「マーシャもリョウも…、これは特別なんだからね?もっと自分の体は大切にしないといけないよ」
「でも命の取り合いなんだからこれくらいで済んだと…」
「リョウの実力があればここまで深手を負うことはないと思うんだけどな」
慌ただしく活動を行っている衛生班の人員。
リョウとマーシャがそんな中、ベッドに横になってケイトからの治療を受けていた。
「5回中3回もこんなけがをしてたら命がいくつあっても足りないんだから」
「お前がいるからこれくらいすぐ治るだろ」
「あ~…、分かってない…」
やれやれと頭を振るケイト。
リョウたちがけがをした理由はたった4、5時間前にある。
ここ最近、突如増えた敵襲。
巫女の2人とデートに出てからまだ1週間と経っていない。
にもかかわらず襲撃が5回もあった。
敵は全部機械兵。
以前エルドとラムドが襲撃したときに一緒についてきたのと同じ型のもの。
別段強いわけではないのだが、数で攻めてくるのと攻めるところがリョウたちの施設ではないため必ずと言っていいほど毎回死傷者が出ている。
そんなため、珍しく衛生班がフル稼働しているのだ。
どんな傷を見ても折れる人を見たことがない。
それだけ精神力の強い人たちの集まりなのだろう。
「信用してくれるのは俺としてもありがたいけど、死体だったら僕は手すら付ける気はないからね」
「瀕死だったらいいんだろ?十分だ」
「…………マーシャさん、君の教育がなってないからこうなるんだよ」
「いや、それはおかしいでしょ!私は親じゃな痛!」
「そんな大声上げたら痛いよ、もうちょっとでリョウの治療終わるから……よし」
リョウに触れていた手を退かす。
リョウは調子を確かめるように肩を回したり飛び跳ねたりする。
頷いたところから見て絶好調らしい。
「じゃあマーシャさん、手を出して」
ケイトの治療法は他とは全く違う。
傷口に触れる必要がなく、どこかその人の一部に触れられればいいのだ。
恥ずかしいだのなんだの言ってる暇なんてないこともあるだろうが女性としては服を脱がなくてもいいこともありありがたい話だろう。
「でも、なんで襲ってくるんだろうね?」
「戦争だからだろ」
「そうじゃなくてさ…、今回強襲を仕掛けてくる機械兵ってあまり強くないみたいじゃん。でも塵も積もれば山となるっていうし、中途半端に攻撃を仕掛けてくるくらいなら一気に使うべきだと思うんだ。言っちゃ悪いけど、現に死傷者は出ても大した被害にはなってないし」
「それ、私も思ってた」
「他に目的があるのか、或はただの余興か」
「余興だろ、今までだってそんな感じだった」
「だといいんだけど…」
突然けたたましい音が鳴り響く。
全員は反応するというより「またか」といった感じで各々の行動をする。
警報が鳴ったとはいえ、聞く回数が多くなるとどうも危機感が薄れてしまうのだ。
『通達、第5施設にて敵襲あり。現在敵は正門を突破し、B区画まで侵入している。戦闘員はこれを撃退して下さい。繰り返します―――』
「ケイト」
「リョウはもう大丈夫です。体を大切にしながら戦ってください」
「私も早くしてよ!」
「マーシャさんはもう少し必要です。今回は休んでてください」
「でも…!」
「マーシャ、大丈夫だよ。俺以上に強いイプシンさんが出るんだ。あんな機械兵、すぐにぺちゃんこになるさ」
「………………………」
「じゃ、行ってくるぜ」
リョウが走ってその場を後にする。
マーシャはそれを心配そうな眼をして見送る。
ケイトにもそれは一目瞭然だった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「弱いよ!」
イプシンの拳が機械兵の頭を捉える。
その頭は転げ落ちることなく粉々に砕ける。
7段階目で戦ってくれているのは彼女のみだ。
リョウたちは知らないが裏で活躍する人員はこんな表舞台には現れない。
裏の人も含めれば戦闘能力は飛躍的に上昇するだろう。
だが、表舞台に現れないから裏の人間なのだ。
「リアちゃん、まな板、そっちの状況はどうなってるかな?」
『C区画はあらかた片付いてます』
『まな板じゃありません!A区画はもう少しかかりそうです』
アルファベット順にAの方が入り口に近く、Zの方が入り組んでいく(Zまで区画は存在しないが)。
フィリアがAに割り当てられたのはまぁ、運が悪かった…としか言えない。
それでもフィリアだってグネズトの部隊の一員である。
あくまでその中では戦闘能力が低いということになっているが強いことに変わりはない。
「フラちゃん」
「…少なくともここには見当たらないわ」
「ん~…ハズレ引いたか、或は全部ハズレだったのか」
彼女たち姉妹のみの間で成り立っている会話。
一端の戦闘員には主語が抜けすぎていて意味不明である。
「姉さん、とりあえずC区画に…」
「そうだね、急ごうか」
――――――――――――――――――――――――――――――
「数が多いですよぉ…!」
少しずつではあるが押されつつあるフィリアにいるA区画。
正門に近いだけあって敵がどんどんなだれ込んでくる。
泣き言を上げるがそれでは何も変わらない。
もともと持久力の少ないフィリアには長い時間の戦闘は圧倒的に不利なのだ。
「スノー、怪我人は!?」
「これ以上増えると守りきれません!」
それに彼女は優しすぎた。
負傷した兵士を守りながらの戦闘となると時間がかかる。
応援が来るのを待っていた。
そんなところにやってくる1人。
