スゥイートホーム ―涼宮ハルヒの慟哭―   作:はせがわ

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おまけ。 涼宮ハルヒとFC版スゥイートホーム。

 

 

「手に入れたわよ! FC版スゥイートホーム!」

 

 

 その日の団活……。部室で思い思いにくつろいでいた俺たちの前に、元気に扉を開け放つハルヒの姿が現れた。

 

「苦労したんだから! もう何十年も前のゲームだし、

 けっこうなプレミアが付いてたの! でも見事ゲットしてやったわ!」

 

 そう満足気な笑顔を浮かべ、ハルヒが「よいしょ」とテレビを運んでくる。ファミコン本体と一緒に。

 

「ほう、スゥイートホームですか。個人的な意見ですが、

 このゲームはかのドラクエやMOTHERといった名作に勝るとも劣らない、

 まさに傑作RPGと言えるのではないかと」

 

「同意。現在でもこのタイトルは、

 沢山の愛好家たちによってTASやRTAなどの動画が上げられている程。

 このゲームの制作チームが、後にスゥイートホームのゲーム性を踏襲する形で、

 バイオハザードというゲームを作り上げた事でも有名。

 まさにホラーゲームの金字塔と言える」

 

「えっ、ホラーですかぁ?! わ、わたし怖いのは……ちょっと」

 

 興味深そうにソフトを眺めるSOS団一同。長門や古泉に関してはすでにプレイ済のようで、ずいぶんと詳しい。

 

「ハルヒ? 俺たしかスゥイートホームって映画だったと記憶してるんだが。

 ほら、あの伊丹監督の。ホラー映画だったんじゃないか?」

 

「バカキョン! まさにその映画をゲーム化したのがコレよ!

 公開は映画の方が先だけど、恐らく同時進行で制作してたんじゃないかしら?」

 

 いそいそとTVに配線をつなぎ、ハルヒがファミコンの準備を全て終える。

 

「今日の団活は、みんなでこのゲームをプレイするわよ!

 キャラにみんなの名前つけて、誰がこの呪われた屋敷から脱出できるか勝負よ!」

 

 パッケージを見た所、このゲームの目的は「いったい何人の仲間が、この屋敷から生きて脱出できるか?」という物であるらしい。

 人を喰らう呪われた屋敷……ここから力を合わせて脱出するというテーマのゲームであるらしかった。

 

「……つか、いいのか学校でファミコンやって。先生に怒られるぞハルヒ?」

 

「なに言ってんのよ! お隣のコンピ研だって毎日ピコピコやってるじゃないの!」

 

 彼らがやっているのは、部活としてのゲーム制作。けしてファミコンで和気あいあいと遊んでいるワケではないと思うんだが……。

 あとハルヒ? ゲームの事を全部「ピコピコ」って言うな。おっさん臭いぞ。

 

「とりあえずスイッチON! さぁ始めていくわよみんな!

 怖すぎて腰を抜かさないようにね!」

 

「承りました。心して挑ませて頂きます」

 

「ふ、ふぇぇ~~! わたしキョンくんの後ろにいて良いですかぁ?」

 

「了解。屋敷に潜入する」

 

「やれやれ……」

 

 おどろおどろしい文字で描かれた「スゥイートホーム」のタイトル画面を抜け、始めにキャラクター名の入力をしていく。

 

 俺が“かずお“という名のおっさん役。

 ハルヒが“あきこ“というしっかり者の女性。

 古泉が“たぐち“というチャラいお兄さん。

 朝比奈さんは“あすか“という気の強そうな女性。

 そして長門が“えみ“という愛らしい女の子。

 

 それぞれの名前にキャラ名を変更し終えて、ハルヒが満面の笑みで決定ボタンを押し込む。

 そしてついにゲーム本編され、いま俺達の前にドット絵で描かれた、FC版スゥイートホームのオープニングが流れていった。

 

 

…………………

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 のろわれた やしき まみやてい……

 

 われわれ しゅざいはんは

 てんさいがか まみや いちろうの フレスコを もとめ

 

 いまはもう だれも すんでいない

 このやしきへ のりこんだ…………

 

 

 

「おぉ、けっこう雰囲気あるなコレ」

 

「ドット絵で描かれる映像という物は、不明瞭な分、想像力が掻き立てられます。

 リアルな映像とはまた違った恐怖感があると思いますよ?」

 

「音楽もいいわね! すごくおどろおどろしいわ!

