特に何かあったわけでもないのに分からないもんだな。
「ほら、水だ」
「ワインがよかったの」
「面白い冗談だな。せっかく助けてやったのに」
リョウは今、さっきまでいた2階から移動しダンスが見えない1階の隅っこでミリーナと話している。
さっき会ったミリーナは泣きそうな顔をしながら「マクアドルはどこ…」と言い座り込んだ。
5、6歳の外見と言うだけでかなり目立つのに座り込まれたらなおのことだ。
ここで泣かれたらたまらんと思い急いでミリーナを抱え目立たないところに移動したのだ。
「おいしいもの」
「永遠の子供が聞いてあきれるな」
「子供だってワインは飲んでいいの。体に悪いとか気にしてられないの」
「早死にするな、お前」
「これでも700年以上生きてるの」
「さりげなく爆弾発言したな!?」
水を飲み終わるとおかわりと言う代わりにコップを差し出してきた。
リョウは無視して話を進める。
「訊きたいことはあるけど、なんでマクアドル先生に用があるんだ?」
「あの人とはよく情報交換してるの。何かわかったことはないかなぁと思ってなの」
再びおかわりと言う代わりにコップを出してきた。
それでもリョウは無視して話をする。
「俺はそんなの知らないぞ。蚊帳の外か?」
「…レディにその対応はよくないの。それに蚊帳の外というわけでもないの」
「なら分かってることすべて教えろよ。あるいは…」
「元の世界に帰せ?なの」
笑顔を見せるフィリア。
しかしその顔には明らかに悪戯心が隠れていた。
「それは…」
「違うはずなの。あなたはこの世界を気に入りつつあるの」
「…否定はしない」
「なんで素直に好きと言えないの?」
リョウは黙った。
確かにこの世界がリョウは好きだった。
でも口に出したことはない。
別に何でもないことに見えるのだが、リョウにとっては重要なことに感じられた。
言ってしまったが最後、地球のことを忘れていってしまいそうな気がしていた。
「まぁ、そんなことは正直どうでもいいの。重要なのはあなたがこの世界を救えるか否かなの」
「そんな力、俺のあるようには感じられないけどな」
「私は感じたの。それにあなたはまだ力を出し切れていないの」
「よく言い切れるな」
「少し前にあなたのドールと話したことがあるの。彼女たちがそう言っていたから間違いないの」
「へぇ、そうか。…は?」
ミリーナの聞き捨てることができない言葉にリョウが停止する。
「何を驚いているの?あなたも話したことあるでしょ?」
「お前、今話したって…」
「そんなの朝飯前なの。あなたもいずれできるようになるの。自分のドールだけだけど」
瞬間移動をしたり、相手のドールと話したり。
普通ではありえないことを難なくやり遂げる。
ミリーナは。
「姿は…見えたのか?」
ビムとの戦いの後、リョウは自分なりにあの時は聞こえた声について考察していた。
だから何となくあれはドールなのではと思っていた。
だからそこ、ドールにも意識があることについては今は驚かない。
「残念ながら靄だけだったの。もう1人に至っては声だけなの」
「俺もそうだった」
「進化すればいずれは見えるようになるの。それまで頑張るの」
だが
「なんで俺のドールがお前と話せたんだ?」
「ドールの中に入りこんだから?」
「どうやってそうやったか訊いている」
「そんなの私とあなたのドールの意識を繋げばすぐなの。他の人にはできないと思うけど私にとっては朝飯前なの」
「…お前、いったい何者なんだ?」
「ミリーナは、ミリーナなの」
「訊き方を変える。どうやって700年も生きながらえた?どうしてお前は普通の人にはできないことを難なくできる?」
ミリーナの顔が曇った。
あまり触れられたくない話題だったようだがリョウは気にしない。
周りは盛り上がる中、リョウたちの近くのみ重い空気が流れる。
しばらく黙った後、ミリーナは言った。
「…私が、機械人形だから…なの」
「つまりロボットっていうことか?」
「うん」
ミリーナは小さくうなずいた。
リョウはこの答えに対してもあまり驚くことはなかった。
何となく予測できたからだ。
この世界は地球よりも科学が発展している。
