異世界にて〜魔法と科学の小競り合い〜   作:tubukko

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今年もあとわずか…。
一年で100話いけば上々でしょう、たぶん(これは99話目である)。

お気に入り登録してくれている方々、また読んでくれている方々には本当に感謝です。


分断

「いったいどうなってるんだよ、ここの構造は…」

 

レックスが思わずぼやいた。

彼らは今カザキが本拠地としている球体の中を走っている…はず。

レックスがぼやいた理由は景色にあった。

今視界に入っているのはどこぞの遺跡なのかボロイ構造をした建物内。

石でできた柱は少し叩くだけで簡単に崩れてしまいそうに見える。

ただそれらしい匂いはせず、ひんやりとした空気が漂っていた。

 

「広い運動場に図書館、お花畑を通過してここ。なかなかいい趣味してると思うわ」

「なんか、ずいぶん平和的な物が多いよな」

「そりゃ、もともと子供の遊び場だったからな」

「「「!?」」」

 

知らない声。

全員が声の聞こえた上を向く。

 

「残念、こっちだ」

 

つい、反射的に上を向いてしまったことをグネズトが後悔する。

攻撃が来ると思い構えたが予想に反して近くに現れた敵は後ろへ後退する。

 

「お前…!」

「アンタ…」

「久しぶりだなァ、死にぞこないども」

 

レックスとウリス逸早く臨戦態勢に入る。

目の前に立っていたのはニゲル・I・ロップルト。

だけではなかった。

 

「コラー!放せー!」

 

まるで子供(年が700超えてる)の様に暴れるミリーナ。

大人が捕まえているのに子供が暴れたって意味はない(ただ振りほどくほどの力はあるはず)。

 

「悪いなァ…、お前らを殺りたいのは山々なんだがこいつが最優先なんでなァ」

「ロリコン…」

「年いってるんだろぉ?まァ俺には関係のないことだがなァ」

 

ニゲルの目の前の空間がゆがむ。

レックスとウリスにはそれの意味が理解できる。

 

「待て!」

「お前らの相手は俺じゃない、そうだろぉ?」

「そうだな」

 

その声にマーシャの目が大きく見開いた。

忘れたくとも残る声。

それは何があっても一生消えることはないだろう。

 

「待ってたぜ、マーシャ・クリーシャ」

「リプト…だったわね」

「名前を覚えていられる程度に冷静ではあるのか、残念だな」

 

以前はコーティングていた右腕も今は皮膚ではない何かをさらけ出している。

そしてそれ以上に気になって仕方ないのが右目。

眼球が入っているにもかかわらず、鉄のような色をしているというのは異常性を極めている。

 

「大佐」

「ミリーナのことは気にするな。どうとでもなる、暫くはな。ここは押し切る」

「まさか俺が1人でお前らと戦うなんて思ってはないだろうな?」

 

天井から何かが落ちてきた。

人の形をした何か。

それを人というにはあまりに惨めで死体というにはあまりに悲惨な姿。

1つではない。

そのすべてが、落ちてきた衝撃で首が曲がろうが足が骨折しようが何も言わずに起き上がる。

 

「ここは俺の土俵、数はそれなりだぜ?」

 

「アタシたちの前じゃ数なんて意味ないシ」

「さっきの奴に晴らせなかった鬱憤、ぶつけさせてもら―――」

「いや、ここで時間を取られるわけにはいかない。ミリーナも取られた以上、急ぐ理由が増えた」

「「………チ」」

「シューレス、ここを任せられるな?」

「問題ない」

 

歯がゆそうにマーシャが下唇を噛む。

自分の因縁の敵がいるにもかかわらず、自分は手出しができない。

 

「いくぞ」

 

全員が一斉に全速力。

だが、リプトが追えない速さではない。

戦うつもりがないことを理解したリプトは死体を使って魔法を唱え始める。

組織された人々のようにきれいに整列した死体は一斉に手を目の前にかざす。

不幸中の幸いだったのは詠唱が必要だったということ。

もし、一言で火だの水だのバンバン撃つことができたら恐ろしい脅威となっていただろう。

 

ここで勝敗の分け目を決めたのは情報だった。

マーシャの情報は正直変態と言われても仕方ないほど集めたリプトだったが他の奴は触り程度にしか知らない。

もともとマーシャと対峙できればそれでよかったのだからそれで済むのかもしれない。

死体をほかの奴に充ててマーシャは自分が潰す、それしか考えていなかった。

魔法を放とうとした瞬間、それが起きた。

 

「!?」

 

突如見えない力を感じ体が地面に押し付けられる。

それと同時に詠唱が止み、死体がただのでくの坊となり立ち尽くす。

 

リプトとジークでは利点が違う。

ジークは一回に操れる数が多いが魔法を唱えさせることができない。

一方リプトは数がジークに及ばない分、魔法を唱えさせることができる。

だが何か予想外なことが起き集中が切れると、一瞬にして死体の支配が解けてしまうのが欠点。

 

そして地面に押し付けられたリプトに追い打ちをけるようにシューレスが殺しにかかる。

すぐに死体を呼び戻し、盾代わりに使用する。

数のおかげもあり、危険に陥ることはなかった。

ただ地面に付しながらマーシャが去っていくのを見ていることしかできないのは悔しかった。

やがて、魔法が解けたのが分かるとゆっくりと起き上がる。

目の前では余裕の表情を浮かべながらシューレスが待っていた。

 

「悪いな、マーシャ・クリーシャじゃなくて」

「別に構わないさ。お前を殺してから追いかければいいだけの話…いや、ここで死体に足止めさせればそんなことしなくても―――」

「「「行かせてやると思うか?」」」

 

声が重なるように聞こえた。

周りを見渡すとシューレスが3人いる。

常人なら自分を増やすなんてことはしないだろう。

だって気持ち悪い気がしません?

