異世界にて〜魔法と科学の小競り合い〜   作:tubukko

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3月が終わり4月に入る…。
しかし、東北は相変わらずの寒さです。


触れるな危険!

マーシャがSと出会った頃だった。

 

「…………」

 

明らかに不自然な穴を前にレックスは頭を悩ませていた。

入り口はあったのだから出口もあるはずだとめげずによくわからない機械の山の部屋を捜索していたところ、壁の奥に空洞を見つけたのだ。

レックスのドールの力でどこか壊せるものはないかなと力を使っていたところ、奥に空洞を発見したのだ。

何かあるのではと悩んでいるが黙っているわけにもいかない。

 

「レックス?」

 

名前を呼ばれた。

だが、この場にとても合わない声だ。

しかし、その人がいるなんてありえない。

さっき連れ去られたはずだったから。

 

レックスが半信半疑で振り向く。

そこには思っていた通り、ミリーナが立っていた。

転移装置から入ってきたのなら気づく。

だが、ミリーナは物音ひとつ立てることなくいつの間にかレックスの後ろに立っていた。

瞬間移動でも……

 

「(ああ、そういえばできたんだっけ)」

 

そして、レックスはミリーナをまじまじと見て思わずギョッとした。

体のパーツ、左腕が見当たらないのだ。

 

「ああ、これ?ちょっといろいろあったの」

 

それに気づいたのか、苦笑いを浮かべながら断面を見せる。

肉肉しくはないその断面はもともとそうだったかのように鉄の断面が顔を見せる。

 

「中も見たいの?」

「いや、正直どうでもいい」

 

なんとなく想像がつくその中身には興味が持てなかったレックス。

ミリーナはそれを聞くと少し残念そうに腕を下した。

 

「で、なんで俺のところに来たんだ?」

「別にレックス目当てで来たわけじゃないの。たどるならここからが一番だと思ったからなの」

「??」

「昔、私は自分の情報を使ってここの戦力情報を推測したの」

「それが?」

「以前の私はここに20以上のネーム持ちがいると思っていたの」

「20!?」

 

10人以上数に差があればさすがにリョウたちでも無理がある。

素っ頓狂な声を上げたレックスは慌てて周りに目をやる。

一通り周りは見たがもしものことがあってはまずい。

幸い、敵の姿はどこにも見当たらなかった。

 

しかし、ミリーナは話の続きを話すことなくそこらの機器をいじり始める。

 

「レックス、この部屋に何か変わったところはなかった?」

「ここに隠し通路みたいなのくらいなら」

「あったの!?」

 

首がすごいスピードで曲がりレックスの後ろにある通路を見てしばらく止まる。

腕一本なくなるだけで人はバランス感覚が少しずれがちになるのだがそれを感じさせない足取りでミリーナは通路の前に立った。

入口が狭いその通路の奥は大人一人ぐらいなら問題なく歩けるぐらいの大きさがある。

 

「この先に何があるかわかるのか?」

「戦局を大きく変えることができるキーなの」

「キー?」

「鍵って意味なの」

 

ミリーナは少しかがむと迷わずその通路の奥へと足を進める。

暗い通路にわずかな明かりが灯された。

足場を確認するのがギリギリなわずかな明かり。

レックスもその後に続いて歩いていく。

 

「なぁ、この先にあるのが20人以上の敵を蹴散らす鍵になるのか?」

「ん………、少し違うの。まず訂正しておくのは私の推測は間違っていたの」

「20人が?」

 

薄暗く、わかりにくくはあったがミリーナは確かにうなずいた。

 

「初めに疑問に思ったのはCを見てからなの」

「あの男か?」

「私が知っているあの人はフラットの恋人なの。そして刀の技術だけならフラットより上」

「それでネーム持ちか」

「いえ、それは違ったの」

「は?」

「彼はネーム持ちではなかったの」

 

レックスの足が止まった。

足音で聞き間違えたかと思ったがそんなに大きな足音ではない。

 

「馬鹿言うな。俺たちは自分の体で確かに体感したんだぞ?」

「分かってるの。あの人は今ネーム持ち、でも数年前は確かに違ったの」

「じゃあなんだ?ネーム持ちを自由に創り出せる技術でもできたのか?」

「たぶん…なの」

 

なんて言ったらいいかわからず口を開けたままだったレックスだがミリーナが動き出すと後ろをついていく。

もしミリーナの言うことが事実なら絶望的である。

ネーム持ちは天然でしか現れないというのにカザキは創り出すことができたという推測はレックスに軽い絶望を与える。

 

だが、疑問も残る。

創り出せるならなぜ増やさないのか。

ミリーナは確か20人以上いるという推測は間違いだといった。

 

「おそらく全員を変えることはできないの」

 

その疑問に答えるかのようにミリーナが話す。

 

「何か条件があるの。例えばデオキシリボ核酸の配列だったり血液型…ホルモンの問題だったり………」

 

