異世界にて〜魔法と科学の小競り合い〜   作:tubukko

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暑い…。
夏はずっと前書きに「暑い」を書いてしまいそうです。


異常者も感じる恐怖

「えい!」

 

子供の無邪気な声が聞こえる。

しかし、声とは裏腹にやっていることは人を殺すこと。

 

だが、それはミィヤには一切通用しない。

水の弾丸がいくつも向かってくるがミィヤの体の表面にあたるたんびになんてことないただの水になる。

 

ミィヤの使っている「必◯断界」はもともと弱点とまでは言えないが1つの属性にしか対応できない他に視界不良になるというデメリットがあった。

以前、模擬戦とはいえそこをリョウにつかれたことをかなり気にしていたため今ではそのデメリットは解消された。

色のついていたシールドは透明になり、大きさもある程度調節できる。

 

「子供の頭じゃこれが限界かしら?」

「僕たちの意図はおばさんじゃ読めないでしょ?」

 

刹那、天井が崩れる。

一瞬の隙も与えない攻撃。

直接与えられないのなら間接的にと考えたのだろう。

だが、走れば避けられる距離。

すぐに移動を開始しようとする。

 

が、ここで追撃が入る。

地面が一瞬にして崩れる。

子供2人もこれくらいは予想できるのだ。

避けられるのならば足場を悪くすれば、しかもそれが切羽詰まっている状態ならば焦りが生じる。

 

2人の予想通り、ミィヤが突然の足場の変化に対応できず転ぶ。

それと同時に崩れた天井がミィヤに覆いかぶさる。

崩れた天井と床によって砂埃があり、視界が悪くなる。

 

ミィヤの張っていた盾は必水断界のみ。

それではがれきは防げない。

 

「やっりぃ!おばさん撃破!」

「うまく調整したつもりだけど…生きてるかな?」

「僕はいいよ、あのおばさん嫌いだし。最後のこけたところ見て十分満足」

「ザマァって感じだったよね。おばさんのくせに調子に乗るから―――」

「言いたい放題言ってくれるじゃない…!」

 

がれきの中から声がした。

はっきりとした声が。

 

がれきの山の中からミィヤが姿を現す。

腕が折れていたり、最悪死んでいてもおかしくない状態だったはず。

なのにミィヤはこけた部分以外だと傷1つ負っていない。

 

「最悪…、リョウに会う前にケガするし砂埃がついて黒くなるし。あんたたち覚悟できてるんでしょうね?」

「…おばさん、魔法側の人間じゃないの?」

「ああ、そう考えてたなら驚くわね。悪いけど学校生活は科学側で過ごしたの」

 

魔法側の生徒以外に配布される武器、ドール。

ミィヤといえども例外ではない。

クロと違い、リョウを追って戦闘を専門にする道を選択していたので4段階目とクロより強い。

 

ただ、「実は魔法側の力が吐出しているんだ」という生徒がドールを手に入れるとあまりドールは強く育たない傾向にある。

事実、3段階目にはマーシャやリリアはそれぞれの道に進むような感じで特徴が出始めていた。

ミィヤのドールは4段階目。

だが、これといって特化した点はなく身体能力が全体的に上がる。

ただそれだけ。

クロも然りだ。

 

「…そういえば名前聞いてなかったわね?一応聞いてあげてもいいわよ」

「おばさん、さっきから上から目線すっごいうざいんだけど」

「人生の先輩なのよ?敬いなさい…って言っても無理ね。劣悪環境で生活してきたんでしょうから」

 

そう言いながら札を取り出す。

 

獄鉈(ごくなた)

 

札が燃える。

ミィヤは直に札に触れているが熱がるそぶりは見せない。

 

燃えた札から長い棒のようなものが伸び始める。

 

「よく見ておきなさい、あなたたちを葬った武器になるんだから」

 

やがて武器が姿を現す。

ミィヤの手に現れたのは鉈。

長さは2mほど。

それ以外にこれといった特徴は見られない。

 

「何その変な武器」

「鉈は見たことないかしら?それとも『神器』のことを言ってるのかしら?」

「どうでもいいよ。どうせおばさんは僕たちに近づけないんだから!」

 

再び激流がミィヤを襲う。

 

ミィヤは1つだけこの2人を尊敬していることがある。

それは魔力の多さ。

自分と戦う前から結構な量を使っていたはずだ。

何か小細工をしているのなら話は別だが本人たちの実力なら正直殺すのは惜しい。

 

「学習能力がないわね」

 

