

「サービスですわよ?」

 

 背筋が痺れるほどの艶かしい吐息。

 目を輝かせて、彼女が大仰に手を掲げて、指を鳴らす。

 

 パチンッと。

 

 ――瞬間、其処に"四つの人影"があった。

 

『ハ?』

 

『な、ななな!?』

 

 高音嬢の足元の影から飛び出したかのように、黒ずくめの人影が、一人、二人、三人、四人と出現する。

 その頭部には謝肉祭にでも着ける様な仮面があり。

 

 

「ご安心なさい? 少しだけ痛い種も仕掛けもある手品ですわ」

 

 

 その四人が黄金色の髪を靡かせる少女に従うように頭を下げて。

 

「ただし、そのトリックは企業秘密ですけど♪」

 

 チュッと投げキスをしてから、その仮面道化共が短崎に襲い掛かった。

 

 

 

「影に踊りなさい。哀れな剣士さん」

 

 

 

 

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