初めて知る事実は少女を揺らす。
2013年1月。
ここはある大学の駐車場。雪が少し積もっている駐車場に向かっているのは……。
「あーっ、寒い」
「手袋欲しいな……。後でシューコちゃん達に聞いてみよう」
寝癖でボサボサな黒髪の青年星名夢斗と正統派美少女な相葉夕美の2人が歩いていた。
「夕美は仕事ねえの?」
「んー、今は特に。『フローラル夕美』も終わっちゃったからね」
「浩一が写真集買ってたな、そーいや。……ま、俺も仕事あるわ」
「仕事?夢斗君バイトしてないハズ……」
「仕事っつかバイト……だな、ぶっちゃけ。頼まれた時だけだし。あ、夕美が考えてるようなバイトとは違うからな」
「まあいいけど……」
「てなわけで俺はそろそろ行く」
「あ、よかったら私も行きたいな」
「……あー、いいけど大して面白くないぜ。つか夕美が行っていいのか?」
「……?」
夢斗は自身の愛機ランサーエボリューションに夕美を乗せて駐車場を後にした。
「なんでだろ……私達以外に人がいる感じがする」
「……そーか?」
「不思議な車だなって思うんだ、夢斗君の車。夢斗君の運転もすごいけど……この銀色の車だからこそ夢斗君の運転がよりすごいって思うの」
「そりゃどーも。言っとくが俺は乗り換えるとか絶対にしないぞ」
「ふふ……夢斗君らしいなって」
しばらくエボを走らせて着いた場所は……。
「あれ?ここって283プロの事務所だよね?」
「そーだけど?」
「夢斗君はまさか283プロに就職したの?」
「んなわけねーよ。そもそも俺が事務やったら確実にクビになるわ。
「でも夢斗君この間の期末試験学年トップだったじゃん。ちひろさんみたいにできそうだけど」
「事務仕事は単純につまんなそうだし。んで俺が小日向さんみたいな事出来ると思うか?」
「プロデューサーみたいに……多分ダメだね」
「絶対ダメだな、俺」
夢斗はエボを降りて事務所に入っていく。
「あ、夢斗さん!」
「よっ、果穂。遥いるか?」
「プロデューサーさんは今アルストロメリアの皆さんとお仕事に行ってます!」
「そうか……」
「もしかして……行くんですか?」
「まーな。んで来たわけだが……。果穂、ここで待ってていいか?」
「大丈夫です!」
「悪いな、果穂」
夢斗は一旦事務所を出てエボに戻る。車内で待っていた夕美を連れて夢斗は再び事務所へ。
「お邪魔します」
「えっと……どちら様ですか?」
夕美が夢斗に続いて事務所に入ると中にいたアイドル達の視線が一斉に向けられる。
「はづさん、夕美だって。相葉夕美」
「こ、こんにちは……」
「あら、346プロの……。どうされたんですか?」
事務員の七草はづきが笑顔で迎える。
「夢斗君に着いて行ったらここに……」
「夢斗さんはプロデューサーさんと行くところがあるんですよ」
「283のプロデューサーさんと……?」
「うは〜、ヒーターって冬の三種の神器だよな〜」
「暖かくていいですよね〜」
「だろ、果穂?」
「果穂ー、レッスンの時間だよ?」
「うう……。あっ、ちょこ先輩もどうですか!?」
「あ〜いいね……じゃなくって!」
「まあまあヒーターどうぞ(某アイドルのマネ)」
「ちょっ、夢斗さんって……ああ……暖かい〜」
会話してる後ろから聞こえる事が気になって夕美は集中できない。
「……夢斗君ってココに来てもこんな感じですか?」
「ココで?そうですね〜」
「後でキツく言っておきます……」
後で夢斗が夕美に怒られるのが確定した所で。
「あ、来たか」
「プロデューサーさん帰ってきました!」
窓の外に見える駐車場には夢斗のエボの隣に置かれた青い車から降りる女性が。夢斗のエボの車内をキョロキョロと見回した後に事務所へ向かってきた。
「あの人がプロデューサーさんなの?」
「そ。ああ見えて俺らと同い年だぞ」
「えっ!?てことは……」
「今年で20歳だ」
「私よりも歳上だと思ってた……。プロデューサーのひとつ下なんだね」
「小日向さんが今年で21か。つーか俺らが歳近すぎなのでは?」
「ただいま戻りました」
「うーっす、遥」
「待ってたんですね、夢斗」
「まーな。外寒ィし車内も寒いからな。夕美もいるから」
「お邪魔します……」
「346プロの相葉夕美さんですね、こんにちは」
「さてと……行くか」
夢斗はソファーから立ち上がる。
「そうですね。着いて時間ギリギリかも」
遥も何かが入った袋を持って夢斗の後に続く。
「えっ、どこへ?」
夢斗から何も聞かされてない夕美は2人がどこへ行こうとするのか分からない。すると。
