本格的なアクションはもう少し先になりますが、そこは待っててください。
…よくよく考えるとケイトかなり怖い。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅぅぅ!」
死ぬわけないのに本能的にそう叫んでしまう。
今リョウの体は機械で作り出されたデータだ。
偽物の体になにがあったって死にはしない。
頭の中ではわかっている。
だが、体は嫌がっている。
今のリョウはすでにヒュニスを3つ失い、残りは3つ。
逃げに徹している状態で、周りで爆発が起こっている。
もしこれが本当の爆発なら会場はすでに残っていない。
リョウはその身をもって自爆魔法の強さを知った。
普通ならば無制限で使うことはできないこの魔法。
Nであるケイトだからできることなのだ。
「くそ!」
だが、リョウもここで引くわけにはいかない。
ここで負ければ現実で恐ろしいことが起こるからだ。
死よりも酷こととは言い難いが、十分恐ろしい。
数少ないヒュニスをケイトの元に向かわせる。
決して身体能力は高くないケイト。
懐に潜りこむのは難しくない。
しかし、ケイトもそれは十分承知している。
ケイトは迷わず自分の腕2つを犠牲にする。
切れた断面には3秒ほどで腕が再生する。
本来なら痛みに耐えかねて気絶したりしてもおかしくない。
さすがに自爆魔法を特訓しただけはある。
「無限核爆弾かよ…」
腕1つの爆発に巻き込まれればヒュニスは1つ消える。
リョウがむやみに近づけない理由はこれだ。
「リョウ…、さっさと終わらせてよ。これ結構疲れるし気持ち悪いんだから」
「だったら少しは隙見せろよ!ガチで本気出しやがって!」
今もリョウがこうしてケイトの攻撃をよけられるのはケイトが本当に自爆魔法と回復魔法に特化しているおかげだ(防御も並よりはいい)。
攻撃魔法が苦手なために風を使ってリョウに自分の腕の軌道を合わせたりできない。
ただ投げることが精一杯なのだ。
「ファイヤ!」
リョウはヒュニスをこれ以上失いたくないので魔法を唱える。
しかし、リョウは科学側の人間。
魔法側に致命傷を与えるほどの威力を持つ魔法など撃てない。
「…」
ケイトは黙ったまんま右腕で止める。
ケイトはもともと体が自動回復するのと変わらないのでバリア的なものは張っていない。
腕に当たり、あたりが煙に包まれ、ケイトの腕が多少焼けてただれる。
しかし、すぐに回復する。
ちまちました攻撃は意味をなさない。
だが、リョウの狙いはそれではない。
視界不良になったケイトの目の前に突然現れた。
「!」
リョウの矛がケイトに突き刺さる。
しかし…
「甘い、よ…、リョウ!」
口から血が流れるケイトが不敵に笑う。
ケイトは矛を掴んだ。
リョウはすぐに引き抜こうとする。
が、一足遅かった。
爆発が起き、矛が砕ける。
「心臓を、狙ったはずなのに…!」
リョウはケイトの心臓めがけて矛を当てようとした。
視界不良だったがこれが訓練の成果。
ギリギリでケイトを確認した後角度調整をしてケイトに突っ込んだ。
しかし、リョウは思い違いをしていた。
今リョウが戦っているのは普通の常識が効かない人だ。
普通の人なら攻撃を確認すればあたらないようにと避ける。
だが、ケイトは違う。
ケイトは死なないように避けるのだ。
攻撃が当たったって、即死じゃなければ回復できる。
「…なんでシューレスに勝てないんだよ?」
絶体絶命だった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「あれがケイトの本気ね。自分の腕の犠牲を何とも思わないとは…」
「ちょっと、感心してる場合じゃないでしょ!あのままじゃリョウが一日ミィヤの人形よ!?」
感心しながら写真を撮るリリアに対してマーシャは焦っている。
無理もない。
好きな人が他の人に取られるなど絶対嫌なのだから。
「マーシャ、それはあなたの問題よ?私から見ればいい記事が待っているも同然。卒業前の集大成になるわ!」
「なに意味わかん「そうよマーシャ、いいことじゃない」」
ミィヤがタイミングよくあらわれる。
今日は珍しくフィリアも一緒だ。
「あんた、こんなやり方でいいと思ってるの?」