血液型以外、レックスは詳しく説明しろといわれてもよくわからない。

もともと理解する気で聴いていたわけではないが頭が痛くなる。

 

「ともかく、その中心を探してたの。ただ一度通った場所じゃないと瞬間移動は危険すぎるから目視で探してきたんだけど見つからなかったの。今までは」

「…分かった。じゃあもう1つ訊きたいことがある」

「?」

「どうやって3人の敵をこんな短時間で退けた?」

「ああ、それは―――」

 

ミリーナがしゃべりかけた瞬間だった。

突然光がともった。

その光はさっきまでとは全然違い、白い壁全体を確かに強く照らしている。

しかし、その光はすぐに弱まりさっきほどまでではないが程よい薄暗さが部屋全体に広がる。

しかし、不思議な点がありその明かりは旧世代の電球から灯されているということ。

膨らみかけの風船を思わせるその電球をレックスは生で初めて見た。

部屋の構造はドーム状。

他には特に何もないかと思われたが1つ、中心に目を見張るものがあった。

 

液体で満たされた丸い形をした容器が天井に向かって伸びている。

そしてその液体の中には

 

「…人?」

 

入ってしばらくの間、言葉も出ないのか唖然としていたミリーナだったが口を開いた。

その口から出たセリフも疑問形ではあったが。

容器に入っていたそれはすっかり痩せ切った女性だった。

裸ではあるがその状態であってもレックスは興奮を覚えることはできなかった。

必要最低限。いや、その筋肉すら残っていないのではないかと思わせる風貌だった。

 

「これがお前の言ってたキーってやつか?」

「おそらく、なの。こんな形なんて想像もしてなかったけど」

「じゃああの女性についても?」

「予想はなんとなく……なの」

「で、俺はこれを壊せばいいのか?」

「保証はできないけど…、でも壊す必要があったとしても―――」

「Fの力があっては不可能ですよねぇ」

 

ミリーナもレックスも慌てることはなかった。

わかりきっていた。

こんな重要な場所に誰も配置しないのはありえない。

 

現れた男は余裕を感じさせる雰囲気を放ちながら眼鏡を指で少し持ち上げる。

 

「代弁どうも、といいたいところだけど少し違うの」

「へぇ、本当はなんと?」

「雑魚を蹴散らしてからなの」

「…雑魚というのはリュート・J・ミヌである私を指しているのでしょうか?」

「思ったより頭の回りがいいの」

 

Jは鼻で笑うと掌を握りしめる。

するとその拳から何色とも言い難い、液体のようなものが体を覆い始める。

 

「ミリーナ、Jは?」

「『老い』なの。でもあれに触れると老いるなんてもんじゃない、腐るの」

「ドールで防げるか?」

「ドールもすぐに崩れるの」

 

面倒だなとでも言いたげにレックスが頭を掻く。

Jはそうしている間に体全体を謎の液体で覆った。

目や鼻は確認できなくなりこちらが見えているのかも定かではない。

 

「これは壊されると困るんですよ。多いにね」

 

話はできるらしい。

声は特にこもっているようには聞こえない。

 

「いったい何なの?」

「…Eのことを指しているのですか?」

「その女はEなの?」

「何も知らずにここまで来たのですね。そのまま殺されるのはあまりに不憫でしょうから教えて差し上げましょう」

 

Jが容器の隣に立つ。

掌でそれに触れたが容器に何の変化もなかった。

そこでおかしなことに気づいたミリーナ。

Jは地面に足をつけている。

だが、地面が腐るような感じは見当たらない。

Fの力だって時間の流れには逆らえないはずなのだ。

 

Jの力はそれだけ強いのか或いは…

 

「これはネームの力を持つ者にはさらなる力を、持たない者にはそれを与えます」

「Eを使う理由はなんなの?」

「Eの能力は他のネームの物まね。これほど魔力の変換に適したネームはいませんよ。ただ、これも完璧ではありません。ネームではない者への力の付与の場合、ネームが目覚めかけている必要があります」

「目覚めかけなんてあるのか?」

「魔力を一定以上持っている人がそうですね。力の前に魔力が先行してしまった、といったところでしょうか」

 

さて、と小さな声でしゃべるとJは襟を正す。

外見人の形をしているだけなのだからそんなことに意味はない。

 

「冥土の土産は渡しました。おとなしく死んでください」

 

丁寧な物言いではあるが確かにその言葉には殺意がこもっていた。

一歩、一歩と近づいてくる敵を前にミリーナは構えた。

正直どう対応したらいいかわからなかった。

自分の体は半永久的だと自負してはいるがそれもメンテナンスを踏まえればの話。

相手の能力がそれを考慮してくれるはずがないだろう。

引っかかる点はあるがそれが何かは分からない。

 

「ミリーナ」

「?」

「あいつに訊きたいことはもうないんだな?」

「贅沢を言えばあの機械を止める方法も知りたいの」

 

それを聞くとレックスが敵に近づき始める。

 

