ミ「なめてんじゃないわよ!」
屍の軍団を前にクロとミィヤは疲弊しきっていた。
T「使い魔は結局役立たず。死んでもすぐに生き返るわけじゃないからしばらくは2人で防衛。哀れもいいところですね」
ミ「言いたいほうだいね!」
T「雑魚を相手に気を張っても意味ないですし。さっさと終わらせたい気もしますけど、そうすると暇になりますし…、いたぶるのもありかな、と。…ん?」
Tが空を見上げる。
ミ「よそ見してんじゃないわよ!水火豪爆!」
水と火がぶつかり合い、視界が悪くなる。
ミ「青龍!」
先ほどまでTが確認できた場所に青龍が体当たりをする。
しかし、何も手ごたえがない。
T「…まさか!早すぎる!」
焦っている声が聞こえる。
T「グネズトが!?…分かった」
視界が晴れ、Tが見えるようになる。
T「申し訳ないがここまでだ。撤退命令が出たのでな」
ミ「何ですって?帰すと思ってるの?」
T「こちらも用事が立て込んでいる。さらばだ」
Tがその場を去る。
ミ「待ちなさい!」
追いかけようとしたが屍に道をふさがれる。
ク「無理だよ、ミィヤさん。こいつらを消してからじゃないと!」
ミ「くそ!」
3分後、屍たちは突然すべてが機能を停止した。
「消しとべぇぇ!」
エジリスが究極魔槍《グングニル》をリョウに投げつける。
リョウは迷わず、ドールを進化させた。
本来は自分が好きな時に進化できるわけではない。
だから進化する方法なんて知らないはずだった。
でも、その時のリョウにはできた。
リョ「よっと!」
グングニルを軽々と避ける。
エ「なっ!?それは…!」
エジリスもすぐに変化に気づいた。
ドールの色は今までシルバーに近い色しかなかったのに、水色が模様のように入っている。
なにより変化があったのは武器だ。
ヒュニス自体は何も変わらない。
だが新しく、手には三又の矛が握られていた。
2mほどある長い矛。
リョウは新しく出てきた武器を興味深そうに眺める。
リョ「矛かぁ…。俺使ったことないんだけど、大丈夫かなぁ」
握った感じは悪くない。
自分に合わせて作られたという感じがある。
ふり回りてみても初めてではないかのような手さばきができた。
エ「…馬鹿な」
リョ「お前、さっきからそればっかだな。頭が固すぎるんだよ」
エ「聞いたことないぞ!こんな短時間で2段階も進化するなんて!」
リョ「俺だって知らねぇよ。まぁ、知っててもお前に教える義理はないけどな」
新しく出てきた武器をある程度振り回すと、矛をかまえる。
リョ「悪いが、時間がない。さっさと終わらせるぜ!」
リョウがエジリスの目の前まで瞬時に移動する。
エジリスはこのスピードについていけなかった。
矛を下から上に流すようにして振り上げる。
エジリスが気づいた時には体が切り裂かれていた。
エ「は?」
腕や足がちぎれたわけではないが深い傷がエジリスに残る。
エ「あ、あ、あ…。アアアアアア!」
痛みに悶えてもおかしくないのにエジリスはただ怒りに身を任せ攻撃をする。
地面から腕が伸びる。
ゴーレムの腕のみをイメージすればそれがいい。
エ「アアアアアァァァア!」
体からすさまじい電撃がリョウに向かって伸びる。
しかし、魔法はそれだけにとどまらず、周りに暴風が吹き荒れる。
リョ「流石、無限魔力を手に入れただけはあるな」
しかし、リョウは焦らない。
すべてをかわしてエジリスに再び接近する。
エ「堕ちろぉぉぉぉ!」
グングニルを作り出しリョウに向かって投げつける。
リョウはもちろんかわすが当たらずともそこで爆発させることは可能である。
水でできたグングニルは吹き荒れる暴風の中で水柱を作り出し、より暴風は激しくなる。
ドールが進化したからといって、リョウの動体視力はよくならない。
もちろんよくなるドールもあるがたいていのドールではそんなことはない。
ではなぜすべてかわせるのか。
リョウが速くなったからである。
暴風の中は速さを使って安全なところを通り、電撃はギリギリで気づくがスピードで避ける。
7段階目の力とはそれだけ規格外なのだ。
エ「チィィッ!」
だが、エジリスは体から電撃を出している。
これは直接的に防御魔法には当たらないのでつかえている。
エ(防御魔法は使えないと言ったが攻撃魔法も使いようだ!これなら近づけまい!)
