異世界にて〜魔法と科学の小競り合い〜   作:tubukko

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どもです…。
4月中と思いきや5月や…。

これはペースを上げる必要ありだな。


波紋

「あ……ぐ!」

 

ナタリーがフィリアの首を掴んでいる。

あいにく空中で戦っているため、持ち上げても苦しいとは思わない。

だがナタリーはその体からは予想だにできない力でフィリアの首を絞めつける。

 

「やっぱり速いだけね。その大平原のおかげで空気抵抗も少ないのかしら?」

 

少し離れたところからリリアはそれを見ている。

構えた銃の照準はナタリーを指すことなく、フィリアに向けられている。

位置的な関係でナタリーに向けることが難しいのだ。

下手に撃ってしまえば弾はナタリーに傷つけることなく、フィリアのみに大ダメージを与えかねない。

 

「やっぱりいい気分だわ。一度あなたに馬鹿にされた時、どれだけ腹が立ったかと思うと当たり前かしら?」

「………」

「さて、どうやっていたぶろうかしら?選択肢がありすぎて―――」

「ファイヤ!」

 

小規模な爆発と同時に視界が悪くなる。

フィリアはいつもは使わない魔法を唱えた。

魔法を使うなんて何年振りなのか彼女自身でさえ定かではない。

一番鮮明なのが1年生の時だ。

リョウの真似をしてぶっつけ本番に近い状態でうったのを今でも覚えている。

 

フィリアの腕が極端な熱さに襲われる。

もともと至近距離で打つためのものではない。

 

「(なんで…!?)」

 

この時フィリアの頭に2つの疑問が頭に浮かんだ。

1つはナタリーが手を放してくれなかったという事実。

顔面に押し付けて放ったファイヤはフィリアにダメージを与えてもナタリーにダメージを与えることはできなかった。

それでも人間なのだから反射というものに賭けたのだが駄目だった。

 

「ゲホッ!ちょっと、私に魔法で勝負を挑むつもり?随分なことやろうとしてるじゃない。いや…ただ単に逃げたかっただけかしら?リリア!」

 

空いている左手で目の前の煙を払いながらリリアに呼びかける。

 

「この子を助けたかったら…言わなくてもわかるわよね?」

「…!信用ならないわ」

「大丈夫、貴方が来てくれるのならこいつは捨てていくもの。生かしておいてあげるのは本当よ。最も………」

 

ナタリーの手に力が込められる。

嫌な音と一緒にフィリアが苦痛に顔を歪めた。

 

「ああ…あ…!」

「早く決めないとこの子も助からないわよ?」

 

リリアは再び照準をナタリーに合わせようと構えるがナタリーはその行動に顔色一つ変えない。

 

「以前私が貴方たちに僅かながらでも後れを取ったのは貴方たちのことを知らなかったから、リリアを分かり切っていなかったから」

「貴方なんかに理解されてたまるもんですか…!」

「まぁ、一番の誤算はこの銀髪。貴方だけなら今頃は違う方法で汗をかいていたところ」

 

攻撃にしか能がない。

リリアはこの時初めて自分のドールのことを心の底から悔いた。

自らを重量級にすることで多少の守りと攻撃を手に入れたドールだったが、実際は仲間を取られると動きでほんろうすることはおろか、攻撃すらできないただの傀儡。

以前はマーシャが体を張って時間を稼いでくれた。

ついこの間はフィリアに助けられた。

そして今、リリアは何もできない自分に悔しさを隠し切れない。

 

「悩んでるのかしら?そんなに難しいこと?体を許すだけで人1人の命が助かるのよ?それも相手は男じゃない」

「……………………………」

「私だってこんなことしたくないのよ?こんな断崖絶壁じゃなくて貴方に触れていたい…。ね?」

 

リリアはここですぐにうなずくことができなかった。

1つはまだあきらめていなかったから。

そしてもう1つは好きでもない相手に体を預けるという凶行をしたくないという意志。

友達を助けたいよりも強いわけではない。

だが弱いわけでもない。

見るだけで背筋を凍らせて来るような相手にリリアは決断することができなかった。

 

