その日の夜、焚き火の音がパチパチとなり、焚き火の周りには、バカ天狗が取ってきたであろう魚が棒で貫かれ炙られていた。
「ゆかりしゃま!これ美味しいです!」
「・・・」ニコニコ
あの後、私と藍は泣きやみ。
何も聞かなかったことにして、普通にしていた。
時雨さんはその様子を微笑ましく見ていたが、バカ天狗はなにかに勘づいたようで細い目つきで私を見ていた。
「うぁ、にっがーい・・・」
藍が魚から口を離し、顔をしかめる。
どうやら藍は内臓ぬきを忘れた魚を食べてしまったらしい。私はそっと、藍の魚とまだ口をつけていなかった魚を取り替える。ちょっとだけオロオロした藍に、ニコッと笑いかける。パァっと可愛らしい笑みを浮かべて、渡した魚を食べだした。
そして、内臓ぬきを忘れていたバカ天狗を軽くジト目する。
「うっ・・・まさか自分用のさかなが藍ちゃんに行くなんて」
およよよ。と、棒読みながらも泣き真似をするバカ天狗。だけど、視線だけで私に後で話があると伝えてくる。
時雨さんはそれをただ笑ってみていた。
===============
食べ終わったあと2人して周りの様子を見てくると言って焚き火から離れる。藍も着いてきたそうにしていたが、手で待つように指示し彩さんについて行く。
しばらく歩き、時雨さんの声が聞こえなくなるぐらいまで離れた頃合だろう。
唐突に彩さんが振り返り、そっと私を抱きしめてきた。
「・・・?!」
「大丈夫、わかってる。」
恐らく、彩さんは知っていたのだろう。
時雨さんの旅の理由を、だから涙の痕がある私を見て何かを察したらしい、抵抗らしい抵抗をやめ、甘んじてそれを受け入れる。
「・・・これで、何人目の女の子泣かせてるのよ。あのバカは」
頭をそっと撫でられて、また涙が溢れ出す。
普段ならバカにするのだが今はそんな気力なんてない。
せっかく、連れ出してくれた人がいきなりいなくなるとわかってしまったのだ。
それこそほんの短い間でも、いなくなると理解したら心が苦しくなる程度には、私はあの人を慕っていた。
「大丈夫、今はたんと泣きな。藍ちゃんもいない、我慢しなくていい。」
そう言いつつ、頭を撫でながら私を強く抱きしめる。
私はその言葉に甘えて、声を上げて初めて大泣きしたのであった。
==========
「落ち着いた?」
優しい言葉をかけてくれる彩。
前までは、頭の弱い天狗とバカにしてきたが、改めなくては行けないようだ。やっぱり、私より長く生きた妖怪だということを再認識したのだ。
「よかったよかった。紫ちゃんは、その笑顔が似合うんだから、泣き顔なんて似合わないよ」
まっ、お胸は小さいんだけどね!と、茶化したように言うバカ天狗。前言撤回、やっぱりこいつは馬鹿だ。
でも、その馬鹿さ加減が、彩の性格であり何より、彩自身の余裕から来ることをついさっき知ったので、前までの見下した感情は無くなっていた。
「ふふっ」
ふと零した笑みを見て、彩は顔を赤くしていた。
・・・やっぱり、彩はバカ天狗だ。