楽しんでってください。
「所詮…、この程度か」
カザキが呟く。
周りには傷ついた使い魔がぐったりと横たわっている。
意識がある者は1人もなく、カザキは無傷で立っている。
はじめこそシューレスに騙され、軽くキレていたが今はそんな小さいことは頭の隅にもない。
「さぁ、グネズト。次はお前だな?」
「…お前はたった20分ほど前の記憶さえないのか?老けたものだな」
「死ぬのが怖いならDを使っても構わないぞ?」
今カザキから感じ取れるのは余裕のみ。
絶対に死なないと分かり切ってるかのように、敵陣のど真ん中にいるにもかかわらずだ。
しかし、グネズトには理解できた。
カザキの強さを知っているグネズトには。
「戦う気はなかったのだがな。こいつらとやりあっていたら気分が高揚して―――」
カザキの足に手が伸びる。
ライルが這いつくばりながらつかんでいた。
サクとライルが判断できるのは身に着けている服が違うからだ。
サクは動きやすい作りになっている着物を、ライルは軍服を着ていた。
「まだ、私は…!」
「…くだらない」
顔を蹴り飛ばし、手を払いのける。
「がっ!?」
まだ意識があるライルの背中を踏みつける。
ミシミシと骨の音が鳴る。
「ああ…あ…!」
「お前はもはや弱い以前の問題なんだよ。分かるだろ、妖精が人間に危害を加えることはできないって。武器を持たないお前なんか1人じゃ俺に傷つけることすら無理なんだよ」
「あ…アアア!」
「これは絶対なんだよ。この世の理だ。お前1人がもがいたって意味ねぇんだよ!」
ライルを蹴り飛ばす。
ライルが5mほど転がり地面で痛みに耐えている。
カザキがグネズトの方に向きなおる。
「自分の使い魔がヒデェ目にあってるってのにいいのか?」
「部外者のお前が口出しすることではない」
「そうか、いい判断だ」
求めていた解答が返ってきたからか、カザキの満足気な顔をする。
「さて…、じゃあ始めるか」
「俺はやると言っていない」
「俺が始めれば嫌でも「主君」」
グネズトが知らない声によってカザキの言葉が遮られる。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ハァ、ハァ…!」
「手品はもうおしまいかしら?」
フィリアがおびただしい量の汗を流しながらナタリーを見ている。
体にはところどころ擦り傷が見える。
ナタリーは汗なんてかかず、無傷のきれいな状態でフィリアを見据えている。
しかし、仮面の裏のその顔には確かに憎悪が詰まっていた。
「一切攻撃を受けていないとはいえ、周りの飛ぶハエを放っておけるほど私は優しくないの」
「…(まだ、なんですか!?)」
「さっきからは手品も使わなくなって私も少し楽ができそうね」
周りに無数にある正方形の物体が動き始める。
「さぁ、動かないでね。四肢をもぎ取るだけで殺しはしな―――」
突然しゃべるのをやめる。
耳に手を当てているが表情は確認できない。
だが、フィリアには分かった。
「…もしかして、時間が来ましたか?」
「ただ逃げ回ってたわけじゃないのね」
「はい。リリアさんが攻撃できなくなった時点で私の作戦はこちらに変更してました」
ナタリーの体が震える。
暴走しそうな怒りを我慢しているのだ。
ただの雑魚に邪魔をされただけじゃなく、翻弄された。
そしてお持ち帰りする予定だったリリアも手に入らない。
「…」
「早く帰らないと怒られますよ?時間はしっかり守らないとだめです。リリアさんを探すには最低10分は必要だと思います」
あたりを見渡したがリリアは見当たらない。
フィリアに気が回っていたためすっかり忘れていた。
「いいでしょう。この場は引くわ」
「ありがとうござ「でも」」
1枚の紙を取り出し、魔方陣を展開する。
「あなたは必ず殺す、私が」
ナタリーの足元に展開されていた魔方陣が下から上へスライドする。
その1回のスライドでナタリーは姿を消した。