「こういう形から入るのもアリよ!肉食系女子代表である私が言うのだから間違いないわ!」
エッヘンと言わんばかりに胸を張る。
「絶対おかしいわよ!もっと健全に…」
「…マーシャ、あなたはリョウに自分の気持ち伝えたことある?」
「え?」
「あなたは卑怯よ。私は常にリョウに想いを伝えているのにあなたは周りから見ているだけ。それにもかかわらず文句だけは言う」
マーシャに反論の余地はない。
「私がリョウと一緒にいられるのはあと1年もないの。それくらい知ってるでしょ?」
「…」
「私はリョウが好き。だからただ一緒にいたいだけ。そう望むのはおかしくないでしょ?」
間違ってない。
「だから私は頑張るの。リョウに認めてもらうため」
「…でも、それじゃ無理に…、その、あれを要求するのは…」
「要求って泳ぎに行くこと?」
「そうよ。そんな無理にやったら認める…ん?」
マーシャの頭に疑問符が浮かぶ。
リリアも全く同じ状況だ。
「ミィヤ、今なんて言った?」
「泳ぎに行くって言ったわよ?」
「…一夜を過ごすじゃなくて?」
「ええ」
平然とした顔でうなずく。
リリアがなぜか焦っている。
「な、なんで!?」
「だって、リョウは私におしとやかになれって言ったんだもの。完璧になるつもりはないけどこれくらいは自制しようかなと」
「わ、私の6年の集大成が…!」
集大成ではないだろうと皆が思うが誰もツッコまない。
しかし、予想外だ。
ミィヤが自制をするとは。
「…なーんだ、私、心配して損したわ」
「でも今度リョウと行くときはあなたたちはついて行かせないわよ?」
「あなたの許可なんて必要ないわよ。それにまだリョウが負けと決まったわけじゃないわ」
「何言ってるんですか。ケイトさんが本気出してるんです。今回はケイトさんの勝利ですよ」
ケイトも無関係ではなくなりフィリアが話に加わる。
「フィリア、あなたの気持ちも分からなくないけど今回はリョウの勝ちよ」
「マーシャさん、言っちゃ悪いですがケイトさんは身を粉にして頑張っているのにリョウさんはただ逃げ回ってるだけです。ケイトさんが圧倒的に優勢なんですよ」
「…あなたリョウが逸材だってことと、2年前の侵攻を止めた張本人だってこと忘れてない?」
「それをふまえてもです!」
フィリアはケイトが本気で戦っている姿を見るのはこれが初めてなのだ。
ぜひとも勝ってほしいと思うのは当然だ。
かっこよく見えているのか、又は健気に?、かわいく見えているのかは彼女のみにしかわからない。
「なら、賭けをする?」
「内容は?」
「ケイトが勝ったら私は…リョウにキスするわ」
「「キ!?」」
フィリアよりもミィヤが大きく反応する。
「もしリョウが勝ったら…分かってるわよね?」
「そ、そこまで自信があるんですか…?」
「これでもリョウとは長い付き合いよ。私はあいつを信じるわ」
「ちょ、ちょっと!それ、負けても勝っても言いことづくめじゃない!?」
「何言ってんのよ、私とフィリアからしたら文字通り顔から火が出るほど恥ずかしいわよ」
マーシャは未だに周りにはリョウのことは何とも思っていないと言い張っている。
もちろんバレバレなんだが。
「で、どうフィリア。乗る?乗らない?」
「…分かりました。その勝負乗りましょう!」
「後で泣いて土下座しないでよ?」
「こっちのセリフです!ケイトさーーーん!頑張ってーー!」
フィリアが恥ずかしさを紛らわせるかのようにケイトの応援に没頭した。
ミィヤがマーシャを眼を細くして見ている。
「…なによ?」
「あんた、さっき私が卑怯って言ったからもしかしてこんな方法思いついたんじゃないでしょうね?」
「な、何言ってるのよ。別にそんなこと…」
「図星か…。あんたもなかなかセコイわね」
「だ、だからそんなんじゃないって!」
「はいはい。私は巫女だから心は広いのよ。黙って応援しなさい」
「ちょ、だから違うのよ!聞きなさいよ!」
――――――――――――――――――――――――――――――
「(やばい…、そろそろ限界だ)」
リョウが逃げに徹している。
矛を奪われ、ヒュニスも残り2個。
残っている武器はほとんどない。
「(ああ…、遺書を書いておくべきだったな)」
リョウはミィヤに過激なことを要求されると思っている。
