鬼と妖怪と鬼殺の剣士   作:熱血ヒーラー

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稚拙な文章ですが、どうぞ。


一話

 寒くて、暗くて、視界がぼやける。

 戦う前に終わっていた。その表現が今の私には一番あっていた。

 私が相対したことのある中で最も強いであろうこの鬼……上弦の弍。

 その鬼が使用する血鬼術は、私の動きをいとも簡単に封じた。封じて、倒した。

 

 鬼が、笑う。嗤って、扇子を振るう。

 私はなけなしの力でその攻撃を躱すために、無様に地面を転がる。転がるが、完全に回避は出来ない。

 いくつかの氷塊が私の体に直撃する。

 

(遊ばれてる……)

 

 口数の多い鬼だ。

 笑いながら何かを大声で言っているが、芯まで凍りかけている私の耳には届かない。

 

 もう……ダメだ。

 

 そんな風に、自分の無力を呪いながら、愛すべき妹たちの姿を思い浮かべる。

 

「……るのか?」

 

「……え」

 

 そんな私に、誰かが声をかける。

 明らかに上弦の弍ではない。恐らく、男だろうか。

 顔を上げる。……恐らく、一般人だ。刀も何も持ち合わせていない。

 傷ついた体に鞭を打ち、声を振り絞る。

 

「逃げ……て……!ここは、危険で……!」

「そんなことはどうだっていい。お前は、生きることを諦めるのか?」

 

 男は、あまりにも平坦な口調で私の言葉を無視して、声をかけた。

 

 諦めるのか。

 諦めるのだって、そんなこと……もう、私は……

 

「死に抗いたいのであれば、生きたいのならば、生きたいと言え。生きることが辛いのであれば、生きたくないのであれば、生きたくないと言え」

「わた、しは……!」

 

 何を思って、何を言っているのか。平坦で無感情なこの男からは何も感じとれない。感じ取るだけの、気力もない。

 だけど、不思議な力がある。

 そう、思った。

 

 ……残してきた、妹たち。

 出来るならば、守ってやりたい。

 

 私のことを大事に思ってくれているであろうしのぶならば、私の仇をとる等と、言うのだろう。

 自分の命は二の次で、戦ってしまうのだろう。

 

「私、は……!」 

 

 そんなのは、嫌だ。

 大事な妹たちには安全に生きて、優しい人生を送ってほしい。

 

 叶うならば、私もそこに、いたい。

 

「私は……!生きたい……!!」

 

 分からない。分からないけど、目の前の男がニヤリと笑った気がした。

 

 意識が、薄れる。

 冷たい。冷たい。体が凍えるようだ。肺が壊れそうだ。

 

「そうか、ならば……」

 

 水の底に沈むような感覚が私を覆い尽くす。

 覆って、潰す。

 

 黒い服を着た男は、私の額に指をコツ、とつけた。

 そこから温かいナニカが流れ込んでくる。

 意識が薄れる中、私の脳裏に、整った顔の男貼り付けたような笑みが、嫌に残った。

 

 

「……ならば、お前にとって最も大事なモノを、頂くとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君さ、人間じゃないよね?」

 

 過呼吸気味だった少女の苦しい呼吸は、まるで寝ているかのように規則正しくなっていた。

 それを施したであろう男は、平坦な声で少女を追い詰めていた鬼の質問に返した。

 

「それを言うなら貴様もだろう。鬼を名乗る哀れな怪物よ」

「聞いたことがある」

 

 昔から、何でも願いを叶えてくれる妖怪の噂は、一部では有名な話だ。

 鬼がそれを知っていたのは、自身の信者がその妖怪に願いを叶えて貰っていたからに過ぎなかった。

 そして、騙されたとも、言っていたから。

 

「何でも願いを叶えると言って、その者の最も大切なモノを奪う妖怪。何度でも願いを叶えてくれるけどその度に自分の大切なモノを一つずつ奪う妖怪」

「心外だな。コレは契約だ。多くを求める者は多くを失う。これは当然の摂理だ」

「はたしてそうかな?僕には君は、悪意で人に近づき、騙して、それを愉しむ悪魔に見えるよ」

 

 妖怪が、口を歪めた。

 肯定もせず、否定もせず。ただただ、己が契約を果たす為に、目の前の鬼を見据えた。

 

「戦る気、みたいだね。……聞いてもいいかな?」

「……なんだ」

「君は彼女から一体何を奪ったんだい?」

 

 妖怪が僅かに目を剥く。

 単純に、この鬼が個々人のことを気にするとは思っていなかったからだ。

 しかし、その思考はすぐに除外された。

 この鬼は、情報を求めているのだ。例えば、妖怪が何を求めているのか、とか。

 

「記憶だ」

「……記憶?」

「この者の最も大事な記憶。それを、頂いた」

 

 妖怪が奪ったのは、女にとって最も大事な、妹との記憶だった。

 

