惑星Zi西方大陸戦争録 【Zi-EX天神 ゾイド二次創作小説再掲(2002~2010)】   作:むげんゆう

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第2章 第6話 朝焼けの光の中に

 遺跡の上空を旋回していたストームソーダーは異変を察知した。高エネルギー反応が遺跡の中から吹き上がってきている。何かが来る、ストームソーダーのパイロットのマミ・ブリジットが目を向けた瞬間、その場所から天高く荷電粒子砲が吹き上がった。そしてその光の中から禍々しいゾイドが姿をあらわした。リッツのジェノザウラーである。

 現れたジェノザウラーをマミは拡大して見た。その左手にはしっかりとカプセルが握られていた。サンプルに違いなかった。

 

「待ちなさい!それを持ち帰らせるわけには!」

 

 もう1機のガラリア機は数分前に現れた偵察機を追いかけて今はここにいない。今ジェノザウラーを追撃できるのは彼女しかいなかった。アフターバーナーに点火し急降下をかけるストームソーダー。だが急降下をかけたその瞬間、彼女を強烈な殺気が襲った。その殺気に驚いた彼女はすぐさま機体を急上昇させた。

 だが次の瞬間、光の雨が彼女のストームソーダーに襲い掛かった。ストームの気配を感じたジェノブレイカーが空へめがけて拡散荷電粒子砲を放ったのだ。このとき殺気を感じて上昇していなければ、ストームソーダーは間違いなく粉々に打ち砕かれていただろう。マミ・ブリジット少尉の判断は正しかったのだ。

 だが彼女の機体は、ジェノザウラーからの攻撃を完全に避けきっていたわけではなかった。拡散された荷電粒子の雨が、彼女のストームに重大な損傷を与えていたのである。

 

「ブリジット少尉、脱出してください!」

 

 リンからの通信が聞こえてくる。マミはすぐさま脱出装置の起動スイッチを押した。だが!

「何で?!ちょっと洒落になってないよ!何で動かないのよぉ!!」

 

「ブリジット少尉?ブリジット少尉!一体どうしたんですか!?」

 

「こちらブリジット、脱出装置が起動しません。何とか姿勢を立て直してみます!」

 

 だがその時すでにストームソーダーの右翼は粒子砲の直撃で損壊しており、まともな操縦ができなくなっていた。さらに速度を増して落ちていくストーム。ついにはモニターがブラックアウトし、全ての計器が異常をきたして完全に操縦不能に陥ってしまった。

 

「嫌ぁぁ・・・!誰か、誰かぁ・・・・・。」

 

 さらに通信もそれを最後に途絶えてしまった。その後、何度か機体は立て直しかけたもののほとんど全ての機能が停止したストームではどうする事も出来ず、麓の森林地帯めがけて機体は落下していった。

 

 その時、1機のガンスナイパーが、偶然索敵のためストームの墜落予想ポイント付近にいた。シュンヤのガンスナイパーである。危なげな軌道をとっていたストームを見つけた彼はすぐさま上空待機のサラマンダーカーゴに問い合わせた。

 

「こちらシュンヤ、こちらシュンヤ!カーゴ応答求む!」

 

 突然の事態に動揺したリンが泣きながら応答した。

 

「少尉、少尉!マミさんの機体が、マミさんがぁ!」

 

「軍曹落ち着け!」

 

 ブラッドレー大尉がリンを一喝、代わって彼が続けた。

 

「テンリュウ少尉、ブリジット少尉のストームソーダーが損傷してしまったようだ。彼女からの通信から察する限り、極めて危険な状況だ。」

 

 そこまで言った所で、遺跡付近が大きな振動に包まれた。遺跡の大規模な崩落がはじまってしまったのだ。

 

「少尉!この機は少佐達の誘導と回収のためこの場からは動けん。ガラリアもあそこからでは間に合わん。そこで貴様にブリジット機の誘導を行ってもらいたいが問題ないか?!」

 

「問題ありません!ただちにブリジット機の誘導および回収を行います。」

 