さっきリリアたちが来たからすっかり書くのを忘れた。
後悔してももう遅い。
周りでは爆発が起き、リョウはそれをうまく避け続けている。
現状を見た観客はリョウがどのくらい長い間逃げ続けるのかと、逸材がどのくらいの底力を見せ派手に展開するのかと思っていた。
しかし、決着はあっけなくついた。
考え事をしているリョウの近くで爆発が起き、リョウが吹き飛ばされる。
「が…!」
Sバリアの残量はすでになく、リョウに激痛が襲う。
もう帰りたい。
寝たい。
だが、それでも起き上がるのはミィヤの人形にはなりたくないから。
ただそれだけである。
「…リョウ、もういいでしょ。一日ぐらいミィヤの言うこと聞いてあげたって」
「そんなこと言うならお前も、もういいだろ?手帳1つぐらい…」
「あれは…、あれだけはだめなんだ!」
ケイトが再び腕を切り落とす。
両腕とも丸鋸で。
「くそったれ!」
リョウもあきらめず逃げようとする。
と、ここでリョウの視界に変な光景が広がった。
丸鋸が消え、さっきまで切り落としたはずの腕は宙に浮かせておいたはずなのに腕が落ちていく。
ケイトの体もだらんとして、落ち始める。
「チャンス!?」
リョウはここを逃すわけにはいかないと一気に接近する。
しかし、リョウが近づいた瞬間ケイトが目覚めたかのように体を起こす。
「やば!?」
おびき寄せる作戦だったと理解したリョウは回避行動に移る…が間に合わない。
はずだった。
リョウが残りのヒュニスを使い防御行動に移ろうとしたとき、ブザーが鳴る。
『試合終了。ただ今の勝負、リョウ・アマミヤの勝利です』
――――――――――――――――――――――――――――――
「ハァ~~~~~~…」
「リョウ、お疲れ様。はい、水」
「ああ。悪いな、クロ」
ベンチに座っているリョウとクロ。
あたりにはミュレスを楽しんでいる、一般人がたくさんいる。
周りからは屋台のが並んでいて、いいにおいもする。
お祭り騒ぎと何ら変わらない。
「でも残念だったね、結局2位だなんて」
「いや、ケイトに勝てたからそれでよしだ。シューレスに勝てるわけねぇよ、あんな戦い方されたら」
ケイトに勝利後、リョウは10分ほどの休憩をはさんでシューレスと勝負した。
しかし、結果は散々だった。
ケイトが勝てないと言っていた理由が分かった。
試合開始早々、シューレスは自分のネームの力を最大限に発揮。
幻覚を見せられて攻撃はあたらないし、相手の攻撃がどこから来るかわからない。
音で判別はできるらしいが、そんな訓練は受けていない。
完璧に遊ばれた。
「リョウ、あれはケイトに勝ったって言うの?」
「勝ちは勝ちだ。運も実力の内っていうしな」
ケイトは結局あの後本当に負け判定を食らった。
理由は簡単、心臓が止まったから。
原因は何度も再生するうちに少しずつ減っていった血と腕に対する激痛らしい。
最初は耐えられたが、血がなくなるにつれただでさえ少し気分が悪くなる。
そこに激痛を入れたとたん、心臓が一瞬とはいえ止まったそうだ。
それが機械に引っかかり死んだ判定を食らった。
「あぁ…、本当に勝ててよかった」
「…リョウって好きな人いるの?」
「はぁ!?」
いきなりの質問に声が裏返る。
「いや、だってミィヤの誘い何度も断ってるじゃん。それってほかに好きな人がいるからじゃないの?」
「いや、好きな人とかじゃなくて…。あいつは、こう、襲ってくるんだよ」
「言いたいことは分かるけど、リョウはもう結婚してもいい年齢なんだよ?子供ができたって全然おかしくはないのに」
そう。
リョウはすでに18歳どころか20歳すら過ぎている。
結婚したって問題ない。
この学校にそれを規制する校則はないからだ。
「いや、できるから構わないとかそういうわけじゃなくてだな…」
「女子の方から誘ってきてるのに断るなんて…リョウって思ったより酷い男?」
「そんなんじゃないよ。たださぁ…」
地球ならばわかってくれる人の方が多いだろうが、ここにとは違う感性を持っているらしい。
この純粋なクロからこんなことを言われるとは夢にも思わなかった。
「まぁ、僕が口だすのも少しおかしい話だしいいんだけど。それより僕たちも屋台見て回ろうよ」
答えに詰まったリョウのことを考えてか、話をそらす。
