惑星Zi西方大陸戦争録 【Zi-EX天神 ゾイド二次創作小説再掲(2002~2010)】 作:むげんゆう
第2章 第1話 虐殺竜、始動
ZAC2099年師走、惑星Zi全土のTVモニターに皇帝ルドルフによる西方ガイロスの建国宣言がなされていた頃、飛行型人員輸送用ゾイド、オルカフォートレスは極寒のニクス大陸から北エウロペ大陸ニクシー基地へと向かっていた。
到着まで1時間を切る頃になると、眼下に広がる西アンダー海はニクス大陸沿岸とはまるで別の海にように穏やかになっていた。
「エウロペ大陸に近くなると海の色まで変わっちまうっていうのは本当だったんだな。」
ジョルドット中尉は眼下の海を眺めながら感心していた。
「冬場にこっちに回されて本当によかったぜ。なあ、アイスマン?」
「ああ、そうだな。」
アイスマンと呼ばれた男はそう返事すると、手元にあった資料を再び読み始めた。
「はいはい、観光でこっちに来てるんじゃないんだぞ、ってか?相変わらずだな。」
ジョルドット中尉はそう言うと、新聞を読みながら近くにいたスパンツ少尉に話を振った。
「おいスパンツ、お前この戦争どうなると思う?」
「まあ、楽勝なんじゃないですか?南の方で動きがあったらしいですけど、どうせ連中は旧式とか安物ばっかりじゃないですか。あと半年かそこらで全土を制圧して、それからデルボイに向かうんでしょうね。そうなるともう少し戦争は長引くのでしょうけど。まあ、前線の連中には悪いですけど、我々テストパイロットは、どのみちこうやってテストばかりでしょうから。」
極寒の本土から延々6時間、オルカフォートレスから降り立った彼らを真っ先に出迎えたのはまるでサウナのような湿った熱風であった。
北エウロペ大陸は惑星Ziの赤道地帯に位置しており、そのほとんどは灼熱の乾燥地帯である。だがここニクシー基地は沿岸部にあるせいか、熱さの上に湿気を含んだ風が吹いているのだ。
「うあっちいあっちい。なんちゅう暑さだこりゃ。とっとと基地の中に入ろうぜ。」
ジョルドットはそう言うと手にしていた資料を団扇代わりにしてあおぎはじめた。すると、彼らの前に迎えのジープが滑り込んできた。彼らは急いでジープに乗り込み基地へと急いだ。
海沿いはこの湿気のせいか、熱帯性の植物が多く見られたが、一度内陸に目を向けるとそこには広大な砂漠が広がっていた。風の一吹きと共に刻々と変わっていく地形。その見るものを飽きさせない光景ではあったが、同時に猛々しささえ見せるその光景にリッツはしばらく見とれていた。ジープから降り、全員が格納庫の中に向かう中、リッツの表情が不安げに見えたのだろうか?一人の老練そうな整備兵が歩み寄り、彼に声をかけた。
「本土から来られた中尉殿ですかな。本土は年中寒い所ですからね。気がめいるのも無理は無いかもしれません。私なんかはガキの頃にこっちに移住してきたタチですが、そりゃあ最初の頃はこの暑さと砂には本当にまいってしまったものですよ。」
人の良さそうな笑顔を向けて彼は続けた。
「しかし直ぐに慣れますよ。いえ、慣れる前に終わっちまう事でしょう、この戦争は。」
自分の息子のように彼にはリッツが見えたのだろう。この幼そうな仕官殿を励ましてくれているようだった。
「ああ、そうなるといいね。」
リッツもまた笑顔で会釈を返した。だが、この老整備兵は知らなかったのだ。この若手の仕官がガイロス帝国きってのゾイド乗り、「アイスマン」と呼ばれる指折りのテストパイロットであると言う事を。
皇帝ハインリッヒの目はこの頃すでに西方大陸にはなかった。確かに仕留めそこなった甥のルドルフが、自分に反抗するために西方大陸の諸部族をまとめ、旧国防派の残党やゼネバス公国軍の戦力を加えている事は脅威の一つであった。
だが、スパンツの言っていた通り所詮は烏合の衆であり、大多数は旧式や安物ゾイドが戦力の主体である。連邦軍から海上ルートを使って補給が送られてはいたが、来年初頭に本格的な配備が予定されている通商破壊用の海中戦力で補給線を断ち、そのうえで大兵力を差し向ければ、容易に撃破できると考えられていた。
それよりも問題はデルボイ大陸である。
緒戦においてはヘリック連邦軍を戦力で圧倒する事が出来た。だが、戦時体制が動き出せば強大な資源と工業力を持つ連邦である。
ハインリッヒはこれまで工業に力を入れて戦力の拡大をおこなってきていたが、それでも連邦が物量で帝国側に匹敵する戦力を整えるのは目に見えていた。
理想は連邦が戦時体制に移行する前に中枢を叩く事であるが、その事が困難である事も彼は悟っていた。
