欠陥人生 拳と刃   作:箱庭廻

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八十二話:努力が無駄なわけがない

 

 

 

 努力が無駄なわけがない。

 

 

 

『決着!! 犬上 小太郎選手の勝利です!!』

 

 勝利を告げるアナウンスと共に、僕たちは拳を握っていた。

 

「よっしゃー!!! 小太郎ぉおおお!!」

 

「小太郎くーん!!」

 

 長渡とネギ先生の喜ぶ声、そしてそれらにも増して騒ぎ立てる観客の声があった。

 

「まさか勝つなんて……意外でしたね」

 

 桜咲が驚いた顔で、でもどこか感心したような顔つきで頷いている。

 

「地力差ならば確実に長瀬が上回っていたな。だが、これは試合。本領は発揮出来なかったと見るべきだろう」

 

 そんな桜咲の言葉に、足を組んで座っていたエヴァンジェリンが口を挟んだ。

 解説好きなのだろうか、滑らかな口調で。

 

「使える得物にも制限がかかり、身を隠すための障害物もなく、機動力で撹乱するにしても狭い舞台。奴の商売柄にしてもっとも不得意な陣地だ」

 

 商売柄?

 と、思わず眉をひそめると、何故か気がついたようにこちらに視線を飛ばすエヴァンジェリン。

 得意げに口元を歪めて。

 

「なに、気にするな。とはいえ、勝負は時の運。陣地が悪かった、条件が悪かったなど言い訳をしても意味は無い。今現在勝利を掴んだのはあの小僧の努力と手練によるものだ」

 

 面白かったぞ、と締めくくり、金髪幼女が懐から出した鉄扇で仰ぐ。

 優美な仕草だった。

 

「いい男アル、今度ぜひとも手合わせを願いたいアル!」

 

「小太郎乙」

 

「成仏しろよ」

 

 古菲さんの言葉に、何故かすぐさま山下さんと長渡が両手を合わせた。

 あれ、古菲さんの扱い酷くない?

 などと軽口を叩いていると、舞台の上からこちらに歩いてくる二人組の姿を見た。

 腹を押さえて歩く口元から赤い血の雫を零した小太郎君に、背中から破れたバーテンダー服を前に当てた手で胸部分を押さえた長瀬さんがひょこひょこと歩いてくる。

 

「小太郎君、おーい大丈夫?」

 

「担架いるか?」

 

 僕と長渡の言葉に、長瀬さんが首を横に振り、小太郎君は手を横に振って。

 

「大丈夫や、この程度ならな」

 

 そういって痩せ我慢だと分かる言葉を吐き出す小太郎君。

 

「――大丈夫でござる。さすがに拙者も、少し休みたいでござるが」

 

 血色の引いた顔つき、いつもの糸目とは異なり少しだけ見開かれた瞳からは痛みを堪えるような色が見えた。

 やれやれと濁った吐息が洩れる。

 

「着替えでも用意しておくべきでござったか」

 

 剥き出しの背中からは破れたサラシの跡とかが見えて、前で衣服を抑えていないと肌が見えてしまいそうだった。

 浸透力ある打撃を喰らったのだろうか。

 

「医務室にいった方がいいな、着替えも用意出来るだろうし」

 

「了解でござる」

 

 桜咲の言葉に頷き、長瀬さんが歩き出し。

 

「小太郎」

 

「なんや?」

 

 やれやれとベンチに座った小太郎に向かって、その目を向ける長瀬さん。

 

「きつい一撃だったでござる」

 

「……詫びはしないで。そうやないと、俺は勝てへんかった」

 

 女、殴る時点で負けてるのも同然やけどな。

 と、小太郎君が嘆くようにぼやくが。

 長瀬さんが何故か笑って。

 

「――それでいいでござる。御主にはまだ伸びる余地があるでござるからな」

 

 にんっと短く言葉を紡ぎ、その目を開いて。

 

「また成長したら、手合わせでもするでござるか」

 

「命の取り合いやなきゃ、歓迎や」

 

 照れた様に明後日の方角に顔を背けた小太郎君の返事に、何故か長瀬さんはクスクスと笑って。

 では、といって静かに長瀬さんが医務室に向かって歩き出した。

 

「……青春か」

 

 そして、長瀬さんがいなくなった後、ぽつりと長渡が呟いた。

 は? と小太郎君が犬耳を動かし、へ? ネギ先生が首を傾げる。

 ……あ、そういうことか。

 