クロがベンチから降り、リョウの前に立つ。
身長は相変わらず小さい。
同い年にはとても思えない。
そして同性にもたまに見えなかったりする。
「ああ。じゃ、少し見て回るか」
リョウも立ち上がりそこを後にする。
数十秒後、違う2人組がそこを通った。
「血が…足りない」
「吸血鬼みたいなこと言うな。血ぐらい作れるだろ、お前なら。それに結局負けやがって」
ケイトが「これ以上魔力を無駄にしたくない」としゃべる。
シューレスとケイトだ。
ケイトは少し疲れ気味で、飲み物で鉄分補給中だ。
「もともと僕は本気出すつもりなかったんだからいいの!まったく…持っていたあれが偽物だったなんて」
ケイトは敗北後、血が足りないながらも全速力でシューレスのところへ向かった。
次の対戦に参加するので場所は分かっていた。
すぐにそこに着き、「返して」と言ったところ偽物と説明される。
メリーが空気で作ったただの本で中身はないらしい。
「俺としては公開したかったんだけどな」
「本気は出したよ。っていうかよく考えれば一瞬でも本気出せばそれでよかったんだよ。結局最初から最後まで全力だったから疲れちゃったよ」
「…本気は出してないだろ」
その言葉にケイトが反応する。
「あそこまで頑張ったのに本気じゃないって…」
「『檻』を使ってなかったろ」
ケイトは、いたいところを突かれたのか黙ってしまった。
「長い付き合いだ。お前の本気の戦い方ぐらいわかってるつもりだ」
「…ずいぶん優秀な親友だね」
「まぁ、今回は別にいいけどよ。使ってれば勝てたぜ、リョウに」
「俺は戦いが好きじゃないの知ってるでしょ。それにその後はシューじゃないか。無理無理」
どんなに攻撃力が高い魔法が使えてもあたらなければ意味がない。
ケイトは永遠に回復するが、シューレスにはまず攻撃が当たらないのだ。
これなら一回殺せば勝利のシューレスの方が圧倒的に有利。
「お前だって鍛えれば俺に勝てると思うんだがな」
「僕は争いが嫌い。知ってるでしょ。だから衛生班に入ったんだよ。5年たてばすぐに抜けるけどね」
「すぐに諦める癖も何とかしないとな」
「…シューは僕の親かい?」
ミュレスは盛り上がりを見せたまま、終わりをむかえていった。
最後のミュレスはリョウにとって忘れられない思い出となった。
「お願いします!勘弁してください!」
「お願いします!」
マーシャが土下座しているフィリアとスノーの前にいる。
もちろんお願いしているのはキスの件についてだ。
「何言ってるのよ?賭けをしたのよ、キスぐらいしなさい」
「無理です!そんなことしたら恥ずかしくて死んじゃいます!」
マーシャは取り合うつもりはない。
ここは応援も兼ねてやってもらうべきだと思っている。
「そんなことで死んだことないから大丈夫よ。それに罰ゲームっていえばきっとケイトも普通に許すわよ」
「でも…、でも…!」
フィリアはすでに顔真っ赤。
嬉しいような恥ずかしいようなが入り混じっているのだろう。
しかし、恥ずかしいが勝っているのは間違いない。
「どうしてもしなくちゃだめですか?」
しゃべれないフィリアの代わりにスノーが問う。
しかし、その声はいたって冷静。
「当たり前でしょ、っていうかあなた主がこんなに大変なのに冷静ね?」
「ええ。特に気にすることもありませんし」
「気にすることない?」
「はい」と言う代わりに頷く。
「主、別にそんな悩むことないですよ」
「そ、そんな…。スノー…」
「主はケイトさんにキスするつもりは?」
「む、無理ですよ!」
「ならしなくてもいいですよ」
「だから無理だって…え?」
フィリアが顔を上げる。
「何言ってるのよ、スノー。賭けをしたのに何もしないの?」
「いえ、キスはしますよ。いつか」
マーシャの顔が引きつる。
言ったことを理解したのだ。
「スノー?」
「主、時間は設定されてませんでしたよね?なら好きな時にしちゃってください」
「…あ!」
フィリアも理解する。
「じゃ、僕はもう寝るので…」
やるべきことを終えたスノーが竜に戻り寝る。
こちらの方が場所を取らなくていいのだ。
「…」
「じゃ、マーシャさん。私はお風呂に入りますね」
笑顔に戻ったフィリアはお風呂に入る。
「えぇ~…」
マーシャは何も言い返せず、ただ立ち尽くしていた。