 これぞホラーゲームって感じね!」

 

「8bitというスペックながら、製作者のアイディアや創意工夫により、

 完全にその世界観の表現に成功している。

 まだ導入部分ながら、全員の心拍数の上昇を確認」

 

「ふ……ふぇ……」

 

 今画面には、TV撮影班に扮した俺たちが、雷鳴や嵐吹き荒れる中で間宮邸へと足を踏み入れていく様子が流れている。

 

 はるひ; じゃあ いくわよ。 こいずみくん カメラ よういして

 

 屋敷の玄関を潜った俺たち撮影班。

 ディレクターのハルヒ(あきこ)がレポーター役の朝比奈さん(あすか)に向かって指示を出していく。

 

 

 みくる; わたしはぁ いま ちょうどぉ

      まみやていにぃ ふみこんだところ ですぅ。

 

 みくる; このやしきの どこかにぃ

      まみやいちろうの のこした フレスコがぁ あるはずですぅ。

      えっとぉ フレスコって いうのはぁ……

      ぬりたての しっくいに いろをつける っていう  ぎほうでぇ……

 

 

「う~ん、たどたどしいわね……。

 みくるちゃんをあすか役に据えたのは、ミスキャストだったかしら?」

 

「ふ……ふぇっ?!」

 

「言ってやるなハルヒ。こんな屋敷の中に居れば、誰だってそうなる」

 

「というか……なにやらセリフの雰囲気が朝比奈さんのようになっている気が……。

 あすかは本来、とても気の強い女性のハズですが……」

 

 どうやら以前プレイしていた時とはセリフの雰囲気が変わっていて、古泉が驚いてしまっている様子だ。

 こんなのハルヒにかかれば当然の事だろ古泉? たかだかゲームのセリフが改変されたくらいで驚かんよ、俺は。

 

 そうこうしている内、やがてTVから〈ドチュドチュドチョドチュドチュ!!!!〉というファミコン音源の効果音が流れ、いま彼らの背後にある玄関の扉が、沢山の落石によって完全に塞がれてしまった様子が映し出される。

 

 

 こいずみ; っ!? なんだ??

 ながと; ……っ!!

 みくる; で……ででで でぐちがぁ!!

 

 まみやふじん; やしきを あらす おろかものども!

         いきて ここから だすわけには いかない!!

         わが うらみ おもいしれ!!」

 

 はるひ; きゃー!! いったい なんなのよ いまのは!!

 

 

「おい、なんか一瞬、幽霊みたいのが出てきたぞ」

 

「あれがこのゲームのボス、間宮夫人ですね。

 出口を落石で塞ぎ、我々を屋敷に閉じ込めたのです」

 

「いきなり姿を現すのね。映画版とは少し違う展開だわ」

 

 そうしている内、一瞬にしてその姿を消した間宮夫人。

 屋敷の玄関には、ただ放心するばかりの俺たちだけが残されている。……まぁゲームの中の俺たちの話だが。

 

 

 こいずみ; ど どうしましょう。 でられなく なって しまいました……!

