欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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八十話:意地って奴だね

 

 

 

 意地って奴だね。

 

 

 会場に戻ってみると、既に高畑先生とネギ先生の試合は終わっているようだった。

 しかし、何故あんなに舞台が壊れているんだろう?

 どんな試合があったのだろうか。

 

『皆様、お待たせしています! あの大破壊を僅か十数分で迅速に修復する見事な手際をご覧ください! 学園内のサークル活動、イベント施設などの設営建築は麻帆良大土木建築研まで!!』

 

 というアナウンスと共に作業員な格好をした人たちが板を張替え、壊れた石土台に速乾セメントを流し込み、修復作業をしていた。

 凄い速度である。

 なんていうか、急ピッチにも程がある修復作業だった。

 

「激しかったみたいやなー」

 

 近衛さんがそんな感想を呟いた。

 とはいえ、激しいで済んでいいレベルなのだろうか。

 人間同士が戦った後には思えない。

 銃火器持ち込んでも、ここまで破壊されるのは稀だと思うのだけど。

 近衛さんの感覚もおかしいと思う。

 

「高畑先生とネギ先生ですから……と、皆さんいますよ」

 

 桜咲が軽く流して、選手席のベンチに目を向けた。

 其処には高畑先生と、ネギ先生の生徒たちを除いた全員が揃っていた。

 具体的には長渡と高音さんと佐倉さんと山下さんぐらいである。

 

「お、短崎戻ったか」

 

 長渡が目を向けて、僕に気付いて手を上げる。

 僕は痛む身体を押しながらも手を上げ返し、視線を周りに散らした。

 

「ネギ先生は? どっちが勝ったの?」

 

「ネギ少年が勝った、辛勝にも程があったけどな」

 

 と、どこか複雑そうに嬉しそうな、或いは困ったような顔で長渡が呟いた。

 おや? と少し思ったけど、僕は嬉しくなる。

 長渡はあまりネギ先生に好感情を抱いてなかったと思ったけど、彼は自覚してないけど結構子供好きだ。

 不仲よりはマシだと思える。

 人を憎み続けるのも疲れるから、それはいい兆候だった。

 

「なるほど」

 

「しかし、すげーな怪我。試合出来るのか?」

 

 僕の状態を見て、長渡が呆れたような口調で呟いた。

 確かに全身が馬鹿みたいに熱いけど、鎮痛剤が効いてる。

 

「大丈夫だよ」

 

 だから、平然と笑顔すら浮かべられる。

 全身から滲み出る汗は気持ち悪かったけど、痩せ我慢が出来る程度なら大したことは無い。

 まだ頑張れる。

 

「で、えーと……そっちのはなに?」

 

 あえて視界にいれなかった、きしゃーと声を上げる少女と女性に目を向けた。

 紅いジャージ姿の高音さんにしがみ付き、ぶんぶんと手を振って威嚇している佐倉さんが一人。

 凄い目つきだった。

 

「お、お姉様に近寄っちゃ駄目ですからね!」

 

「め、愛衣落ち着きなさい……あ」

 

 佐倉さんを宥めていた高音さんがこちらを見て、すぐに目線を退けた。

 ん? と思ったが、すぐに思い出す。

 ああ、そういえば。

 

(彼女の裸を見たんだっけ――)

 

 なんとなくその時の事を思い出そうとして、次の瞬間足から激痛が走った。

 

「あいたぁ!?」

 

 桜咲につま先を踏まれていた。

 思わず足を押さえて、呻きながら目を向けると。

 

「鼻の下が伸びていましたよ」

 

 ふんっと何故か怒ったような態度でそっぽを向かれた。

 え? なんで分かったんだろうか。別にまだ欲情してないんだけど。

 とはいえ、ナチュラルにその時の光景を多少思い出しつつ、バツの悪さを実感する。

 高音さんは恥ずかしいのか、顔が赤いし、目線が下を向いている。

 佐倉さんは警戒したように睨んでいるし、僕は話しかける方法も分からないので。

 

(時間を置くしかないか)

 

 そう決断して、ズカズカと席に座った桜咲に続いて、空いている長渡の横に座った。

 

「乙」

 

「あ、ナニが?」

 

 長渡の言葉に、僕は首を傾げる。

 何故かにやにやしている様が、妙にむかついた。

 

「あー、別にー、なんか暑いなーと思ってね」

 

「初夏だしねぇ」

 

 含むような言い回し。

 気になったが、まあ議論してもしょうがないと前を向いた。

 背中から高音さんらしき視線とか感じるけれど、振り向くのも躊躇われし、なんか桜咲はさっきの月詠を引きずってるのか機嫌が悪いし。

 さっさと試合始まらないかなぁ。

 て、そういえば。

 

「ネギ先生たちどこいったの?」

 

「医務室だな。ちょっと前に出て行ったけど、入れ違いか?」

 

 長渡が首を傾げる。

 こっちに戻るまでに鉢合わせなかったのだけど、使う廊下が違ったのかな。

 

「まあ、そろそろ戻ってくるとは思うが……試合もあるしな」

 

 そういう長渡が見たのは舞台の上。

 そろそろ修復が終わりそうだった。

 

「次は……小太郎君の試合だっけ?」

 

「ああ、長瀬との試合だな」

 

 長瀬っていうと、あの糸目の子だったかな?

