惑星Zi西方大陸戦争録 【Zi-EX天神 ゾイド二次創作小説再掲(2002~2010)】   作:むげんゆう

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第1章 第8話 グスタフの巨砲(後編)

 撤退する連邦軍部隊を安全地帯まで無事後退させるために、帝国の主力部隊をアララート峠に釘付けにするというクルーガー少将の作戦は見事に成功した。帝国軍がアララート峠に差し掛かってから実に1週間もの間、ただ1台のグスタフに進軍を阻まれていたのである。

 

 焦る帝国軍はこの状況を打開するために奇想天外な作戦を立てた。その作戦とは、小型ゾイド部隊がグスタフの注意をひきつけている間に、武装、装甲のほとんどを取り外したアイアンコングによる上空からの奇襲攻撃というものである。

 

 作戦の準備のために、作戦の立案者であるリシュー中尉のアイアンコングが改装された。右肩のミサイルランチャー、左肩に内蔵されているマルチミサイル全弾、背部の大型ミサイルなどの武装が全て取り払われた。さらに、頭部、胸部装甲と肩の姿勢制御用のショルダー装甲をのぞくほとんど全ての装甲板がとりはずされた。そして唯一取り付けられた装備が、この作戦の成否の鍵を握るマニューバスラスターであった。

 

 作戦決行はアララート峠に帝国軍が到着してから11日目の昼の事だった。押し寄せる帝国の小型ゾイド部隊に連邦軍は身構えた。

 

「連中、相当焦っているようですね。」

 

 グスタフ・カールの砲手、ロバット少尉は張り切っていた。

 

「どうやらそのようだな。大方本国からの催促に答えざるを得なくなったのだろう。連中は死にもの狂いで向かってくるだろう。我々も覚悟して挑まねばならんぞ。」

 

 ビショット少佐は静かに言った。

 

 押し寄せてきた帝国軍ゾイドは約200以上、グスタフの砲門が静かにうなりを上げながら敵陣へ飛び込んでいった。次々と打ち砕かれる帝国ゾイドたち。だがそれは連邦軍にコングの作戦を悟らせないための囮であり、使用されたのは無人のスリーパータイプに改装されたものばかりだったのだ。

 

 攻撃開始から30分が経過した。太陽が南中に差し掛かったその時だった。凄まじい勢いで上昇するリシュー中尉のアイアンコング。そしてグスタフに対して太陽を背にした位置に到達すると、コングは降下を開始したのだった。

 

 その事に真っ先に気が付いたのはステルスバイパーだった。バイパーはグスタフにこのことを知らせると、寮機と共にありったけの対空ミサイルを放ったのだった。

 

 リシューは上昇の際の猛烈なGに一瞬意識を失いかけた。だが彼はそれを気合でねじ伏せると、グスタフを視界に捕らえ、猛然と降下を開始したのだった。

 

 彼の目にはグスタフしか映ってはいなかった。コングに向けて飛んでくるミサイルが次々にコングに命中していった。装甲をまとっていれば、ステルスバイパーのミサイル程度に傷つくコングではなかったが、最低限度の装甲しか持たない今の愛機は損壊していったのだった。全身をボロボロにされながらも降下するコング。だが彼は完全にグスタフを捕らえていた。リシューのコングに気が付いたグスタフの操縦士は、全力で後退をかけた。しかしそれよりも早くコングの鉄拳はグスタフめがけて振り下ろされたのであった。

 

 

 凄まじい火花を発して宙を舞ったのは、砕けたアイアンコングの腕部、そしてグスタフ・カールの380mmリニアカノンの砲身であった。グスタフ本体は何とか攻撃をかわしたものの、渾身のコングの鉄拳は380mmリニアカノンに命中し、グスタフから弾き飛ばしたのであった。

 

 コングがもう一撃拳を振るおうとした時、連邦軍はあらかじめ峠に仕掛けてあった爆薬を炸裂させ、峠をうずめた。全速力で撤退するグスタフ達をリシューは呆然と見つめていた。勝利の実感はなかった。ただ敵の手際のよさに感服するような思いであった。

 

 連邦軍の峠の爆破は不完全なもので、路の復旧にかかった時間はわずかに3日であった。だが帝国軍主力部隊がこの峠の突破にかけた時間は2週間にのぼり、主力部隊が山岳地帯を突破した頃には、すでに連邦軍は影も形も存在していなかったのである。

 

 撤退を開始した主力部隊、彼らが再び峠に差し掛かった頃、ヒンター・ハルトマン大佐の元に前線の兵たちからの嘆願書が届いていた。

 

「わずかな戦力で我が軍を2週間にもわたって食い止め、友軍を脱出させた彼らに敬意を表したい。か・・・・。」

 

 峠にはコングによって破壊された380mmリニアキャノンのくの字に曲がった砲身が転がっていた。兵士たちはそれを勇敢な敵とそれを打ち破ったコングの勇気を称え、この砲を打ち破るために犠牲になった仲間達の慰霊も兼ねた記念碑にしようと言うのだ。調査班による調査は終了していたものの、独断での設置にためらわれた彼は、その件を本国に打電した。恐らく許可されまいと思っていた彼だったが、返答は意外なものだった。