物量で並ばれてしまうのなら戦力で凌駕する方法は一つ、圧倒的に高性能なゾイドを開発、配備し、一気に戦局を決める。そして西方大陸の資源をもって連邦を圧倒する。これが彼の出した結論であった。
このハインリッヒの決定に基づき、帝国技術班はあらゆる方向から新型ゾイドの開発に取り組んでいた。
現行のゾイドの改造、強化。失われたディオハリコン技術の復活、応用。そして新たに発見されたゾイドの進化の技術、オーガノイドシステムの利用である。
現行ゾイドの改造、強化は順調であった。事実、セイバータイガーやレッドホーンの強化には目を見張るものがあった。
現在は第1段階の基本性能の向上に加えて大幅な武装強化が図られていた。一方、驚異的に性能強化が図れるディオハリコン技術はかなりの予算が掛けられ、海底に新たな鉱脈を発見したものの、依然として必要な量が確保できず、実験段階から抜け出すには至っていなかった。
そして新技術であるオーガノイドシステムには宰相プロイツェンの一押しもあり、最も多くの予算がつぎ込まれた。
この技術はゾイドの性能を飛躍的に向上することが可能とされていたが、現行の帝国ゾイドでこの技術と相性が良かった機体は少なく反対論も出ていたが、このシステムに適応する新型機の開発が行われ、ようやく実戦段階にまでこぎつけたのだった。
今回ニクシー基地で行われようとしていたのは、実戦に近い形での新型機の性能評価であった。そのためにリッツらテストパイロットたちがニクシー基地に召集されたのだった。
格納庫には3台の新型ゾイドが並べられ、急ピッチで最終点検が行われていた。
ジョルドットが搭乗するのはレッドホーンの武装強化型機レッドホーンGC、旧大戦時に使用されたダークホーンと同型のビームガトリングを搭載した機体である。
スパンツが搭乗するのはセイバータイガーAT、これも旧大戦時に使用されたグレートサーベルと同様の武装が施された機体である。
リッツは自分が乗ることになる新型機「ジェノザウラー」を見上げていた。
外見はどことなくあの幻の巨大ゾイド、デスザウラーに酷似していた。恐らく小型版デスザウラーといったところなのだろう。
だが、彼はそれとは別の禍々しい印象をこのゾイドに抱いていた。
資料によるとこのゾイドには今までに無い新型のシステムが搭載されているという。自分がこのゾイドに選ばれた時も怪しげな連中から適性検査らしいものを受けたのもそのシステムのためなのだろうか。
言いようの無い不安を感じる中、ついにテストが開始された。
コクピットの乗り込む直前、彼はこの新型機専用と言うパイロットスーツとヘルメットを与えられた。
スーツやヘルメットのあちこちにプラグがついており、どうやら自分のコンディションを直接機体に伝えるものらしかった。
準備を済ませた彼の目の前に不気味な風貌の科学者が姿をあらわした。
「君がジェノザウラーのテストパイロットかね?あれには膨大な時間と予算が掛かっておるからなぁ。しっかりその性能を引き出してやってお偉い様方にみせつけてやってくれ・・・。」
この科学者の目の奥に不気味なものを感じ、リッツは身構えた。
「プロフェッサー殿ですかな。言われるまでもないですよ。」
冷静な表情でリッツは答えた。だがその科学者は不気味な笑みを浮かべて言った。
「正直、オリジナルのアレを一般の人間が扱えるとはワシは思っておらんがな。せいぜい潰されないように用心する事だ。」
「・・・!それはどういうことでしょうか!?」
問い掛けるリッツを尻目にその科学者は言った。乗ってみればわかることだ、と。
コクピットに乗り込んでジェノザウラーを起動させた瞬間、彼は自分の異変を感じた。
アイスマンの異名は、どのような時でも決して冷静さを失うことなくゾイドを駆ることからついたあだ名だった。
だが、その自分が異様な興奮に包まれているのだ。事実目の前に映し出される自分の呼吸、脈拍も見たことも無い数字を示していた。
「落ち着け。いいか、これは仕事だ。いつもの通りに黙ってやっていればいい。だが、何故こうも気が高ぶるんだ落ち着け!」
他人に悟られまいとひたすら自分に言い聞かせるリッツであったが、長い付き合いの同僚たちには隠せなかった。
「おいおい、アイスマン、いつになく入れこんでんじゃねえか。そんなんで大丈夫かよ?」
「今日はいただきですね中尉殿。」
リッツに対して同僚たちから声が掛かる。いつもならそっけなく返事を返す所だが、今の彼にはそのことすら出来なくなっていた。それ以上に理由の無い憎しみが回り中に向けられていた。
管制官、視察の上官たち、そして何より同僚たちに対して凄まじい憎悪の感情が吹き上がっているのだった。