 

「幻覚…か。面倒な奴だな」

「やる気になったか?」

「余計やる気が失せたところだ。だが、殺さないと俺も安心できないからな」

 

糸が切れた人形のように立ち尽くしているだけの死体が突如動き始める。

 

「殺し合い、してやろうじゃねぇか」

「殺し合いになるといいな」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「放して…よ!」

 

ミリーナは腕に思いっきり力を入れニゲルから離れる。

突然強い力を出されて何も対応ができなかった。

だが、別に焦りはしない。

 

「成程、さすが機械だなァ」

「女の子は繊細なの、もっと丁寧に扱ってほしいの」

「そんな必要はねぇ。カザキさんはお前の中の何かが欲しいだけだァ、お前自身じゃァない」

「貴方…本気なの?」

 

カザキが何をしたいのかはなんとなく理解していたミリーナ。

だがそれに協力者がいるのは予想外だった。

協力しても正直メリットがあるとは思えないからだ。

 

「何のことを言っているのかは不明だがァ…お前はここで死ぬから理解しようとも思わねぇな」

「…私だって戦えるの。なめないでほしいの」

「アァ、もちろんなめるつもりはねぇ。だからこいつらがいる」

 

再び空間がゆがむ。

その中から2人の男が姿を現す。

 

「それはいくらなんでも酷いんじゃないの?」

「カザキさんからの命令でなァ、悪く思うなよぉ」

「よろしくな嬢ちゃん、俺はQ」

「Vだぜ、お前は生体と考えていいんだな?」

 

自分のネームを教えるのは礼儀であり自分の力の誇示でもある。

ネームすべての力を覚えている人なんてそうそういないが力を持っているということぐらいは理解できる。

 

ミリーナが構える。

外見はただの少女に過ぎない。

髪が長く、一瞬髪の色と顔のつくりの組み合わせに違和感を覚えるかもしれないが一見はただの少女。

そんな子が構えをとったところで、それを構えととらえる人は少ない。

Qが思わず苦笑する。

 

「心が痛むねぇ、嬢ちゃんみたいな小さな女の子を殺すとなると」

「まさか私を殺せる気でいるの?」

「悪いけどそうなるよ」

「3対1だぜ?てめぇがいくら経験豊富のババアだからって―――」

「なめないでって言ったはずなの」

 

刹那、ミリーナが3人の視界から消える。

驚く暇なく、Vの目の前に現れるミリーナ。

拳をVの腹に入れる。

 

それだけでVが10m以上とび、壁に激突する。

 

「私を殺せる気でいる時点でなめきってるの」

「こいつ…!」

「上等だァ、殺してやるよぉ!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「…確実に減らされているよ」

「分かってる」

 

イプシンの問いにそれだけ答えて黙るグネズト。

もともと不利な状況だったのは入る前から承知していた。

だが、やはり分かっているだけではだめだ。

理解しているだけではだめだった。

 

「一人ずつでも確実に倒したほうが…」

「一刻を争うのは知っているだろう、リョウが死んでしまえばそれに代わる作戦なんてない」

 

長い通路を走っていた一行。

やがて通路が開け、再び広い場所に出る。

 

「これは…」

 

転移装置と思われる床が並ぶ。

グネズトの記憶の中にはこんな部屋は存在しない。

 

「これ、どうすんのよ…」

「別れていくしかないだろ」

「マグたん、それじゃあ相手の思うつぼだよ」

「でもそうでもしないとリョウの場所へはたどりつけませんよ?時間もない」

「後輩を助けたいのは私も同じ。でもその前に私たちが死んだら意味ないよ」

「それは―――」

 

息をつく暇もない。

大きな音。

何かが外れたような音が通ってきた通路から聞こえた。

それと同時に何かが近づいてくる。

空気を切るような音と電子音のような何か。

 

「クリティウス、任せられるか」

「また防衛線?イヤになっちゃうネ」

「でもデモ、久しぶりに暴れられると思えば」

「「悪くない!」」

 

顔を見合わせて笑う2人。

 

「イプシン、ここで固まっていてはそれこそ相手の思うつぼだ」

「……」

「お前らの実力は十分だ、保証する。相手の意表をつくには単独行動での敵撃破が一番。俺はそう思う」

「…大佐の命令じゃ従うしかないよ」

 

ため息交じりに従うイプシン。

イプシンの意見にも一理あるのかもしれないが今は議論をしている暇がない。

こういう時こそ、トップに判断が求められる。

そして部下はそれに従う。

それが組織というものである。

上司の言うことを何でも聞かなければならないのは組織ではない。

組織は人が作り出すものだから。

上司に絶対服従で独りよがりの集団は発展も何もしないただの団体だ。

 

「でも、みんな絶対生きて帰るよ?」

「それが可能だから保証すると言ったんだ。一つ増えたがミリーナの捜索と、リョウの救出。最優先すべきはリョウの救出だ。全員任務を遂行しろ」

「「「はい!!」」」

 

全員がそれぞれの道へと足をのばした。




ネーム紹介



S(なりたい相手に化ける)
特定した相手の外見に化ける。
皮を身にまとうような形だが、男性が女性に、女性が男性になることも可。
触れば解けるなんてこともないが、攻撃の面では意味なし。
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