美穂の決意が明かされる。
「蓮さんはどこに……?」
この場にいない
ああ、まただ。
また頼ろうとしている。
(私が助けになりたいのに……結局助けられるんだ)
窓の外に見える空は彼女の複雑な心境を表すような暗い曇り空だった。
かすかに降っている雪は触ったら一瞬で溶けてしまう。
それでも積もる雪。積もり続けて人や車も埋まるくらいに大きくなる。
その雪はまるで彼女の悩みそのものだった。
2012年12月31日。
今年最後の日を迎えた346プロダクションは大忙し。元日の特番の収録でいないアイドル達も多かった。
「あれ?美穂ちゃんどうしましたか?」
呼びかける声。声の主は高森藍子。彼女に呼ばれた少女、小日向美穂。彼女はいつもの元気がない。
「なんでもないよ……ごめんね。心配させたかな?」
無理に笑顔を作ってるのがわかる。自分でも正直イヤになる。
「私で良ければ話聞きますよ」
藍子は美穂の話を聞くことにした。美穂の口からは次々と悩みがこぼれた。
「……はっ!?」
美穂がスマホの時刻表示を見ると30分も経っていた。
「藍子ちゃんごめんなさい!」
「いえいえ、いいんですよ。誰だって悩むから私が力になれたらなって思って」
美穂が慌てて駆け出していく。そんな美穂の後ろ姿を見送る藍子。
「プロデューサーさんがいて私達がステージに立てる……けど」
「美穂ちゃんはそんな感じじゃない……。プロデューサーさんがいて初めて『動き出す』んだ……」
午後6時。
オフのアイドル達が事務所に遊びに来て思い思いに過ごしている中で美穂は島村卯月と緒方智絵里の2人と一緒にN○Kの紅白歌合戦を見ていた。
「あっ!楓さんだ!」
「歌うのは『こいかぜ』だったよね?」
「えー!見たい!!」
346プロが誇る歌姫である高垣楓が出た途端アイドル達が一斉にテレビの方へ集まってきた。
「すごいなぁ……私も上手く歌えるようになりたいです」
「卯月ちゃんに負けないように私も頑張りたいです……!」
卯月と智絵里が意気込む中、美穂は。
(みんなと一緒に前に進まなきゃ)
別の部屋では年末恒例の某番組を見ているアイドル達が。
「うわぁ……出た」
「なんなん?」
出演者がパネルをひっくり返すと……。
「ふっはっはっはっ!」
「コレはアカン」
テレビに映るのは出演者の顔とゴリラの合成写真「子ゴリラ」。
「ちょっ、ダメやって……あっはっはっは!」
「どうしてこうなった(爆笑)」
「アタシも出演したい!そうしたらもっと笑わせられるのに☆」
アイドル達が見ているのは「笑ってはいけない熱血教師」。
浜○の顔が子ゴリラの顔になっている。そのシュールな光景で爆笑するアイドル達。
この後も様々な笑いのトラップに出演者達と一緒に笑わせられるアイドル達だった……。
あっという間に時間が流れて気がつけば次の日まで残り20分。
「蓮さん……」
聞き慣れたエンジン音が聞こえ、玄関へ駆け出していく美穂。
「うー……寒い」
「蓮さんお帰りなさい!」
「ただいま、美穂ちゃん。帰るのギリギリなっちゃってゴメンね」
「いいんです。蓮さんがいるだけで私は嬉しいですよ」
蓮と共に部屋に入っていく美穂。雪が降る外から帰ってきた直後の蓮に温かいココアを渡す。
「あと5分……」
日付が変わるまで残り5分を切る。年少組のアイドル達も頑張って起きている。何人かもう眠ってしまったが。
「本当は……全員でこの日を迎えたかった。でも……それは叶わなかった」
「僕も苦しい。でも美世さんが一番苦しい。僕は美世さんの悩みに対して力になれなかった」
蓮は心境を美穂に打ち明けていく。蓮は志希に告げられた美世の真実、自分が美世の助けになれない事に苦しむ。
「蓮さんの力に私達がなりたいです。だって……普段から私達は助けられて……。今度は皆が支えになりたいんですよ」