「なるほど。でもそれなら、大事なのは妹なんじゃないのかい?なぜ記憶を?」

「我は、契約による契約者以外の生死を操ることはしない。我は、契約者本人が持つ最も大事なモノを奪うだけだ」

「もしもの話だけど、彼女が自身の命を一番大事に思っていれば、彼女は命を落としたのかい?生きることを願ったのに?」

「契約は、願いよりも対価が優先される。生を望む者にとって最も大事なモノが自身の命ならば、その者は命を落とす」

「ハハッ。とんだ不平等だね」

 

 確かに、契約者にとって最も大事なモノが契約者自身の命だとしたら、契約者の命を頂くことは出来る。

 しかし、それが契約者以外の命であれば、それは無効となる。

 それは妖怪が、自身に課した自分ルールだった。

 

「自身の知らないところで勝手に死を決められるのは流石に、と思ってな。少し契約の方針を変えたのだ」

「……なるほど。確かにこれはあの方(・・・)が怒る案件だ」

「……あの方?」

 

 童磨の頭の中には一人の鬼の姿とその鬼の言葉が浮かんでいた。

『願いを叶える妖怪を見つけたら、その妖怪を必ず殺せ』

 上弦と下弦の鬼は須く全員鬼舞辻無惨にその命を受けていた。

 

「ああ。貴様らの首魁の、確か……鬼舞辻と言ったか。確かに昔、奴は我と契約している」

「怒り狂ってたぜ?騙されたってね」

「そうか……奴の願いは、確かに叶えてやったというのに」

「ハハハ。君は酷いなあ」

 

 無惨は昔、この妖怪に願いを一つ、願ったことがある。

『青い彼岸花を差し出せ』と。

 そして妖怪は、契約に従い青い彼岸花を差し出した。

 

 青い着色料が付いただけの、ただの彼岸花を。

 当然、無惨は怒り狂った。怒り狂って、危うく光に当たりかけるくらいに怒り狂った。

 当然だ。無惨は騙された上に、自身の最も大切なモノを奪われたのだから。

 

「ふん。あまりにも無様だったからな。それに願いの指定が薄かったのだ。青い彼岸花を出せ、などと。そんなモノは知らん」

「それで大事なモノを奪われたんじゃあ、報われないよねえ」

「……奴に伝えておけ。良い悪感情だった。非常に美味だったぞと」

「ハハハ。それは俺が殺されてしまうよ」

 

 お喋りは終わりだとばかりに、童磨の先制攻撃が妖怪に激突する。

 しかし、無傷。 

 だがしかし、童磨は元々自身の主である無惨を圧倒したという話を聞いて、勝てるとは思っていなかった。

 

 よって、逃げの一手。

 自身と同等の力を持つ『結晶ノ御子』を作成。

 その数……十体。

 

 しかし童磨の技はそれでは終わらない。

『霧氷・睡蓮菩薩』

 正真正銘童磨の切り札にして、絶対の大技。

 それを、二体。

 

「ここまでやるのは初めてだよ!さあ、どうする!?」

 

 一斉に襲い掛かる人形達に、妖怪は一体どう対処するのか。

 情報を共有できる人形で、少しでも情報を……という魂胆だった。

 

 しかしその全ては、無駄に終わる。

 

「くだらんな」

 

 その一言。一言だけで、世界が歪んだ。

 質量も、体積も、何もかも関係ない。妖怪の頭上に小さな黒い球が生成され、そして浮かぶ。その球は全てを呑み込み、すり潰した。

 それは、一瞬の出来事だった。

 

「……ハハ、ハハハハ」

 

 死を悟る。

 太陽も鬼殺の刀も関係ない。この者には、そんなモノがなくても鬼を簡単に殺せる。

 どんな攻撃も、どんな防御も通じはしない。

 

 そして、童磨は死を悟り、全てを投げ出したかのような表情で妖怪を見て……目を、見開いた。

 

「……俺を、殺さないのかい?」

「興味ないな。この女を害するのであれば敵だが、害する気がないのであれば敵ではない」

「……優しいね。彼女が女の子だからかい?」

「まさか」

 

 契約して直ぐに死ぬのは、無情と思ったから。

 それにこの契約者は、願いの指定をキチンとしている。

 

「奴を無碍に扱ったのは、奴があまりにも高圧的で調子に乗っていたからだ。貴様とて、高圧的な者より縋る者の方が好感が持てるだろう」

「なるほどね。単なる女好きの男じゃなかったか」

「そも、悪魔に性別などない。容姿もなかった。この姿はかつて、自身の顔と体を最も美しいと思っている男から頂いたモノだ」

 

 そして女を抱え上げて立ち上がり、鬼に背を向けて歩き出す。

 

「話は終わりだ。戦う気がないなら失せろ」

「残念だよ。もう少し話したかった。………もう2度と会いたくない」

「貴様が願わなければ、滅多に会うことなどないだろう。さらばだ」

 

 そう言って、妖怪は歩き出す。

 その背中を見て、鬼は溜息をついた。もうあの少女は諦めるしかないな、と。

 厄災に出会ってしまった、自分を呪うべきか。

 

「ああ本当……もう2度と、会いたくないな」

 




取り敢えず、しのぶとカナヲに斬りかかられるところまではやりたいな。

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