今日は学校なのでラ・フォリアはお留守番だ。
デート?もう終わった。キス?あれだ、舌を入れられた。
もうお婿に行けない。
そして、早朝から那月に仕事を頼まれた。
「というか、通学まで、仕事ってどういうことだよ」
そう、最近頻発している痴漢の犯人を捕まえるのが今回の仕事だ。
「仕方ないだろう。お前の方が都合がいいんだ」
那月は囮である。
「滅多にないぞ。わたしが囮になるなど」
「そうかよ」
本日三回目の満員電車で怠くなってきた。
「これが終わったら登校するからな」
「ああ、構わん」
やっと地獄から解放される。
「来たぞ、黒刀」
「了解」
ウロボロスで那月の後ろにいた男を拘束する。
「龍牙!?」
「よ、古城じゃねーか」
そこで扉が開いた。
「ひとまず降りようぜ」
「あ、ああ」
拘束した男の身柄を笹崎に渡し古城に事情を説明する。
「で、統制機構にきた依頼を俺がやってたわけ」
「統制機構って、確か特区警備隊と同じ警察組織だっけ?」
「まあな、んで、那月ちゃんを囮に痴漢を捕まえたわけ」
那月はちゃん付けするなと扇子で叩こうとしてきたが龍牙は普通に掴んで防ぐ。
「それはわかった。でも、なんでその格好なんだ?」
龍牙を見てそう言った。
「生徒を囮にするわにはいかんからな。無理を承知で変装していたんだ」
古城は手を振り否定する。
「いや、那月ちゃんじゃなくて龍牙の方だよ」
「俺?」
龍牙の服装はテルミのパーカーを被った格好だ。
「まあ、いつもとは違うな」
「それどころじゃねーよ、一瞬誰かわからなかったわ」
そうだな。
「あたりまえだろ。三回も乗ってんだ違う服装にしなきゃばれるだろ」
こんな髪型だ。目立つからな。
「あー、なるほど」
那月が咳払いをする。
「それはそうと、私の格好はどうでもいいと?」
「いや、無理どころか、全然違和感がないな・・・・・・むしろ中等部の制服のほうが似合ってたかも」
「ほらほら、那月先輩。私の言ったとおりだったりしたじゃないですか」
笹崎が得意気に胸を張る。那月と並ぶと親子のようだ。
「余計なお世話だ。それに中等部のときの制服は残ってなかったんだから仕方ないだろう」
「残ってなかった・・・・・って、その制服、那月ちゃんの自前なのか?」
古城が那月を観察していた。
「担任教師をちゃん付けで呼ぶな」
古城は扇子ではたかれた。
「だいたいどうしてそこの馬鹿犬が先生呼ばわりで、私だけ那月ちゃんなんだ」
「威厳と風格の差だったりして」
「撫でるな!」
幼い子供をあやすように、那月のときの頭を撫でる笹崎。
「おっと、そろそろ時間だな。俺たちは先に行くぞ」
じゃれ合う教師たちとは付き合わずに脚を動かす。
「暁 古城、黒刀 龍牙」
「はい?」
「なんだ?」
無警戒に振り向いた。
那月が不思議な表情をしていた。
「もうすぐ波朧院フェスタだな」
「そうだな」
龍牙は適当に答える?
その日の予定はよっぽどのことがない限りラ・フォリアとデートだ。
「週明けからは普通に授業を再開するからな。遅れずにちゃんと戻ってこいよ」
「仕事が無ければ」
そう答えて改札を通る。
今日のホームルールは異常だった。
教壇の上に立っているのが那月ではなくアスタルテだった。
「メイド・・・・・あれってたしか那月ちゃんとこの専属メイドだよな?」
「なんでメイドが先生やってんの?」
「アスタルテちゃんだっけか・・・・・可愛いな、あの子」
「それよりも那月ちゃんが、女子の制服を着て駅をうろついてたって噂があるんだが」
「・・・・・・ありだな、それも」
最後のやつらに那月の写真を売ろうか迷うな。と、そんなことを考える龍牙であった。
そんなことをしている間に古城が囲まれていた。
「なあ、暁。おまえさ、波朧院フェスタのイベントになにか出る予定はあるのか」
「いや、なにも決めてないけど?」
それを聞いた男子生徒たちが、ギラリと瞳を輝かせる。
めんどくさそうなことになりそうなので退散することにした。
「そうか。だったらバイトしないか?うちの町内会でオープンカフェをやる予定なんだけど、店員の頭数が足りなくてさ。もちろんバイト代はちゃんと払うぜ。時給二百五十円でどうだ?」
「待て、古城!どうせ働くならうちのブースの売り子をやってくれ!今なら特典で利益の一割・・・・・いや、二割をバイト代としてくれてやる!」
「待て待て、古城!波朧院フェスタといえば伝統のビーチバレー大会のことを忘れてないか。俺たちと一緒に砂浜で爽やかな青春の汗を流そうじゃないか!」
「待て待て待て待て!祭りの華といえばやはりミスコン。貴様には特別に審査員の席を用意した。だから当日は命に替えてもテティスモール前のイベントステージに来るんだ!」
「お・・・・・おお!」
困惑する古城。
「モテモテだな、古城」
龍牙は隣で笑って観察していた。
「あー・・・・・いや、誘ってもらええるのは有り難いけど、やめとくわ」
古城がきっぱりと断った。
「なに!?いったいなにが不満なんだ!?コーヒーも飲み放題だというのに!」
「二割五分・・・・・いや、三割でどうだこの野郎!」
「わかってないぞ、暁!おまえはまだビーチバレーの奥深さをわかってないんだ!」