科学がいつからあったのかは曖昧だがおそらく700年前からあったと仮定すれば納得はいく。
だがその後ミリーナは予想してないことを言った。
「でも、これでも昔は人間だったの」
「えっ?」
「お父さんとお母さんがいて、楽しくみんなで遊んでたの。とても楽しかった」
「どうして…?」
「悪いけど過去のことは今は話すつもりはないの。気分が向いたらもしかしたら話すかもしれないけど」
「嫌なことだったか。ゴメン」
ミリーナは気にしないで、と言う代わりに首をふった。
暗い顔をしているのはわかった。
しばらく沈黙した後、ミリーナが口をひらいた。
「じゃ、もう帰るの」
コップを差し出してきた。
リョウはそれを受け取る。
「マクアドル先生には会わなくていいのか?」
「まぁ、急用じゃなかったし。日を改めて会いに来るの」
「伝言があれば伝えるぞ?」
「伝言じゃ伝えきれないこともあるの」
「そうか」
「…まだ戦争は先のことなの。力をつける時間はたっぷりあるの。焦らず頑張るといいの」
「なんで俺なんだか」
「何度も言うけどそれは私の直観なの。ともかく期待しているの」
そう言うとミリーナは消えた。
時計の針は11時を過ぎていた。
リョウが控室にみんなの様子を見に戻ろうと転移装置に向かっていると、レックスやマーシャなどの知っている顔が会場にいるのに気付いた。
そこにいくとまず目に入ったのは真っ白になったフィリアだった。
「リョウ!顔が見当たらなかったけどおれのダンス見てたか?」
「ああ。悪くはなかったんじゃないのか」
レックスが聞いてきたが、観ていないがいろいろ言われると嫌なので観ていたことにする。
「なんで決勝戦にいけねぇんだ、俺?」
「あんたの所にはうまい人集まってたもの。しょうがないわよ」
「なぁ、フィリアはどうしてこうなってるんだ?」
一番不思議に思っていたことを訊いてみる。
「そりゃ、決勝戦にいくことになったからよ」
「あれは凄かったな。地味なダンスしていると思ったら」
「言わないでください!」
真っ白だったフィリアが顔を真っ赤にして復活した。
事情を聴きたいがこれでは間違いなくフィリアに止められてしまう。
後で聞こうかとリョウが思っていると
「あっ、ちょうど映ってるわよ」
マーシャが指をさす方向を見るとスクリーンにアップでフィリアとケイトが躍っているところが映っていた。
おそらく決勝に進出したペアを厳選して映しているのだろう。
見た感じは普通に言いダンスだなという感想しかなかった。
一応、フィリアたちのダンスは練習時に一通り観ていた。
すべてを通して見た感じは普通だった。
ところが残り30秒後ぐらいのところで変化が起きた。
フィリアが緊張のあまり足を滑らせたのか後ろに倒れそうになったのだ。
ケイトはすぐにフィリアを支え倒れるのは回避したが、素人がきまっていたダンスから脱線してしまうなんてことになれば立て直すのは困難だ。
フィリアはやばいことをやってしまったと思っているのか固まっている。
ところがケイトは5秒ほどその体制で考えた後、自分一人でできる限りで行動を始めた。
ひざまずいて手にキスだったり、お姫様抱っこだったりを始めたのだ。
ダンスに合っていたかどうかと言われれば微妙だが、完全にずれているわけでもなかった。
最後までそんな感じでいき、ケイトが後ろから軽く抱きつく感じで終わった。
映像が終わった後の審査員の評価で、「フィリアさんが倒れたのは分かったがそこからこんなにうまくつなげられるとは思わなかった」と高評価していた。
再びフィリアを見ると真っ白になっていた。
「うん。これは、まぁ…」
「なかなか大胆よね」
「ケイトは?」
「ダンスが終わった後、冷静に考えたらかなり恥ずかしかったらしくてさっきまでそこで壁に頭を打ちつけてたわ」
指をさした方向を見ると、少し壁がへこんでおり血がついていた。
2人ともこんなんで決勝戦に参加できるのか心配である。
「どんだけ頭打ちつけてんだよ…」
「まぁ、傷はあいつの得意な回復魔法で何とかなるだろ。決勝戦の心配はフィリアだな」
「この子、いつになったら動き始めるのかしら」
「決勝戦は明日だし大丈夫だと思うけどな」
「まさにダークホースだな」
「ダークホース?」