「病院だよ。夕美……マジで心当たりないか」
「……わからない」
「ま……行けばわかる。俺が行く理由も」
青いインプレッサと銀色のエボは宙に雪が舞う東京の街中を抜けてとある病院へ。
夢斗と遥は病棟のエレベーターで4階に上がり、廊下を歩いていく。
2人の行く先がわかってない夕美は黙って一緒について行くしかない。だが夕美は言葉にしにくい不安を感じていた。
(わからない……けどこれだとダメな気がする)
程なくして病室前に到着。
入口に置かれている消毒用のアルコールを手に付けて病室の中へ。
「ちわーっす」
「失礼します」
夢斗と遥に続いて夕美も病室内へ。
「失礼します……っ」
夕美が病室にいた人物を見る。カーテンの向こうに見えたのは……。
「あれ?夕美ちゃんじゃん……。どうしたの」
「えっ……!?なんで……なんで」
カーテンの向こうに見えた痛々しい姿の原田美世。
同じ事務所の人間がなぜこんなにも傷ついた姿でここにいるのか。
夕美は状況を理解するのに時間を要した。
「夕美、本当に小日向さんから何も聞かされてないのか?」
「うん……。美世さんが怪我してた事も今初めて知った」
「去年の11月のレースで大怪我しちまったんだと。んで小日向さんは看病のためにできるだけ毎日ここに来てるそうだ。……でもそれができない日だってそりゃある。会議やらどっかへの出張やらでどう頑張ってもムリな時に俺らが代わりにここへ行くんだわ」
「去年……。そう言えば見かけなくなったけど……まさかこんなことになってたなんて……」
夢斗の説明を混乱している頭で何とか理解した夕美。
「美世さん、調子はどうですか?」
「今日は検査したんだ。怪我自体は問題ないレベルに治ったよ」
「良かったです……」
「ただやっぱり左足はまだまだ時間がかかりそうって。早く自分の足で歩きたいなー」
遥と美世の会話を聞いた夕美は夢斗に聞く。
「夢斗君達がプロデューサーに頼まれたの?」
「いや、これは俺達の意思だ」
「夢斗が行くと言うので私も行く事にしたんですよ。夕美さんのプロデューサーさんも大変だと思って」
「コレ、美世さんの地元石川の肉が使われてるコロッケです」
「ありがとうね、遥ちゃん」
「いえいえ、夢斗が気になってたので」
「プロデューサーさんは夢斗君とどんな関係?」
「えっ!?」
「俺としては夕美みたいにイジれて面白いって思ってる」
「えっ、私そんな風に思われてたの」
「うん(即答)」
「不本意ですよ……。夢斗は気が合わない事が多い犬猿の仲って言ったところです」
「ソレはクルマの話じゃね?フツーに過ごしてるだけだったら全然そんな事ねーよ」
「あはは……。歳が近い皆は会話が楽しそうだね」
現在19歳で今年でハタチになる夢斗達3人と現在21歳で今年で22歳の美世。微妙に歳が離れてるためか会話に入りにくい。
「あっ、すいません」
「いいの。遥ちゃん達が楽しそうで」
しばらく会話した後病室を後にする3人。
病室の中では平静を装っていた夕美だったが病室から出た途端に表情に不安が滲む。
「美世さんの事何も知らなかった……」
「夕美さん……」
「んー……小日向さんなら言わなくてもおかしくないか。あの人は伝えたら相手を傷つけるってのがわかってる人だしさ。そういうのができねえとプロデューサーなんてやってられないだろうし。346はアイドル以外にも接する人が多いしよ」
「夢斗君……」
病院を出て遥と別れた後夢斗は夕美を乗せてそのまま346プロへ。今ではもう日課のようになっている
夕美を送った後。
「復帰って大変だよな……」
夢斗は蓮と共に美世のリハビリの様子を一度見たことがある。
その際に見た美世はアイドルらしさはどこにも見当たらない一般人そのものの表情だった。必死に努力している人間の表情だった。
アイドル活動とレース活動に早く復帰するための美世の懸命な努力。美世のその熱意は夢斗にも影響を与えていた。
「……そもそも何やるか決めてない俺が言うことじゃねえな」
夢斗のやる事、それはモータースポーツで自分の名を轟かせる事。今は亡き妹に誓った夢斗の約束。
どの分野かはまだ決まってない。スーパーGT、スーパー耐久に全日本ラリー選手権。モータースポーツは様々な種類があるが美世はスーパーGT、蓮はスーパー耐久に参加している。
夢斗はまずそこから決める事がスタートである。
「とりあえず大学出るまでに決めないとな」
美世の必死な姿は夢斗を動かすきっかけになっていた。夢斗も本格的に自分のやる事を考え始める。