 そのシュンヤの回収という言葉にリンは敏感に反応した。

 

「少尉!今、回収とおっしゃいましたが?!」

 

「あの速度では不時着可能な地点に誘導できても機体もパイロットも無事では済まない。だから俺の機体で何とかしてみる!」

 

「少尉、正気か?!」

 

 上官は驚きの声を上げた。だがシュンヤは力強く答えた。

 

「無茶は承知です。ですが、このまま彼女を失うわけにはいきません!」

 

 彼の固い決意にブラッドレーは動かされた。

 

「一つ聞こう。勝算はあるんだな?」

 

「方法はあります。」

 

 その言葉を聞いてブラッドレーは頷いた。

 

「わかった。では少尉、最善を尽くせ。必要な情報はすぐに送る。」

 

「だがいいな!絶対に生きて帰って来い。」

 

「了解!!」

 

「軍曹、直ちにブリジット機の墜落予想地点を割り出せ!!」

 

「はい!!」

 

 推測されたブリジット機の状況を演算コンピュータにかけて結果を出すまでの所要時間は、わずかに数十秒。だが彼らには永遠とも思えるほど長く感じられていた。

 

「結果が出ました!E3-77、ポイントE3-77です!少尉の位置から北東に2kmの地点です!」

 

「了解!ストームが墜落するまでの時間と予想進入コースは!?」

 

「予測では後5分です!進入コースに関しては残念ながら断定はできませんでした。申しわけありません。」

 

 シュンヤはポイントまで全力で駆け抜けた。ガンスナイパーのエンジンを全開にして。新型のイオンチャージャーによる最高速度は時速200km、歩兵ゾイドとしては脅威的な速度である。だがそれでも今の彼にとっては遅く感じていた。

 

「急げガンスナイパー!もっと、もっとだ!」

 

 両腕の機銃と残ったミサイルを強制排除した彼はさらに速度を上げていった。

 

 

 墜落するストームソーダーのマミ・ブリジットは、今までの人生を走馬灯のように思い出していた。パイロットだった叔父にペガサロスに乗せられ初めて空を飛んだ日の事を。大空の素晴らしさを教えてくれた叔父に憧れてゾイド乗りになろうと決めた幼い頃の事。反対する両親を説得して訓練学校に入った学生時代、そして今の仲間と出会った時の事・・・・。これまでのすべての出来事が彼女の脳裏をあっという間に駆けていった。だんだん加速していく機体、Gがだんだん強烈になり意識も薄れていく。

 

「もう、ここで私のフライトも終わっちゃうのかな。ごめんね母さん、父さん、みんな・・。」

 

 あきらめきった彼女が意識を失う直前、誰かの声が聞こえてきた。

 

「マミ!聞こえているか、マミ!聞こえていたらオートバランサーを入れ直せ!」

 

 誰かははっきりしなかったが、聞きなれた声だった。彼女は最後の気力を振り絞って腕を伸ばしバランサーを入れなおすと完全に意識を失った。

 

 シュンヤのガンスナイパーは驚異的な速度で墜落予想ポイントに到達していた。上空を見上げると墜落してくるストームソーダーが間近に迫ってきている。もう時間がなかった。

 彼はまずストームソーダーに緊急減速装置の外部起動信号を撃ち込んだ。すると目に見えてストームの速度が低下した。奇跡的に減速信号をストームが受信する事に成功したのだ。(のちの調査ではこの時の信号を処理したのはストームソーダー“自身”だったことが判明している)

 次に彼の機体の胴部に搭載されていた機体安定用のワイヤーフックを地面に深く打ち込んだ。このままストームソーダーを受け止めようというのだ。ストームは飛行ゾイドのため重量は軽い。だがそれでも総重量は47t、ガンスナイパーの倍近くある。常識的に考えれば受け止める事などまず不可能。シュンヤ自身も勝算はまったくない。だが、彼はやれる限りの事をやろうと決めていた。仲間を、彼女を失うわけにはいかない。ただそれだけだった。

