ストライク・ザ・ブラッド 蒼を継ぐ者   作:テルメン(白)

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二章

暁牙城に付いて行くと絃神島東地区にある小さな港に着いた。

自家用の小型船舶を係留するマリーナだ。

桟橋には、小型のヨットやボートが五十隻ほど、畜舎につながれた牛のように整然と停泊している。牙城はその中の一隻に近づいて誰はばかることなく勝手に乗りこんだ。

 

「早く乗れよ、小僧ども。遠慮すんな」

「じゃあ乗らせてもらうぜ」

 

龍牙はピョンと小型クルーザーに乗りこむ。

 

「じゃあ、俺も」

 

古城はアヴローラの手を握りながらクルーザーに乗る。

少し遅れてアヴローラも飛び乗る。

 

「りあな号か・・・・・」

 

龍牙は悲しそうな顔をする。古城はどういうことかと首を傾げていた。

 

「なかなかイカした船だろ。マカオで知り合った金持ちに賭けポーカーで大勝ちしてな、安く買い叩いてやったんだよ」

「賭けポーカーって・・・・・」

 

おまえはなにをやってるんだ、と古城はうんざりして息を吐く。

 

「家に帰ってこないと思ったら、この船でずっと暮らしてたのか?」

「豪州おたりじゃ、ハーバーにつないだヨットで生活してる連中は多いぜ。定年退職した金持ちのステータスだったりするんだよ」

 

そう言って、牙城は船室からキンキンに冷えた瓶ビールを出してくる。船内には冷蔵庫やキッチンなどの、生活に必要な設備はひととおり揃っているらしい。

 

「おい、小僧、この船に入ったんだから料理くらいしろ。材料は適当に冷蔵庫から使え」

 

そういえば、と古城は龍牙が料理が上手いことを思い出した。

 

「酒のツマミを作ればいいんたな?」

「わかってるじゃねーの」

 

龍牙は冷蔵庫から材料を取り出し調理を始めた。

 

「って、なんで龍牙が料理できるって知ってんだ?」

 

古城は疑問に思う。

 

「前に小僧の親父と一緒に仕事してな、料理が上手いことを訊いたんだ」

「護衛か、確かに龍牙の父親、ラグナさんは攻魔師だったな」

 

なるほど、と納得する。

 

「できたぞ、簡単なものだけどな」

「お、親父と同じ料理だな。それとサンドイッチか、具材は自分で決めろってか」

 

龍牙がチーズとベーコンやキノコを混ぜた物とサンドイッチのパン、トマトの輪切り、レタス、ベーコン、スクランブルエッグが置いてあり、トングが中に置いてあった。

 

「ほら、アヴローラ、どれがいい?」

 

龍牙が優しくアヴローラに訊くが、アヴローラは黙ったままだ。

ちなみに牙城はツマミとレタスをサンドイッチにしている。

 

「古城、お前から頼む」

「わかった。アヴローラ、どれが食べたい?」

「・・・・・わ、我に供物を捧げるか、人の子よ・・・・・!」

「翻訳頼む」

 

古城はアヴローラの言ったことを翻訳して伝える。

 

「そうだ。だから、どれが食べたい?」

「赤き禁断の果実に・・・・・・」

 

古城に翻訳してもらいなんとかサンドイッチができた。

 

「ほら、古城、なににする?」

「俺はトマトとレタス、ベーコンで頼む」

 

古城へサンドイッチを渡す。

 

「おい、ツマミが無くなったぞ!」

「わーったよ!」

 

龍牙はキッチンへ戻る。

 

「それで、今までどこでなにをやってたんだよ。三年近くも、ロクに連絡も寄越さねーで!」

「ヴェルディアナには会ったんだろ?」

 

ああ、と古城は目つきを険しくして父親を睨み、

 

「あの吸血鬼は何者だよ?あんたとはどういう関係なんだ?」

「お、気になるか?気になっちゃうか?」

 

かなり父親がウザい。と古城は思いつつ、睨み続ける。

 

「ま、安心しろ、べつに愛人として囲ってるわけでも、ヒモとして養ってもらってるわけでもねえ。俺はもっとこう、おっぱいバインバインな感じじゃねえとダメなんだ」

「うわ、最低だ」

 

ツマミを作った龍牙が戻ってきて、アヴローラの耳を塞いでいた。

 

「あんたの女の趣味はきいてねえよ!つか、そこは嘘でも妻一筋とか言っとくべきだろ!」

「ヴェルディアナは妹だ。俺の古い知り合いのな。その女性はお前と凪沙とそこのお姫様を護って死んだ。三年前の話だ。現場にはあいつもいたな」

 