槍が敵を貫く。
「リョウさん!」
「フィリア、無事だな?」
「すみません、どうも長い時間の戦闘は慣れてなくて…」
「気にするな。すぐにイプシン先輩も来るだろうしそれまでくらいなら何体来たって俺は―――」
「リョーーウーーー!」
言葉を遮るように大きな声が聞こえる。
リョウが通ってきた道を1人の女性がついてきていた。
ミィヤである。
周りでミィヤを殺そうとする敵を華麗に避けてきた。
おそらく殺すよりも避けたほうが早く移動できるからそうしたのだろう。
リョウにがっしりとしがみつく。
「会いたかったわ!」
「1週間ぶりの登場がこれか…」
「あの3人とずっとこもりっきりで儀式して本当に大変だったのよ!少しぐらい夫のぬくもりで気力を補充しないと」
デートの後、ミィヤ達巫女は何かすることがあったらしくリョウたちの目の前に姿を現さなかった。
それから1週間、もし襲撃がなければ本当にリョウにとっては平和そのものだったに違いない。
巫女たちのやることとやらが終わったようだ。
それが何を意味しているのかまでは一部の人間にしか分からないが。
「じゃあ、あとで補充させてやるから今はこいつらを殺るぞ」
「えっ、それって―――」
「寝るんじゃないからな」
うぅ、と少し落ち込むミィヤ。
だがそれも一瞬のこと。
リョウに抱き着くのはいいんだ。といいほうに解釈したのだろう(抱き着くと言ってもリョウの思い描いているのとは別物の可能性あり)。
すぐに前を見据えて札を取り出す。
「
突如札が伸びる。
伸びた札は何かに巻き付くように長い棒が出来上がる。
リョウはそれを初めて見た。
一週間前のススの言葉を思い出す。
「神器…」
「暴れるわよ!」
勢いよく獄鉈を振り回す。
刃に当たった敵が次から次へとなぎ倒されていく。
型はなってないように見えるが、逆に型がないおかげなのか隙こそ多いが当たった敵が刃の部分でなくても潰されていく。
ミィヤにこんな戦い方があったのかと驚きだ。
「フィリア、行け」
「いいんですか?」
「スノーと兵士を連れて負傷した人を防衛しながらな。B区画はイプシン先輩たちが戦ってたんだろ?B区画からの転移装置なら安全なはずだ」
「…分かりました。スノー」
「了解です」
フィリアの合図に戦闘員が一斉に引き始める。
数は別に多いわけではないし、フィリアの部下というわけでもない。
だが、疲弊しきっていた彼らにとって自分たちより強い人からの撤退命令は聞かない理由がない。
引いていく兵士を追おうとする機会兵。
しかし、リョウたちはそれを許さない。
「そういえばこうやって共闘するの初めてだな」
「そうだったかしら?」
「寺でのは共闘とは言い難いからな…」
「大丈夫よ、夫婦の息はぴったしだから♪」
「言うと思ったよ。まぁ、負ける気がしないという点は賛成だけどな!」
――――――――――――――――――――――――
「…異常なし、だね」
「いやいや、これをどう見たら異常なしになるんですか?」
イプシンの呟きに驚いた顔したリリアが疑問を投げかける。
周りで起き上がる敵はいない。
まだ機能しているのかチカチカと発光する機体も見当たるが、体はすでにボロボロで起き上がることは不可能。
それが面白いのかランとリンはつついて遊んでいる。
敵の応援も見当たらないため、リリアたちも一安心している。
「忍び込むなら奥まで侵入するからAかCならCに来ると思ったんだけど…」
「今回も何もないと考えたら?」
「その可能性もあるけど…、いや、そうなのかなぁ?」
「あの…さっきから何を話してるんですか」
一般の戦闘員と同様に意味が分からないリリア。
「リアちゃん、この襲撃の意味って何だと思う?」
「…確かに効率が悪いような気はしますけど」
「考えればいろいろ可能性は出てくるけど姉さんと私が有力だと思ったのが2つ。こうしている間に何かしらの準備をしている。もう1つは」
「どさくさにまぎれて忍び込む」
後ろで硬いものが壊れる音がした。
ランが倒れている機体の首をもぎ取ったのだ。
「リアちゃんも知ってるよね、あの機体の中身」
「いろいろな回路だったり機械だったりが詰め込まれてますけど」
「あれね、おそらく要らないものなんだよ」
「??」
「つまり、やろうと思えばあの中を空洞にして自動ではなく手動で動かすことができるようになるのよ。勿論、中身を減らして自動もできるわ」
「あんな感じなら中に人がいれば生きてられるだろうしね」
イプシンが指さした方向を見るとランとリンが首をもぎ取った機体が横たわっている。
他に見当たる損傷は胸の真ん中に空いた直径5cmほどの穴のみ。
この機体の中枢、いわば脳に当たるものだ。
誰だって脳を壊せば死んだと思うものである。
だが、それは自動で動く場合のみ。
いや、中身を減らせるのならうまく操作して中枢の位置を変えることだって可能だろう。
「人より一回り、或は二回りほど大きな機体。ああやって横たわってれば死んでると勘違いしてみんな処理場、或は研究施設に運ぶ」
「…少し考えすぎなんじゃ」
「疑心暗鬼になってはいけないのはわかってるよ、だけど頭にはしっかり留めておかないと」
「杞憂だといいのだけれど…」
ネーム紹介
K(意思の伝達)
戦闘では役に立つことは滅多にないであろう魔法。
通信機が存在するこの時代、実用性は極めて低いがジャミングなどがあったときは役に立つ。
ただ相手の思考を読めるわけではないので、一方通行になってしまう。