惑星Zi西方大陸戦争録 【Zi-EX天神 ゾイド二次創作小説再掲(2002~2010)】 作:むげんゆう
ZAC2100年5月初旬、第4次の増援部隊が到着したロブ基地は活気に沸き返っていた。それまで送り込まれていた増援部隊は主に防戦のためのゲリラ的戦闘を目的としたガイサックやステルスバイパーであった。だが、今回派遣されたのはディバイソンやカノンフォートを主力した第5、第17機甲師団であった。
この事は前線の将兵たちの士気を高めた。本土では大規模な援軍も予定されていると言う。恐らくは本隊が到着する前に反撃に出るのではないか、との噂が連邦軍の将兵たちの間で広がった。
この情報は当然北ガイロスの西方大陸方面軍の知るところになった。これまで数度にわたって北エウロペ大陸東岸への攻撃を行ってきたが、連邦軍の粘り強い抵抗にあってほとんど進展していなかった。空軍による大規模な空爆も幾度となく行われたが、これも大きな成果を上げるにはいたっていなかった。そのような状況下での敵の機甲師団の参戦である。これは連邦軍が反攻作戦を計画していると判断するのには十分な材料であった。
そこへ、ロブ基地に潜入しているスパイから機密情報を入手したとの情報がもたらされた。その内容とは連邦の反攻作戦に関する詳細な情報であった。作戦名カマドウマ、その内容は驚くべきものであった。
「ロブ基地に配備された機甲師団の戦力に出来る限りの航空戦力をつけ、アレクサンドル台地に進出。これを奪回すると見せかけて帝国軍の目をこの地に引き付け、その隙を突いてウルトラ艦隊が沿岸からレッドラスト北側の帝国軍補給基地を攻撃し、これを無力化する。」
この補給基地は北エウロペ東岸部で戦う帝国軍の補給物資の集積地である。ここを攻撃されれば東岸部の帝国軍部隊は補給を断たれ、苦境に陥る事は目に見えている。場合によってはミューズ森林地帯にまで進撃した部隊の撤退さえ考えなければならない事態にも発展しかねない。
だが、この反攻作戦は裏を返すと帝国にとって絶好の機会でもあった。
一つはこれまで立て篭もっていた連邦軍に打撃を与える機会ができる事。ここで連邦軍の攻勢を撃退できれば、その勢いに乗って完全に北エウロペからヘリック連邦を追い落とす事が出来る。
もう一つはウルトラ艦隊を叩く機会ができる事である。これまで帝国軍は陸に空に有利に戦闘を進めていたが例外があった。それが海である。
開戦初期においては連邦に配備されていたのは沿岸警備用のバリケーターがほとんどで、帝国のブラキオスの前にはほとんど手も足も出せなかった。だが、開戦から8ヶ月後のマークス沖海戦でその力関係は逆転した。海戦用に改造されたレッドホーンであるシーホーンを中心とした帝国海軍第一艦隊が、ウルトラザウルスを中核とする連邦海軍の前に大敗を喫したからである。
この海戦以降、帝国軍は内エウロペ海での制海権を失い、南エウロペ大陸への侵攻計画も頓挫させられていた。さらに沿岸部からの侵攻も困難を極め、予定では5月までに完了していたはずの西方大陸制圧作戦はいまだに停滞したままであった。
その為、首脳部からは一刻も早い連邦艦隊の撃滅が望まれていたが、ウルトラ艦隊には常に強力な上空援護がつけられており、シンカーの奇襲も、レドラーによる空爆もほとんど成果を上げる事も出来なかった。
しかし、今回の作戦ではウルトラ艦隊には空からの護衛がほとんどつかないことをこの情報は示していた。
帝国を恐れさせる唯一の戦力であるゼネバスレドラーも今回は陽動のため陸上部隊に回されるという。また他の情報ではわずかながらレイノスが配備されているという情報もあったが、これも報告や中央大陸の野生種の保有頭数を考慮するとまとまった数ではないため、それほど気にする必要もない。ならば圧倒的な航空戦力を持って、敵ウルトラ艦隊をこの機会に撃滅する事が出来る。そう判断した北ガイロス帝国軍は直ちに航空戦力の集結を行った。
その規模はレドラー約1000機、そのほとんどが爆装され、連邦軍の反攻作戦を今や遅しと持ちうけていた。
5月下旬、ついに連邦軍の反攻作戦、カマドウマ作戦が開始された。連邦軍は第5、第17機甲師団を前面に押し立てて、アレクサンドル台地に進撃した。