「あら…そう。なら一番最高の結末にしてあげる」

 

フィリアの僅かに開いていた気道が完全にしまる。

ナタリーのこの行動がリリアに決断を強いた。

 

しかし、先に動きを見せたのはフィリアだった。

 

ナタリーの腕に片方の手で掴みかかる。

そしてもう片方の手で首を絞めているナタリーの手を掴み力ずくで気道をこじ開けようとする。

 

「たったそれっぽちの空気じゃ貴方の命を繋ぎ止めるには無理があるわよ?むしろ苦しいんじゃないから?」

 

ナタリーの言うとおりだった。

僅かに入ってきた空気を体が求めている。

こんなものでは足りないと。

首にかかる痛みなんて忘れてしまいそうになるほど、酸素を渇望していた。

しかし、フィリアが狙っていたのは酸素の補給ではない。

 

「デ…………ク………」

「?」

 

必死に出そうとする声に不思議そうな顔をしながらナタリーも耳を澄ませる。

 

「ディス……トゥ・ロ……クト」

 

本当に消え入りそうな声。

リリアにはしゃべっているのかすら全然わからなかった。

ただ、ナタリーはそれを聞いた時、自分の耳を疑った。

次の瞬間、突然の熱気とともにナタリー、フィリア両者の体が大きな衝撃に襲われる。

 

少なくとも、今は静寂であったはずの3人の戦場に突然の爆発が起きた。

 

「アアアアぁ!?」

 

最初に悲鳴を上げたのはナタリーだった。

ナタリーの腕が確かに焼けただれている。

 

ナタリーの拘束から離れたフィリアはせき込みながらも確かに生きていた。

ただ、リリアはフィリアの姿を見て絶句した。

 

ナタリーの腕を掴んでいた左腕がごっそりなくなり、腕の先からは血が流れ、骨が頭を出している。

ケイトのそれ(・・)は見たことはあるが、彼の場合切り落としてから使うのが普通だし長い時間それを放置することはない。

 

そして浮かび上がる疑問。

なぜ、ナタリーを傷つけられるほどの魔法が使えた?

 

「リリ…アさん、早く!」

 

フィリアの必死の呼びかけに我に返るリリア。

ナタリーとの間にある壁はなくなった。

この状態での勝負なら勝てる自信がある。

 

リリアは銃を構え、ナタリーの心臓を狙う。

そして迷いなく、引き金を引いた。

ナタリーがリリアに気づいたのはその瞬間。

完璧な防御をするにはあまりに時間が短すぎた。

 

発砲音と同時に銃口から弾が発射される。

常人の目で追うことはまず不可能な銃弾。

次の瞬間にはナタリーの胸に着弾していた。

 

必死で張ったバリアが不幸を招き、体の内部でその銃弾は止まる。

ただ、不幸だと行ったのは後に取り出さなければならないからという話だからであり、今はそんなの関係ない。

すぐに外したことを理解したリリアの追撃が行われたが、それを許すほどナタリーは甘くはなかった。

 

すぐに何重もの防御結界をはり、リリアの猛攻から逃れる。

しかし、負ったダメージは大きくナタリーの挙動が明らかに不自然になっていた。

 

「く、……くそ!この…銀髪!」

 

しかし、その恨みがリリアに向くことはない。

この状況を作った始まりがフィリアだと頭の中で決めつけ、すべてをフィリアに向けている。

 

「大体…なによそれ!魔法が使えるなんて聞いてないわよ!それも自爆だなんて…!」

「………ミリーナさんが言っていました。ドールに何かしたと。それが何なのかは皆目見当がつきませんでしたがさっきのファイヤで違和感を覚えたんです。私は自分のドールを傷つけるほど威力のある魔法なんて撃てませんでしたから」

 

