異世界にて〜魔法と科学の小競り合い〜   作:tubukko

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立冬、今日がその日みたいですね。
冬はやっぱりこたつに入りながらハーゲンダッツ!

でも高いのであまり買えないささやかな楽しみです。


本当の始まり

部屋の空気は当たり前ながら重い。

グネズトの部隊+ミィヤがいる中、リョウがいない。

ミィヤは「私がもっと早くリョウのところに向かえれば…」と筋違いな責任を感じていた。

しかし、それはフィリアやマーシャのようにその場にいた人たちも同じく思っていた。

自分が気づいていれば、自分にもっと力があればと嘆くが意味なんてない。

 

ふいにグネズトが顔を上げる。

誰かと話しているようには見えないのだが「わかった」と言うと立ち上がる。

 

「サクは助かったそうだ」

「よかった~」

 

イプシンが胸をなで下ろす。

通信機もないことからシェリーから連絡を受けたのだろう。

 

しかし、イプシン以外の表情は晴れない。

 

「グネズト」

 

1人の少女が扉を開けて入ってきた。

開けてというよりは、自動ドアなのだがラ勝手に開いたのほうがいい。

ミリーナの表情は曇ってもおらず、喜んでもおらず、ただ真剣。

 

「…済まなかったな、やられた」

 

グネズトが頭を下げた。

しかし、その行動に反応する者はいない。

 

ミリーナは「謝らないで」とでも言いたげに首を振る。

 

「ミリーナっていったわよね?」

 

ミリーナの視線がマーシャのほうに向けられる。

マーシャはミリーナを見ていない。

口は何か言おうとしているが怖くて言えないのか、少し唇が動いているのが分かる。

 

ミリーナが言いたいことを察する。

 

「5割、生きている確率も死んでいる確率も」

 

握っている手に力が入る。

 

「根拠は?」

「それがないから5割なの。本来なら真っ先に殺すべきだと思うの。でも、リョウはカザキを殺せる最後の砦、それを彼は知ってるの。ただ、理由は知らないの」

「リョウの代用は?」

「「「……!」」」

「できるのなら私はリョウの負担をもっと早くから減らしてるの」

「クローン的なものは?」

「大佐!」

 

イプシンがあまりの暴言に声を出す。

ミィヤに至っては喰ってかかりそうな表情をしている。

 

「私はパパから電化製品を持ってくるよう頼まれたもの、例えばテレビは買って来ればそれで済むけど作ることはできないの。複製だって知識があるからできるけど、何一つそっち系の知識がなければ絶対に無理なの」

「…お前はいつも根本が抜けているな」

「あの時の私はあくまでも被験者、よく言っても患者っていう立場だったの。多くを知ってるはずがないの」

「………」

 

それもそうかと肩を落とし考え込む。

 

「何かいろいろよくわからないことを言っているようですが…」

 

話が終わるのを見計らっていたクレアが口を開く。

彼女は平常運転で変わりない。

 

「これからどうするんですか?」

「…一刻を争う。攻め込みたいのだが…」

「一応鏡侵空域を無効化する装備は完成したの」

「え、なにそれ。初耳なんだけど」

 

イプシンが身を乗り出すようにミリーナを見る。

 

「ただ数がここにいる人分しか…」

「都合のいい数だな」

「優先的にあなたたちの分を作ったの。ただリョウがいなくなっちゃったから1つ余ったけど」

「でもそれならリョウを助けに行けるじゃない!」

 

ミィヤが目を輝かせる。

だが現実はそう甘くない。

全員黙ったまま。

すぐにミィヤも気づいた。

敵の本拠地にグネズトの部隊のみで突っ込むのはあまりに無謀すぎるのだ。

 

「…打つ手なし、か」

「それでも私は行くわよ!黙ってみてるのは―――」

「ミィヤ、お前ら巫女に敵陣に攻め込む余裕なんてないはずだ」

「……」

 

グネズトにはそこそこの権利がある。

だが、兵をすべて動かすなんて無理である。

すでに攻め込む時期は決まっていた。

ミリーナの鏡侵空域を無効化して通れるようになるという装備ができてから1週間以内。

 

ミリーナの存在は上の人間には知られている。

その素性も。

だからこそ、待つことにした。

だが、リョウのことまでは言っていない。

ミリーナがあることが知られるのを恐れたから。

8段階目に行くためのキーパーツ、もっと言うなら存在を知られないため。

だから彼女にもそれなりの権利はある。

だが無理だ。

 

兵士は彼らの持ち物ではない。

今から殴り込みするからお前らついてこいって言ったってどこぞの組長ではないのだ。

正規の手続きを踏む必要がある。

そしてそれを踏んだって最低5日。

いや、5日で済めばよいほうだろう。

 

「くそ…!友達1人助けられないのかよ…」

 

レックスの言葉が全員に重く押しかかる。

 

だがグネズト、実はある1つの手法を思いついていた。

おそらくそれならほぼ間違いなく軍の兵をほぼ持ち出すことができるはず。

内部まで潜り込むのは結局自分たちのみになるがそれは覚悟はしている。

いざとなればケイトを縛って持って行こうとも思っている。

しかし、その手法は自分が実行できるものではなかった。

ミリーナでも無理。

というかそれを果たして手法といってよいものか…。

 

『みんな、聞こえる!?』

 

突如頭の中に響くように声が聞こえる。

はじめは違和感があったが慣れた。

 

『簡単に伝えるわ、カザキが宣戦布告をしてきたの』

「タイミングがいいな…」

「なにが?」

 

シェリーの声が聞こえないミリーナだけが首をかしげている。

 