ミィヤに水の類の攻撃は一切効かない。

それを分かりながらもなお同じ攻撃を繰り返す。

力押しすればいずれ壊れると思っているのだろうか。

 

ミィヤが一歩ずつ歩き始める。

激流はミィヤに当たれば一瞬にして消える。

ミィヤから見れば目の前に障害なんてないのだ。

 

しかし、それは時間稼ぎだった。

いや時間稼ぎではなく集中を違う方へ向けるための作戦。

前に進んでいたのに横から衝撃が走る。

ドールを装備しているにもかかわらず吹っ飛ばされる。

 

ミィヤにあたったのはがれき。

これでは護符で防ぐことはできない。

幸いSバリアのおかげでケガはせずに済んだ。

だがホッとしたのもつかの間、1人がミィヤが倒れているところに乗りかかる。

手にはナイフ。

ただのナイフじゃないなんてすぐにわかる。

 

「聴かせてよ!」

 

ミィヤの右肩に深々とナイフが刺さる。

激痛が走るのは言うまでもない。

 

「ああ…ぁああぁ……」

「ん~…、うめき声じゃなくて悲鳴が聴きたいんだけど」

 

そう言いながらナイフを引っこ抜く。

血が噴き出し、子供に付着するがそんなのは関係ない。

再び刺そうとする。

もちろん即死には至らない左肩。

 

しかし、ミィヤだってなんども黙って刺されるつもりはない。

 

「調子に乗ってんじゃ…ないわよ!」

 

手に持った札を使用。

すぐに札が爆発する。

予想もしなかった展開にミィヤから離れることを余儀なくされ不満気な顔をする子供。

Sバリアがあるとはいえ、自分の近くで爆発系の攻撃をするのは自殺行為だ。

ミィヤも咳き込む。

 

だが、それ以上に痛い。

肩にナイフを一回刺されただけだがミィヤに想像以上の痛みが走る。

よくよく考えてみれば体にこのような傷を負ったのはこれが初めてかもしれない。

 

「おばさん、そんな傷程度で顔をしかめてるようじゃその鉈は僕たちには当たらないよ?」

 

ナイフについた血を指で触りながら話す子供。

その血を腕に模様を描くように体につける。

 

「…成程。少しは考えてるってわけね」

「右利きの人が右肩をやられたら辛いでしょ?」

「そうね。これが『ただの鉈』だったらもっと面倒になってたかもしれないわ」

「…?」

「言ったでしょ、これは『神器』。神の力の一部を込めた武器」

「今時神とかw」

「おばさん、ネジ吹っ飛んでるでしょ」

「見せたほうが早いわね」

 

歯を食いしばりながら鉈の矛先を地面に向ける。

そして次の瞬間笑いながら言った。

 

「自分の行動を恨みなさい」

 

地面に矛先を突き刺す。

ただそれだけの行動…に見えた。

次の瞬間、子供2人の目に入ったにはさっきナイフでミィヤを刺した子から噴き出す血。

2人とも一瞬何が起きたか理解できないようだったがすぐに攻撃を受けた子供が痛みにのたうち回る。

 

「うわぁぁぁあぁぁ!」

「エルド!」

 

初めて名前を聞いた。

突然謎の攻撃を受けたエルドは血が噴き出した腕と顔を抑える。

触って分かるのはそれが切り傷だということ。

しかし、切ったというよりは刺したのほうが正しい。

 

「エルドに何したの!?」

「その子エルドって言うの?私がエルドにしたことは何もないわ。その子が勝手にこの鉈の攻撃条件を満たしてくれたんだもの」

「条件?」

「自分たちで考えなさい。もう1回いくわよ」

 

ミィヤは鉈を左手に持ち変える。

そしてそれを壁に突き立て…横に滑るように壁を斬る。

 

それと同時に再びエルドから血が噴き出す。

 

「ああぁぁぁぁああぁあぁあああ!?」

「…!」

 

攻撃の構造がわからない。

これでは対応しようがなかった。

さっきまでは腕と顔の一部だけだったのに2回目で傷が広がり胸のあたりまで来ている。

ここにきて初めて感じた焦り。

このままではエルドが、兄弟が死んでしまう。

 

しかし、それ以上に感じているものがあった。

こいつが死んだら次は自分。

攻撃条件がわからなければ近づけない。

しかし、近づかなければ相手にダメージは与えられない。

生半可ながれきによる攻撃はドールを装備されている以上ほとんど意味を成さない。

 