「審査員でもまだ不足というなら、男性出場者枠のほうでどうだ!?」
古城に血相を変えて古城に詰め寄るクラスメイトたち。
「いや、今年は一緒に回る約束をしてるやつがいるから、ちょっとそういうのは無理なんだ。悪ィな」
古城の言葉を聞いたクラスメイトたちが、殺気立つ。
「一緒に回る約束をした・・・・・だと?やはりあの中等部の転校生なのか!?そうなのか!?」
「転校生?あー、いや、姫柊は関係ないんだけど」
勧誘していた連中が困惑する。
「・・・・・転校生・・・・・じゃない?」
「じゃあ、もしかして藍羽か」
「藍羽だな・・・・・まあ、この際、藍羽で妥協するか」
「うむ、やむを得ん。藍羽もありといえばありだな。というわけで、やはり暁にはうちのイベントにさんかしてもらわなければ」
「・・・・・なんだろう、すっごくムカつくんだけど」
男子たちのあからさまな内緒話に、藍羽がヒクヒクと唇を痙攣させる。
そのとき教室の入り口のほうから、誰かが大声で古城を呼んだ。
「暁ィー、黒刀ォー、あんたたちにお客だよ。中等部の女の子」
あまりにも絶妙なタイミングに、教室が大きくどよめいた。
「なに!?」
「転校生か!?藍羽と見せかけて、やはり転校生なのか!?」
「いや、待て!あれは!」
「馬鹿な!中等部の聖女・・・・・だと!?」
その正体は叶瀬夏音。〝聖女〟の異名を持っている。
注目されているのにも気づかず、叶瀬に古城は平然と声をかける。
「叶瀬、学校に来てたのか」
「あ、はい。教室まで押しかけてすみません、でした」
「つーか、身体はもういいのか?」
「はい。一昨日、退院でした」
ラ・フォリアが聞いたら喜びそうだ。
「わざわざ挨拶に来てくれたのか?」
「はい。それともうひとつ、お願いがありました」
古城が意外そうに訊き返すと、叶瀬が恥じらうように少し目を伏せた。
「今日の夜、泊まりに行ってもいいですか?お兄さんのお宅に」
その瞬間、凍りついたような静寂が教室の中に訪れた。
「ああ、べつに構わないけど」
平然とした態度で、叶瀬の要望を聞き入れる古城。
「ちょっと待った」
築島が藍羽の手首をつかんで、そのまま二人一緒に手を高く挙げた。
「あたしたちも一緒にお邪魔していいかな、暁くん」
「え?」
ぽかんとした表情で訊き返す古城。藍羽はなにが起きたかわからないまま、戸惑う古城と、微笑む築島たち、高らかに掲げられた自分の腕をきょろきょろと見比べ、
「ええええぇーっ!?」
藍羽の叫び声が教室に響く。
絃神島南地区のとあるマンションの七○四号室。
そこには真祖の吸血鬼に王女、英雄といろんな人が集まっていた。
テーブルには大皿に盛りらつけられた料理が所狭しと並んでいた。
「夏音ちゃん、退院おめでとうー」
クラッカーを鳴らしながら叫んだのは暁凪沙。古城の妹である。
「すみませんでした、皆さん・・・・・私なんかのためににこんな」
叶瀬が恐縮した表情でそんなことを言った。
「ま、気にすんなよ。お前のために開いたパーティーなんだから、あ、これ盛りつけて持っていって」
「わかりました」
台所は龍牙とラ・フォリアが占拠していた。
「あー、ごめんね、龍牙くんに料理させちゃって」
「好きでやってんだ。気にすんな」
なんだかんだあって台所に立っていた。
「おー、美味いなこれ。意外だな、龍牙が料理が得意だなんて」
「ほんとうね。その顔で料理が美味いだなんて・・・・・」
「顔は関係ないだろうが」
台所から戻ってきた龍牙が文句を言う。
「というか、なんで王女がここにいるんだ」
小声で古城が龍牙に話しかけた。
「仕方ないだろ。本人が来たいって言ったんだから」
「あー、なるほど」
古城が察してくれた。
「お前も苦労してんだな」
肩をポンポンと叩かれた。
「それで、あんたらと叶瀬さんってさ、結局どういう関係だったわけ?」
藍羽が箸を止めて古城たちに問う。
「古城よろしく。俺は追加の食材買ってくるわ」
めんどくさいから逃げる。
「さて、取り合えず肉買うか」
肉を買っておけば何とかなるしな。
「おーい、肉買ってきたぞ」
「待ってました」
凪沙が玄関まで迎えにきた。
「取り合えず焼くぞ」
「得意ですものね、焼くの」
「おいおい、焼くのが得意だが他もそれなりにはできるぞ」
念のために弁解しておく。
「まあ、旨かったな、焼いてるのが特に」
「そうね、じゃんじゃん焼きなさい」
「了解」
肉に塩胡椒で味付けをして焼く。
そのあと、藍様が肉のほとんどを食べてあまり肉を食えなかった。
「あ、そろそろ帰るわ」
「ん、そうか、んじゃな」
古城に挨拶をして外に出る。
「もしもし」
『夜分遅くにすみません、この人工島に図書館の魔女が侵入しまいましてそのご報告を』
「人数は?」
『二人です。情報によるとメイヤー姉妹らしいです』
「そうか、こっちは勝手に動くがいいか?」
『ええ、構いません。では、おやすみなさい』
「おやすみ」
電話を切りポケットにしまう。
「ラ・フォリア、今回の祭りは少し我慢してくれ」
「なにか、あったのですね」
「悪いな、ほとんど仕事で潰れそうだ」
「そうですか」
ラ・フォリアは暗い顔をしていた。