 きょん; おちつけよ。 ほかの でぐちを さがそう。

      やしきを まわれば いいほうほうが みつかるかも しれない。

 

 

「なにキョンのクセに仕切ってんのよ! そういうのはあたしでしょうが!」

 

「仕方ねぇだろうが! 俺がかずお役なんだから!」

 

 ハルヒの理不尽な罵倒はさておき……俺こと“かずお“のセリフが表示された後、どうやらオープニングの演出も終了したようで、キャラを動かせるようになった。ついにプレイ開始という事だ。

 コントローラーを握ったハルヒは自分が扮する“あきこ“を選んで操作し、メニュー画面とにらめっこしながらキャラを動かしていく。

 

「お、歩き回れるようになったな。頑張れよハルヒ」

 

「とりあえずは、この5人の中からパーティを組みたい人を選んで声を掛けて下さい。

 このゲームでは、最大3人まででパーティを組む事が出来ます。

 ようはこの5人の中から3人組と2人組を作り、

 それぞれが別動隊として屋敷を探索していくワケですね」

 

「二組作るの? 別に5人で行動すれば良くないかしら?

 あたし達はいつも仲良し! SOS団なのよ!」

 

「これはシステム上の都合と思われる。仕方の無い事。

 今はまず、仲間選びをする事を推奨」

 

「せちがらいですぅ……」

 

 長門と古泉のアドバイスのもと、画面の中のハルヒが仲間たちに声を掛けていく。

 

 

 はるひ; きょん! あたしと きなさい!

 きょん; ああ いっしょに いこうか

 

 はるひ; ゆき! あたしと きなさい!

 ながと; りょうかい。 ともに いたほうが こころづよいと おもわれる

 

 

「あの……やはり元のゲームとまったくセリフが違うのですが……」

 

「えみは本来、“だもん“口調だったハズ。不可解」

 

「気にするな。俺は初見だし、別に気にならんぞ」

 

 眉間にシワをよせている既プレイ組の二人。

 そうこうしている内にハルヒは、俺と長門を選び、無事3人パーティを結成したようだ。

 そこから試しにと、残りのメンバーにも声を掛けてみる様子。

 

 

 みくる; ご ごめんなさい。 ひとりに してください……。

 こいずみ; ぼくと あなたとでは あしなみが あわないかと。

 

 

「やっぱ駄目か。せちがれぇな」

 

「むむ……! なんか二人とも冷たくない?

 口調こそ、いつもの古泉くんとみくるちゃんだけど……」

 

「二人がこのような態度を取るハズがない。

 おそらくはキャラ本来の性格が反映されている物と思われる」

 

「す……すいません涼宮さん」

 

「ひ、ひぇぇ……」

 

 そう来たかと、なにやら不機嫌な様子のハルヒ。信頼していた団員たちに素っ気なくされてご機嫌斜めのようだ。

 そしてまた試しにと、いちどパーティ編成を変更し、すでに3人組を組んだ状態で残りの面子に声を掛けてみる。

 

 

 きょん; おれは ひとりで かまわんよ

 はるひ; いえ あたしひとりの ほうが うごきやすいわ

 ながと; わたし たんどくで もんだいないと おもわれる

 

 

「けっこう冷てぇな……俺たち」

 

「辛辣、ですね……。容赦なく突き放している……」

 

「こんな心細い場所で、こんな事言われたら……泣いちゃいます……」

 

「仲間に対してする態度ではない。ひどい」

 

「SOS団って、みんな仲良しなんだけど……。

 何があったのよ、あたし達に……」

 

 3人、頑なに4人以上でのパーティは組ませてもらえないようだ。

 もし無理に組もうなどとすれば、信頼する仲間からの辛辣で冷たい言葉が待っている。ゲームの仕様とはいえ心が折れそうだぜ。

 

 

きょん; どうぐは ひとり ひとつずつだな。

     じぶんが なにを もってるか かくにんしとこう

 

 

「だから仕切ってんじゃないわよ! アンタそんなタイプじゃないでしょうが!」

 

「仕方ねぇだろうが! 今かずおなんだよ俺は!」

 

 やがて画面にかずおが仲間達に声をかけるメッセージが表示される。

 そのアドバイスにしぶしぶ従い、メンバー達の所持しているアイテムを確認するハルヒ。

 

 どうやら、俺はライター。

 ハルヒは、薬箱。

 長門は、カギ。

 古泉は、カメラ。

 そして朝比奈さんが掃除機を、それぞれ所持しているようだ。

 

「あ、これ映画の設定と一緒か?

