異世界にて〜魔法と科学の小競り合い〜   作:tubukko

100 / 105
ギリギリセーフ!
年内投稿できたぜ!

夜は見たい番組ある人が多いだろうからさっと目を通しちゃってください♪


裏の一面

Sは焦っていた。

よりによってなぜ、なぜあいつが来るのか。

 

来るならほかにもいたはずだ。

なぜよりにもよってあの赤毛が来るのか。

Tが自分の獲物だとか言ってたではないか。

 

一度、リョウのもとを離れたSは他にその処理を頼んだ。

もともと彼女は戦闘タイプではない。

敵を殺すなら暗殺などの戦わない方法が最も良いだろう。

 

モニターに映るマーシャの姿を見て下唇を噛む。

 

彼女が嫌だと言ったのはマーシャが人間であり、一度自分の能力を目の前で見られているからである。

サクが侵入していることも承知ではあるが使い魔は正直眼中にない。

しかし、マーシャとなればばれた瞬間ほぼ確実に殺される。

使い魔なんかとは比にならないほど強いはずだと思っていた。

 

根拠はグネズト。

彼が強い人材しか選ばないことくらい有名な話。

どこを見ているのかは知らないがその選択に間違いはない。

 

ましてやマーシャとリョウがそれなりの強い絆で結ばれていることくらい知らないはずがない。

彼女にとって逆上した言葉の通じない理性的ではない獣は最も注意すべき敵。

うまくやればいい駒になるかもしれないが、間違えれば自分がやられる。

リョウをうまく扱う必要がある。

まだ胸を開いていなかったことに胸をなでおろす。

 

少し心休めることがあるだけで少しばかり冷静になる。

そして思い出した。

自分はネーム持ちなのだ。

生粋のネーム持ち。

それがドールという外界の力に頼っている弱い人間に勝てない?

笑わせるな。

 

「…やれる」

 

Sは部屋を後にした。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ここは…」

 

クロは日光の注ぐ青い空の下を歩いている。

風も吹き、気持ち悪いほどまでに心地がいい。

だが、1つ付け加えるとすれば生き物が欲しい。

鳥だ。

虫は正直蠢いてるだけなのであまり欲しいとは思わない。

鳥の鳴き声が聞きたい。

 

そこに音が響く。

ただ欲しかった音ではない。

何か警報のような音。

 

「侵入者1名検出。検索中…該当者一名クロツェフ・アリアジート」

「…古巣とはいえ、歓迎はされないよね」

 

もちろん、古巣とはいってもクロはここに来たことはない。

こういう時、レックスやマーシャ、おそらくフィリアでさえも「歓迎されてる」と皮肉を言うだろう。

それを言わないのは単に純粋だから。

人を陥れることを好まなければ、皮肉も嫌だ。

不幸話を聞いて笑うことはあってもそれにも限度がある。

 

「システムニ従イ第二シークエンスヲ実行シマス」

 

ブザー音が鳴り響く。

吹いていた風はいつの間にか止まっていた。

降り注いでいた心地よい太陽の暖かさも感じない。

改めて作り物だと感じさせられた。

 

「?」

 

機械音。

まぁ、あってもおかしくはない。

だが不自然に思ったのは他に聞こえる引きずっている音。

耳に黒板をひっかいたときに響くような嫌な音や、何かがぶつかる音、はじける音など多種多様な音が聞こえる。

 

逃げることに意味はない…わけじゃない。

だがクロには自信がある。

ネーム持ちなのだ。

 

木々をかき分け、自ら敵のもとへ突っ込む。

相手にも場所は分かっていたのだろう、音は徐々に近づき10秒としないうちに敵を視界にとらえた。

 

自分よりも遥かに大きい。

見上げるのは当たり前。

全体的に真っ黒な体の表面。

だが不完全なのか体中のいろいろなパーツがコード一本で繋がっている。

いや、これで不完全というのならむしろ出すべきではない。

バチバチと電気が火花を散らしている。

丸い頭には的とでもいうべき配色が施されている。

思わず真ん中に矢でも当てれば100点もらえないかと思ってしまった。

 