と、龍牙を指差す。

 

「・・・・・俺と凪沙が死にかた事件のことを言ってるのか?」

 

古城が声を低くして訊いた。三年前といえば、凪沙が入院する原因になった列車爆発テロの起きた年である。しかし古城に、その事件の具体的な記憶はない。それにアヴローラは事件と無関係なはずである。

 

「しにかけたわけじゃねえ。正真正銘、おまえはしんだんだ」

 

困惑するむすこを哀れむように眺めて、牙城が告げる。

 

「そして生き返った。第四真祖の血の従者としてな。事件に遭った前後の、おまえの記憶がないのはそこせいだ」

「それを俺が碧の魔道書を埋め込むことで生き返らせた。まあ、劣化品だから、効果は無くなってるだろうけどな」

 

親友と父親が違うことを言って混乱した。

 

「え?どっちが本当なんだ?」

「俺は碧の魔道書を埋め込んだぞ」

「碧の魔道書ってなんだよ!?」

 

混乱する。

結果、両方正しいことがわかった。

 

「碧の魔道書ってスゲェな、寄越せ」

「誰が渡すか!」

 

なんか時間を使った気がする。

 

「つまり、アヴローラがいれはどうにかなるかもしれないってことか」

 

アヴローラはかわいく首を傾げている。

 

「はあ、敵襲か」

「もう来たか。意外に早かったな」

 

龍牙はパーカーのフードを被りナイフをポケットから取り出し、牙城は残っていたビールを飲み干しブルパップ式のライフルをつかみ上げた。

アヴローラは、なぜか小動物のように身体を震わせて、古城の腕にしがみついてきた。

 

「・・・・・アヴローラ?」

 

ひぅ、と頼りない声を洩らして、アヴローラは身体を硬直させていた。

そして古城も、彼女の恐慌の原因に気づく。

スーツを着た痩身の中年男性がマリーナの岸壁に立っていた。

その両脇に黒装束の二人組が護衛よろしく立っている。先刻アヴローラを拐おうとした連中の仲間だろう。

しかし古城の視線はらその恐るべき黒装束たちではなく、彼らの背後に立つもう一人の姿に注がれていた。

 

「おまえは・・・・・なんで・・・・・」

 

驚愕にかすれた声で、古城がうめく。

 

アヴローラそっくり少女はライタースーツに似た強化繊維の防護服。

 

「なんでアヴローラが・・・・・二人いるんだ・・・・・!?」

 

 

その言葉を無視するように、痩身の中年男性が、カイゼル髭を撫でながら古城たちの方へ近づいてくる。

 

「やあ、皆様、おくつろぎのところをお邪魔して申し訳ありません。少しばかりお時間をいただいても構いませんでしょうか。ふふ、いい夜ですね」

 

朗らかに話しかけてくる男の目は、体温を感じさせない冷たい光をたたえていた。

その爬虫類めいた視線を避けるように、アヴローラが古城の背中に隠れる。彼女を庇うように身構えながら、古城は男たちを睨みつけた。

 

「おまえら・・・・・さっきの・・・・・」

 

古城の声が緊張でかすれる。

龍牙はナイフを構える。

 

「それ以上近づくな」

 

龍牙の胸から鎖が出てくる。

 

「変な真似をしたら命はないと思え」

「ええ、わかりました」

 

両手を挙げてヘラヘラ笑う痩身の中年男性。

 

「ネラプシのザハリアス議長か。おっかない噂はいろいろ聞いてるぜ」

「こちらこそ、〝死都帰り〟暁牙城博士の高名はかねがね存じておりますよ」

 

古城は疑問に思っていたことを訊く。

 

「どういうことだよ、親父・・・・・・一人で勝手に納得しないで説明しろ。どうしてアヴローラが二人いるんだ?」

「アヴローラ・・・・・?ああ、十二番目に名前をつけたのですね。ふむ、そういう趣向もありでしょう。優れた兵器に銘や愛称はつきものですからな」

 

ザハリアスが腕を組み、感心したように深々とうなずいた。

 

「それでは僭越ながら、こちらも九番目を紹介させていただきましょう。〝戦王領域〟旧カルアナ伯爵領に囚われていたものを、我らネラプシの手で解放いたしました。九番目の〝焔光夜伯〟です」

「九番目・・・・・?」

 

龍牙はなにか知っているのか嫌な顔をした。

 

「知り合いか、アヴローラ?」

「わ、我が記憶に、斯様な鏡像の刻印は非ず・・・・・」

 

アヴローラは頼りなく首を振った。

 

「おや、ご存じないとは、いまだ完全に覚醒していないということですか」

 