 あきこは劇中で仲間の治療をしてたから薬箱で、田口はカメラマンだからだ。

 アスカは絵の修復の専門家だから、掃除機を持ってるんだよ。

 まぁ、なんでえみがカギで、かずおがライターなのかは……よく分からんが」

 

 俺の記憶では、劇中でタバコを吸っていたのはあきこだったハズ。だからかずおがライター持ってる意味は分からん。

 劇中の重要なアイテムに“間宮邸の鍵“という物があるが……、それにえみが触れているという描写は無かったハズ。あれはかずおが役所に許可取って借りてきたんだから。

 まぁゲームとして作る上での事情があったのかもしれない。

 

「これはそのキャラクターだけが使用出来る、固有アイテムと言える物です。

 それぞれに重要な役割があり、それがキャラクターごとの個性となっています」

 

「ライターは障害物を燃やす。薬箱は毒などの治療。

 カギは閉ざされた扉を開ける事が出来、

 カメラと掃除機は主にフレスコ画に対して使われる」

 

「なるほどね! それぞれの道具を上手く活用してく事が、脱出への鍵なのね!

 ならとりあえず……パーティ構成はぁ……」

 

 ハルヒはウンウンと考え、とりあえずは俺と長門とハルヒという三人組、そして古泉と朝比奈さんの二人組という編成を組んだ。

 

「お見事、これはこのゲームにおける正解のひとつです。

 田口とアスカはフレスコ要員として、二人一組で行動させるのが定石ですね」

 

「そうなの? じゃあ暫くはこれで行ってみましょっか! ガンガン進むわよ!」

 

「あっ……わたしキョンくんと、離れちゃったなぁ……」

 

「今はそんな事を言っている時では無い。

 生きてこの屋敷を脱出する事を最優先すべき。これが最善の編成」

 

 なにやらどことなく勝ち誇った顔の長門が、朝比奈さんに対して厳しい言葉を投げているようだが……彼女達が何を言っているのかはよく聞き取れなかった。何があったんだろうか?

 

 

 きょん; なにが おこるか わからんから ちゅういして いけよ

 

 

 そんな仕切りたがりなゲームの中の俺の声と共に、一同が玄関から中へと踏み込んでいく。

 関係ないが、このゲームにおいてはかずおが主役っぽいな。確か映画版ではあきこさんが主演だったんだが。

 

 きょん; !! こんなに ひろいのか!

      まず ひだりの へやを しらべてみるか。

 

 エントランスらしき場所へと出た途端、そのただの屋敷とは思えない程の広さに愕然とした様子のかずお達一行。

 昔のゲームとは思えない程の、とてもクォリティの高いおどろおどろしいBGMを聞きながら、ハルヒがグリグリとコントローラーを操り、ズンズンと屋敷の中へ進んで行った。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

「なんなのよコレ! 呪いの人形とか、人魂とか、歩くよろいとか!

 どういう屋敷よコレ!」

 

「やっぱ映画版とは違うな……。わらわら敵が出てきやがる」

 

 これはRPGゲームという事で、歩く度にエンカウントしてくるモンス達。

 映画においてはこんな事はなく、あの屋敷はただ間宮夫人の亡霊に取りつかれた屋敷。主にポルターガイストや影による攻撃がメインだったハズだ。

 こんな風にスライムやオオガラスよろしく敵は出てこない。

 

「ついでに言えば、別に映画版じゃ、屋敷に閉じ込められたりはしないぞ?

 不気味な屋敷ではあっても、ある程度は出たり入ったり出来るんだ」

 

「――――どういう事よソレ!? FC版の間宮邸って、激おこのハードモードなの?!」

 

「たまたま虫の居所が悪かった……のでしょうか?」

 

 もうポルターガイストは元より、罠やモンスまでもを駆使して全力で殺しに来るのが、FC版の間宮邸。

 おなじかずおというキャラクターであっても、映画版とFC版とでは苦労の度合いが全然違うようだった。さぞ死亡率も変わって来る事だろう。

 

「くすりびん! くすりびんはどこ?!