「っぽいねぇ」

 

 意味が分かった僕は頷いた。

 

「だな。間違いない」

 

 山下さんも頷いた。

 

『だよなぁ~』

 

 三人一緒に頷いてみた。

 意味? なんとなくしか分かってないけど。

 

「……なんやねん」

 

 小太郎君がひくついた口元と血管浮かばせたこめかみで、反応した。

 

「べっつにー♪」

 

「むかつく言い回しやめんかー!!」

 

 うっきゃーと怒る小太郎君に、がしっと伸ばした手で頭を押さえて笑う長渡。

 僕たちは避難中。

 

「騒がしいですわね」

 

「まあ、男の子だからしょうがないよ」

 

 耳を押さえる高音さんに、僕は肩を竦めてフォローした。

 ただのじゃれあいでも無駄に騒がしいのが男の子だ。

 ごめんね、と軽く苦笑して謝っておく。

 

「い、いえ」

 

 と、何故か顔を背けられた。

 ああ、まだ嫌われてる、ていうか避けられてるよなぁ。

 

「こらー! お姉様に近寄っていいと許可を出した記憶はないですよぉ!!」

 

 佐倉さんが吼えた。

 再びばたばたと手を振り回して、威嚇のポーズ。ツインテールの髪が激しく揺れて、なんていうか獣みたいだった。

 

「あ、ごめんね」

 

「誠意がないですぅ!!」

 

「愛衣……落ち着いてね」

 

 謝る僕、怒る佐倉さん、困る高音さん。

 なんだろうか、これは。

 と、そんな感じでグダグダしていたのだが。

 

 

『なんかもう舞台がぶっ壊れるのにも慣れてきたまほら武道会! 続きましては第七試合です!!』

 

 

「おお?」

 

 朝倉さんの言葉と共に、舞台に目を向ければ。

 凄まじい速度で修復を完了させかけている作業員たちがいた。

 おそらくは試合の途中から修理する場所を検討していたのだろう、その動きは一切止まる事無く空いた穴ぼこにセメントを流し込み、なんか熱い蒸気を放つプレス機みたいなのでなだらに整えたあと、新しい板に張り替えている。

 まさに職人技だった。

 

『続きましては謎のゴシックロリータ美少女 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル選手 対 3D柔術の山下慶一選手です!』

 

「あ?」

 

「あー」

 

 出てきた名前に、僕たちは思わず声を洩らした。

 じっと、横で座っていた山下さんに目を向ける。

 彼は。

 

「……オワタ」

 

 俯き加減に、テンションダダ下がりだった。

 染めた金髪を揺らして、チーンという擬音と魂が口から出るような幻覚が見えるほどだった。

 

「や、やましたー! がんばれー!」

 

「そうだよ、諦めちゃだめだよ!!」

 

 取り合えず励ました。

 だが、山下さんはよろよろと指を上げて。

 

「いや、相手……あれだぞ?」

 

 その指先にあるのは、鉄扇を広げた相変わらずの傲岸不遜な態度のエヴァンジェリン。

 ん? という表情で。

 

「どうかしたか?」

 

 と、確信犯の笑みを浮かべている。

 ネギ先生が何故か横であわわわと怯えているのが見えた。

 そして、ゆっくりと黒いブーツを履いた足を下ろし、舞い降りるように背筋を伸ばして立ち上がる。

 

「まあいい。小僧共、精々死力を尽くせ。相手をしてやる」

 

 紅く塗れた唇を引き攣らせて、軽やかに舞台へと移動するエヴァンジェリン。

 そして、オワター! と無音の絶叫を響かせながら、死刑台に上る囚人のような足取りで山下さんが向かった。

 

「だ、大丈夫なのかしら……」

 

 神楽坂さんが呟く。

 山下さんの背中からは、どうみても死相が見て取れた。

 南無南無と両手を合わせつつ。

 

「――ま、大丈夫だろう。山下だし」

 

 長渡が念仏を唱えていた両手を解いて、そう呟いた。

 僕も頷いて、同意する。

 まあ、山下さんだしね。

 

「何とかなると思うよ、山下さんだから」

 

「あーそやな。慶一の兄ちゃんなら、まあ頑張れると思うで」

 