魔方陣もナタリーを消すとヒビが入り、割れて消える。
目の前から敵が消える。
フィリアが張りつめていた緊張を解く。
「早く…、リリアさんを…」
緊張の糸が切れ、フィリアが気を失った。
――――――――――――――――――――――――――――――
「…あァ、そうか」
耳に当てていた手を降ろし、ニゲルがレックスたちを見下ろす。
「お前らァ、吉報だぜぇ?」
「吉…報?」
レックスの背中には4本の光の矢が刺さっている。
ボロボロの体になりながらもウリスを抱えているレックスが聞き返す。
ウリスはすでに意識がない。
「狩りの時間が終了した…、つまりお前らは生き残ったってことだァ」
ニゲルが1枚の紙を取り出す。
魔力を込めるとナタリーと同様に魔方陣が足元に展開される。
「てめぇ…逃げる気か!?」
「この状況でよくそんなことが言えるなァ?誰が見てもわかるだろぉ、お前らは負けたんだよ。それとも…、まだやるかァ?」
レックスだって頭の中では理解している。
このまま戦い続けたって勝てない。
だが、負けたという事実を認めたくなかった。
「っと言ってもこれを展開した以上ぉ、そんな時間はねぇけどなァ」
ニゲルの体が消え始める。
レックスはただ見ていることしかできない。
「その女も生きてたら言っておいてくれよぉ?またの狩りを楽しみにしてるってなァ」
それを言うとニゲルは消えた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「つまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらない、つまらない…」
ぶつぶつと念仏のようにリプトが呟く。
彼自身は戦意喪失しているのか一切手を出してこない。
「くそ!」
リョウとマーシャは屍相手に戦い続けている。
一体一体は弱く、別に難しい敵じゃない。
だが、数が多すぎた。
斬っても斬っても沸き続けてくるし、頭を切り落としても体が襲ってくる。
「…なんで、あの顔をしない?」
リプトが問いかけてきた。
距離が結構あるはずなのにきれいに聞こえる。
「憎悪に満ちた、絶望に満ちた、恐怖に満ちたあの顔。俺を楽しませろよ」
「生憎、私はあなたの玩具じゃないの!むしろあなたが嫌な方の顔をするわよ!」
「…うぜぇ」
リプトが立ち上がった。
するとそれに呼応するかのように屍の動きに統一性ができ始める。
「なんだ…!?」
屍たちが一斉に手をリョウたちに向ける。
リプトが唱える。
「ファイヤ」
屍たちの手から火の玉がリョウたちを襲う。
「マーシャ!」
「え…きゃ!?」
マーシャを抱き寄せ、ヒュニスで身を守る。
体に当たってもSバリアが守ってくれるが、もしものためにも残しておきたい。
すごい数のファイヤがヒュニスに当たり爆発がヒュニスの周りで起こる。
「あ、ありがと」
「ああ。だけどこれはやばいぞ」
リョウはTのネームを持つ者と対戦をしたことはない。
能力を目の当たりにしたことはあるが自分自身は戦ったことないのだ。
でも、クロに聞いたことがある。
Tの能力について。
屍を扱うって言っていた。
でもそれだけだ。
数が物凄いとは言っていたが、魔法が使えるなんて聞いたことがない。
「もういいや、お前ら。死んでくれよ」
ファイヤの弾幕が一層強くなる。
ここで飛び出しても後ろで構えてる屍の餌食になる。
「リョウ、ヒュニスはあとどれくらいもちそうなの?」
「このまま弾幕が続くか分からないが、…3分くらいか」
「思ったより脆いのね」
ヒュニスだって耐久度は有るといえど万能ではない。
ファイヤといえどその嵐にあえばいずれ壊れる。
「文句言うな。それより早く何とかしない…と?」
突然弾幕が止まる。
あたりが静かになっている。
周りは爆発の砂ぼこりで見えない。
「…止まった?」
あまり長くは続かないと思っていたがあまりに早すぎる。