このなかでも特にディバイソンは強力であった。前方に集中した十七門突撃砲は瞬く間に帝国軍陣地を沈黙させ、前頭部のツインクラッシャーホーンは帝国ゾイドを次々に打ち破っていった。
それまでの間、劣勢を強いられてきた連邦軍兵士たちは勢いに乗り進撃した。そしてアレクサンドル台地はわずか1週間でその6割が連邦軍の手に取り戻されたのだった。
前線から航空部隊による支援を求める連絡が相次ぐ帝国軍であったが、方面軍司令部はこの要請に対してサイカーチス部隊の派遣だけを行い、一時的な後退と時間稼ぎを指示した。ウルトラ艦隊が出港したという情報を待っていたのだ。
一方、ロブ基地に送り込まれていたスパイYS-3、連邦軍ではワイズナー中尉は連邦軍の詳細な動きを報告しつづけていた。
この日はついに深夜にウルトラ艦隊が、港に大量のダミーを残して出港した事を報告した。方角も作戦の予定通り北上のコースを取った事も。このまま予定通りであれば迎撃地点までは3日で到着するだろう、そこまでの報告を終え、何食わぬ顔で自室から出ようとしたその時だった。
「ワイズナー・プリスケル中尉、いや帝国のスパイYS-3。今までの報告ご苦労だったな。」
連邦軍諜報部、ケイ・イスルギ大尉である。彼女はすでにワイズナーがスパイであることを見抜いていたが、上層部からの命令によりこれまで彼を泳がせていたのである。
YS-3は懐に忍ばせていた拳銃をケイめがけて発砲した。だが、その銃弾をケイは愛用の刀で打ち落すと、YS-3の手首めがけて刀を振り下ろした。悲鳴と同時に床に転がる拳銃。だが手首は切り落とされてはいなかった。
「安心せい、みね打ちだ。だがどちらにせよその腕はもう使えまい。」
すぐさまケイの部下たちが駆け寄って、彼を逮捕した。YS-3が連行されるのを見届けるとケイは上司に報告した。
「指示どおりYS-3を逮捕しました。」
「ご苦労だったな。では通常の任務に戻ってくれたまえ。」
「はっ。」
情報部の上司はその報告をムロタカ参謀総長に報告した。
「いやいや、ご苦労だったな。お陰でこの作戦の下地ができたわけだからな。」
安堵した表情を浮かべるムロタカであった。
ロブ基地を出港したフィリッポス艦隊の戦力はウルトラザウルス20隻、護衛用のバリケーターが150機の合計170隻以上の大艦隊である。
出港から3日目、旗艦ヨハン・エリクソンに乗艦している艦隊司令官フィリッポス中将は参謀本部からの暗号電文を受け取っていた。
「ほう、どうやら敵さんは完全に我々の策に乗ってくれたようだな。」
「司令、一体どれだけの数の敵軍をおびき出す事に成功したのでしょうか?」
艦長であるメッテル大佐が尋ねた。
「艦長、聞いて驚くな。1千機だよ、1千機。敵さん、よほど我々に恨みがあると見えるな。」
「司令、無理もありません。現在のガイロス海軍にはウルトラザウルスに対抗できる戦力は存在しておりませんし、何より数が違います。先日の海戦ではシーホーンの多くが我が艦隊の砲撃の前に海の藻屑になっていますから。」
「だが艦長、今度の相手は動きの鈍いシーホーンではない。超音速で飛来してくるレドラーだ。しかも数は1千機ときている。如何に我々に秘策ありとは言っても、援軍の到着するタイミング次第では我々がレドラーより先に海の藻屑となりかねん。」
「ですが司令、万が一彼らの到着が遅れたときに備えて、我々は大改装を受けたのでは?」
フィリッポス艦隊に配備されているウルトラザウルス20隻はそのどれもが多かれ少なかれ改装が施されていた。
まずは新型対空砲、四連装インパクトキャノンである。これはレーダーや赤外線等と連動した画期的な対空砲で、1基で一度に4つの目標を同時に攻撃が出来るという性能を持っていた。破壊力も申し分なく、レドラー程度の中型機であれば、瞬時にして撃墜する事が可能であった。
なお今回の作戦の為にこの兵器はバリケーターを含めたほぼ全艦に装備されていた。
さらに20隻のウルトラザウルスの中5隻がすでに空母として改造されていたが、この5隻に搭載されているのはそれまでの主力機プテラスではなく、レイノスであった。
レイノスは旧大戦時に対レドラー用として開発された機体であったが、大異変で個体数が激減し保護政策が取られていた。