 小太郎君も同意する。

 まあ、君は知ってるしね。

 

「へ?」

 

「どういうことですか?」

 

 ? という疑問符が見えそうなぐらいに小首を傾げる神楽坂さんとネギ先生。

 

「む? そういえば、山下さんの専門は柔術でしたか?」

 

 桜咲の問いに、僕は頷いて。

 

「そうだよ。確か大東流合気柔術だったっけ?」

 

「3D柔術とか言ってるけどなぁ、まあそれだわ」

 

 僕の言葉に、長渡が補足してくれた。

 

『昨年のウルティマホラでの経歴、元柔術部所属の山下選手に、十歳ぐらいにしか見えない可愛らしい人形のようなマグダウェル選手がどう挑むのか! 今回も注目試合です!!』

 

 朝倉さんの言葉。

 会場からはエヴァンジェリンの外見に騙されている黄色い声が上がっている。

 騒がしい歓声、雨が降り注ぐような視線の渦中。

 そして、舞台に上がった二人を眺めて、長渡が告げる。

 

「まあこれで、山下が瞬殺されるようなら俺らじゃ誰も勝てないな」

 

「え?」

 

 それは誰が発した疑問なのか。

 確認するよりも早く、朝倉さんの言葉と長渡の言葉が続いた。

 

『では、第七試合! ファイト!!』

 

 

「――"俺らの最強は山下だ"」

 

 

 

 

 

 

 試合開始の言葉。

 二人の立ち位置は五メートル近く。

 山下さんはテンションの下がった俯きな表情、エヴァンジェリンは鉄扇を仕舞いひらひらと揺れ動く漆黒のドレス姿。

 それが埋まったのは――一瞬。

 縮地法、いや、それとも違う歩法で認識を引き千切り、エヴァンジェリンが山下さんの懐に踏み込んだ。

 

「あ?」

 

 それを理解したのは激突の瞬間。

 目にも留まらぬ速度で繰り出された金髪少女の打撃、それを"ギリギリで凌いだ"山下さんの姿を見て理解したのだから。

 

「あ、ぶねえなぁ!」

 

 山下さんが目を見開く。

 鳩尾に当たる部位に掌を当てて、その打撃を受け止めていた。

 

「――初撃を凌いだか」

 

 ニタリと嗤うエヴァンジェリン。

 その足元が霞んだようにステップを踏んで――その肢体が翻転した。

 山下さんが動く、掴もうとした手がすり抜け、その代わりに跳ね跳んだ掌底。

 それを仰け反るように躱す彼、その足元に鋭く跳び込んだ黒いブーツの動き。同時に蛇のように伸ばされた指先、それらを。

 ――捌く。

 誰が信じるだろうか。

 目の前に居たはずなのに、その側面へとあまりにも自然な動きで回り込むなど。

 山下さんの体捌き、効率的な旋回方法。

 

「はやいっ!?」

 

「ちげえ、滑らかなだけだ」

 

 神楽坂さんの反応に、長渡が訂正した。

 山下さんの手が伸びる――鋭く、一直線にエヴァンジェリンの胸倉を掴もうとして。

 金属音。

 その指先が割り込んだ一つの黒い扇に阻まれた。

 

『鉄扇!? まさか、あれは』

 

 豪徳寺さんの解説も間に合わない。

 

「ちっ!?」

 

 指先弾かれた山下さんが大仰なほどに後ろに飛び下がろうとして、エヴァンジェリンの体躯が沈んだ。

 風を孕んだ裾を靡かせながら、クラウチングポーズの如く低く、だが構えだけではなく滑るように足を踏み出し。

 加速。

 

「なっ!?」

 

「温いぞ、技が」

 

 下がるよりも早く踏み出す。

 ただそれだけで鼻と目が触れそうな位置にまで接近、その掌が山下さんの顔面を掴んで――絡む足。

 ドレスの裾から伸びる艶かしい足先が山下さんの軸足を絡め、踵を持って膝裏を押し込み、体勢を崩す。

 妖艶な押し倒し、ただし地獄。

 後頭部から舞台に叩き落され、鈍い音が響いた。

 

「山下!!」

 

「っ、モロにいったで!?」

 

 長渡の声に、小太郎君の叫び。

 不味い倒れ方をした。

 騎乗位にも似た体勢で妖艶な金髪の少女が、山下さんの顔面を掴んだまま見下ろす。

 一瞬つまらなさそうに目が細まり、その次の刹那に口元を吊り上げた。

 

「ほうっ!?」

 

 愉しげな声。

 それが迸るよりも早く、エヴァンジェリンの掴んだ手が"掴まれる"。

 山下さんの手、左手で手首を、右手で彼女の脇下を掴み、その両足が跳ね上がるように動いた。

 ブレイクダンスにも似た体重移動、同時にエヴァンジェリンを絡め落とし――体勢を逆転させた。

 腕挫ぎ十字固め!?