アヴローラの反応を見ていたザハリアスが、少し意外そうに眉を上げた。

 

「よろしい。ではご説明しましょうーーーーー〝焔光の夜伯〟とは、新たなる真祖を生み出すための計画、そしてその計画によって造られた第四真祖の素体の総称です。三名の真祖たちと〝天部〟の技術によって生み出された、至高の殺神兵器ですよ」

 

龍牙は更に不機嫌な顔になった。

 

「おや、そこのお友達は知っているようですね」

「ああ、知ってる」

 

あまりにも次元境界接触用素体と似ている。

ということは十二番目が成功となる。

 

「ほう、博識ですね。なら説明は要りませんか。では、封印された理由はわかりますか?」

「それは知らない」

 

ザハリアスは得意気に話す。

 

「では、説明しましょう。強すぎたんですよ。その存在は世界の均衡を崩し、秩序を乱す。ゆえに〝焔光の夜伯〟は封印されました。あるものは嵐の砂漠の中に。またあるものは氷の柩の中に」

 

秩序を乱すなら抗体である秩序の力を持つ者が生まれるはずだ。そう疑問を持った。

 

「その封印が解けたのか・・・・・アヴローラと同じように、その子も」

 

九番目と呼ばれた少女を見つめて、古城が訊いた。

 

「解けたのではありませんよ。解いたのです」

「なんで・・・・・」

「兵器の封印を解く目的はひとつです。戦争に使うためですよ」

 

ザハリアスは気色の悪い笑みを浮かべた。

 

「もういい、それで、ここに来た理由を言え」

 

龍牙はイライラした様子でザハリアスを急かす。

 

「おや、なにか気にくわなかったようですね。では、お望み通り本題に移るとしましょうか」

「・・・・・本題?」

「はい。どうぞ私めに、そこにいる十二番目をお譲りいただきたい」

 

ああ、こいつは本当に最低なやつだ。

アヴローラが怯えて古城の影に隠れる。

 

「あんたにアヴローラを売れって言うのか?」

 

低く圧し殺した声で、確認する。

 

「対価は、そうですね、二百億円でいかがですか?」

「は・・・・・!?」

 

古城が驚きに目を剥いた。それを不服と受け取ったのか、ザハリアスは苦笑して、

 

「ふむ、足りませんか。ではその倍・・・・・いえら三杯まで出しましょう。なにしろ商品は世界最強の兵器です。金に糸目はつけない、と申し上げたいところですが、私の資産にも限りがありまして。不足分につきましては、なにとぞご容赦を」

 

龍牙はポケットに手を入れて構えだした。

足元からオーラが出ている。

 

「悪いけど、こいつは兵器じゃねえし、兵器扱いするやつのところにやる気もねえよ」

「そうですかーーーーー」

 

ザハリアスが目を鋭くする。彼の左右にいた黒装束が、かすかに重心を落とすと同時に、上に吹き飛んだ。

 

「なにか彼らが無礼を働いたようですね。謝罪します。すみません」

 

九番目と呼ばれた少女は龍牙を見つめて目を輝かせている。

 

「気が変わったらいつでもお申し付けください。手遅れになる前に、ぜひ」

 

九番目と呼ばれた少女は龍牙を見続ける。

 

「ん?なんだ?」

 

訊いた瞬間、九番目の周囲を凄まじい風が取り巻いた。

小規模な竜巻にも匹敵する暴風だ。

 

「蛇翼崩天刃!」

 

龍牙が九番目と呼ばれる第四真祖をはるか上空へ打ち上げる。

落下してきた少女はゆっくりと落下し、着地した。

なぜか満足そうな顔だった。

 

「素晴らしい脚力ですね。ですが、素体どもの危険性、これでご理解いただけたでしょうか」

 

いや、空を飛びたかっただけじゃないのか?

 

「いずれまた、ご挨拶にうかがいます。そのときはぜひとも色よい返事をお聞かせください」

 

ザハリアスと九番目は帰っていった。

 

「はあ・・・・・」

 

牙城の船のソファに寝転んだ、古城はぐったりと息を吐いた。

 

「ほ、褒めて遣わす!」

 

アヴローラはガチガチになりながら、声を上擦らせてそう言った、

顔を真っ赤にしている彼女に、古城は怪訝な視線を向ける。

 

「・・・・・・あ?」

「嬉しかったんだろ?古城がアヴローラを渡さないって言ったから」

 

龍牙が解説する。

 

「ああ、なんだそんなことか」

 

古城はのろのろと身体を起こし、どういたしまして、とアヴローラの頭に手を置いた。

 