その行動にJは少し驚いたのか、足が鈍った。

誰にでもわかるほどに。

それを見てレックスは笑う。

 

「やっぱりな。小心者だと思ってたよ」

「…何?」

「その上から目線の物言いといい、体全体にまんべんなくネームの能力を使うといい、誰にも見つからない可能性もあるのにここにいることといい」

「面白いことを言うな、屑が」

「あと挑発に簡単に乗るところとかな」

 

ミリーナは制止しようと試みたがすでに遅い。

Jは足をバネにレックスにとびかかる。

ミリーナ避けるよう叫んだ。

 

それは確かにレックスの耳にも入ったはずだった。

しかしレックスはJの腹めがけて拳を入れる。

Jもその瞬間はレックスが何をしたいのかさっぱりだった。

 

2人の拳が2人が思っていた通りの部位に直撃する。

 

お互いに力を前に込めていたため受け流すすべはない。

お互いの体から痛々しい音が低く唸った。

2人とも後ろに下がりひるむ。

レックスは相手からの拳よりも自分の拳に痛みを感じた。

 

拳に目をやると皮膚が…いや、わずかながら筋が顔をのぞかせている。

拳を守っていたはずのドールはさび付き、機能の一部を失っているのがうかがえる。

 

「何をしたいのかは分かりませんが…これでわかったでしょう?」

 

レックスの拳がうまく入ったのか苦痛に顔をゆがめながら平静を保とうとする。

顔は見えないが、声色で苦痛に顔を歪めているというのがレックスにも分かった。

 

「貴方は一撃私に拳を入れるだけでその有様です。足を含めてもあと4、5回が限界かと」

「…確かにお前に触れるのは危険だ。だけどな―――」

 

レックスは両手を目の前で構える。

 

「それはお互い様なんだよ」

 

両手をぶつけ、手を鳴らす。

 

瞬間、Jの背中から勢いよく血が吹き出た。

破裂したかのように一瞬で血が吹き出る。

 

「……!…??」

 

突然走った激痛に何が何だか分からなかったに違いない。

体全体を覆っていたまがまがしい何かが崩れ落ちていき、戸惑いの顔が露わになった。

一瞬にして広がった血の海。

そこに静かにJは崩れ落ちる。

 

「俺が疑問に思ってたことは1つ。そのJの力が本物か違うか。体全体を覆えるのに足の裏にそれを使わないのはおかしいと思ったからな」

 

レックスはミリーナと同じ疑問を抱いていた。

 

Jはわずかに顔を上げ、レックスを見上げる。

レックスの言葉を理解できているのかは分からない。

 

「偽物なら普通に殴り合うつもりだったんだけど、悪いな。俺のドールは拳を入れるまでの一瞬があれば人1人殺すなんて造作もないんだ。結局、足の裏まで覆わないのは単にめんどくさかっただけ?みたいだけどな」

 

何か言いたげに口を開いていたが、出てくるのは血だけだった。

あえぐので精一杯で言葉は出ない。

 

「じゃあな」

 

しばらく痙攣を起こしていたJの体もやがて動かなくなった。

レックスはそれを見るとミリーナのほうに歩み寄る。

手が痛いのか手を振っている。

 

「何ぼーっとしてるんだ?リョウを助けるのに時間がないんだろ、あとはお前の役目だ」

「…あ、うん。今やってみるの」

 

暫し止まっていたミリーナは画面を前に片手でキーボードをたたく。

やることが分かっているかのようにその手の動きは滑らかだった。

レックスは黙ってそれを見る。

 

画面に並ぶのは言葉ばかりだがレックスが理解できることはほとんどない。

自分の知っている言語のはずなのだが、そう思えない。

1分もしないうちにミリーナの手が止まる。

 

「………やっぱり」

 

ミリーナは呟くとEに顔を向ける。

 

「どうした?」

「Fの異常なほどの力もこれを止めれば抑えられるの。それだけじゃない、他の敵も弱体化できるの。戦況が一気に傾くの!」

「できるのか?」

「すぐできるの。……………………………よし!」

 

うれしそうな声と一緒にいわゆる「Enterキー」が押される。

機械が唸りを上げる。

排水され始め、中の女性は座り込むようにその中で倒れこむ。

中心にあった容器を照らしていた光が消え、部屋の明かりも少しばかり薄くなったように見える。

 

そして嫌な音がした。

レックスは興味がないのと、女性の裸体を見続けるのはバツが悪いと思い目をそらしていた。

ミリーナはその音と一緒に小さな悲鳴を上げる。

 

レックスが次に容器を見たとき、それは真っ赤に染まっていた。




ネーム紹介



E(他のネームの物真似)
ネーム持ち特有の魔力を手にすることで自分の魔力をそれに限りなく同じ形に変化させる。
ただ、ずっと変換しているわけにもいかないため相手がネーム持ちでなければただの魔法使いと何ら変わらない。
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