 このまま極めれば勝てる!

 

「いや、まて!」

 

 両足でエヴァンジェリンの頭部と足を挟む前に、山下さんの表情に痛みが発していた。

 鉄扇、それが山下さんの太腿にめり込み。

 

「甘いな、掛けるときは相手に隠し武器がないか確認することだ」

 

 拘束が僅かに緩んだ隙にエヴァンジェリンが腕を捻り、抜け出るように脱出する。

 

「っ、痛いな」

 

 山下さんの手が足を押さえる。

 しかし、その脚は、腰はしっかりと地面を噛むように重心を安定させていた。

 対峙するエヴァンジェリンもまた何故かゆったりとした姿勢で、鉄扇を閉じ、嗤っていた。

 ゆっくりと二人が距離を測っている。

 無理な攻め込みに意味がないと悟ったのか? エヴァンジェリンは余裕がありそうだけど。

 

『おっと、硬直状態に入った。両者攻め手に困っているのか!?』

 

『それも無理はないでしょう』

 

『というと、どういうことでしょうか? 解説の豪徳寺さん』

 

 放送席から茶々丸と豪徳寺さんの声が聞こえた。

 

『私の見たところ、山下選手の使う武術とマグダウェル選手の動きはおそらく同一の【大東流合気柔術】です』

 

『大東流合気柔術とはなんでしょうか?』

 

 観客席からの疑問を代弁するように、質問が上がる。

 

『大東流合気柔術とは、現在多く広まってる合気道の源流だと言われている武術です。元は会津藩……現在の福島県会津若本の門外不出の武術でありましたが、明治時代、武田惣角という人物により広まったとされる日本武術です。無手での技術のみならず、流派によっては合気武器術、剣術、棒術、手裏剣術――そして、鉄扇などの武器術も存在します』

 

 鉄扇という言葉に、観客がざわめいた。

 

「つまり、同門対決ってこと?」

 

 神楽坂さんが珍しく的を得た発言をする。

 僕は頷き、長渡が応えた。

 

「知り合い、じゃあねえことは確かだが。流派ごとの違いはあっても、基本手の内は同じ。後は力量差で決まる」

 

 それはすなわち絶望的なことを示していた。

 簡単に見ても、エヴァンジェリンと山下さんの力量は違い過ぎる。

 山下さんが弱いわけじゃない。

 エヴァンジェリンの動きが年期を積みすぎている。

 僕の先生を見ているような気分。

 

『しかし、あの鉄扇。無駄の無い動き、まるで現代に蘇った武田惣角を見ているような気分です』

 

 豪徳寺さんの解説が進み、二人が動いた。

 

「――同じ同門対決ってのは気分がよくないな。勝てる気がしないんだが……」

 

 山下さんがぼやく。

 痛みが取れたのか、両手を柔らかく構えて。

 

「同門、というのは余り実感がわかんな」

 

 エヴァンジェリンが静かに告げる。

 鉄扇を広げて、その蜂蜜の掛かったような見事な金髪を仰いだ風でなびかせながら。

 

「八十年ほど前、会津の子天狗を名乗るクソジジイに無理やり教えられてな。多少動きも違うだろう?」

 

 風に乗って、そんな言葉が届いた。

 

「あ?」

 

 ちょっとまって。

 会津の子天狗って……

 

「ま、まままま、まじか!?」

 

「――知ってるの、長渡さん!?」

 

「え? 俺解説役!?」

 

 長渡がガビーンとしていた。

 ベンチ席の殆ど全員の視線が長渡に向けられる。

 あれ、もしかして解説キャラになってるの? 長渡。

 

「しょうがねえなぁ……」

 

 はぁ、とため息を吐き出しながら、長渡が気を取り直して告げる。

 

「会津の子天狗って呼ばれている八十年ぐらい前の人間って言われたら、一人しかいねえ」

 