「さて…、後何回で死ぬのかしら?うるさいのは嫌いなの」

 

その言葉を聞いて理解した。

言葉にはもう何もこもっていない。

さっきまであった敵意が一切ない。

つまり、自分たちを敵とみなしてないのだ。

ただの流れ作業に変更している。

それだけ勝ちを確信している。

 

ミィヤが子供たちに向かって歩く。

鉈は引きずられていた。

かすかではあるが、刃が当たった地面に傷跡が残る。

 

「イタイイタイイタイイタイイタイ!」

 

エルドの体の切り傷が少しずつ広がっていく。

これを見れば鉈が何かを攻撃すればそれが対象に向かうというのは分かる。

だが、その対象になってしまう条件がわからない。

 

「ア…ああぁ……」

 

味方は死にかけ。

自分は攻撃を与える手段がない。

そして敵は自分たちを敵とみなしていない。

これを理解した子供の行動は速かった。

 

「あああぁ!」

 

叫び声をあげながら目の前の地面をひっくり返す。

ミィヤの視界が地面の盛り上がった床によりさえぎられる。

 

「ずいぶん繊細な作業もできるのね」

 

感心した台詞を口走るがただそれだけ。

言葉にはかけらほども尊敬の念はない。

 

ミィヤが目の前にできた壁に鉈を突き立てる。

壁の奥で叫び声が聞こえる。

 

「まず1人」

 

そう言い放つと壁を一刀両断する。

壁が崩れ落ちる直前、奥で血が噴き出す音がした。

だが声はしなかった。

 

目の前の壁が崩れ、先が見えるようになる。

あったのは死体1つ。

もう1人の気配は…ない。

 

「…逃げてくれたようね」

 

鉈を落とし、地面に手をつく。

 

 

 

正直、これで逃げてくれたのはありがたかった。

うまく醸し出せたであろう雰囲気に感嘆する。

 

もしもう1人がまだ戦おうとしてたらやばかった。

もう1人の方は条件を満たしていなかった。

つまり普通に鉈を使うしかなかった。

 

そいつに対しても条件を満たしてやればよかったのだが警戒されていると正直難しい。

さらに、相手も1人といえどミィヤもケガをした。

片腕を使えないだけで戦闘力はかなり落ちる。

 

札を取り出し肩に張り付ける。

一応回復用だ。

自然治癒と比べれば全然早くなるが、ちゃんとした魔法や特にケイトの魔法と比べると遅い。

 

「…サリス、ノリス」

「「はい」」

 

少しまだ薄いが現れる。

 

「悪いけど鞄探してちょうだい。無事だったらそれに着替えたいし」

「分かりました」

 

がれきをどかし始める2人。

エルドには目にもとめない。

そんな中、ミィヤは血まみれで2度と動かない…いや、動けるようにできないこともないエルドを見る。

何もわからず死んだのだろう。

冷静に考えれば原因は分かったはずだ。

だがわかっただけで手遅れではあっただろうが。

 

「…胸糞悪いわね」

 

さっきまで何も考えず戦っていた。

そして殺した。

いつ何度味わっても嫌なものである。

いや、自分だけで人を殺したのはこれが初めてだ。

寺に攻め込まれたときは最後はクロが、4年生の時の帝国の侵攻では攻撃した人はすでに死んでいた。

寺に襲撃されたときも自分で「殺す」宣言していたが実際はどこか整理がついていなかった。

たぶん殺すつもりだったのは間違いない。

ただ殺した後、どんな気持ちになるのか考えたことはなかった。

すっきりするのか、あるいはモヤモヤするのか、後悔するのか。

 

それを初めて味わった。

しかも殺した対象は子供。

胸糞悪いに決まってる。

 

「ミィヤ様、鞄がすべて見つかりました」

「全部?」

「はい。すべて汚れてはいますが中身はきれいそのままです」

「ツイてるわね。じゃ、さっさと着替えたいんだけど…」

 

ミィヤだってこんな誰が見ているかわからない場所で着替えたくはない。

 

「ん~、どこかいいところ―――」

「あれ?これはどうなってるの?」

 

サリスでもノリスのでもない声に敵かと声のした方向を振り向く。

しかしそこにいたのは

 

「な…!?」

 

自分の身長とは合わない胸を持った子供らしき外見をした女性だった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…!」

 

命からがら逃げだしたもう1人の襲撃者が建物の外にいた。

彼の名前はラルド。

おそらくもうエルドは戻ってこないと理解している。

だが、不思議とエルドを殺したミィヤに対する恨みよりも生きている喜びのほうが圧倒的に大きかった。

 