フィリアは焼けただれた左腕が痛むのか、顔を苦痛に歪めている。

焼けているおかげで出血こそ微々たるものになりつつあるが痛みは計り知れない。

 

「これもドールのおかげだというのなら、いろいろ疑いたくなることはできてますが今は好都合でした」

「殺す!絶対殺す!リリアが何と言おうと貴方だけは絶対に殺す!」

「なら先に私が貴方を殺すわ」

 

リリアに銃口を向けられ、思わずにらみつけてしまった。

たとえリリアであっても邪魔をされては僅かながらも嫌悪感を抱いてしまう。

 

だが、ナタリーは冷静さを取り戻しつつあった。

今殺すべき対象は1人。

それもかなりの手負いだ。

 

リリアは後でどうにでもなる。

仲間を殺されれば間違いなく攻撃が単調になるはずだからだ。

少なくともリリアに平静を保つことはできないだろうとナタリーは考えた。

 

しかしてフィリアはジリ貧であった。

ドールのエネルギーは残っておらず、影分身のような目くらましもできなければ瞬間移動ほどの速さも出せない。

魔法が使えたからって強い魔法で知っているのは今のだけだ。

腕は痛むし、何が原因なのか視界も僅かにくらみ始めた。

 

ナタリーの結界が再び2人を囲み始める。

はじめは広く囲み、徐々に狭くすることで逃げ場はなくなっていく。

リリアの銃弾はそれを容易に破壊するが、銃弾では人が逃げられるほどの大きさの穴を作ることはかなわず、ナタリーも容易にふさぐことができる。

 

「銀髪、ここまで私をイラつかせたのは貴方が初めてよ!死に様も無様なものにしてあげる!」

 

腕を負傷し、銃弾を浴びてなおナタリーは動き続ける。

すでに痛みに耐えかねて気絶していてもおかしくはない。

 

それなのに大声を張り上げ、口からも出血している。

 

何もできぬまま、完全に逃げ道が断たれる。

今度は大きかった円が段々と縮まり、動ける範囲が狭まっていく。

 

「銀髪、人間って感電死するとどんな姿になるか知ってる?」

「?」

「ただ死ぬだけじゃないの。耳や目、体の隙間から血が流れ場合によっては眼球が取れたり他にもね」

 

感電死。

フィリアとて知らない言葉ではない。

だが、彼女は如何にしてそれを実行するつもりなのか想像ができない。

 

「空気は電気を通さない。でもね、雷は天から地へと堕ちる。なぜか知ってる?」

「…………」

「それが強力だからよ!Eからの回線を最大に繋いだ私なら魔力を変換して別のネームの様に扱うことだって―――」

 

言葉はそこで途切れた。

次に聞こえた音は何が液体が口から流れでて、言葉として聞こえなくなっていた。

赤い、人の体に流れている液体。

血がナタリーの言葉をふさいだ。

 

ナタリーはもちろんのこと、他の2人にもその理由なんて分からない。

というより、それを考える前にリリアが動いていた。

反射ともいえるほどの行動の速さ。

ここしかないとリリアは感じ取っていた。

銃口はすでに頭をとらえていた。

 

引き金が引かれ、弾がナタリーを襲う。

さっき心臓を狙ったのはもしも避けられた時、無傷で終わらせる確立を下げるため。

だが、今回は命を狙った。

保険なんてかけない。

 

ナタリーの頭が僅かに後ろにずれる。

彼女が避けるために起こした行動ではない。

弾は、あったはずの結界を何事もないかのように素通りしナタリーの頭を貫いた。

その威力に頭が僅かにもっていかれたのだ。

 

フィリアとナタリーを囲んでいた結界が崩れ、ナタリーは堕ちていく。

ナタリーには思い返す時間すらなかった。

走馬燈が走ったとしても、あまりに短すぎたように感じる。

フィリアは目の前の出来事にただ、固まっていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ…!?」

 

リプトが突然の頭痛に頭を抱える。

シューレスはその行動に一瞬他意があるのではないかと警戒したがその考えをすぐに捨てる。

視覚を操れば何の問題もない。

 