 そんな風に思い出していると、ぞろぞろと戻ってくる一団の姿が見えた。

 噂をすれば、ていう奴だね。

 

「ただいまやー、って面子揃ってるなぁ」

 

「おかえりー、ってネギ先生顔大丈夫?」

 

 小太郎君に声をかけつつ、僕はネギ先生の顔に驚いた。

 酷く腫れたのか、シップなどが貼られている。

 両手にも軽く包帯が巻きつけられていて、その激戦のあとが伺えた。

 

「あ、はい。大丈夫ですっ!」

 

 だけど、ネギ先生は明るく笑った。

 それが誇らしいみたいに。

 

「ならいいけど。で、あれ? 高畑先生は?」

 

「あ、高畑先生なら……ちょっと煙草を吸ってくるって」

 

 神楽坂さんが僕の疑問に答えてくれた。

 

「その内戻ってくるだろう、さっさと座れ。前が見えん」

 

 そして、ただ一人さっさとベンチに座っていたエヴァンジェリンが冷たい声音でそう告げた。

 少しイラついたが、言っていることはもっともである。

 僕たちはベンチに座った。

 のだが、後ろからずざざという後ずさる気配がした。

 

(嫌われてるなぁ、当たり前だけど)

 

 高音さんの気配と行動にため息。

 僕が悪いとは全く思えないのだが、何故か脱げてしまった以上非は僕にあるし、受け入れるしかない。

 まあ目の保養にはなったが、望んだものでもなければ得になるわけでもないし。

 やれやれだ。

 

『お待たせしました。修復が完了しましたので、これより第六試合! 犬上 小太郎選手 対 長瀬 楓選手を始めます!!』

 

 その時だった。

 朝倉さんの放送が響き渡り、観客席からどよめきが上がった。

 

「うし、俺の出番や!」

 

 小太郎君がベンチから飛び降りて、手の平に拳を叩きつける。

 

「拙者もでござるな」

 

 糸目の彼女が音も無く歩み出て、ネギ先生に手を振った。

 

「では、いってくるでござるな」

 

「ネギ! 俺の戦いをちゃんと見とけや!!」

 

「うん! 二人共頑張って!!」

 

 教師として、友達として、矛盾しそうで矛盾しない応援をネギ先生は発した。

 共に頑張ってほしいのが心情だろう。

 片方に肩入れも難しいだろうけど、共に頑張れればいいと思う。

 そして。

 

「小太郎」

 

 次々に応援の言葉が掛けられる中で、長渡が告げた。

 親指を立てて。

 

「しっかりやれよ、全力で」

 

「――おう!」

 

 少しだけ戸惑ったあと、小太郎君はにかりと笑みを浮かべて舞台へと歩き出した。

 

「お手柔らかに頼むでござるよ、小太郎」

 

「手加減すんなよ、姉ちゃん」

 

 そんな言葉と共に二人は舞台へと上がった。

 

 

 

 

 

 

『さあ皆様お待たせしました!! どれもこれも高いレベルで繰り広げられるまほら武道会! ついに第六試合となりました!!』

 

 歓声が上がる。

 津波のような声が響き渡り、僕は全身の皮膚が疼くのを感じた。

 痛いほどの声だった。

 舞台の中心で対峙する二人。

 革ジャケット姿の小太郎君に、何故かバーテン服姿の長瀬さん。

 小太郎君はまあ何度か長渡と遣り合っているのを見たことがあるけど、長瀬さんは全く不明だ。

 その実力も。

 

「長渡、どっちが勝つと思う?」

 

「さあな。あのニンニン忍者モドキのことは詳しく知らんから分からん」

 

 長渡は肩を竦めながらも、真剣な目つきで試合を睨んでいた。

 心配なんだろうね。

 仲がいい弟分みたいな彼だから。

 

「楓は強いアル」

 

 古菲さんが呟いた。

 汗を額に滲ませながら、手を握り締めて。

 

「そうですね、数ヶ月前の時点では楓が小太郎相手に完勝したと聞きました。その差を、どこまで埋められているか……」

 

 桜咲が押さえ目の声音で告げる。

 小太郎の敗北の予感を滲ませて。

 だが、それに。

 

「馬鹿いうな」

 

 長渡が嗤った。

 歯を剥き出しに、犬歯を見せて。

 

「あいつはやるさ。俺よりも真っ直ぐだからな」

 

 自信ありげに、期待と信頼を篭めた声で。

 