今は逃げるしかないと理解している。

2人がかりでかかっても勝てなかったのだ。

1人で何しても意味はない。

カザキが受け入れてくれるかわからないが帰る場所はあそこのみ。

 

「あのおばさん、今度会ったら必ず―――」

 

独り言を言った刹那、気配を感じ後ろに水の盾を展開する。

すると盾が一本の針をからめとった。

 

「誰?」

「…気づかれないと思ったんだけどー」

 

出てきたのは女の子。

白い髪に赤い目をした女の子。

自分より年下に見えるが、外見はあてにならない。

 

「私リンっていうの」

「何の用?」

「あなたを殺しに来たの」

「笑わせないでよ」

 

首を振るリン。

 

「嘘じゃないよ、あなたは敵だもん。マーシャを酷い目に遭わせた敵」

「知らない人だね。でもまぁ、退く気がないって言うなら―――」

 

目の前に水の塊を作り出す。

1人でも十分な攻撃が可能。

相手はさっきの水魔法を無効化してくる敵じゃない。

本気で戦える。

なら勝てる。

 

だが、甘かった。

ラルドは思い違いをしていた。

相手は1人だと。

リンはいつもランと一緒に行動しているのだ。

 

「うっ!?」

 

突然背中に痛みが走る。

背中に針が刺さっていた。

 

「もう1人いたのか…!」

 

油断したと後悔するが大した問題はない。

針は別に深く刺さってないし小さい。

別に致命傷にはなってない。

 

刹那、目の前が一瞬歪む。

 

「!?」

「ただの針を刺すと思った?」

「思った?」

 

立て続けに体が言うことをきかなくなり始める。

痙攣、吐き気、歪む視界。

 

「これは…、毒…?」

「私たちは元が蛇の使い魔。毒の調合はこんな外見でも得意なの」

「得意なのー!」

 

リンが姿を変える。

白い蛇。

しかし、マーシャたちが初めて会ったころとはわけが違う。

リョウの体に巻き付いて移動できた時代と比べるとはるかに大きい。

アナコンダ…ほどまではいかないが子供1人なら腹におさまるだろう。

人間の状態ではほとんど変化がないのに蛇の状態ではしっかり育っていた。

蛇に変身して口頭ではしゃべれなくなったリンの代わりにランがしゃべる。

 

「…!」

「私たちね、いろんなもの食べてきた。獣の肉、魚介類、爬虫類、木の実…他にもたっくさん!でもね、食べたことない物があるの。今思いつくのは1つ。それはね―――」

 

リンが動けなくなりつつあるラルドに巻き付く。

かなりの太さと長さがある。

 

「人」

 

ぞわっとした恐怖がラルドを襲う。

魔法は使いたくても意識がまとまらずうまくいかない。

魔力は有り余っているのに意識がはっきりしない。

 

「早いうちに使い魔になっちゃったから食べる機会がなかったの。でもマーシャたちは裏切りたくないし私たちは主もその仲間も大好き。だから食べなかった。でも少しは興味があったの」

「…ァ……ウア」

「子供の肉って大人のよりおいしいよね?やわらかいんでしょ?楽しみだなぁ…」

 

狂気にも似たランの笑顔を意識がはっきりしない中、ラルドは確かに見た。

今すぐ逃げなければ食われる。

だが、体は動かない。

今では眼球すら動かすのがつらい。

 

「大丈夫!人として生活してきた時間は長いからちゃんと食べ物には感謝するよ!」

 

ランも姿を蛇に変える。

白い蛇。

2匹いると何かしら神秘的なものを感じる。

しかし、それは客観的な視点。

ラルドには恐怖以外ない。

 

「ま…テ……レ」

『それじゃ、いただきまーす!』

 

ランの開いた大きな口がラルドの視界を暗闇で覆った。




ドール紹介




マグタラン・アッグシーバのドール(5段階目)
槍を主体として戦うドール。
その槍は魔力でできたあらゆるものを触れただけでただの魔力に還元する。
たったそれだけ?と思われるかもしれないがどんな魔法でも一瞬で魔力に変換できてしまうのはこの武器以外、手段が存在しない。
それゆえ、6段階目を待たれる人材の1人なのだが5段階目になってからかなり時間が経っており軽く諦められている。
5段階目でもグネズトの部隊に入れたのはこの武器のおかげではなく、ただ強かったから。
実力者である。


皆さん、夏バテには注意しましょう。
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