一方リプトは何が起きたのかは見当がつかないが、この頭痛による一瞬で隙ができてしまっていたことは理解していた。

顔を上げた目の前に映っていたのはあまりに多すぎる弾幕。

火の玉で構成されたそれらはいくらネーム持ちといえどその分野に特化していなければまず作り出すことはできない。

つまり大半が幻覚。

冷静に判断すればそれなりに絞り込める自身があるが今はそれどころではない。

わずかに操作できる死体を火の弾の盾にする。

 

「(くそっ!この感じ…Eに何かあったか!?接続が悪いな…)」

 

死体(たて)を用意するとき、動きが悪かった。

いつもできたはずの、動かせたはずの体の一部が動かせなくなったようなもどかしい感じと大きな絶望。

 

目の前で盾にした死体が爆音と同時に燃え上がる。

その勢いに耐えられず、リプトが後ろに下がる。

 

シューレスは先ほどとは違って明らかに弱体化したリプトに疑問を感じていた。

本当に一方的に殺しかねない。

 

「なんだ、不調か?」

「……………」

「言っておくが加減はするつもりはない。おとなしく縛につくか殺されるか―――」

「あああアアぁ!」

 

突然大声を上げるリプト。

奇声を上げただけでは強くなれない。

だからその声に一切動じることがなかったシューレス。

ただ油断をしていたわけでもない。

 

リプトの咆哮が終わると同時に死体が膨れ上がる。

風船のようにゆっくりではない。

何かが煮だつかのように体がすごい勢いで膨れ上がっていく。

シューレスはそれにいち早く反応する。

形状は違っても自分の信頼している仲間の得意とする攻撃と同じなのが一目瞭然だったから。

 

しかし、そこは一本道。

Fの力で通路の破壊ができないとなるとリプトから離れてしまうことになる。

だが、選択の余地はない…はずだった。

 

ふと目に入った自分が放ったファイヤが作った大きな穴。

すぐに隣の壁に衝撃を与えてみる。

すると案の定、壁にぽっかりとした穴ができた。

 

「(なるほど…)」

 

作りだした穴に入り込み、入り口をふさぐ。

ナタリーのように絶対に壊されないような壁など作ることはできない。

それでもこれで助かる。

 

耳に痛みの走るほど大きな爆音と同時に熱を感じる。

その熱が引くのを待つことなく、シューレスは穴から飛び出しリプトの姿を探した。

 

「…チッ」

 

シューレスの見た先には自分が作ったのと似たような不格好な穴があった。

一本道で逃げてくれれば追いつけたかもしれないがバカでかい球状の中を動き回っている相手を見つけられるほど、シューレスは探査に優れてはいない。

 

おとなしく地面に座り込み、服についた埃を払う。

これからどうしたものかと天を仰ぐ。

目的地があればそっちに向かうのだが、生憎そんなものはない。

構造さえわかってないとなるとむやみに破壊活動を行いながら突き進むこともできない。

一応自分がいるのは浮遊物体の中なのだから。

 

「さて、どうした―――」

 

独り言をつぶやいたその時、壁が揺れているのに気づく。

ただ揺れているだけなら、戦闘がおこっているのだとそれしか考えないが…

 

「………」

 

近づいてきている。

それも結構な速さで。

 

それにこの違和感。

壁を破壊しているというより壁が減って隣の音が聞こえやすくなっているような感じがする。

 

嫌な予感がした。

とりあえず壁を離れよう。

そう思って行動しようとした時、シューレスの視界が揺れた。

後ろに倒れたのだ。

背中を壁に預けていたはずなのに。

そしてシューレスの視界には大きな、大きな何かが逆さまに映っていた。




ネーム紹介



V(殺傷能力上昇)
生物に対して限定ではあるが殺傷能力が極端に上がる。
また、これは生物を守っている物を対象にした場合も働くことがある。
ただ、単体を守っているのに限る。

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