「まさかこのゾイドの感情がパイロットに直接伝わっているというのか?」
ゾイドとパイロットには相性があることは周知の事実であった。だがゾイドの感情がパイロットに感情に影響を与えると言う事など聞いた事が無かった。
「まさかそのために適性検査をやっていたのか!?だとするとこいつは・・・。」
この機体の危険性に気がついた彼は、テストの中止を叫ぼうとした。
だがその時、ジェノザウラーの機体の拘束が解かれた。それはテストの開始を意味するものであったが、結果的には文字通りの虐殺の開始を告げるものだった。
強化改造ゾイドの性能は、上層部の期待を上回るものだった事には違いは無かったはずだった。
レッドホーンGCのビームガトリングの威力はダークホーンのそれに及ばぬまでも圧倒的な破壊力を示した。
セイバータイガーATは280km近い速度で突撃し、正確にミサイルを撃ち込む事が出来た。
どちらも驚異的とも言ってよいほどの性能。だがジェノザウラーはそれを上回る別次元の性能を見せつけた。
「いただきだ!」
真っ先にジェノザウラーに攻撃を仕掛けたのはスパンツのセイバーATだった。
時速280kmもの高速で接近し、必殺のミサイルを叩き込む。だがジェノザウラーはそのミサイルを瞬時に、その全てかわしきったのだった。
「こいつはどうだよ!」
ジョルドットのレッドGCのビームガトリングがあたり一面にばらまかれる。周りに置かれていたガレキや岩石は次々と吹き飛ばされていった。猛烈なビームの嵐、しかしそれでもジェノザウラーを捕らえる事はできなかった。
今度はジェノザウラーが反撃に転じた。
真っ先に向かったのはレッドGCにだった。必死にビームの弾幕を張るジョルドット。だがジェノザウラーは難なく交わすと、背中の連装パルスレーザーを撃ち込んでビームガトリングを粉砕した。
そして矢継ぎ早にレーザーを叩き込み全ての武装を沈黙させると、格闘戦に持ち込んで、力任せにレッドホーンを抑えこんだ。
「うわぁぁ・・・・。」
ジョルドットの悲鳴が続く中、ジェノザウラーは僅か10数秒の間にレッドホーンをバラバラに引き裂いていた。
「リッツ中尉!どうしたんです!?これはテストですよ!」
スパンツ少尉が叫んだ。だがジェノザウラーはスパンツのセイバーに目をつけると、今度は彼に襲い掛かってきたのだった。
最高速度を出して逃げ切ろうとするセイバー。だがジェノザウラーはカタログデータ以上の速度を叩き出し、セイバーを捕らえた。次の瞬間、スパンツはセイバーの首ごと宙を舞っていた。
執拗に続くジェノザウラーの攻撃の前にそれまでゾイドの形をしていた機体はただの鉄屑の山と化していたのだった。
テストが終了すると直ちに、残骸の中からパイロットたちが回収された。
幸い致命傷には至らなかったものの、2人とも重傷を負っていた。一方テストを見守っていた上層部は新型機の性能に呆然とするばかりであった。
機体から降りたリッツもまたこの光景を呆然と見ていた。まだ自分がやった事が信じられなかったのだ。
テストが始まった瞬間、彼は怒りに駆られて戦っていた。戦っている相手が同僚だったにもかかわらず、徹底的に攻撃したのだった。
運ばれていく2人を見ながら彼は、同僚たちの叫びさえ耳に入っていなかった自分に気が付いたのだった。
「俺が、本当にあんな事を・・・・。」
その時、彼の肩を誰かが叩いた。それは自分に声をかけた科学者だった。
「唯の人間であそこまでジェノザウラーの性能を引出す者がいるとは思わなんだよ」
「一体どういうことだ!」
リッツは猛然と食って掛かった。だが、その老科学者は動じることなく言った。
「それは、ゾイドに対してかい?それとも自分の気分の変化かい?どちらにせよお前さんが感じた事がすべてだよ。」
「ついでにお礼を言っておかねばならないね。君の活躍のお陰でたった今、ジェノザウラーの正式採用が決定したよ。これで私の苦労が報われるわけだ。」
その言葉にリッツは反応した。
「こいつを量産するだと?!馬鹿な!今のテストを見ていたはずだ。」
「ああ、そうさ。こいつは確かに強力だ。だがな、こいつは誰にも操れない。賭けてもいいぜ。こいつは敵よりも先に自分のパイロットを壊すぞ!」
だが老科学者は平然と言った。
「そんなことはわかっておるよ。あれは並みの人間に扱える代物ではないからな。」
「なっ!」
驚くリッツを見ながら彼は続けた。
「そうそう、自己紹介がまだだったな。とりあえず私の事はドクトルFと呼んでもらえば結構だ。リッツ中尉、君は調整無しでオーガノイドシステムに対応できる貴重なサンプルだ。これからもよろしく頼むよ。」
初出 2002年6月6日