「けど、馬鹿だねェ、おまえも。六百億円だぜ、六百億円。一生遊んで暮らせるどころの騒ぎじゃねえぞ。それをあっさり断っちまって」

「断らなきゃ、龍牙に殺されてた。いや、マジで」

 

龍牙はニヤリと笑う。

 

「おお、怖い怖い」

 

牙城はヘラヘラ笑いながら両手を挙げる。

 

「さてと・・・・・ほらよ、古城」

 

そう言ってなにかを放ってきた。錆の浮いた安っぽいキーホルダーだ。

 

「なんだ、これ?」

「この船の鍵だ。設備の使い方は、まあ、なんとなくカンでわかるだろ。ていうか、わかれ」

 

一方的に言い残すと、牙城は船を降りよとする。

 

「ちょっと待て、親父。どこに行く気だ?」

「俺はこれからやることがあるんだよ。深森のやつはいいとして、とりあえず凪沙の安全を確保しとかねえとな・・・・・ったく、どっかの小僧が考えなしにザハリアスに喧嘩を売りやがるから、余計な仕事が増えちまったじゃねえか」

 

牙城がめんどくさそうに説明する。

 

「アヴローラはどうするんだよ・・・・・?」

「任せた」

「は!?」

「この船はしばらく貸しといてやるよ。ま、柄にもなく商談を持ちかけてきたところをみるとザハリアスの野郎も、ここではそう荒っぽい真似ばかりもできないんだろう。絃神島はあいつにしてみれば完全に敵地だしな」

「いや、だけど・・・・・」

 

ザハリアスの部下の黒装束には、危うく殺されかけているのだ。荒っぽい真似ができないという説も、どこまで信用できるか怪しいものだ。

 

「安心しろって。アヴローラだって、さっきの九番目たゆと同格の素体なんだからよ。ザハリアスの野郎も、そのお姫様のヤバさはよく知ってる。おまえが懐かれているとわかった以上は、向こうもおいそれとは手は出せねえよ」

「そ、そうか・・・・・」

 

古城は渋々と父親の意見を受け入れた。牙城もまったく無根拠に安全だと判断したわけではないらしい。

 

「それよりも記憶だ。あれこれ悩むより、アヴローラの記憶を回復させるほうが早い」

「まあ、それはそうなんだろうけどな」

 

きょとんとした表情のアヴローラを眺めて、古城は軽く途方に暮れる。

 

「でも記憶を回復させるって、どうやれば・・・・・?」

「知るか。俺は公庫学者だ。医者じゃねえ。ちっとはてめえで考えろ」

「おまえ、やっぱり無責任過ぎるだろ!」

 

古城は忌々しげに舌打ちしてうめいた。

 

「頼まれてもないのに役に立たないアドバイスをするほうが、よっぽど無責任だろ。せいぜい刺激を与えてみればいいんじゃねえか。いろんなものを見せたり、他人に会わせたり」

「それは無責任なアドバイスじゃねえのかよ」

「細かいことはいいんだよ。とにかくザハリアスが本気で動き出すのは、まだ先だ。それまでせいぜいアヴローラと仲良くしておけ」

「・・・・・ああ」

 

古城は真顔になってうなずいた。

 

「じゃあな」

 

牙城は船から降りていった。

 

「ま、俺も手伝ってやるから」

「お前がいれば少しは安全だな」

 

アヴローラは慣れたのか古城の手を離す。

 

「よろしくな、アヴローラ」

「うむ!」

 

ない胸を張るアヴローラであった。

古城たちは船内を眺め、時計を見る。

 

「さすがに今日は疲れたな。俺はそろそろ帰って寝るわ・・・・・」

 

皿洗いが終わったので俺も帰ろうとする。

しかし、アヴローラは古城の袖口に必死にしがみつき止める。

 

「アヴローラ?」

「・・・・・わ、我が魂の安寧のため、汝の掌に契約の軛を」

「えーと・・・・・眠るまで手をつないでろ、ってことか?」

 

こくこく、と懸命にうなずいてくるアヴローラ。それを見てようやく古城は思い出す。

 

「そうか・・・・・おまえは今までずっと独りぼっちで眠り続けてたんだよな」

 

古城の呟きに、吸血鬼の少女が弱々しく目を伏せた。

記憶がなくても、その絶望的な孤独感は、アヴローラの心にもトラウマのように刻みつけられているのだろう。彼女が一人で眠ることに恐怖を覚えるのも無理はない。

 

「わかったよ。今夜は一緒にいてやるから。でも寝る前にせめて顔くらい洗って歯を磨け」

「・・・・・ん!」

 

龍牙は邪魔をしないように立ち去った。




なんやかんやあって更新が遅れました。
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