 背後には森林地帯、まともに飛びこんでしラバラに飛び散ってしまうだろうがうが林地帯、まと、山腹に激突するよりはまだ助かる見こみはある。あとは固定したガンスナイパーが受け止め、ブースターを点火し減速させる。もしかすると減速していれば背後の森林が衝撃を和らげてくれるかもしれない。この方法が、彼が今行える唯一の方法だった。

 

「ガンスナイパー!お前の命を使わせてもらうぞ!」

 

 ついに彼の目の前にストームソーダーが現れた。地表ぎりぎりでバランサーが起動したのだろうか、若干姿勢を持ち直しているように見える。シュンヤのガンスナイパーはさらに両足を大地につき立てた。

 

「ショックアブソーバー全開!うおおおおおっ!!」

 

 凄まじい轟音と共にストームソーダーはガンスナイパーと激突した。その瞬間、自動プログラムされた命令によりガンスナイパーのブースターが点火され逆噴射を行う。だが、さらなる減速に成功したものの、その衝撃はすさまじく、数秒と持たずにガンスナイパーの両足は根元から引きちぎれた。もろともに機体は引きずられ、ガンスナイパーもストームソーダーもボロボロに大破したがガンスナイパーの本体に装着されていた特殊ワイヤーが予想以上に機能し、400m引きずられたところでようやくストームソーダーは停止したのだった。

 

 機体が停止して数分後、マミは意識を取り戻した。 

 

「私、まだ生きてる・・・・。」

 

 どうやらあばら骨が何本か折れているらしく痛みがするが、何とか彼女は機体から降り立った。歩く事には支障はなかった。飛行ゾイド用の新型パイロットスーツと、コクピットの驚異的な衝撃吸収機能のお陰で彼女は助かったのだ。

 辺りを彼女は見回した。空が夜明けで白みかかっていた。空を見上げると離脱していく大型の飛行物体が見えた。恐らく帝国のホエールカイザーであろう。遺跡から脱出した直後であのジェノザウラーを追撃できた位置にいたのは彼女だけ。その本人が地面にいるということはあの機体は帰還したに違いない。帝国軍はサンプルの入手に成功したのだ。それの事はすなわち、彼女たちの任務の失敗、すなわち敗北を意味していた。

 

「そんな・・・・。」

 

 がっくりと肩を落としたマミはその場に座り込んでしまった。呆然として上空をみあげていた彼女を光が照らした。それは鮮烈な紅い朝焼けの光だった。そしてその光に照らされて彼女の周りの世界はその姿を現した。

 マミはふと周りを見渡した。彼女の視界に飛び込んできたのは、墜落の際の衝撃を物語るように辺りに散乱した、なぎ倒された木々、ストームソーダーの残骸・・・。それらはすべて朝焼けの光の中で血で染められたように映し出されていた。

 立ち上がった彼女はふらふらと愛機へと戻った。ストームソーダーの胴体の下に意外な物を見つけたからだ。

 近づいて見てみるとそれは小型のゾイドであった。もはやほとんど原形を留めてはいない機体、彼女はすぐに気が付いた。間違いなくその機体はガンスナイパー、かろうじて見つけた機体のマーキングはシュンヤの機体であることを示していた。

 彼女は理解した。意識を失う直前、自分に適切な指示を伝えた人物が彼である事を。そして自分の命も顧みず、彼女を救ってくれたことも。

 マミはすぐに辺りを大きく見回した。だが機体の残骸は、弾き飛ばされていたり、ストームの下敷きになってぐしゃぐしゃに押しつぶされていたりしていて、コクピットがどこにあるのか分からなくなっていた。絶望感で目の前が真っ暗になりながらも、マミは必死にコクピットを、シュンヤを探した。そして彼女のコクピットがあった場所から100mほどはなれた地点で彼女はガンスナイパーのコクピットと思しき物体を発見した。