「あ、いや、なんでもない」
「「?」」
英語がなくても使われてるものもあるが、使われてないものもありこういう時不便だ。
時計は11時10分をさしていた。
「そう言えばリョウ。そろそろクロのダンスが始まるんじゃないか?」
「そうみたいだな。ダンスも習ってたみたいだし、どれくらいうまいかも見てみたいしな」
「リリアも注目していたわよ。どんなものかしら。フィリアも行きましょう」
「…」
「まだ固まってるな…」
「かまわないわ。引きずってでも観に行かせるわ」
「それは、痛いです…」
「なら歩きなさい。せっかくダンスが評価されて決勝戦いけるんだから胸はりなさいよ」
「ううぅ~…。できることなら過去に戻ってやり直したいです」
「科学がどんなに発展してもそれは無理って授業で習ったじゃない。あきらめなさい」
「無理なのか?」
特に考えたことはなかったが、タイムスリップできないのか?と思いながら訊いてみる。
「あんたも?授業で習ったじゃない。それだけの技術がないし、それ以上に何が起こるか分からないから絶対だめっていうことになってるって」
「このご時世でも科学は万能じゃないのか」
「十分万能よ。ただ過去や未来にいけるのは神様だけで十分って話」
「このご時世で神様を信じるのか?」
「信じてるわけじゃないけど、神頼みくらいはするしね。お守りだって持ってるし」
「非科学的だな…」
「科学側にいるとはいえ、勉強嫌いのあなたに非科学的と言われてもね…」
「なっ、俺だって勉強くらい」
「…ドールを展開したときに装備するスーツの名前は?」
「えっ、そんなの習ったっけ?」
「ほら。みんな言いやすいからってドールって言ってるけど、ドールはあくまで球体の名前。ドールを展開したときに装備するスーツの名前はトリプルイーよ」
「常識ですね」
「レックス、さすがにこれは…」
「…」
レックスは答えを聞いてもまったく思い出せなかった。
「…Lからの報告はどうなっている?」
「今日は親睦会とか言う行事があるそうで連絡は取れないそうです」
ここは、ミューズデルのどこかだ。
「そういう行事ならばむしろ連絡が取りやすいのではないか?」
「魔科祭の件のせいで、警備が強化されてます」
「…あいつはいい置き土産を残していったな」
少しめんどくさそうな顔をしている。
「まったくです。特に急ぐようなことはありませんが」
すると立って話していた秘書らしき男の携帯が鳴った。
許可をとろうとすると、座っている男は構わないと言う代わりに身振りで合図した。
電話をとり話をする。
話が終わり電話を切ると立っている男が
「たった今、Lから報告がありました」
「朗報か?」
立っている男は首を横に振る。
「いえ、報告の内容は自分がビムを手引きしたと思われている可能性があるということです」
「…、なんでそうなった?」
「そこまでは分からないそうです」
「いい線はいっているが、手引きしたのは…」
「Oです。Lではありません」
「まさか、うまくやった偽装工作がこういう風になってくるとは」
座っている男は難しい顔をした。
考えている難題が山積みなのだろう。
「それはこっちで対処しておこう。お前は作戦「ダグラガンド」を進めておいてくれ」
「はい、分かりました。…」
「何か、言いたげだな」
「…いえ、何もありません」
「そうか。なら仕事に戻れ」
立っていた男は部屋を出ていった。
座っていた男は黙って椅子に座っている。
実はこの男にはさっき出ていった男が言いたいことが分かっていた。
(おそらく、今学校を攻撃すれば確実に落とせるから攻撃したいとでも言いたかったのだろう。確かにそれもありだが…)
男は目の前に自分が集めた情報を映し出す。
リョウについての情報だった。
集めた情報と言ったが、たいした量はなかった。
調べても学校入学前の情報が一切でてこなかったのだ。
かなり深く調べたつもりだったが本当に何も出てこないのだ。
誰かが意図的に消したのかと思ったが消された形跡すらなかった。
もっというなら戸籍すら見当たらなかった。
(この少年…、いったい?)
ここまで来たぞ!
ついに20話突破です!
これからも、よろしくです。
…もう一つの物語、どうしよう…。