砂埃が晴れはじめ視界が良好になる。
何かあるのかと奇襲を警戒したが屍たちは立ったまま力なく体をだらんとさせていて、リプトは耳に手を当てて話している。
リプトは歯ぎしりをしながら何か言っている。
「なんだ?」
「朗報だといいわね」
リプトが耳から手を離し、懐から紙を取り出す。
魔方陣が展開される。
「「!」」
「安心しろ。お前らをどうこうするわけじゃない、生憎うまくない果実を口に含めなきゃならないほど飢えてはいない。もっとも、腐った果実を放っておくつもりもなかったんだけどな」
リプトの眼はマーシャを見ていた。
屍たちの足元にも同じ魔方陣が展開され、次々と消えていく。
「逃げる気?」
「撤退命令が出た以上、下っ端の俺ではどうしようもないからな。それに、逆らうと後で兄貴が怖い」
「アンタの近況なんて訊いてないわ」
「ともかく、俺はこれで失礼させてもらう。息抜きがむしろ悪い方向に行くなんて思ってもみなかったぜ」
リプトの体が消えていく。
完全に消える直前に言った。
「二度と目の前に現れるな。さっさと死ね」
リプトがいなくなり、屍たちもすべていなくなる。
まわりの景色が拓け、リョウたちのみがその場に残る。
突然マーシャが崩れ落ちた。
「マーシャ!?」
腕を抱え、震えている。
怖くなったのだろう。
さっきまでは怒りや憎しみ、戦っていることでそれが払拭されていた。
だが、さっきまで戦っていたのは自分の母を目の前で殺した敵だ。
「…」
「大丈夫だ、俺がいる。みんなもいる」
リョウがマーシャを抱きしめる。
マーシャの震えが次第に止まっていく。
「…ありがとう、リョウ」
――――――――――――――――――――――――――――――
カザキの隣に1人の男が突然姿を現す。
腰に太刀を携えている。
「C…」
「主君、時間です。帰還の準備をお願いします」
「まだそんなに経ってないだろう」
「先ほどそこの方が言った通り、すでに20分以上経過しています。時間を決めたのは主君です」
「…耳が痛いな」
カザキが「はぁ」とため息をつく。
Cが1枚の紙を取り出した。
「他の奴らは?」
「すでに帰還済みです。ですがミグレッド以外にミミがやられました」
「相手は誰だった?」
男は答える代わりに転移装置の方を見た。
丁度、クロとマートが戻ってきたところだった。
「ここは…、って大佐!」
本会場に来たことはないので2人はこの場所を知らない。
クロがグネズトを確認する。
それと同時に見たくないカザキの姿も。
「…!」
「久しぶりだな、クロ」
「…カザキさん」
「主君がカザキさんになったか。まぁ、さんがついているだけ良しとするか」
Cが魔方陣を展開する。
「悪いがここまでだ。失礼させてもらう」
「ま、待っ―――」
クロが叫ぼうとして隣を何かが横切る。
ガキィィン!と音がして刃と刃がぶつかり合う。
「ブレーベ…!」
「…フラット」
斬りかかったのは女。
名をフラットというのかCが呟いた。
対して女はCのことをブレーベと言った。
「感動の再会…なのか?」
「…いいえ、顔見知りなだけです」
「そうか」
Cが力でフラットを押し返した。
フラットとCに距離が開く。
「悪いが女、時間なんでな」
カザキとCが消え始める。
フラットが再び攻撃を加えようとする。
だが、遅かった。
「さらばだ」
消えたと同時にフラットの刀が振り下ろされた。
刀は空を切る。
振り下ろされた刀をそのままにフラットがただ黙っている。
いつの間にか外の爆発音も消え、人の叫び声だけが聞こえていた。
どーもです!
長らくお待たせしました。
私事もとりあえず終え、これからは2,3日に1話が普通になると思います。
ですがこんな風に1週間空けることはこれからもあると思いますのでその時はよろしくです…。
あと、リョウとマーシャの戦闘シーンは別に忘れたわけじゃありませんよ?
ただここは書かないほうが後でいいかなと思いまして。