出会いが傷ついたシンデレラにある決意をさせる。
2013年5月。
年明けから半年近くが経とうとしていたある日。
「やっと出歩けるか……」
ベッドの上でそう呟く女性。原田美世だ。
「でもまぁ……本格的な仕事は無理だろうな……。この足じゃ車の運転も難しいだろうし」
未だに完治には至らない左足を見ながら美世は呟いた。
今朝医師の説明を受けて、まだ激しい運動などはできないがある程度病院外での行動が許された。仕事もハードな事はまだできないが参加できるように。
しかし美世の仕事はアイドル。身体を酷使しがちな仕事だ。身体を直接使わなくとも知らず知らずに身体に負担が掛かる。様々な場所で活動するので移動だけでもなかなか苦になる。
そして美世にとって一番である事。レーサー活動だ。
去年の富士での大クラッシュ後、入院生活を送る事になった美世の代わりにチームに1人ドライバーが新たに加入したと聞いた美世。
しかし美世不在のモチュールは開幕戦岡山で3位を記録したが続く第2戦の富士ではマシントラブルでリタイアを余儀なくされるなどランキング上位争いに参加出来てるとは言い難い状態だった。
美世は一刻も早く復帰したい。しかし現実はそうもいかない。
「そうだ、事務所に行ってみるか……」
美世はまだ上手く歩けないその足で病室を後にする。外出届を出し、病院前でタクシーを拾って事務所へ向かう。
病院から約20分程で事務所前に到着。
見慣れたはずの事務所がなんだか懐かしく思えてきた美世。
「そっか。最後ココに来たの富士に行く前だもんね」
美世が最後に事務所に来たのは去年の11月。半年近く前なのだ。それ故に久しさを感じていた。
場所は変わって346プロ事務所別館内施設の撮影スタジオ。
そこで写真撮影をしていたのは……。
「パイセン、体力は平気かい?」
「ナナはまだやれますよ!……たぶん」
安部菜々と佐藤心の2人によるユニット「しゅがしゅが☆み〜ん」のユニット曲「凸凹スピードスター」のCDジャケット撮影が行われていた。
様々な意味で
その最終段階としてジャケット撮影をやっていたのだが。
「ひい……冷や汗が止まらない……っ」
「足がパンパン……。こりゃナナ先輩を笑っていたバチかもな……っ☆」
午前中はステージ企画の練習のため川島瑞樹や堀裕子、荒木比奈達とダンスなどの練習をしていた2人。体力的にボロボロになっていた2人を待っていたのが撮影である。
既に体に練習の疲れが出ており、心は足が筋肉痛一歩手前だった。菜々も平気ではない。最も、以前湿布を貼られた際の菜々を笑っていた心は菜々を笑ったバチがここで当たったように見えなくもない。
「あの、もう少し寄ってください」
撮影スタッフの指示が飛ぶも……。
「パイセン、もうちょい近くに」
「腰が……腰が」
「こっちも足が死ぬ寸前だ☆(膝ガクガク)」
2人共限界寸前だったその時。
バターン!と擬音で表せるような音が。勢いよく入口のドアが開けられた。スタジオの全員が反射的にそちらを向くと。
「あれ……?あ、撮影してた?ごめんなさい……」
「……原田さん!?」
「……美世ちゃん、久しぶりですね。足……大丈夫ですか?」
「随分久しぶりじゃん?……こちとら仕事で忙しんだぞ☆」
2人の撮影が終わるのを待っている美世は話を聞いてやってきた武内Pと話していた。
「小日向さんはまた……無茶をしています。いつだったかオーディションの話を聞きに行った時に向かった先で体調を崩して」
「……酷く体が弱っていたらしくて1週間入院して。点滴打たれてましたよ」
蓮とこの346プロで過ごして今年の春で2年が経った。
何回か同じような事を見たが蓮は自分の力でどうにかしようとする。
しかし今回美世は「大丈夫」と確信していた。
「蓮君を助けてくれる人、いるじゃないですか」
「原田さん、それは……誰でしょうか?」
「まずは夢斗君。あの子はああ見えて蓮君の事を慕っているの。だから蓮君の困った事とか全部わかってるよ」
「なるほど……。星名さんならやり方はともかく今の小日向さんの助けに十分なれる……」
「あと……」
「あと?」
「美穂ちゃん、かな?蓮君は無意識に美穂ちゃんの事を考えてる。んでその反対もある。美穂ちゃんが蓮君の事を無意識に考える。深い所もお互い似てるから悩み方の解決法だってきっと似てる」
「となると?」
「美穂ちゃんは蓮君を頼る。だったら蓮君も美穂ちゃんを頼ると思う。最も……直接的にはそう見せないだろうけど」
蓮との出会い、全てそこから始まった美世と美穂、そして夢斗。
蓮の存在が他者の行動を形作る重要なパーツとして美世達にハマっている。
30分後。
撮影スタジオを後にした美世はとあるアイドルに頼み事をしていた。
「……で、大体の感じはこんな感じで」
「……うん!オシャレっすよ!でも美世さん、いきなりどうしたんすか?」
「んー……これがあたし!ってアピール。あたしの誇りでもあるかな(笑)」
「誇り……かっこいいっすよ!」
「そ、そうかな?」
「誇りってそんな軽々しく言えるようなモノじゃないからこそ重みがあるっす。『形』があるなら尚更!」
「自分っていう存在を示すシンボルは隠さないからこそ意味がある、そうアタシは思ってるっす」
美世に渡されたスケッチブックをまじまじと見て。
「んじゃ、出来たらアタシから言うので待っててほしいっす。あと、リハビリも頑張って!」
「うん!ありがとうね、沙紀ちゃん」
美世が吉岡沙紀に手渡したスケッチブックに描かれていた物、それは。
「赤いガラスの靴と……R。なるほど、それなら早いっすね」
少しづつ回復していく美世。彼女が抱き続けてきた「誇り」が「形」となっていく。
その「形」は彼女の人生その物を意味しているのだった。