「私達だけではどうにもならない時だって協力してくれる人はいますから。夢斗さんや赤羽根さん達だっています」
「私は……ずーっと蓮さんに頼ってた。今でもだけど……変わりたいなって。それが私のやるべき事だって」
「美世さんの事もわかります。だから」
「ありがとう、美穂ちゃん」
「美穂ちゃん……頼んでもいい?」
「僕がまた一人で抱え込んでいたら叱ってほしい。美穂ちゃんがこう言ってくれてるのに気がついたらまた一人でどうにかしようとするだろうから」
「……どうも僕は助けられる事に慣れてないみたい。美穂ちゃんは知ってるんだよね、こういうの」
「美世さんが早く復帰できるように初詣で願うよ」
「ですね……。私もいいですか?」
「もちろん。美世さんだって頑張ってるからね。努力してるからそれが神様に届いてほしい」
そして。
「ハッピーニューイヤー!!」
2013年1月1日。新しい年が始まる。
午前6時、346プロ女子寮。
五十嵐響子達が餅などを焼いて準備していた。響子達はアツアツの餅を振る舞う。
美穂は砂糖醤油と一緒に餅を食べる。
(アーニャちゃんが言ってたけど……お餅って神様から元気を貰えるんだよね)
美穂は着替えて事務所へ。
年明け初の蓮との挨拶を交わして初詣のために神社へ。
神社には大勢の人が詰めかけていた。一度目を離したら大変な事になるだろう。
人は境内だけでなくそこへ続く階段までいた。歩道まで繋がっているのだ。
「わー……多い」
「蓮さん、手離さないでくださいね」
「うん、蘭子ちゃんも」
「は、はい……」
「蘭子ちゃんが素に戻ってる……」
FDとFCが並ぶ駐車場。初詣に行きたいと言っていた神崎蘭子を連れてきた蓮達。
蘭子はFCに乗っていた。
蘭子曰くFCを運転していた時の美穂は「秘められた彼女の秘密そのもの」だったそうだ。
パン、パンと手を叩く音。
3人はそれぞれの願いを思う。
(美世さんが早く復帰できますように)
(蓮さん達の力になれますように)
(素直になれますように)
3人が出店を見て回っていると蓮と美穂にとって見慣れた人物達が立っていた。
「おっ、たこ焼き食おうぜ」
「自分でお金出してくださいよ」
「えー、遥買って」
「さっきのお賽銭も私出しましたけど!?」
「あ、本当だ……って小日向さん達じゃん」
そこに立っていたのは星名夢斗と瀬戸遥。
「蘭子ー、そのりんご飴食わせて」
「な、なっ!?傷ついた赤き果実を欲すと!?(食べかけですけど!?)」
「え?なんだって?」
「夢斗、相手は女の子ですよ!」
「俺そういうの気にしないんで平気〜」
「蘭子さんが気にするんです!!」
相変わらず自由な夢斗に手を焼いている様子の遥。
遥が夢斗をなんとか黙らしてから遥が話を切り出す。
「美世さんの容態は?」
「まだまだ良くならないみたいなんだ……。リハビリも長いし……。美世さんが一番辛いはずなんだ」
「できる限り美世さんのトコに行くようにしてる。でも……」
蓮は体がまだ満足に使えない美世の事を考え、極力美世の元に欠かさず行くようにしているがどうしても行けない日だってもちろんある。
「なら、俺らが行きますけど」
「どーせ俺はヒマしてるし。冬休み中なら毎日行けるッスよ」
「あ、あの私は……」
「美世さんの話し相手くらいはできるだろ、遥」
「……わかりました。小日向さん、私達も美世さんの力になります」
蓮が行けない時は夢斗と遥が代わりに美世の所に行くことになった。
「我が友よ……あの者は支配に屈しないのか(プロデューサー、あの人は自由すぎませんか)」
「そうだね……(苦笑)」
皆と力を合わせて解決する。それが美穂の見つけた答え。
彼女は悩みながらも前に進む。