『準備時間を与えるつもりはないみたい。すでに複数の敵を確認してるわ。何か言ってた、何かを確保したとかなんとか…』

 

相手に情報を伝えるのが仕事であるシェリーがテンパっているのが分かる。

相手の言葉を記憶しきれなかったのが何よりの証拠だ。

 

『まだ前線の基地でしか確認できてないけどすぐに大量に来ると思うわ、皆気を付けて。それと…』

 

そこで回線が切れた。

1人を除いて。

表情からするにグネズトのみが繋がっている。

話したいに違いない。

だがこの能力はあくまでも相手に情報を伝えることのみにしか使えない。

グネズトが話すには通信機器が必要だがすぐには繋げない。

 

話が終わったのか立ち上がる。

 

「ミリーナ、持って来い」

「アイアイサー!」

 

地球で覚えた言葉で返事をする。

状況はなんとなく伝わったのだろう。

その場から一瞬にしていなくなる。

 

「ミィヤ、さっきも言ったがお前は前線に参加できない。お前にはやるべきことがあるだろ」

「………分かってる」

「なら、何をするべきかわかるな?」

「…マーシャ、…………………頼んだわよ」

「ええ」

 

そう言うとミィヤはその場を離れる。

どんな顔をしていたのか、マーシャには見ることができなかった。

 

「大佐にとってはもってこいの状態になったな」

「どういう意味ですか?」

「相手が殴ってきたということは、こっちも殴り返す必要がある。敵が大勢でくるんだからこっちもそれなりに戦力が必要だろ?」

「つまり兵が?」

「どこまで動かせるかはわからないがどさくさにまぎれて攻撃に転じるのもアリ…だろうな」

 

軍に入って初めての戦闘であるためいまいち想像できないクロ。

攻撃に転じるって、そういうのもすべて書類を通すのかと頭の中で取り合ず処理する。

クロが帝国にいたころはお偉いさんに「ちょっと散歩行っていい?」と訊いて許可が下りればすぐ動けた。

それだけ上の人の権力がものすごかった。

 

「ただいま~」

 

扉が開いてミリーナが戻ってきた。

瞬間移動ができるのに何故ここに直接飛ばないのだろうか?

 

帰ってきたミリーナの手にはいくつかのタブレットケースがあふれていた。

真っ黒であるそのケースを見る限り、あまりいい印象は受けない。

ミリーナはおもむろにフィリアの目の前まで行くとその掌に1つの錠剤を転がす。

 

「錠剤…これは?」

「鏡侵空域を自由に移動できるようになるための薬なの」

「薬だったんですか!?」

「着る型の物はお金がかかるの。これについてはかなり前から調べてたからここまでこぎつけたの。ただ……」

「ただ?」

「結局お金がかかったの♪」

 

親指を立てて舌を出し可愛らしくポーズをとる。

ただ、そこにいる人は1人を除いてそんなことはどうでも良かった。

科学側はリョウを助けられるという希望、魔法側はひと暴れできるという希望。

 

グネズトだけはため息をついていたが。

 

「グネズト、いつ動くの?」

「今からすることは非正規のことだからな…。すぐだ」

「なら今飲んで大丈夫なの。継続時間に制限があるけど…気にするほど少短くないの」

「錠剤なら飲みながら移動できるだろう…、行くぞ。優先するべきはリョウの救出だ」

「「「了解!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

不思議な感覚である。

寝起きというものはいつになってもあまりいい気分ではない。

あれに慣れというものは存在しないのだろうか?

すがすがしい朝だと気持ちよく起きることはあるがその前段階の目を開ける時、それはいつになっても起きるのを渋るという行動をしてしまう。

 

だが、そんな感覚はない。

今まで普通に起きていたかのような感覚。

前にも何度か感じたことがある。

 

「リョウ…」

 

名前を呼ばれてそっちを向く。

そこに立っていたのは影。

名前が影というのは何か違和感が残るがそれなりに愛着もある。

 

「時間が、ない」

「?」

「でも…あなたは強くなった。だからきっと大丈夫」

「??」

 

何か問いかけたいのだが声が出ない。

いや、何を問いかけようとすればいいのか分からない。

言葉は理解できるのだが。

 

「水は、今はいない」

 

そう言われて何故という疑問を持つ。

だが、疑問があってもなぜか口に出せない。

 

「時期が近いから眠ってる」

 

彼女一人の一方的な会話に疑問符のみが増えていく。

 

「私たちには分かるの、貴方がこれからさらに強くなれるのかなれないのか。…ごめん、私たちじゃなくて水には」

 

と、突如影の体が霧散し始めた。

足元からどんどん砂のように消えてゆく。

 

「今だから教えてる。貴方が強制的にドールを強くする方法、単純明快。死の淵に立つこと。もう知っても意味がないから教える」

 

意味がないなんてことはない。

リョウはすでに8段階目の存在を知っていた。

だが

 

「8段階目は違う。もっと、ずっとえげつないもの」

 

そう話した時、リョウの視界もグニャリと歪む。

すでに影の体の霧散も胸の上まで差し掛かっていた。

そしてその時、リョウは影の顔を見た。

一瞬だった、だが、よく知ってる人の顔とそっくりだった。

 

「7段階目に到達したら会いましょう」

 

その台詞を最後に、リョウの視界からその少女は消えた。




ネーム紹介




O(無機物を操る)
同時に操れる数には制限こそあるがデカい物体を作ることは案外簡単らしい。
ただ、無機物といってもクロの場合は固体限定であり液体は不可。
創った物体の強度は少ししか上げられず、脆いところがあるが素材さえあればいくらでも作り直せる。
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