 

「すべては誇りある帝国軍兵士諸君が決める事である。その君たちの勇気を示すための行いを妨げる権利など私にはない。」

 

 皇帝ハインリッヒ直々の返答に、帝国全軍が感激したのだった。この事により皇帝ハインリッヒは後々まで称えられる事となる・・・・・。

 

 

 撤退開始から1ヶ月が経過した。連邦軍3万5千はついにさしたる損害もなく、北エウロペ大陸東岸のロブ基地に帰還したのであった。そこで彼らを出迎えたのは、本土からの援軍の第2陣だった。この3ヶ月間は、連邦軍にとって最も苦しい戦いの連続であった。それだけに帰還できた将兵たちの喜びもひとしおだった。

 

 全身泥と汗にまみれた彼らを出迎えたクルーガー少将は、全ての将兵に労いの言葉をかけた後、演説を行った。

 

「(前略)緒戦は我々の負けだ。それは潔く認めねばなるまい。だが連邦の全兵士諸君、これで全てが終わったわけではないのだ。負け惜しみではなく、戦いはこれから始まるのだ。決して屈しない闘志と希望が、いかなる強大な力も打ち破る事を、ハルフォードと彼の部下たち、そして敵の主力部隊の追撃をわずかな兵力で食い止めてくれた第5砲科連隊、勇敢にも我々のために立ち上がったエウロペの勇者たちが身をもって教えてくれたではないか。何より、あの激戦を潜り抜けてきた我々はここに健在である。我々がここにいる限り連邦軍は完全に負けたわけではないのだ(後略)。」

 

 

 一方の神聖ガイロス帝国首都ヴァルハラでは、この3ヶ月間の総括が行われていた。宰相プロイツェンが報告する。

 

「皇帝陛下、この3ヶ月間の戦闘で我が帝国は、北エウロペ大陸の70%を支配下に置き、西エウロペ大陸の全土の制圧にも成功いたしました。」

 

「ただ、予想外の事態は、オリンポス山の遺跡が敵の手によって完全に破壊されてしまった事、その事に伴う我が軍の将兵6万の消失、そしてデルボイの連中の残存兵力を取り逃がしてしまい、北エウロペ全土の完全制圧に失敗してしまった事であります。」

 

 玉座に鎮座していた皇帝ハインリッヒは報告を聞き終わると、おもむろに口を開いた。

 

「このたびのエウロペ制圧の第一次作戦であったが、おおむね成功だったといえる。目的の完全な達成にはいたらなかったものの、前線の将兵たちの活躍には大いに敬意を表したい。」

 

「だが、完全な成功ともいえないのも事実である。その原因を早急に解明し、第2次作戦の教訓とせねばならんだろう。」

 

 全ての視線が、末席に座るマルクス少将に注がれていた。彼の顔は蒼白となり、ひざの震えが止まる事はなかった。

 

「北エウロペ方面軍司令マルクス少将、何か弁明することはあるかね?」

 

 無言のままうつむくマルクス。もはや責任を取らされての銃殺さえ覚悟していた。

 

「まず、オリンポス山の防衛の件についてだが、あのようなことは神でもなければ予想できない事態だった事だろう。それにその事の責任を取るべき、オリンポス山防衛部隊の指揮官はすでに戦死した事で責任を取ったと言える。主力部隊をレッドラスト北部に回していたことは、結果的に主力部隊を救う事になった。よってこの2件については不問にして置こう。」

 

「私が問題としている卿の最大の失敗は、現場の意見に耳を傾けることなく峠への攻撃を強行した事だ。君の命令で多くの有能な将兵が失われてしまった。何より貴重な時間をこの地で浪費してしまった事も大きいと言わざるを得まい。」

 

 皇帝ハインリッヒは一口水を飲むと話を続けた。

 

「ただ、責任ということであれば私にも責任があると言えるだろう。君を司令に任命してしまった責任がそれだ。今回の件を鑑みて、卿はしばらく予備役に回ってもらうことに決定した。無論異存は無いな?」

 

 マルクスは、ただただ肯くしかなかった。

 

 予備役入りというのは軍隊にとって最高の不名誉であったが、銃殺さえ覚悟していたマルクスにとっては予想もしていなかった処置であった。

 

 会議が終了した後、ハインリッヒはプロイツェンと共に今後について語り合っていた。

 

「僭越ながら陛下、あの者の処置はあれでよろしかったのでしょうか?あのような無能の輩など採掘場に送ってしまったほうが、よほど帝国の為になったのではありませんか。」

 

「構わんさ、あの程度の人間一人養う程度は、さして問題ではあるまい。即座に死を与えた所でどうにでもなるものではないからな。それよりもオーガノイド研究のためのサンプルを集めねばならん。一刻も早く西方大陸全土の遺跡のデータを集めさせよ。」

 

 地図を眺める皇帝ハインリッヒの目は南エウロペに向けられていた・・・・。




初出 2002年4月4日
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