その甲斐あってか近年ようやく個体数が安定し、開戦直後から徐々に規制が解かれ、ついに徐々にではあったが配備が決定されていた。今回フィリッポス艦隊に回されたレイノスは実戦配備された数のおよそ3分の2である55機である。
そして最も強化されていたのがフィリッポス艦隊の旗艦であるヨハン・エリクソンである。この艦は新世代戦闘艦として大幅に改造が施されていた。
まず強化されたのは防御力である。装甲は新素材に変更され、同じ重量であればそれまでの素材と比べて25%以上の防御力が向上していた。
さらに機動力も強化された。ゾイド生命核活性機関は新型に換装され出力が30%近く向上した。そして水上での機動性を向上させるため、スラスターが強化され速力や旋回性能の向上が図られた。
そして攻撃力も強化された。4基搭載されていた360mmウルトラキャノンはグスタフ・カールから得られた情報を基にした400mmレールキャノンに4基とも換装されていた。
さらに出力の強化に伴い搭載可能な重量が増えたため、新たに尾の付根部分には大型ミサイルランチャーが装備された。
そして最も強化されたのは電子戦能力である。電子戦能力強化のため、それまで背部に搭載されていたビークル発進設備が撤去された。そして代わりに装備されたのはビークル格納庫よりも2回り以上大きな艦橋塔であった。
この艦橋塔には電子戦に必要な機材が全て備わっており、その能力はゴルドス5台分に匹敵するものであった。これにより活動海域のみならず、大陸全土の戦局が掌握すら可能となっていた。
何より大きいのはこれまで以上に敵への正確な対処が可能になった事である。入手した敵の情報は瞬時に分析され、その結果もまた直ちに各艦に伝えられた。この結果、敵の空襲のみならず海中からの攻撃への対処もより正確になり、演習の結果でもこれまでよりはるかに有効な対処が可能になったことが証明されていた。
「艦長の言う通りだ。これら新兵器が遺憾なく性能を発揮してくれれば、今後、我々は空からの攻撃にビクつく事もなくなるわけだからな。だがそれでも油断は禁物だよ。我々は常に最悪の事態も考慮せねばならんからな。」
そこへ、参謀本部から再び暗号文が届いた。
「ついに連中は我々の位置を掴んだようだ。現在続々と飛んできているらしいぞ。」
「司令、連中と接触するまでの時間は?」
「予測では5時間だそうだ。すでに我々の援軍も発進しているらしい。」
「では全艦に警戒態勢を取らせます。」
「うむ、全艦に通達、後3時間で敵と接触の予定。各員は持ち場にて待機せよ!」
接触予定時刻の30分前、ついにレーダーが敵の大編隊を捕らえた。
「電探室より報告、敵機接近中。」
「数は?」
「測定不能、余りにも数が多すぎて測定不能との事です。レーダーの画面の7分までが白、黒はわずかに3分とのことです!」
フィリッポス司令はその報告に余裕の表情であった。
「司令、白が7分に黒3分、分かっていたとはいえ圧倒的な数ですね。」
「艦長、我々がその白の7分をどれだけ減らせるかにこれからの戦争の行方がかかっているのだ。なに、白と黒の割合を逆転させてやろうではないか。」
フィリッポス司令はマイクを取ると、艦隊すべての艦に向けて演説した。
「第4、第7の両艦隊に所属する全員に告ぐ。もう間もなくガイロス空軍の誇るレドラーの大編隊が我々に向けて攻撃を仕掛けてくる。敵の数はおよそ1千機、敵軍は我々を潰すために全力をあげてきているのだ。諸君らには心して掛かってもらいたい。」
「無論この作戦の為に、空母型からは護衛戦闘機レイノスが、空軍からは友軍機が空から援護に駆けつけてきてくれる。又、我々には心強い新兵器、そしてそれらに勇敢なる兵士諸君の奮闘が加われば、1千機ものレドラーといえども恐れるに足りん。1千機ものレドラーを殲滅すれば、自ずと制空権は我々の手に落ち、この大戦の戦局は必ずや逆転するだろう。」
「正にこの大戦の勝敗はこの一戦にかかっているのだ!諸君、無事帰港した際には皆でこの歴史的な海戦に勝利した事を祝して、無礼講といこうではないか!!」
この演説に、艦隊の将兵たちの士気は天を突くほどに高まった。そして旗艦E・エリクソンの艦橋塔にZ旗が掲げられたのであった。"連邦の興廃、この一戦にあり"と。
初出 2002年8月11日