「誰?」

 

 

「――"武田惣角"」

 

 

『え?』

 

 声がハモッた。

 そりゃあ驚くよねぇ。

 

「武田惣角だよ。大東流合気柔術の中興の祖、現在伝わっている奴が武田惣角の伝承者によるものが殆どだと考えれば――ぶっちゃけご先祖様みたいなもんだ」

 

「で、それから教わったってことは直弟子ってことになるよねぇ」

 

 我ながら引き攣った顔しか浮かばない。

 どこまで教えられたのかは不明だが、失伝した技術もあるはず。

 しかも、八十年――何歳なんだ? まあそれはいいとして、年期の違いがありすぎる。

 長くやってればいいってもんじゃないけど、短い奴よりは遥かにマシだ。

 

「――うそぉん」

 

 山下さんがムンクの顔をしていた。気持ちは分かる。

 僕だって卜伝とかと戦えって言われたら、同じような顔になる。

 エヴァンジェリンが首を傾げるが、「まあいい、年長者としての義務だ。かかってこい」と不敵に笑って、踊るように足を踏み出した。

 優雅な歩み。

 滑るような足取りで、ありながらその動きに乱れは一つもない。

 鼻歌でも歌えそうな優雅さでありながら、山下さんは息を吸い上げて。

 

「しょうがねえなぁ」

 

 ふざけながらも、真面目な顔で。

 躍るように踏み込んだ。

 同じ体捌き、違うのは体躯、経験、意識、性別。

 ただそれだけ。

 二人の手が繰り出される。互いを掴んで、極めて、投げて、打ち込んで、仕留めるために。

 掴む、弾かれる、握る、離れる、捌かれる。

 互いに動きを知っている。一瞬でも掴まれ、重心を崩されれば負けると知っている。

 だから、留まらない。常に相手の手足を狙い、大振りの打撃を繰り出さない。

 十回を超える手足の動作、それに伴い互いの右手が掴まれて。

 握手したように掴んだ両手で、お互いに腰を捻り、足を僅かに伸ばし、発勁動作にも似た人体駆動の果てに"跳ねた"。

 互いに吹き飛ばそうとして、互いに舞い上がる。

 翻転、旋転、回転、宙返り。

 どれでもいい。ただ飛ばし当って、その勢いを逃がし、舞台に着地した次の瞬間、山下さんの抜き手が轟いた。

 刺突、着地に曲げた足を伸ばし、打突の勢いで――打ち出す。霞むような手つき。

 それに裾を揺らめかしながら着地したエヴァンジェリンが鉄扇で捌く、火花を散らすような勢いと金属音。弾いたそれと共に足元を踏み変えて、ダンスのように半身を廻せた。

 山下さんの手首が掴まれた。

 

「!?」

 

 足首を曲げて、重心移動するも。

 遅い。

 掴む、否、触れた程度にしか見えない繊手からの合気で山下さんの身体が転げた。

 前のめりに転がる、即座に起き上がるよりも回転し、逃れようとするも。

 その腕が掴まれて、背に回り、金髪少女の膝裏に挟まれ、上から圧し掛かるような姿勢と共に、その首筋に鉄扇。

 跪くような姿勢と共に。

 

「――勝負、ありだ」

 

「ぐおっ!?」

 

 圧倒的な極め方。

 逃げる術もない関節技だった。

 

「降参するか?」

 

「……負けだ」

 

 山下さんの沈んだ声。

 そして、エヴァンジェリンがバッと鉄扇を広げて、不敵に笑う。

 

「筋はいい。私よりも才能はありそうだ、研鑽を積むんだな」

 

 そんな貫禄と共に、手を挙げ、朝倉さんを見た。

 

「審判、どうした?」

 

『は、はいな! 勝利!! マグダウェル選手の勝利です!!』

 

 歓声。

 そして、僕たちは。

 

「負けたか」

 

「無理だったね」

 

「強すぎやで」

 

 三者三様のコメントを残して、ふぅとため息を吐き出した。

 

 

 

 そして。

 

「あ、次は私の出番アルネ!」

 

「俺とのな」

 

 長渡がため息。

 古菲さんと長渡の試合、それが迫っていた。

 

 

 第一回戦、最後の試合。

 

 

 そして、因縁の対決の始まりだった。

 

 

 

 

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