 マミは痛みをこらえてそこへ駆け寄った。コクピットは大きく変形しておりキャノピーもクモの巣のようにひび割れていた。キャノピーを覗き込んだ彼女は、そこに人がいるのが分かった。

 

「シュンヤ、そこにいるの!?」

 

 コクピットの中にいたのはやはりシュンヤだった。マミはシュンヤを損壊したコクピットから助け出そうとしたが、変形したコクピットからキャノピーをこじ開ける事は出来ず、シュンヤを中から引き出す事が出来なかった。

 彼女は近くに散乱していた人の頭ほどの大きさの金属片を手にとると、力任せにキャノピーに叩きつけた。割れていたとはいえ頑強なキャノピーを割る事は困難で、何度も叩きつけるうちに彼女の手からは血が流れ落ちていたが、彼女は痛みさえ感じてはいなかった。

 何十回と打ちつけたところでようやくキャノピーは砕けた。ようやくこじ開ける事の出来たコクピットの中で、シュンヤはぐったりとしていた。ヘルメットのバイザーは割れ、額からは血が流れていた。機体の衝撃吸収機構は作動していたが、彼には新型パイロットスーツがまだ渡されておらず、大きくダメージを受けていたのだった。

 

「ねえ、シュンヤ、起きてよ!起きてよぉ!」

 

 だが、シュンヤはピクリとも動かなかった。必死に彼の名前を叫びつづけるマミ、だがシュンヤは息を吹き返す気配さえ見せなかった。

 

「・・・嫌だよ。こんなの嫌だよシュンヤぁ。嫌ぁぁ・・・・。」

 

 顔をくしゃくしゃにして泣き崩れる彼女の付近にサラマンダーカーゴが、そしてブレードライガーとガンスナイパー達が到着した。

 

「ブリジット少尉!ご無事だったのですね!」

 

 駆け下りてきたリンがうれしそうに叫んだ。

 

「私ははいいの!そんな事よりシュンヤが、シュンヤがぁ!」

 

 その時、コクピットの中から、か細く、そして弱々しくはあったが声がした。

 

「俺は・・・何とか大丈夫だ・・・。それより、マミにケガはないか・・・・。」

 

 カプセルの回収に成功した帝国軍は夜明けと共に帰還していった。多少の損害は出したもののサンプルの回収には成功した事は上層部を満足させるものだった。

 だが、任務を達成したはずのリッツの表情は重かった。任務を達成したとはいえ、彼と愛機は破れたのだ。赤い紋章のライガーに。

 

「あの赤い紋章のパイロット、次に会う時には必ず・・・!」

 

 一方、アーサーもまた敗れたと感じていた。自分の見つけ出した操縦方法とまったく逆の、感情ごとゾイドをねじ伏せる操縦、若い頃ならともかく、今の自分には出来そうになかった。

 帰還するモルモット部隊は任務失敗で意気消沈していた。そんな空気に逆らうように彼は全員に言った。

 

「お前等、そんなに気落ちするな。確かに俺たちは任務に失敗し、目的の物を帝国の連中に奪われた。だがそれはもういい。忘れてしまってかまわん。過ぎた事を悔やんでも仕方がないからな。」

 

「だが今回の任務で一つ成功した事がある。それは俺たちの部隊は誰も失わなかった事だ。シュンヤとマミが負傷したが、あのデタラメな状況下で2人とも生き残った。それで十分じゃないか。生きてさえいれば今回の負けなんぞいつでもリベンジできる。第57連隊の仇も、サンプルが連中の手に落ちた事も、機会があれば帳消しにできるわけだからな。」

 

 まるで自分に言い聞かせるような口調でもあった。だが、その言葉に部隊のメンバーは皆、元気を取り戻した。確かに任務には失敗したが、彼らは誰一人失わず、全員生き残ったのだ。笑顔を取り戻した部隊のメンバーの顔を見たアーサーもまた気を取り直した。もう一度、ヤツと合間見える時が来るだろう。その時こそ決着をつけると・・・。

 




初出 2002年7月21日
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