それを思えるほど余裕があった。

自分の魔力を相手にしみこませる。

それだけで自分の物になってしまうから。

周りの壁は先にFに取られてしまっているため自分の魔力が入る余地はない。

むしろ目の前にいい素材が出てきたと喜んだ。

だが…

 

「………?」

 

操れない。

魔力は染み込ませた。

なのに操れない。

 

しかし、そんな現状でも相手が待ってくれるはずがない。

予備動作を見せることなく体が崩れるように倒れてくる。

近くにあった木々など当たり前ながらお構いなし。

メキメキと倒れてくる木を避けながら攻撃の範囲から離れる。

そして衝撃に備えたが怖いことに何も衝撃がない。

木々を倒すほどの重さが地面に倒れたにもかかわらず何も衝撃がない。

 

敵を見てすべてを理解した。

地面に触れたと同時に敵の体が液状化する。

液状化した体はスライムのようにドロドロと広がる。

 

自分が操れないわけも理解した。

固体ではなく液体なのだ。

コード等も何か細工があるのだろう。

さすがクロ対策用というだけはある。

でも手がないわけではない。

リョウを助けるためにもここで躓いてはいられない。

それに…

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「…外れだな」

 

アタリを引いていたにもかかわらずレックスは呟く。

周りに敵はいない。

あるのは機械機械機械。

計器のようなものは見当たらないがごっついものが並ぶ。

不思議なことに誰もいない。

 

先に誰か来てやりあったのかと思ったがそれにしては被害がなさすぎるし死体や争った跡も見当たらない。

本当に長い間誰もいなかったのだと理解する。

 

レックスはこういう頭を使うことが苦手だ。

キーボードがあってもせいぜいネットサーフィンするくらいにしか使えない。

そして一応いじくってみようかとも思ったのだがキーボードが固い。

指で押しても1つも動かないことはもちろん、叩き割るさながらキーボードクラッシャーのように行動してみたが傷1つつかない。

 

ここにもFの力が働いているのだろう。

レックスの力ではドールですらどうすることもできない。

内部に衝撃を加えても硬ければ壊せない。

 

「あーーー、くそっ!」

 

出口を探したが見当たらない、入り口は閉まっている。

八方塞がりな状況にイライラし自分の武器は拳であるにも関わらず足で何かしらの機械を蹴る。

 

「!!?」

 

それと同時に足に激痛が走った。

激痛が走った足を抑えて地面に転がる。

どっからどう考えても自業自得。

あたる相手を間違えたことに後悔するがそれと同時に疑問が浮かぶ。

なんで痛いのか?

自分たちは魔法側と違って否応なしに通常はバリアが体の表面を覆っている。

すべてダメージはそれで吸収されているはずなのに痛いと感じた?

暫くの間、その意味が理解できずにその場に座り込んだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ぁ…………0~\ー|?*@!!」

 

現在存在する言葉では表せないような悲鳴と音。

可愛く表現するならばメキメキが正しいだろうか。

 

「ねぇ、どうしたの?その程度?」

 

イプシンの手は相手の右腕を握っている。

首ではないにもかかわらずその腕の部分は本来首があるべき高さに持ってこられており、敵が苦痛に顔をゆがめている。

 

「訊いてるじゃん、答えてよ」

 

イプシンの顔は笑っている、顔は。

ただ目が笑っていなかった。

 

「殺さないよ、殺すわけないじゃん。後輩の情報を持ってるんでしょ?話してよ」

「だ、だれが…」

「それだけじゃ足りないよ、こんな傷つけて…」

 

頬から血がしたたり落ちている。

鋭利な刃物でスッと撫でられたような。

 