 あたしもう、体力ちょびっとしか残って無いんだけど!?」

 

「探せ探せ。どっかに落ちてるって」

 

「このゲームには、宿屋も教会も道具屋もありませんからね……。

 ただ屋敷内に落ちているアイテムだけが、回復の手段なのです」

 

「せちがらい」

 

「ですぅ……」

 

 半身男、というモンスターにボッコボコにされ、ハルヒの扮するあきこさんがピンチに陥っている。

 なんか戦闘中に“足を掴まれた“という表示が出てたので、おそらく半身男によって“拘束状態“にされたっぽいんだが、そこから仲間達の攻撃がモンスではなく、全部あきこさんの方に刺さっていくようになってしまったのだ。

 あきこさんことハルヒの体力値は、ガスガス音を立ててどんどん減っていった。清々しいまでに。

 

「ムキィー! もうここらに落ちてた薬瓶は全部使っちゃったわよ!

 仕方ない……まだ入ってない場所を探すしかないようね……!」

 

 そう言ってハルヒは、アイテム欄から“ボロボロの板“というヤツを選択し、床へと設置した。

 実はこの間宮邸の床、年月の経過からなのか、はたまた夫人の悪意によってなのかは分からんが、もうそこら中の床に穴が空いている。

 まるで谷や崖のように、屋内であるというのにそこら中が亀裂だらけなのだ。これでは通るに通れない。

 

 そこで登場するのが、この“ボロボロの板“。

 これは床の裂け目に設置する事で、下に落ちる事なく通る事が出来るという足場的なアイテムだ。

 ハルヒは意気揚々とボロボロの板を設置し、自らのキャラクターにその上を歩かせていった。

 しかし……。

 

 

 ハルヒ; きゃー! だれか たすけてぇー!!

 

 

「 !?!? 」

 

 突然ハルヒの悲鳴らしきメッセージが表示され、画面ではハルヒが亀裂の谷間にハマり、今まさに落ちそうになっている様子が映っている。

 

「……えっ!? 何よこれ!! さっきまでこうすれば亀裂を渡れてたのにっ……」

 

「はい、これが間宮邸の罠、その1です。

 実は足場となるボロボロの板には、使用回数の制限がありまして」

 

「人が渡る度に、どんどんと板が劣化していく。

 そして耐久値の限界を迎えた時、キャラクターが崖に落ちてしまうという寸法」

 

 なにやら非常にニコニコとしながら古泉と長門が語る。

 今TV画面には、「たすけてー!」と叫んでいるハルヒの姿。体力の数字もガンガンと減っていく。

 今もスピーカーからは、生命の危機を表すが如くの緊迫したBGMが流れ、どんどんコントローラーを握っているハルヒが平常心を失っていくのが分かった。

 

「ちょ……! ど、どうするのよコレ!! どうすれば助けられ……! ちょ……!!」

 

ハルヒ; たすけて きょん! はやく ひっぱりあげて!

ハルヒ; たすけて きょん! はやく ひっぱりあげて!

 

 

 混乱し、今まさに落っこちようとしているハルヒ(あきこ)に向かい、何度も何度も“はなす“のコマンドを実行するハルヒ。

 しかし画面には、何度も「たすけてー!」という叫び声が表示されるばかり。一向にハルヒを助け出す事が出来ない。

 

 ふと見てみれば、いま古泉と長門の二人が、それはそれは良い笑顔で「ニヤニヤ! ニヤニヤ!」としているのが見えた。

 

「えっ……! メニューのどこにも“ひっぱり上げる“みたいなコマンドは……!

 どっ……どうやって助けるのよコレ!?!?」

 

 

ハルヒ; たすけて きょん! はやく ひっぱりあげて!

ハルヒ; たすけてぇー! きょん! はやくー!! 