「いけよ、小太郎! しっかりと殴りこんでやれ!!」

 

 

『第六試合――ファイト!!!』

 

 

 声が鳴り響いた。

 爆発的なサイレンが鳴り響き、小太郎君が、長瀬さんが跳ねた。

 互いに疾走、掻き消えるような俊足。

 

 ――次の刹那には、激突していた。

 

「っ!」

 

「おらぁああああああ!!」

 

 小太郎の拳を受け止めていた長瀬さんが粉塵を散らしながらブレーキ。

 その瞬間、小太郎君が跳ね上がった。

 床を蹴り飛ばし、ロケットのように蹴り上げる。しなやかな蹴打、射抜くような一撃。

 彼女がそれに翻り、流れるように避けた。

 側転するように飛び込んだ腕で跳ね上がり、宙返りを見せながら床に着地する。

 

「――む、手加減がなくなったでござるな」

 

 僅かに目を開き、注視する様に長瀬さんが喋る。

 腰を曲げた姿勢で、ダラリと手を下げながら、鮮やかな唇が震えた。

 

「ああ、堪忍な」

 

 小太郎君が構える。

 腰を落とし、鉤爪にも似た手の構えを見せながら、前のめりに犬歯を剥き出しに嗤った。

 

「……姉ちゃんは戦士や」

 

「む?」

 

「だから、手加減はせえへん」

 

 吼える。

 大気が震えて、全身から活力を引きずりだし、悶えるように踏み込んで。

 

「それが漢の、戦うものの礼儀や!!!」

 

 瞬動。という技術だっただろうか。

 小太郎君が前に、長瀬さんが横に、残像を残して消えた。

 あまりにも圧倒的な速度。

 理不尽な移動手段。

 目の前でやられたら認識する術があるのか。

 

「早いっ!!」

 

 桜咲が叫んだ。

 小太郎君が辿り付くよりも早く、長瀬さんは位置を変えている。

 小太郎君は舞台に着地した瞬間、その背後に姿を現し、手を振り上げていた。

 

「当たる!?」

 

 思わずそう思う。

 けれど、彼が回転した。

 背後に回るよりも早く、ただしなやかに、"足を踏み変えての旋回"。

 ――見覚えがある動きだった。

 

(今のは!?)

 

 舞踊のような、或いは練達の人体駆動技術。

 長渡の笑みの意味を知る。

 あれは、"長渡の動き"だった。

 

「むっ!?」

 

 予想外の挙動に長瀬さんの声が上がるも、動きは止まらない。

 空気を裂くように叩き込まれる手刀、それに斜め上に掲げた小太郎君の腕が受け止める。

 轟音。

 

「がっ!」

 

 小太郎君の足元が罅割れ、めり込んだ。

 どれほどの威力か、彼が咄嗟に膝を曲げて衝撃を逃がす。そこに、さらに小太郎君は繰り出された長瀬さんの蹴りを膝でガードした。

 吹き飛ばされる、後ろに。

 ゴムボールのように。

 

「鋭いわぁ」

 

 だけど、楽しげに嗤っている。

 吹き飛ばされた状態から空中で回転、振り下ろしたつま先で床を踏み締めて、粉塵散らしながらも停止。

 ばんっと四肢を床に叩き付けて、獣のような構えを取る。

 

「来いや、姉ちゃん。この程度じゃ、俺は負けへんで」

 

「そうでござるなぁ」

 

 長瀬さんが飄々とした口調でそう呟き、両手を前に組むと。

 

「ならば」

 

「――これで」

 

「――――どうでござる?」

 

 次の瞬間、"長瀬さんが三人になっていた"。

 

『は?』

 

 一人から三人に。

 何故か長瀬さんが、瞬いた瞬間に三人の群れになっていた。

 同じ顔、同じ格好、同じ背丈、同じ声。

 それが三人、仲良さそうに肩を組んでいて、微笑んでいた。

 

『で、デター!? ついに噂の分身の術だー!!』

 

『こ、これは一体?』

 

 朝倉さんと豪徳寺さんの戸惑いと驚きの声が上がる。

 観客たちが騒ぎ出す。

 当たり前のように不可思議な現象に驚いて。

 

「ええわっ! それぐらいやないと、超える意味があらへん!!」

 

 ただ一人驚かなかった小太郎君が跳ねた。

 床を手で叩き、前に跳び出す、風を裂くような速度で駆け抜ける。

 舞台の一歩、二歩、三歩目で罅割れそうなほどに力強く踏み込み、低い姿勢でトップスピードに乗る。

 クラウチングスタートにも似た走行術。

 ただひたすらに速く、疾駆するための走り方。

 

『参る』

 

 それに対し、三人の楓さんが掻き消えた。

 一瞬でも目を閉じれば見失いそうな速度で。

 それでも目は乾くから反射的に、僕は瞬きをして。

 

 

 "四人と三人の激突を目撃した"。

 

 

 

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