「乙女の肌って大切なんだよ私まだこれからなんだよ分かるでしょこういう体つきしてるから仮に好きって人がいてもそう思われたくないからって嘘ついちゃう人もたくさんいて困ってるんだよそれに私にだって好みはあるんだからさらに選択肢が減っちゃうしそんな中にこんな傷なんてつけられたらただでさえ7段階目で偏見があったりするんだよ女の子として見られたいのにどう責任とってくれるの貴方と付き合うのはごめんだよだとしたら私の命令聞くのがいいと思うんだけどどう?」

 

リョウたちには見せられない一面。

外見が少女でも年はすでに30過ぎ。

そんな外見の人間から突然出てきた言葉の羅列に恐怖を覚える。

 

「話してくれる気になった?」

「何が、知りたい?」

「後輩…リョウって子の場所」

「それを教えれば、この手を離して―――」

 

無言の回答。

イプシンの掴む手の力が強くなり再び痛々しい音が鳴る。

 

「そ…そこの壁を開け…れば転、移装置に乗ればッァァァッァァァァ!?」

「本当だね?」

「あ、ああ!ァァァア……」

 

ボロ雑巾を投げるようにその場に敵を捨てる。

興味を失ったかのように全く心残りがない。

 

言われた方向に歩いて行く。

壁を調べると確かに取り外しができた。

ガコッっと外れた音がすると狭い空間に転移装置がある。

違和感。

隠しているにしてももう少し違う方法がないだろうか。

自分が使うときに不便すぎる。

 

罠の可能性は十分にある。

どういうわけかSバリアが消えている。

そのせいでついた傷。

傷が残らないといいなとケイトがいれば10秒で解決するどうでもいい問題が頭の中の大半を占めていた。

 

狭い空間に足を踏み入れる。

イプシンにとっても狭い空間を四つん這いで転移装置に乗った。

しかし

 

「?」

 

罠だった。

転移装置が光を失うと視界が真っ暗になる。

直後に赤く小さな光が点灯する。

 

「ハハッ…、馬鹿だよなお前」

 

壁越しに声が聞こえる。

 

「俺が知ってるわけないだろ!?下っ端だ、そんなつい最近のこと俺の耳に入るかよ!その部屋は俺が整えた敵を閉じ込めて仲間を呼ぶまで時間を稼ぐための部屋なんだよ、最初からてめぇらとまともにやりあえるつもりはなかったからな!」

「…………」

「てめぇは終わりだ!次壁が開いた時が最後だと―――」

「知ってる?突然べらべらとしゃべり始めた雑魚って…」

 

何かがこすれあう音。

上から下げられた壁が無理やりこじ開けられようとしている。

 

「死ぬんだよ?」

 

こじ開けられた壁の奥からイプシンの目が見える。

意図してそうなっているのか死んだ目をしたそれは恐怖心を煽る。

思わず後ずさりをする。

 

「Fの壁は私でも壊せない。でも押しのけることくらいはできるんだよ」

「………ぁ」

「お仲間が来るみたいだけど時間を稼ぐとか言ってたね?つまり見せしめを作る時間はあるよね?」

 

腰が抜けるとはこういうことを言うのかもしれない。

足に力が入らないとはこういうことを言うのかもしれない。

目の前が真っ暗になるとはこういうことを言うのかもしれない。

 

勝てないことを理解しているからこそ怖い。

 

「見せしめ、昔からよく使われる手法として挙げられるのはさらし首だよね。案外簡単にできるけど効果はある。でも今は時間があるからさ、違うことやろうよ」

 

何かいい一言。

もはや行動を考えるつもりはない。

どこに逃げても殺される。

口で丸め込むしかない。

だが、いい言葉なんて見つかるはずがない。

 

「お世辞はいらないよ、命乞いは聞かないよ、悲鳴も耳障りだから。ただおとなしく…ね?」




今年一年お疲れさまでした。
読んでくれた人たちには感謝です。


それではみなさん、よいお年を!

あ、あとイプシンは別にヤンデレとかそういうやばい類ではないです。
ただ傷に過剰に反応するだけです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。