こう思ってはいたが油断はしていなかった。
それなのにリョウの一撃をうけることになる。
リョウは一定の範囲に入ると近づくことはせず、矛を投げてきた。
一定の範囲と言っても軽く10mは離れている。
その距離から投げたにもかかわらずエジリスに当たるまで矛のスピードは落ちることがなかった。
エ「がぁ…!」
腹に矛が刺さり、反射的に矛をつかむエジリス。
それを見たリョウは矛を再び引き寄せる。
鎖がついていてリョウはそれを引っ張った。
エ「な!?」
普通ならば気づいていただろう。
だが、防御魔法を封じられ体に深い傷を負い、逆上していたエジリスは気づけなかった。
エジリス引き寄せられる途中で手を放したがバランスを崩した。
そのチャンスを逃さず、矛で頭をたたく。
エ「ぐっ!?」
普通矛はそんな使い方はしないだろう。
だが、リョウはその矛が手になじんでるとはいえ素人だった。
体の傷に加え、頭に走る激痛に耐えられず地面に落下する。
誰の目から見ても勝敗は明白だった。
エ「…!ガハッ、ああ、あぁ」
リョ「どうした?そんなもんか?」
ドールが進化してからまだ3分弱。
話す余裕はたっぷりあったし、ここでドールの覚醒が終わっても5段階目の力が出せる。
それだけあればここまで手負いの相手を倒すには十分だった。
「…!……!」
「おとなしく捕まるっていうなら、クロに謝るっていうなら命は助けてやる。この場面ではな」
「私が…負け、る。わけな、いだろう!」
「コロナをつけていても今のお前じゃ無理だ。おそらく意識を保ってるのがやっと。そんな状態じゃ、俺を相手になんてできない」
この世界には魔法を封じ込める手錠がある。
コロナをつけて魔力が無限と言っても魔法が使えなきゃ意味はない。
「究、極魔槍《グングニル》」
再び作り出す、がすぐに消えてしまった。
「…!」
この世界の魔法はイメージが大切なことの一つだ(厳密には違うらしいが)。
体に深い傷を負い、意識がはっきりしない人には魔法は使えない。
「諦めろ。この戦争は俺たちの勝ちだ」
「まだ…だ。まだ…!」
エジリスはまだあきらめる気がないらしく、魔力を込めようとする。
だが、結果は同じ。
リョウはもうエジリスを敵と認識していなかった。
戦争は終わったと、思っていた。
だから、出遅れた。
突如、体が重くなり体が地面にうつぶせになる。
リョ「なっ!?」
エジリスではない。
伏兵がいた。
その兵士はリョウを地面に張り付けながら空中から現れた。
太刀を持ってリョウに近づいてくる。
リョ「くそ!」
何tもある岩の下にいるかのように動けなかった(圧迫される痛みはない)。
伏兵がリョウの背中に降りる。
リョ「お前…は!?」
「さらばだ」
太刀を振り下ろす。
刹那、伏兵が一早く反応しエジリスのほうに移動する。
いや、避ける。
リョウの背中の上をドールが通った。
「チッ!反応が早いわね」
「マーシャ!」
まさに危機一髪だった。
伏兵「…」
エ「…撤退だ」
エジリスが震えながら出したくもない命令を出す。
エ「私、を、連れて、撤退しろ…」
「それは認められませんよ、マスター」
マーシャには聞き覚えのない、だがリョウには聞き覚えのある声がする。
エ「…T!」
T「ご苦労様でした、マスター」
リョ「お前!ミィヤ達と戦ってたはずじゃ…!」
T「そうだったんですけど時間が来たので逃げ出しました」
リョ「時間?」
T「国境付近で陽動作戦を行っていたこちらの部隊が全滅しました。あと5分ほどで軍隊がこちらに来るでしょう」
エ「何!?」
T「私も命は惜しいので失礼します。ですがその前に―――」
伏兵が太刀をエジリスに向ける。
T「裏切り者に制裁を、と思いまして」
エ「裏切者?」
T「反逆罪ですよ。知らないとは言わせません、そこの方々も聞いていたはずですし」