 

 

 もうアワアワ言いながら、無駄にそこら中を駆け回っているハルヒの操作キャラクター。

 そうこうしている内に、ハルヒと名付けたキャラクターの体力は、ゼロとなった。(スリップダメージというヤツだ)

 

 

「――――い、いやぁぁぁぁあああああああーーーーーーーーーッッ!!!!」

 

ガァァーン!! デレデデ~~ン♪

 

 

 床に倒れたハルヒが、ブワッと身体中から血を吹き出して死んでいく映像が流れた。

 そして、まるで心臓を鷲掴みにされるような、物凄く不気味な効果音がスピーカーから鳴り響く。

 ……あれだ、これはドラクエ3の、セーブが消えた時のBGMと似ている。すんごい似てる。

 

 今画面には、「はるひ は しんでしまった!」という無慈悲なメッセージが表示されており、先ほど「いやー!」と悲鳴を上げていたハルヒは、今ガックリと机に突っ伏している。

 

「やってしまいましたね涼宮さん。

 実は崖に落ちてしまった仲間を救出する為には、

 メニュー画面にある“なかま“のコマンドを実行せねばならないのですよ」

 

「これは説明書にて明記されている方法。

 しかし、崖に落ちた者を救い出す方法としては、非常に分かりづらいと言う他無く、

 当時このゲームをプレイした多くのちびっこ達は、ただただTVの前で何も出来ずに、

 自らのキャラクターが段々と死にゆく場面を見つめている事しか出来なかった」

 

「……加えて、この危機に陥ったシーンで流れる、

 秀逸なまでに緊張と切迫感をあおってくる恐ろしいBGMですよ。

 このBGMを聞き、平常心と判断力を損なわずにいられる人間は存在しません」

 

「そんな初見殺し的な分かりづらさと、キャラ死亡時の秀逸な画像演出、

 また素晴らしく恐ろしいBGMにより、このゲームは多くのプレイヤー達の心に、

 消えないトラウマを植え付ける事に成功した」

 

「まさにホラーゲームの金字塔に相応しい、そんな演出かと。

 ご堪能頂けましたか涼宮さん?

 これこそがFC版スゥイートホームにおける、登竜門なのです」

 

 

 未だ机に突っ伏しているハルヒ。

 ニコニコと解説をする古泉、長門の両名。

 

「ちなにみこのゲームでは、一度死んだ仲間は二度と復活しない(・・・・・・・・)

 

「どうなさいますか涼宮さん?

 まだ序盤ですし、一度メニュー画面にある“ぎぶあっぷ“を選択し、

 ゲームを最初からやり直すのも手かと」

 

「……! ~~ッッ!!」

 

 ……あれだな。きっと長門も古泉も、今のハルヒとまったく同じ経験をこのゲームでしたんだろうなぁ。

 もう満面の笑みで、「ようそこスゥイートホームへ!」って感じで、ニコニコしながらハルヒを煽っている。

 

 

「うるさいのよ有希! 古泉くん!

 いいわよやってやるわよ! あたしは死んじゃったけど、

 残りのみんなだけでこのゲームをクリアしてやるわよ!!」

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 その後、意地になって"ぎぶあっぷ"を拒んだハルヒは、残った4人のキャラクターだけでゲームを再開した。

 

 屋敷の罠にハマり、次々と命を落としていく仲間たち。

 また頭数が減る事による戦力不足、そして固有アイテムが使用不可となるという鬼畜仕様により、どんどんゲーム進行はその難易度を上げていく。

 

「あ、死にましたね。

 一度この砂粒にハマってしまえば、自分一人で抜け出す事は出来ません」

 

「ゲームーオーバー。最初からやり直す事を推奨する」

 

「むっきぃぃぃーーーーーーーーーーッッ!!」

 

 

 

 

 ハルヒの雄たけびが、SOS団の部室に木霊する――――

 

 

 今回紹介した、このFC版スゥイートホーム。

 これはまごう事無き名作RPGなので、機会があれば一度やってみるといいぞ。

 

 


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