エ「お前、ごときが、私に制裁だと?」
T「口を慎めよ、ゴミが」
エジリスに蹴りを入れる。
エ「き、貴様!」
T「せっかくだから言います。私と先ほどまで一緒にいた部下たちは『観察者』です」
エ「なに…!?」
T「本来ならコロナを装備したあなたは連れて帰り再び戦ってもらおうと思ってたのですが、危険分子を持って帰るわけにもいきませんし、そのままにしておいても無駄に情報を持ってる人ですし」
エ「た、頼む!二度とこんなことは、考えないから!だから」
T「時間です」
伏兵が首を切り落とした。
さらに体を切り刻み続ける。
T「…そんなものでしょう。それだけすればNとかいうネーム持ちでも無理なはずです」
太刀を一振りし血を払いのける。
T「あなたたちも殺しておきたかったのですが…、無理ですね」
空に人が何人か突如現れる。
軍隊がこちらに戻ってきたのだ。
T「それでは失礼します」
伏兵とTを魔方陣が囲む。
リョ「待て!」
T「またの機会を、楽しみにしてます」
それを言うと消えてしまった。
気づくと体にかかっていた重圧が消えている。
「…くそ!」
「なにが、くそっ!よ。あの状態じゃあなた死んでたわよ」
「だけど…!」
「とりあえず、大したけがはしてないようね。…良かった」
マーシャがリョウに抱き着く。
「マ、マーシャ?」
「もう二度と無茶しないでって言ったのに…。またアンタは」
「別に無茶じゃなかったよ。確かに最後は油断したけど」
「敵のリーダーと戦ってたでしょ!十分無茶よ!信じてはいたけど…、心配も少しはしたんだから」
「…ごめん」
「ようやく出たわね、その一言。戦わなくてもいい戦いに自分から出てって、正義感が強いのはいいけど少しは抑えなさい」
「以後気を付けるよ」
「…嘘ね」
「ばれた?」
ミューズデルに起こった戦争は大きな傷跡を残したが終わりを迎えた。
ミ「手を放しなさい、クロ!」
ク「駄目だよ!あれを邪魔しちゃ!」
屍が停止してすぐ、ミィヤはTを諦めリョウの魔力をたどってきた。
で、着いてみたらマーシャとリョウが抱き合っている。
「あれは嫁である私の特権よ!なんであの子なのよ!」
「マーシャはリョウがこの世界に来てから初めて会った人で、多分、リョウにとっては命の恩人でもあるんだから!あれくらいいいでしょ」
「そんなことくらい知ってるわよ!それを踏まえ…、あんたリョウの経歴知ってるの?」
「一度、帝国の王様から聞いた。っていうかミィヤも知ってるの?」
「寺にあいつが来たとき聞いたのよ。いろいろあってね」
「ふ~ん」
「って、そんな小さいことどうでもいいのよ!」
「結構すごいことだよ!?」
「マーシャも気があることは知ってたけど私より進展するなんて許せないわ!私も愛のハグしてくる!」
「あれは愛のハグじゃないでしょ!?」
「なっ!?それ以上っていうこと!?こうなれば野外だろうが何だろうが関係ないわ!ここで夫婦の営みを…!」
「やめて!ここで服を脱ぎだそうとしないで!」
服を脱ぎ始めたミィヤを必死で止めるクロ。
「離しなさい、クロ!これは女の争いなのよ!」
「いや、僕はリョウを守るため、ミィヤをここで止める!」
「くっ!これが友情というやつね。でも数にはかなわないのよ。サリス、ノリス!」
サリス、ノリス『はい』
「なっ!?」
「クロを拘束しなさい。私はリョウと愛の逃避行を始めるから」
「ハードル上がってる!?」
サリス、ノリス『…承りました」
すると2人はミィヤを掴んだ。
ミ「えっ?」
サ「お許しください、ミィヤ様。ここばかりはクロ様が正しいです」
ノ「帰りますよ。ミィヤ様」
ミ「ちょ、2人とも!私はあなたたちの主なのよ?いうことを聞きなさい!離しなさーーい!」
ミィヤの声が響いたがリョウたちに聞こえることはなかった。